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私の恋心は何処にありますか
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ピコン
枕元に置いてあるスマホの画面が明るく光った。
スマホの画面には
「愛ちゃん、起きてる?おはよう」
と書かれていた。
誰だと思ってなかなか視界がぼやけて見えない中一生懸命スマホの画面を見つつ送り主の名前を見てもピンと来ない。
ただ分かるのは名前も含め、実態が不明の人からのメッセージであること。
スマホをベッド左脇にある木材の机にベッドに寝転んだまま手を伸ばして置きまたベッドに大の字で両手両足を伸ばして天井を見た。
30手前になって周囲の友人は皆結婚した。私だって結婚に興味がないわけではない。
ただ、好きという感情が恋愛に結びついているのか分からない。他者からすれば今まで恋人が居たことがある過去の私を知っている人ならば理解出来ないだろう。学生時代は誤魔化して生きていた事が大人の私には結婚が現実になり最大の悩みとなってそこから行動が出来なくなった。
そんな考えに世拭けていると窓の外から雀の鳴き声とともに学校へ向かう子供達の声が聞こえてきた。近くには電車も走っておりガタンゴトンと沢山の人を乗せて目的地まで運んでいる。
フーとため息をついてアルバイトへ行く準備を始めようと白い天井を見ながら気合いを入れた。
まずベッドから起きて寝室とリビングの部屋の細い外のベランダに出れる身長くらいの大きさの窓に掛かっている深緑のカーテンを開ける。窓越しから見えるいつもと変わらない風景に電車が頻繁に通り下を向けばさっき聞こえてきた子供達と同じように友人達と遊びながら学校に向かう小学生の姿があった。
それをボーと見た後に、洗面所に行って顔を洗う。鏡を見て少しクマが気になった。
メイクで後でごまかすかと思いながら洗面所の鏡を開いて中に収納してある無印の化粧水や薬局で売っている美容液そして無印の乳液をつけた後にまた薬局で先日クーポンで購入した保湿クリームをつけた。最近は年齢のせいなのか季節のせいなのか化粧をする日でも保湿クリームを使用しないと肌が突っ張ったように乾燥する。
「グ~~」と大きなお腹の虫が大声を上げた。お腹の虫を右手で擦り宥めながら何を食べようか考え冷蔵庫を開けた。中にある物を探って今日の朝ご飯は野菜と食パンに決めた。食べるだけで偉い。そう思いながらキッチンで立ちながら食べる。この部屋にはご飯を食べる用の椅子は無く床に座って食べるか立ちながら食べるかだが最近はわざわざベッド脇の木材の机の所まで行き食べてゴミをキッチンの所に持って行くことが面倒になり立ちながらいつ頃からかするようになった。実家の母親に知られたら凄く怒られるだろう。
野菜は千切りにされた野菜の袋にお箸を突っ込んで取り出して食べるだけ。ドレッシングやマヨネーズをかけることすらも一人暮らしを初めて何日かでやめた。
洗い物が増えるだけだし、そこまで優雅な朝食を食べてもこの憂鬱感は無くならない。朝食を食べ終わったのでお箸をスポンジに洗剤を付けて水で洗い食器乾かしの籠に入れた。
朝起きてから何も飲んでないのと野菜をそのまま食べたからか喉が渇いてきたので冷蔵庫を開けてアイスコーヒーをコップに入れて牛乳割をした。混ぜるのも面倒なので混ざりきっていないコーヒー牛乳を少しずつ飲みながら木材のテーブルに向かって数歩歩いてテーブルの上に置いた。昔テレビで海外の人が日本人はコーヒー豆をひけないほど忙しいという意見を聞いたことがあるが私の経験上では暇が無いよりはそんな優雅な朝を迎えるほど気持ちが迎えられないのだと思う。朝起きてまず思うのが今日も仕事だ。朝が来てしまったという絶望感である。一時は月曜日が嫌すぎてサザエさん症候群というのがよく耳にしたくらいだからきっと世の中の人は同じ気持ちであると願いたい。そんなことを思いながら机の上に置いてあったリモコンでテレビの電源を入れた。
するとテレビでは若いアナウンサーが
「このお菓子本当に美味しいです!是非皆さんもお立ち寄りの際には是非買って食べてみてください!」と何か食べ物を紹介するコーナーが終わるところだった。
