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ダンジョン学校編

固有スキル

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「ん?」

 ダンジョン探査六日目にしてそれは訪れた。ネズミが魔石になったことを確認すると、作菜の背中にゾクゾクするような感覚が走り、何かが満たされた感覚がした。とりあえず魔石を回収して振り返る。

「先生、なんか、こう…」

 なんとも言い難い感覚で、言語化できない。
 言語化はできないが言いたいことは分かったのか、一つ頷いた小野川に「おめでとう」と祝福された。

「レベルアップしたようだな」
「これがレベルアップですか」

 劇的に何かが変化するわけではない。けれど、何かが溜まって満たされて、背中を這い上がり体全体に広がったような気がした。
 ゲームのようにレベルアップの音楽はならないが、変わったことは確かにわかる。そういえば佐藤一押しの冒険者である雨宮尊も、レベルアップの瞬間が一番心地いいと雑誌で語っていた。なるほど、確かに心地良い。
 この心地良さを味わうために人は、何度もダンジョンに行くのだろうと納得する。

「いいなぁ~」

 佐藤が素直に羨ましがる。ずるい、と言わないだけマシだな、と作菜と小川が同時に思う程度には、佐藤の性格が分かってきていた。一言で言うと幼い。幼稚園児か小学生女児のような幼さが彼女の中にあるとわかると、イラっとした感情そのままに投げかけていた小川もさすがに言葉が減った。幼稚園児相手にしても仕方がない、という認識らしい。
 ちなみに作菜は保育士にでもなった感覚で話しているので、イライラすることは少ない。比較的優しく対応しているせいか、若干佐藤に懐かれている気はする。

「じゃあ、うちももーすぐってことっすか?」

 小川が振り返り小野川に聞く。頷きながら、そろそろだろうと告げた。

「えーと、詳しく記録してないんですが、おそらく十七、十八ぐらい倒しましたよね、私。大体これぐらいでレベルアップするものなんですか?」
「そうだな、個人差はあるが二十匹前後でレベルアップするのが普通だ。それは日本でも、海外でも変わらないことがわかってる」
「個人差があるんですか?」
「ゲームではないからな、一律でレベルアップすることはない。十五匹程度でレベルアップする奴もいれば、二十数匹倒してやっとと言うケースもある。その違いはわかっていない」

 へーと佐藤と声が揃った。目の前にレベルアップした人がいると言うことが、佐藤の気分を上げているのか不貞腐れているような雰囲気がない。そのままの気分で、是非ともモンスターを意欲的に倒しに行ってもらいたい。

「じゃ、次うち行きまーす」

 小川が歩き出す。目に見える成果があったせいか、生徒全員の足取りが軽くなった。
 佐藤だけがやや時間がかかったが、その日のうちに全員がレベルアップした。


 一階をぐるりと周って最初のホールにも戻る。

「レベルアップもしたことだし、全員ステータスをチェックしてみろ」
 小野川の指示に、全員がステータスチェッカーに触れると心の中で、ステータスオープンと称える。タブレットサイズの画面を見ていけば、確かに前回見たよりもそれぞれの数値にプラスの数字が書かれていた。
 レベルと書かれている部分も一から二に表示が変わっている。確かにレベルアップしているのだ、という実感がじわじわ湧いてきた。
 ふっと最後に書いてあるスキルの部分を見て、ギョッとする。例の特殊な固有スキルというものが、自分にもあったのだ。
 思わずぱっとステータスチェッカーから手を離すと、ステータス画面は消えた。
「さっさん、どうしたの?」
 隣で、うっわ、まじで、ステータス成長してんじゃん!マジデー!と騒いでいた小川が、急に手を離した作菜に気付き声を掛ける。
「いや、本当にレベルアップだーってびっくりした」
 上擦った声で答えれば、未知の体験に対する興奮だと捉えたのか、小川はだよね、だよね!と激しく頷き同意を示す。
(イヤイヤ、固有スキルとか…)
 あくまでも作菜の目的は、畑のダンジョンのモンスターの間引きだ。食っていけるだけの稼ぎは欲しいが、固有スキルがあったからと言って、スキルを利用してダンジョンを攻略してやるぜ、という気概は一切持ち合わせていない。
 よし、無視しよう。
 ここでバラしても良い事はないだろう。特に佐藤。その点はおしゃべりな彼女を全く信用していなかった。

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