8 / 12
第8話 失恋連鎖
しおりを挟む
タツとのやりとりを思い出すたびに、胸が苦しくなる。幸い、クラスが離れているので顔を合わせることはないけれど、震える声で言われた「ひとりにしてくれ」という言葉が頭の中で何度も再生される。蛙のケースに入れられた蛇の姿が目に焼きついて離れない。タツがやったとは思っていないし、思いたくもない。それなのに、あのときの不自然な様子のタツならやってしまうのではないかと考えてしまう。そして、彼のことを本心から信じることができない自分に涙が出そうになる。
「最近、元気ないね。どうしたの?」浮かない顔をして委員会の仕事をこなす私に、小形くんが尋ねる。
「あ……ううん、なんでもない」
「そんな様子で言われても、説得力ないけど」
「本当に、なんでもないから」
私の答えに納得したのか、彼は「ふうん」と相槌を打つ。そして、そのまま言葉を続けた。
「倉益さんは、好きな人が別の人を好きだったら、告白する?」
「え……?」
『田中と橋下の与太話を聞いて、姿穂はどう思った?』
『本当は、俺のことも気持ち悪いと思ってたんじゃないか』
タツの言葉が頭をよぎる。どうして今、小形くんはこの話を……。
「……私はしないけど、告白する権利は、あるんじゃないかな……」いつも、タツに言っていた言葉。
「振られるってわかってるのに?」
「相手に好きな人がいる時点で、振られているようなものだし……それに、気持ちを伝えるのは、悪いことじゃないと思うから……」
本当に? 本当に私はそう思っているのか?
「そっか、そうなんだ」
「……小形くん、好きな人いるの?」
「うん、まあね。変?」
「あ……いや、そうなんだと思って。ねえ、小形くんの好きな人って、どんな人……?」
私の質問に、彼は「内緒」と笑った。
「でも、すぐわかるよ。どうせ振られるしね」そう言う彼は、悲しいとか、悔しいとか、そんなことをなにも感じていなそうな表情をしていた。
小形くんの言う通り、彼が誰に告白したのかはすぐにわかった。昼休みはその話題で持ちきりになり、彼の想い人は迷惑そうな表情をしている。クラスメイトが彼女の席を囲み、矢継ぎ早に質問をぶつけた。
「いつ? 純さん、いつ小形くんに告白されたの? 昨日の放課後?」
「どうして断ったんですか? 小形くん、5組で1、2を争うイケメンなのに、もったいないですよー!」
「うるせえ。付き合う理由がないから断った。それでいいだろ」
三好さんは少しイラついた様子で答えたけれど、クラスメイトは気にしないで質問を続ける。
「ていうかー、なんで誰とも付き合わないんですか? あんなに告白されたら、ひとりくらいいい人いるでしょ、絶対!」
「もしかして、うわさみたいに……」
ひとりの質問に、他の女子が「ばかっ」と小さく小突いた。
「……うわさってなんだよ」三好さんが唸るような低い声で尋ね、周りをにらみつける。
「あの! 好きな人がいるって話! 前に聞いたことがあって……」
他の女子のフォローに、三好さんはなにも答えない。沈黙が続き、教室内に気まずい空気が流れる。そんな居心地の悪い場所に耐えられなくて、私は教室を飛び出した。
いつも、なにかあると生物室へ行っていた。しかし、タツのことがあった以上、今では生物室も居心地の悪い場所だ。それに、もうすぐ授業が始まる。きっと、どこかのクラスが使うだろう。だから、私にしては珍しい場所を選んだ。
埃っぽい扉を開けると、強い日差しが差し込んだ。まぶしくて、思わず目を細める。しかし、次第に目が慣れると、目の前に広がる景色に心が惹かれていった。
――空が、とても近い。
手すりに駆け寄り、足元を見下ろす。昼間なので、通りを歩く人は少なかった。
今度から、ここで過ごすのも悪くないかもしれない。日が高いうちはしばらく暑いだろうけれど、風が当たって気持ちいい。
「おい、サボりかよ」
そんなことを考え、今度は手すりにつかまり空を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り向けば、不機嫌そうな彼女が開きっぱなしの扉の前に立っている。
「……三好さんもサボり?」
「ここはもともと、ウチの特等席だ」
「そうなんだ」
三好さんが私のとなりに並ぶ。
「空がよく見えるね」私の言葉に、彼女はなにも答えない。
「お昼休み、いつもここに来てたの?」
「天気がいい日は。教室にいると、気分が悪くなる」
「私も、そうしようかな」
「人の特等席を奪うんじゃねえよ」
私に目もくれないで、彼女はそう文句を言った。
「最近、元気ないね。どうしたの?」浮かない顔をして委員会の仕事をこなす私に、小形くんが尋ねる。
「あ……ううん、なんでもない」
「そんな様子で言われても、説得力ないけど」
「本当に、なんでもないから」
私の答えに納得したのか、彼は「ふうん」と相槌を打つ。そして、そのまま言葉を続けた。
「倉益さんは、好きな人が別の人を好きだったら、告白する?」
「え……?」
『田中と橋下の与太話を聞いて、姿穂はどう思った?』
『本当は、俺のことも気持ち悪いと思ってたんじゃないか』
タツの言葉が頭をよぎる。どうして今、小形くんはこの話を……。
「……私はしないけど、告白する権利は、あるんじゃないかな……」いつも、タツに言っていた言葉。
「振られるってわかってるのに?」
「相手に好きな人がいる時点で、振られているようなものだし……それに、気持ちを伝えるのは、悪いことじゃないと思うから……」
本当に? 本当に私はそう思っているのか?