コーヒー牛乳を八割くらい飲みコップを木材の机の上に置いて化粧品が置いてある所に這いずって移動する。
そのとき背後の机の上でまた携帯が鳴ったので携帯をチラ見した。
「愛ちゃん今日夕方もしよかったら一緒にご飯でも食べに行かない?」
「愛ちゃんおはよう!ぐっすり眠れた?」
「おはよ。昨日飲み過ぎて完全に二日酔いだわ」
「てかさ、俺思ったんだけどあのドラマ犯人多分あの人だと思うんだわ」
「愛ってさどこ住み?」
ひっきりなしにブーブーブーブースマホ画面が明るく照らされる。でもそこに彼等の名前が表示されるわけでは無くメッセージのみ表示されていた。
スマホを机の上に戻してまた化粧台に這いずって移動して鏡に顔を覗かせて自分の顔を見た。化粧をする毎日変わらないけれども毎日気合いを入れてメイクをしている。少しでも綺麗に出来なかった日は朝から何故か気分が落ち込むからだ。一種の今日の運勢の占いのような感覚である。
化粧をしようと気合いを入れてまずSFP50プラス4の日焼け止めを顔全体と首に塗って下地クリームも同じように掌で馴染ませた後に顔全体と首に塗る。
クッションファンデをまず半回転させながらクッションにファンデに色を取り、顔半分に擦らないように少量ずつ塗っていくこの時に擦ったりするとよれたりするので軽く押さえ込むようにして私は塗っている。そして全体に塗った後に気になる小鼻の下とかクマとかニキビ跡にコンシーラーで少量ずつそこに液体を乗せ人差し指で力を入れずに軽く叩いてなじませる。
その後は私はパウダーを使っている。素肌の上から使えるパウダーで肌の負担になりにくいと聞いてからこのパウダーを使い始めた。肌は色白に見えるのもあって愛用している。このパウダーをまたパフで時計回りに半回転させてスタンプのようにして最初は顔全体に乗せていきまたパウデアーの粉をクッションに軽く付けて今度はなるべく凹凸が出来ないように肌を滑らせていく。仕上がりはいつもここで大福みたいな白さになる。眉毛までパウダーの粉で白くなるので以前友人と旅行に行ったときにメイクのこの辺りで友人が起床し私の顔を見て悲鳴を上げた後私だと分かりベッドの上で寝癖ボサボサの状態でベッドの上でひっくり返って笑っていた事があった。
その後眉毛はケイトのパウダーとペンシルで書く。ここが一番の難所だ。
眉毛をまずパウダーでぼかしながら元々ある眉毛の毛の流れに沿って作り、ペンシルで左右対称になるように眉尻に長さを足していく。仕上げは眉頭の毛を立たせて書くこと。
それだけで、りりしく見えて少しハーフっぽく見える。私は昔から優しい印象を与える眉毛は好まずどちらかと言えばキリッとしたハッキリした眉毛が好きだ。
アイシャドウは肌の色に近いクリーム色を中指で取って瞼全体に塗る。
その後はブラシでオレンジ気味茶色を取り二重幅まで塗る。このときに目尻から塗ることが私の最近のお気に入りだ。少し目尻を跳ねさせることで猫目のようになる。もともと猫目なのだがそこをあまり強調しすぎないように活かすのが私は好き。
目頭には段々薄く筆を浮かしながら薄い色になるようにブラシを持ってくる。そうする事で単色でもグラデーションのようになって目頭が薄い色になることで鼻の高さを強調するようにする。
この時に今乗せたアイシャドウの円が少し歪になっていたらその度にブラシで修正をし、整えていく。
目にコンプレックスを持っている私が一番力を入れているまつげである。ここに毎日時間がかかる。まずビューラーをまつげの根元から九十度になるように挟む。
キュッキュッと何回か軽く力を入れて上げた後に根元から先まで小刻みにビューラーで挟みながらカールを付けていく。
満足に上がったらまつげをカールキープ出来るマスカラを急いで塗る。
この行程が一番面倒だけれども一日の気分を決める大事な行程である。
雨の日や湿気が多いときはなかなかまつげが上がらないので大変でなかなか決まらない日は朝から憂鬱な気持ちになる。
反対側の目も同じようにビューラーで上げているとテレビから天気予報が流れてきた。
今日もかなり暑いらしい。もう秋の季節なのに30度を超えるなんて環境問題が本当に重視されるなんて普通の生活をしていても感じてしまう。
まつげキープを乾かしている間にアイシャドウのココアカラーを小筆で取り目頭と目尻に入れた。こうすることで目を開けたときにしっかりした目の印象を与えることが出来る。
その後は、二重線を茶ピンク色の筆ペンで薄く書き二重を強調。最後にマスカラをして目は完成した。
チークは今日の気分はコーラル ピンクだったので大きいチーク用のブラシでとってフワッと舞うような感じで頬に斜めに入れる。
あまり子供過ぎないようにでも少し若めにメイクをする。今年で30歳になるのだがメイクがまだ難しい。メイクも経験だが年齢によっては合わないメイクがあるので、アラサーは本当に難しい。
それを感じたのは、28ぐらいの時からだった。前は派手なカラコンを入れたり、派手にまつげをボリューム重視でメイクをしていたがチークの入れ方もとにかくお人形のように可愛いを求めた楽しいメイクが出来た。
だが段々年齢が上がっていくと自分が好きな可愛いメイクよりも、年齢に合ってケバさのないまたナチュラルなメイクを求められる。
そうすると自分がしたいメイクよりも人に清潔感のあるメイクに変わるため常に人の目を気にしてメイクをしなくてはならなくなった。
そんなことを思っているとテレビから
「女子アナウンサーの後藤唯さんが先日一般男性と入籍したことを発表されました。」
という結婚式のよく流れるウェディングソングと共に甲高い声の女性アナウンサーが報道していた。
「後藤唯。あたしより年下。」
カレンダーをふと見た。今月だけでも三人の友人の結婚式が控えてる。この間、高校の友達の美晴に子供が生まれたからそのお祝いもしないといけない。
私は少し憂鬱な気持ちになった。
「人の幸せを喜べる人間になりたい。」
高校の時に友人も含めて私も言っていた。大人になってから気づくのがそれにも限界があるということだ。
結婚式のドレスの着回しは、どこで写真が出回るか分からないから毎回違うドレスにしないといけない。必ずではないがやはり私は気にしてしまう。今はレンタルが出来るが、その費用も決して安くは無くバッグもレンタルで借りる。
メイクはレンタルするドレスによって色を変えなくてはいけないし、それによって髪型も美容院で頼まないといけない。
ネイルも考えないといけない。今の爪の色はくすみオレンジ色だが、ドレスによっては色も考えないと。
やることが今月まだ始まりだというのに多すぎて時間が無い。
そんなことを考えてるとバイトに行く時間が迫っていた。
「ヤバイヤバイ」
と独り言を呟くと急いで出かける準備を進めた。朝から引っ切りなしに通知があるスマホを横目に私は鞄の中に入れた。
外に急いで出る。玄関のドアを開けるとそこに広がるのはいつもと変わらない強い日差しにまだ午前中というのに既に暑い温度。まだ夏の時期ではないはずなのにもう半袖にしないといけないのかもしれないと思うほどの天気だ。
私は玄関のドアを閉めて鍵を掛けた後一度ドアノブを引いてちゃんと鍵を掛けたか確かめた後に小走りで駅に向かって走った。
「いらっしゃいませ~」
洋服を畳みながら貼り付けた笑顔で接客をする。
店内は沢山の照明で明るく照らし、店にはスポーツ用品の服を着たマネキンがランニングをするような格好で玄関扉の所に女性男性が立っている。
その後ろで私は上にスポーツブランドのマークが入ったTシャツにその下には冷房で体が冷えるので黒の長袖を着て、下は夏用のランニングパンツを履き、また同じスポーツロゴが入ったランニングシューズを着用して、店内を見回っていた。
髪はポニーテールにしているため歩く度に首に毛が当たるが、髪を結ばないと上の人達(正社員)に嫌みを言われるので結んでいる。
今日は平日だからか人はあまり私の階にはいない。
この仕事場所は全部で八階建てである。
その中で私は一階のいわゆるこの建物の入り口に配属された。
やることはそれなりにあり、まず朝来たときには玄関の施錠を解除し、門も開けやすくする。
ただし門は開店と同時に開けるため、決して開けっぱなしはしない。理由はお客さんが入ってくるからだ。
