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婚約破棄は唐突に。

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小作りな顔はいつも通り美しいが、やや窶れて顔色が悪く見える。薄っすらと目の下にはクマがあり、どこか衰容していた。
いつもは完璧なその婚約者の様子に、この国の第二王子であるアレクセイはこれから起こることをある程度予想しているのだろうと考えた。
抜け目のない女だ。
事前に今から起こることを知っていても不思議ではない。

「レジーナ・エル・マッケンジー、貴女との婚約は破棄させて頂きます。」

告げた言葉にふっと視線が動き、その青い瞳がゆっくり瞬く。

「…こんにゃく…?」

いつもは闊達に話をする彼女は何故かぼーっと呟くように聞き返した。

「馬鹿にしているんですか?!婚約破棄される理由ぐらい理解しているでしょう!」
「えーあー…申し訳ありません。殿下…わたくし、さっぱり思い浮かぶことが無くて…。」
本人の自己申告通り本気で思い当たる節が無いのか、困ったように小首を傾げている。
「白々しい…グレッタを虐めるような女性が王族に嫁げるとでも?」
「グレッタ…どちら様でしたでしょう?」
「なっ!嫌がらせした相手も覚えてないと!?」
「そんな…私…レジーナ様に酷いことたくさん言われて…教科書だって…。」

アレクセイの後ろに控えていたグレッタが悲しそうに言う。
その悲しみにくれた様な声色に、目の前の女を裁かなければと言う気持ちが強くなった。
そんな二人にレジーナはまた一つ瞬くと、あーと呟きこめかみを一つ揉んでぽんっと手を叩く。

「そう言えば、婚約者の居る男性に声を掛けまくっている女子生徒がいる、と相談されたので控えるように言った気がします。」

え、虐めで婚約破棄…?と言う雰囲気になっていた卒業パーティーが一気にレジーナへの同情へと変わる。
婚約者の居る男性に声をかける方が悪い。しかし、そんな女を庇う王子もどうなんだという雰囲気が蔓延していく。

「そんな…私、疚しいことなんてしていません…でも、レジーナ様は…。」

うるうるとした瞳からは、今にも涙が溢れそうだ。

「わたくしが何をしたと?」
「と、10日前の放課後…私のことが邪魔だってェ…。」

そこまで言うとグレッタは、肩を震わせながら顔を俯かせる。そんな彼女を可哀想にと言わんばかりに、アレクセイは抱き寄せた。
その様子に特に何か思うことは無さそうな顔をしながら、レジーナは10日と呟く。もう一度軽くこめかみを揉むと、令嬢方が固まっているあたりに視線をやった。

「 クリス、クリスタ。」

レジーナが呼ぶと令嬢の中から、はいはーいと軽い声が聞こえた。ちょっと失礼致しますわ、と言いながら、華やかな女性陣の中から現れたのは、パーティーに参加している割には地味な装いな娘だ。怜悧な美貌はメガネに隠れて、亜麻色の髪もきっちり結い上げいる。アクセサリーも身に着けているが、必要最低限の装いなため少し場には浮いてる。
華やかなレジーナとは、対照的とも言えた。

「クリスタ、わたくし10日前の放課後はずっと貴女と一緒いたと思うのだけれど。」
「グレッタが嘘を言ったと言うのか!?」
「嘘かどうかは知りませんが、放課後ずっと一緒居たことは確かですわ。」

クリスタは優雅に微笑みながら、告げる。

「証拠は!?」
「証拠なら、このスケジュール帳に書かれてますわ。」

クリスタがどこからかさっと取り出したのは、臙脂色のカバーがかけられた手帳だ。

「10日前は丁度締め切り前でしたもの。レジーナ様はその前後ずっと部室に詰めっぱなしですわ。証人も居りましてよ。」

グレッタの10日前は気のせいで、その前後だったかも、と言う言葉を先に潰す。

「部活…だと…?」

不思議そうに呟くアレクセイに、この人本当にレジーナに興味がないのだなと周りは悟った。
レジーナが部活を楽しんでいるのは、有名な話だ。
昼食やお茶会を同じ部の関係者と行ったり、部員と一緒に図書館に居るのを見かけることはよくあるため部内の仲が良いことを認識している者は多い。

「ええ、証人を呼びましょうか?コーディ、デーブ。」
「はぁい。」
「本当に婚約者がどこで何をしているか、知らないとは驚きですね。」

クリスタの呼びかけに、するりと現れたのはくるくるとした栗色の巻き毛の可愛らしい顔立ちの少年と、平凡な顔立ちだが冷ややかに王子を見る切れ長な深緑色の目が印象的な少年の二人だった。

「…私と言うものが、ありながら男といたのか!?」

その言葉に抑えきれなかったように、クリスタが吹き出す。
周りも面白い冗談を聞いたように、くすくすと言う笑い声がそこかしこから聞こえた。

「失礼。放課後はずっとわたくしと一緒と言ったではありませんか。それに、ここに居る二人だけでは無く、時々顧問のローラン先生も差し入れに来てくださいましたし、他にも後輩たちが一緒でしたわ。」
「わたくしたちも、最後までは居ませんでしたが、部室にいましたわ。」

そう言って現れたのは、小柄な3人の男女だ。学年を表す花飾りは品の良い青色のため、1年生だと言うことがわかる。

「1年生とは入れ違いでわたくし達が。」

次に現れたのが大人しそうな黄色の花飾りをつけた2年生の女生徒二人だ。庶民も貴族も混じり合っている上、王家も無視できない地位の子息もいた。
全員がこの10日間は誰かしら、放課後はレジーナと一緒にいたと証言する。

「それでわたくしがそちらのお嬢様に10日前の放課後何をしたと?」

やりとりの間に頭がはっきりしてきたのか、レジーナの言葉が明確になる。ハキハキと喋る姿は、王族に嫁ぐ貴族女性らしい貫禄があった。
その様子に周りは、顔を俯かせている桃色の少女では勝負にならないことを予感がする。

「と、10日前は勘違いだったかも知れませんが…でも!私が嫌がらせを受けたのは本当何です!」

うるうると瞳を涙に濡らして訴える姿は、
愛玩動物のようだった。
性格はあまりよろしくなさそうなのは、分かっているが小柄な美少女が今にも泣きそうになっている、という事実が大勢の男性をソワソワさせる。

「証拠は?」

くいっと眼鏡を上げながら、クリスタは告げた。
妙に迫力のあるその姿は、犯罪者を追いつめるベテランの兵士のような風格があった。その様子にビクッとグレッタが震える。

「当然、嫌がらせを受けたというのであれば、物的証拠は必要ですわ。もちろん、目撃情報もあれば良いですね。」
「教科書を…それに、アレク様に近づくなって…!」

不思議なこと言うな、と言う表情でレジーナはグレッタを見る。貴族の娘であれば気持ちを顔に出すなと教育されるのだが、あまりにも未知の生き物を目の前にそんな教育もどこかに吹き飛んだような様子だった。

「? 普通、婚約者に無遠慮に近づく女生徒は注意されて然るべきでは?」

ですよねー。流石に口には出さないものの、会場全体がそれに同意する。

「それに教科書になにかされたのはいつかしら?」

ここ最近なら授業もないから実害は無いわね、それとも授業があった時期かしら?誰か嫌がらせされたと言う訴えは聞いていて?先生から、新しい教科書は頂いた?
流れるように質問が投げかけられるが、グレッタは怯えたように震えるだけだ。
ふっと息を吐き出し、わざと間を作っても答えはない。

「そのように質問をしても答えにくいでしょう!」

アレクセイの言葉に、レジーナは答える。

「ええ、そうでしょうね。この方、教科書としか言っておりませんもの。教科書が具体的にどうなったかは言っておりません。隠された?破られた?落書きされた?教科書が何かされたかは誰も知っておりません。」

レジーナの冷静な言葉に、話を聞いていたまわりは何だかもやもやしていた気持ちはスッキリした。グレッタの証言は教科書と言うワードを出して、悲しそうな顔をするわりには具体性が無かったのだと。
悲しそうな顔、教科書と言う言葉だけで破られた、捨てられたなどの嫌がらせをされたのだと、大勢が思い込んでいた。

「貴女に酷いことを言われたと…!」
「酷いことの基準がわたくしとその方で違うのでは?わたくしが常識だと思う、婚約者のいる男性には適切な距離を保って接しなさいと言う言葉は、その方には酷いことに感じられたとか。」

言いながらも、レジーナは少し飽きてきていた。眠いしそろそろ帰りたい。
そんな気分なっているのがバレバレなのか隣でクリスタが頑張ってくださいまし!と、小声で応援してくる。

「まあ…婚約破棄と言うなら、王家と我が家で話し合いましょう。そちらの…えーと…。」

グレッタですわ。グレッタ・アウァールスです、と露骨にクリスタが周りに聞こえる程度の声で囁く。

「グレッタ様も一緒に。」
「グレッタと家とは関係ないでしょう!」

王子の言葉にえ?と全員が信じられないものを見たように、視線が集中した。その視線にアレクセイは自分の発言が拙かったことは気がついたが、一度吐き出した言葉はなくならない。

「関係あるでしょう…。」

頭が痛い。自分たちは政略結婚でしかないのに、家間で話し合わなくてどうする。庶民の婚約だって破棄しようとすれば大変なのに。

「…わかった…。覚悟しておくといい。君のやったことは必ず白日の下に晒すからな…!」

あまりに敵意を剥き出しに宣言されるのだが、そこまで敵意を向けられる理由が分からず、思わず隣に佇む親友に聞く。

「わたくし、殿下にここまで言われる理由が見つからないのですが、なにかやっちゃいました?」
「むしろ、何もやってないから問題なのかと。」
「忙しい時間の合間に季節の挨拶状を出し、誕生日プレゼントを選び、時折お茶などに誘っていましたのに…。」
「全部事務的でしたけどね。」
「だってお話していても、つまらないのですもの…。それに向こうだって事務的でしたし…わたくしは多少努力したつもりでしたが、距離も縮まらず…お互い義務だけ果たす姿勢で行こう!みたいな感じかと…。」

挨拶以外は自慢話か、兄である王太子の愚痴しか聞いたことが無い。
寝不足のせいか思わず本音が漏れた。おっといけない。
ちなみにグレッタとの会話をちらっと聞いたことがあるが、さすがですね! 知らなかった~ すごぉいの連発で、感動した。キャバ嬢のテクニックの典型って感じで。
あそこまでよいしょしてくれるなら、話してて楽しかったのだろう。たぶん。
レジーナがお茶したときは使用人たちが居る前で王太子の愚痴なんぞ、リスクがありすぎると思って、やんわり注意したのが気に食わなかったのだろうか?

「場合によっては、貴族の地位もなくなりますからね…!」

そこまで悪いことをした自覚は無いのだが。
むしろお互いに最低限の交流しかなかった関係。

「貴族の地位が無くなるんですか!」

レジーナよりもクリスタの方が反応した。驚く、悲しむと言う感情ではなく喜色に濡れた声だ。
その声に動揺しながらもアレクセイは、友にも貴族籍を追われることを喜ばれるなんてやはりこの女は性格に難があると思い、口を開こうとしたがその前にクリスタが嬉々として言った。

「そうなったら執筆に専念できますね!」

煌々と輝く瞳は、餌を目の前にした肉食獣のような雰囲気で、レジーナは僅かに身を引く。

「そうですわね。そうなったら、クリスタのところで拾ってくださいまし。」

その言葉を聞いた途端、ビシッと手を挙げる。

「はい!そうなったら、隣国の叔母のところに身を寄せましょう!安心してください!叔母も先生のファンですわ!と言うことで、殿下わたくしが見ましたわ!レジーナ様がグレッタ様をいじめてなくも無いです。」
「流石に元気に雑過ぎない?」

速攻の裏切りにも動じず、レジーナはクリスタに素でツッコんだ。

「だって完全に作家としては、貴族の地位に足が引っ張られているじゃないですか。作家に最高の環境を整えるのもわたくしの仕事かと思いまして…。」
「なかなかイヤな環境の整え方ね。」

ポンポン言い合う二人だが、待てと震える声で止められる。

「作家とはどう言うことですか?王族になるための勉強を蔑ろにしてそんな遊びを!?」
「遊びとは失礼ですね!この国では異例のベストセラー作家様ですよ!二か月前には隣国でも発売して売り上げが、どんどん伸びているんですから!」

いつもなら身分を弁えているはずなのだが、興奮しているのかクリスタは声高々に反論する。
文芸部に所属して部活を楽しんでいるのを知っている人は多いが、自ら書いて出版までされていることを知らなかった人も多い。パーティー会場ざわつく。

「あ、両親や陛下や王妃殿下には許可は頂いていますわ。最後のモラトリアムだから頑張りなさいと仰ってくださいました。」

正直こんなに売れるとは予想外だったけど。
国内のみならず、国外の出版も決まっている。ありがたいことに金銭的にはここで貴族籍を失ったとしても、生活に困ることはない。

「と、言うかむしろ貴族籍が無くなった方が身軽になる…いいえ、いけませんわレジーナ。わたくしには、公爵家の娘としての責があります。」

一瞬の誘惑。
このバ…真っ直ぐな王子様についていって幸せになれるのか女として考えてしまったが、女である以上に自分は公爵家の娘であると思い直す。
自分の結婚は国の、公爵家の、領民のためのものだ。いくら相手がボンk…愛に生きようとも自分の軸を歪めてはいけない。

「作家などと言う嘘をついて、バカにしているですか?」
「アレクセイ様、そんなこと仰っては可哀想です。ベストセラー作家なんて妄想をご友人となさっているぐらい私たちのことがショックだったのでしょう。」

穏やかで可憐だが、そんなわけないだろうと言う感情見え隠れする小馬鹿にしたような声。
こんなにバカにされる覚えは無いのだけどな、と思いながらレジーナは小首を傾げた。
こちらから貴族籍を返上したいと言ったら、大喜びする場面だろう。
そんなことを考えていると、隣に佇むクリスタの瞳がどんどん冷ややかになっていくのがわかった。

「レジーナ様が作家としてデビューしたのが、3年前ですわ。」

クリスタの狼の瞳とも言われるアンバー色の瞳が、メガネ越しに二人を射抜く。

「わたくしの家が出版している月刊雑誌で、デビューしてから今までにないジャンルの開拓者として文学業界から注目されていますわ。」

その言葉に話を聞いていた流行に敏感な者達が息を呑んだり、ぽかんと口を開けて慌てて閉じた。
まさか、と派閥の関係で文学部に入部してはいないが、本好きの女子生徒の一人が呟くように声を出した。

「まさか、R・L・マックスウェル先生…?」

自社の人気作家の名前にクリスタはにっこりする。
その名前は、3年前流星の如く現れた新進気鋭の作家の名前だった。

「ファンです!」

それを理解すると女生徒はかっと目を見開き、反射的に叫んだ。だって目の前に神作家がいる。

「あら、ありがとう。」

ファンだと言う女生徒に微笑みかけると、女生徒ははわわと言いながらへたり込む。
ファンがいることが分かったのは良いが、飽きてきたしそろそろ眠気が限界だった。

「殿下、この茶番もうよろしいかしら。婚約破棄と言うなら、国王陛下とも話し合う必要がありますね。そちらの…えー…ぐ、ぐりる「グレッタです」そうそう、グレッタ様を害したと言う言い分を通したいのであれば、物的証拠を用意してくださいな。」

一気に言い切ると、クリスタの方を向きレジーナは訴えた。

「眠いわ。」
「ですよね!送って行きますので、もう少しがんばってください!」
「流石にね、流石に三日前にいきなり穴埋めしてくれって言うのは酷いと思うの。やるけど!やるけどね!」
「ありがとうございます!徹夜からのパーティー参加とか無理させて申し訳ありません!」
「だってわたくし、まだ新人ですもの…。大御所作家の穴埋めろと言われたら、やるしかないじゃないですか…。」

いくら売れてる作家だとしても、作家としての地位は未だに新人と言っていい。

「わたくし、レジーナ様のそう言うところ好きです。」
「しっかり睡眠をとってツヤツヤなお肌で朝原稿取りにきた人が、何か言ってますわ。」

ぽんぽん言い合いながら、それでは失礼します。と優雅なカーティシーをして二人は証言をしてくれた文学部が固まっている方に向かう。

「皆、証言してくださってありがとうございます。」

レジーナの言葉に当然のことをしたまでだ、とコーディが返す。

「証言がいるとなったら、申し付けください。レジーナ様のためならいくらでもしますから。」
「そんなことより、さっさと帰って寝てください。また無茶したんでしょ。」

デーブが呆れたように言う。分かりにくい心配にそうねと返して、またお茶会をしましょうと告げると二人はパーティー会場から抜け出す。

「次回作はやっぱり孤島で連続殺人事件にしない?」
「大変興味ありますが、流石に早すぎるかと。」
「こう、婚約破棄の衝撃でむしゃくしゃしてやった、みたいな言い訳ができるんじゃないかしら。」
「くっ、その言い訳なら行けそうな気がして…いや、ダメです。早すぎます。もうちょっと時期を見て…」

仕事の話をし合う二人の声が徐々に遠くなる。
孤島?連続殺人事件?聞いたことない物騒な単語に興味が引かれる者と、婚約破棄がやはりショックだったのでは?と心配する者に分けられた。

「待ってこのままレジーナ様が、貴族籍をこれ幸いと返上したら平民として隣国に行ってしまわれるのでは?」

ファンだと叫んだ女生徒がハッと我に返ったように顔を上げると、呟くように言った。
騒ついていた会場が一瞬静まり返り、レジーナと同学年で本好きの辺境伯の息子が「口説いてくる!」と告げると、レジーナ達を追った。

「っは!出し抜かれましたわ!お兄様は最近恋人に振られたはず!………お兄様如きじゃ、レジーナ様は高嶺の花過ぎますが…万が一、と言う可能性もありますし…。」

兄を紹介すれば良いじゃない!と一瞬テンションが上がったが、地位的にも能力的にも兄はねーなと思いつつ、下手込んだままだった女生徒は立ち上がり、失礼致します、と一礼すると出ていった。
そのあとをパーティーする気分じゃ無くなった生徒達がゾロゾロと続く。
そして、パーティー会場に残ったのは主役になるはずだった二人とその取り巻き、護衛だけだった。

「………皆、祝福してくれるのでは無かったのですか」
途方に暮れたように、グレッタは呟く。こんなはずじゃなかった。

悔しがってみっともなく縋るレジーナ、それを冷たく突き放すアレクセイ、そんなアレクセイを慰めながらみんなにお似合いだと祝福される自分。

そんな想像をしていた。
しかし、蓋を開けてみたら結果はこれだ。祝福どころか自分達の不誠実さばかりが浮き彫りになり、会場皆んなの印象がレジーナは大作家ということしか残らなかった。

「だが、婚約破棄はできそうですよ!」
愛しい人の暗い顔に、アレクセイは慌てて慰める。
「でも!このままじゃ、私が悪者じゃ無いですか!そんなのイヤ!」
あっちが悪いのに、と子供の癇癪のような言葉がグレッタから出た。菫色の瞳が今にも泣きそうに涙の膜を張っている。
アレクセイがああ、泣かないでおくれ愛しい人と、華奢なそっと肩を抱き寄せた。素直に抱き寄せられる少女に愛しさが募った。
「大丈夫です。グレッタの成績であれば両親にも認めてもらえますよ。」
虐められていたのに、成績優秀で積極的に教会で奉仕もしていたというイメージも良い。
あの女とは違うでしょう、と甘く囁く王子様に、そうかしら?と甘えを含んだ声で聞く。
そうですよ、とアレクセイも返す。