「そっか、そうなんだ」
「……小形くん、好きな人いるの?」
「うん、まあね。変?」
「あ……いや、そうなんだと思って。ねえ、小形くんの好きな人って、どんな人……?」
私の質問に、彼は「内緒」と笑った。
「でも、すぐわかるよ。どうせ振られるしね」そう言う彼は、悲しいとか、悔しいとか、そんなことをなにも感じていなそうな表情をしていた。
小形くんの言う通り、彼が誰に告白したのかはすぐにわかった。昼休みはその話題で持ちきりになり、彼の想い人は迷惑そうな表情をしている。クラスメイトが彼女の席を囲み、矢継ぎ早に質問をぶつけた。
「いつ? 純さん、いつ小形くんに告白されたの? 昨日の放課後?」
「どうして断ったんですか? 小形くん、5組で1、2を争うイケメンなのに、もったいないですよー!」
「うるせえ。付き合う理由がないから断った。それでいいだろ」
三好さんは少しイラついた様子で答えたけれど、クラスメイトは気にしないで質問を続ける。
「ていうかー、なんで誰とも付き合わないんですか? あんなに告白されたら、ひとりくらいいい人いるでしょ、絶対!」
「もしかして、うわさみたいに……」
ひとりの質問に、他の女子が「ばかっ」と小さく小突いた。
「……うわさってなんだよ」三好さんが唸るような低い声で尋ね、周りをにらみつける。
「あの! 好きな人がいるって話! 前に聞いたことがあって……」
他の女子のフォローに、三好さんはなにも答えない。沈黙が続き、教室内に気まずい空気が流れる。そんな居心地の悪い場所に耐えられなくて、私は教室を飛び出した。
いつも、なにかあると生物室へ行っていた。しかし、タツのことがあった以上、今では生物室も居心地の悪い場所だ。それに、もうすぐ授業が始まる。きっと、どこかのクラスが使うだろう。だから、私にしては珍しい場所を選んだ。
埃っぽい扉を開けると、強い日差しが差し込んだ。まぶしくて、思わず目を細める。しかし、次第に目が慣れると、目の前に広がる景色に心が惹かれていった。
――空が、とても近い。
手すりに駆け寄り、足元を見下ろす。昼間なので、通りを歩く人は少なかった。
今度から、ここで過ごすのも悪くないかもしれない。日が高いうちはしばらく暑いだろうけれど、風が当たって気持ちいい。
「おい、サボりかよ」
そんなことを考え、今度は手すりにつかまり空を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り向けば、不機嫌そうな彼女が開きっぱなしの扉の前に立っている。
「……三好さんもサボり?」
「ここはもともと、ウチの特等席だ」
「そうなんだ」
三好さんが私のとなりに並ぶ。
「空がよく見えるね」私の言葉に、彼女はなにも答えない。
「お昼休み、いつもここに来てたの?」
「天気がいい日は。教室にいると、気分が悪くなる」
「私も、そうしようかな」
「人の特等席を奪うんじゃねえよ」
私に目もくれないで、彼女はそう文句を言った。
0
あなたにおすすめの小説
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる