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ダンジョン学校編

相談しようそうしよう

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 悩んだらプロに聞こう。
 ダンジョン学校に来てからあまり触らなくなったスマートフォンを取り出す。食事が終わって現在夜八時。まぁ、常識の範囲内だろうと、メッセージを送る。
 先生に相談しようかとも思ったが、あくまで作菜はダイエットを目的に来た生徒なのだから、真面目に相談するのもおかしな話になってしまう。

『お久しぶりです。××県の新規ダンジョンの野上です』
『ご相談したいことができたのですが、今よろしいでしょうか?』

 メッセージを送って十分弱。今わかっているスキル一覧を眺めていると、プロからの返事が来た。

『お久し振りです。相談したいこととは何でしょうか?』

 メッセージを送った相手は狩野侑斗。六月に会ったダンジョン調査官だ。
 餅は餅屋。ダンジョンはダンジョンのプロ。わからないことがあれば、プロに聞け。
 スキル構成を考えるのが面倒なのではない。プロに教えを乞うことも、生存戦略の一貫!と、誰に言い訳をしているわけではないが、心のうちで呟く。

『スキルを察知系、耐性系は取ろうと思っているんですが、戦闘系も一つぐらいは取っておきたいと思いまして』
『おすすめのものとかありますか?』

 少しの間を置いて返事がくる。

『体術です。動くときに体の補正をしてくれるスキルです』
『どの武器を選択しても補正してくれるから便利』
『肉体強化とかは?』
『強化するにも筋肉が必要なんですよ』
『つまり筋トレ必須なんですね』
『便利ですが、戦闘が身についていない状態で身につけるのはおすすめしないです』
『魔法なら?』
『聞きますよね、それ』
『剣と魔法は憧れでしょう』
『ところで野上さん、ダンジョン内で1番の問題なんだと思います?』

 一番の問題?
 メッセージを前に首をひねる。現状広くダンジョンの問題になっているのは、食糧、水、効率的なレベル上げ、迷宮状態になっているためマップ作りといったところか。水は水魔法でどうにかなる、効率的なレベル上げもいわゆるゲームでいうところの養殖で行える。食糧もダンジョンで、まずいが食べられるモンスターを狩ればいい。マップ作りはコツコツやるしかない。

『ヒント:誰でも起こりうること』

 誰にでも起こる。誰にでも、と考えたところでハッとした。

『トイレ?』
『正解』

 しれっと言われたけど、結構大問題だ。

(え、言われてみれば何時間も入ってる冒険者とかトイレどうやってるんだ?)

 安全性を考えれば仲間の近くで携帯トイレでも持参してするのが最も安全だろうが、仲間の近くで排泄など大きなストレスになる。高レベルな冒険者ともなると、そのストレスすら無視できるのだろうか?

『どうやって対処してるんですか!?』
『大きな問題だと捉えてもらえて嬉しいです』
『え、大問題ですよね?』
『そうです。そこで魔法!多いなる力』
『聖魔法の二番目に覚えられる浄化、基本はアンデッドの弱体化の効果がありますが、お腹にあてて発動させると排泄物が消えます』
『おそらく、排泄物というのが不浄判定になるのだと』
「まじで!?」

 思わず声が出た。すごい魔法じゃないか。持ってきていたタブレットで、検索してみるもののそんな情報は見つからない。
 あれ?と思いながらダンジョン攻略サイトを眺めるが、基本的な異常回復やアンデット弱体化の情報以外一つも見つからなかった。

『ネットで探してみたけど、そんな情報見つかりませんが』
『特に隠してるわけではないけど、積極的に教えない情報ってのはどこにでもあるもんです』

 有名になりたい、冒険者で一旗あげたいという連中は日本人らしく死なないための情報はそこそこ発信するけれど、このような裏技は積極的に配信しない傾向にある。
 この情報は、そんな裏技の一つだ。

『教えない?』

 でも、そんな裏技を知っていればもっとダンジョン探索はもっとスムーズに行っているはず。そんなことを思いながらメッセージを入力した。返事はすぐ返ってくる。

『あまり人に広めて、長時間ダンジョンに篭る人が出てきても問題になりますから』
『じゃあ、なんで教えて頂けるのですか?』
『野上さんがダンジョンを公開しないからですよ』

 つまり、排泄による油断を無くして怪我をしないように、または長時間ダンジョンに入ってモンスターを狩ってもらいたいがために教えてくれるのだろう。野上家の方針のせいとはいえ、なかなか露骨にモンスターを狩れとお役人は言うな、と作菜はため息を吐き出した。
『非公開なのは、土地の持ち主の方針ですから』
 そうとしか返しようがない。
 あくまでも土地の持ち主は祖父だ。祖父が手放さないと決めたのだから、孫はそのサポートをするのみ。ダンジョン学校に入る際にお金を出してもらったし。

『魔法は聖魔法を選びたいと思います』
『頑張ってください』

 なるべく長時間頑張ってダンジョンを攻略してください、と文章の最後につきそうだなと思いながら、メッセージは切り上げた。
 食料、トイレは確かに必要なものだ。ダンジョン学校のカリキュラムでは、安全や体力を考えて二時間程度しかダンジョンにいないようにしている。どんな場所にいても、二時間経ったらそこで帰るという方針になっていてトイレや食料の心配はほとんどない。それに、ダンジョン一階であれば、二時間あれば一周できる。
 所有のダンジョンで長時間潜るという視点の欠けていた自分の甘さを実感して、再びダンジョン攻略サイトを眺めた。

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