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夕季 夕

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最終関門

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「なんか、いつも年齢詐称してない?」

 私が知っている常識の中で生きている人たちは、会社での私の振る舞いを聞くたびに笑っている。こちらからすれば笑い事ではないのだが、大した役者だと彼らは笑う。
 確かに、あの手この手で先輩の話を切り抜けようとする人間はなかなかいないだろう。そんなことは、私だって百も承知だ。普通、世間話でここまで神経質になることはない。

「年齢詐称じゃなくて、年齢非公開なだけ」

 さも当たり前のように私は言った。
 私は、先輩たちから年齢を聞かれたことは一度もない。なぜなら、先輩たちは私の年齢を知っているからだ。

「私が詐称しているのは就活アカウントだけ。23卒と24卒のアカウントがあるよ」
「そんなに作ってどうするの?」
「企業がどんな人財を求めているか知りたいから」
「さすが。勉強熱心だねえ」

 私が勤めている会社はWeb制作会社だ。主に特設サイトや採用サイトなど、期間限定のサイトを制作している。
 
「23卒が卒業したら、25卒のアカウントを作るんだ」
「あなたはいつになったら卒業するんですかねえ」

 最終関門、卒業。

「卒業はしないよ。ずっと、21歳のふりをするつもり」
「21歳って中途半端な年だね」
「そう? 結構便利だけど」

 21歳は大学なら3年生だ。短大、専門は社会人1、2年目。高校卒業してすぐに就職したなら、先輩として指導する側に立っていてもおかしくない。この『学生とも社会人ともとれる年齢』というのが、私にとって好都合だった。

「まあ、18を主張するのは無理があるよね」
「うるさい」

 ……見た目の問題も、21歳だったらなんとかクリアできる。その点でも、18歳を主張するより便利なのだ。

「架空の学生を作って、就活サイトからなにか言われないの?」
「今のところないね。別に、学籍番号とか求められないし。毎回、就活サイトに個人情報を渡してるだけ」

 企業の採用サイトだとそのまま応募になってしまうが、マイナビやリクナビといった就活サイトならあくまで登録するだけだ。
 ときどき届くスカウトメールは無視してしまって構わない。応募資格のない学生にもメールを送るくらいだ。なにも考えずに一斉送信しているのだろう。たまに、名前がきちんと変換されていないものもあった。
 まったく、「いい人財を獲得したい」という本気度が感じられない。

「そういえばこの間、大学生向けのインターンシップの案内が郵便で届いたよ。ちゃんと私宛に」
「情報漏洩してるじゃん。怖」
「既卒3年以内も参加OKって書いてあったから、そっちで来たのかも。でも、23卒・24卒アカウントで来たのかもわかんないから、参加はやめておいた」
「参加する気だったんかい」
「楽しそうじゃん。長期のインターンシップ、行ったことないし」

 私が就活生時代に作ったアカウントから、この案内が届いたとは考えにくい。23卒か24卒アカウントのどちらかだろう。

「個人情報売るのもほどほどにね」
「善処しまーす」

 最終関門、卒業突破。
 しかし、既卒3年以内の方だったら本当に行ってみたかった。
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