うふふあははと自分達の世界に入り込んだ二人に、これから大変そうだなぁ……。と、護衛のために残った兵士達が内心ため息を吐いた。










登場人物紹介

レジーナ・エル・マッケンジー
第二王子の婚約者。
悪役令嬢かと思いきやあんまり婚約者とその恋人に興味がなく、義務で婚約者に近づかないでね、程度の忠告しなかった公爵令嬢。
お気づきかと思いますが、転生者。
前世は事故死したミステリー作家志望の女性。
前世を思い出したら、中世っぽい世界で頭を抱えた。ファンタジーは範疇外なんだ。
スマホもねェ、パソコンもねェ、テレビもねェ世界で読書だけが唯一の楽しみ。
印刷技術があって良かった~~~!と思ったものの、読めるのは恋愛ものか、
騎士物語か、学術書のみ。泣いた。
コレは自分で書くしかねェ!と、この世界で初めて推理物を書き始めた。
現在執筆してるのは名探偵コゼットシリーズ。
カフェの看板娘であるコゼットが、カフェに来る客の噂話と警備兵の青年が持ってくる情報で推理する安楽椅子探偵小説。
パーティは大物作家の落とした原稿の穴埋めに、短編一本三徹して書き上げた後に参加。

クリスタ
レジーナの親友。伯爵令嬢。
祖父が印刷技術を確立して、父が出版社を作ったお家柄。
家は弟が継ぐが、出版の仕事はしたいため七つ年上の親戚の男性と結婚後も出版の仕事をしても良いと言う条件で婚約中。
文芸部には本の話で盛り上がるために入部したが、公爵令嬢が入部して面倒臭いと思っていた。
しかし、レジーナがこっそり書いていた推理小説を偶然目にしたことで、推し作家がいたと泣いた。
出版する気など無いというレジーナを何とか説き伏せ、出版に漕ぎ着ける。
それ以降、親友兼編集者として、レジーナが平民の話を聞きたいと言えば平民を連れてきたり、学術書を用意したり、スケジュール管理したり、急に短編一本書いてくれと無茶振りしたり、レジーナが面倒臭がる王子への贈り物の相談なんかにのる関係。
推し作家は自分が守る。
軽率に貴族辞めちゃえ!と軽く言ってるが本気でもある。

コーディ
国で五本の指に入る商人の息子。
クルクル巻き毛で可愛い顔してるが、第二王子の婚約者がいるから文芸部入った程度には強か。
デーブと仲良し。

デーブ
孤児院から頭の良さだけで、貴族もいる学校に乗り込んで来た猛者。
文芸部には興味無かったが、レジーナの「庶民の暮らしが知りたい」の一言でクリスタに連行されて入部。
庶民の風土習慣医療町の様子など、ありとあらゆる質問をされている。
頑張ると庶民は一生食えないお菓子、お小遣いを貰えるので特殊なアルバイト感覚。
原稿の誤字脱字チェックなんかもしてる。
コーディとはマブ。

アレクセイ
出来の良い兄がコンプレックスな第二王子。
何を言ってもへーほーふーん(意訳)で済ませる婚約者に不満を持っていた。
そんな中、何を言ってもすごぉいと言ってくれるグレッタ出会い恋に落ちる。
当然後で苦労する。
レジーナは、キャバ嬢にハマるおっさんみたいだなと思っていた。

グレッタ
男爵令嬢。
さすが、すごい、知らなかった、せっかくなので、そうなんだとキャバ嬢のサシスセソを天然で使いこなす女。
当然後で苦労する。

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みんなの感想(1件)

千夜歌
2022.05.10 千夜歌

文中は公爵で、紹介では侯爵になってます。


せっかくなので両陛下から雷落とされる馬鹿二人の場面も見たかったですヽ( ̄▽ ̄)ノ

素敵なお話ありがとうございました。


木野葛
2022.05.10 木野葛

誤字脱字の報告ありがとうございます。

今後のことは考えていませんが、アレクセイは長年第一王子である兄への不満とかをレジーナにぶちまけていましたが、レジーナはサクッと父親である公爵に報告しています。
メイドなんかにも筒抜けです。
当然国王夫妻も、言動は把握されていて話が始まった時点でこの子ダメかも、と思われているので厳しくは叱られず、サッサと男爵令嬢の所に出荷されるって感じです。

レジーナは貴族のままかもしれないし、貴族を辞めるかもしれませんが、一生推理小説書きながら過ごします。

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