何度か学生アルバイトの子が少し門を開けっぱなしにしていたことがあり、過去には店内に中年の女性が入ってきて商品の返品について尋ねてきたことがある。
その時は最初は開店前であると伝えたが、返品するだけだからという強引のやり方で押し通してきた。
返品一つでもレジ開けもしなくてはいけないしその方がクレジットでの購入者なのかも確認が必要になってくる。
あの後正社員の人が間に入ってきてくれた事で難を逃れたが、その後はその社員に嫌みや叱責を受けた。
また、次に開店前にやることは宅配で来た荷物を仕分ける事。中にはお客様が取り寄せたものもあり、それをレジ後ろにある薄ピンクのカーテンで仕切られた場所に分かりやすく置く。
後は大きいものは在庫行きなので沢山ランニングウェアが積まれている裏の在庫部屋に隠す。
その後はミーティングだ。三階に集まって挨拶をする。内容はほぼ私は聞いていない。
特に関係がある内容なんてないからだ。
そして十一時半に店はチャイムのような音楽と共に開店する。
毎日がこの流れだ。私は人が少なくなってきたことを見計らって店内に出ている商品のサイズや物のチェックをする。
もし、裏の在庫に物があるのに店内に商品が置かれていなかったら購入してもらえなくなるからだ。チェック項目があるプリントを見ながらボールペンでチェックを入れていく。
そして、裏の在庫部屋からその商品を取り出し、お客様がいればいらっしゃいませ~と声を出しながら何事もないかのようにして店の中で作業を続ける。
ポケットに入っている携帯がずっと鳴りっぱなしである。正直中身が見たいが、今日は嫌み先輩で正社員の人がいるから出来ない。
多分昨日からやりとりしている人達だろう。朝送ってきた人達にもまだ返事が返せていない。
そう、私の携帯を何度も鳴らすのはマッチングアプリでマッチした人達だ。
早く読みたいのに返事がしたいのに、まだ出来ない。
早く休憩の時間になってくれと願いつつ在庫から洋服を出してはハンガーに掛けて商品のサイズを確認した上でハンガーにサイズ表記のクリップを止める。
それを繰り返していると店の電話が鳴った。
急いで在庫部屋にある電話を取る
「はい。未来スポーツ株式会社ハヤテの安藤です。」
「あ~、あのさこの間買い物したときに気になったけど買わなかったやつがあるんだけど、それまだある?」
「先日はご来店誠にありがとうございました。どの商品をお求めでしょうか?」
「あれだよ。靴だよ。」
「ランニングシューズでございますね。こちらの売り場はウェアの階になりますのでランニングシューズの階にお繋げさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうなの。じゃあ早く繋いで。こっちも暇じゃねーんだわ。」
「はい少々お待ちください。」
・・・内線の繋ぎ
「あ、お疲れ様です。一階売り場の安藤です。今お客様からのお電話がありまして購入したいシューズがまだあるのか確認したいとのことでした。」
「安藤さんお疲れ様~引き継ぐよ。ありがとう」
受話器を置くと一つため息が出た。
「何で売り場も確認しないで電話なんてしてくんのよ。俺も暇じゃね~て言うけど私も暇じゃ無いわ!」
と少し愚痴を言った後に元の貼り付けた笑顔に戻して店内に戻った。
「安藤さーん!5番どうぞー」
5番とはこの店での隠語でご飯の意味を指す。
「ありがとうございます」と言い私は他のスタッフに5番に行って参りますと報告をして食道に向かった。
この職場の良いところはチェーン店が多くあるにも関わらず本店は食堂があるところだ。
ワンコインで食べられるのも魅力である。
今日はオムライスの気分だと思いロッカーに財布を取りに行く、するとまた携帯が鳴った。
少しチラ見をするとマッチングアプリのアイコンに58件と出ていた。
そんなに貯まっているのかと思っていたらLINEにも着信があった。
LINEに来ることは珍しいなと思い開けると美晴からだった。
「柚木~あのさ~今度のランチなんだけどここどう?ここだったら桜も一緒にご飯食べられると思うんだよね~。」
と書かれていた。子供がいると確かにランチでも場所選びが大変なのは聞いたことがある。
私は一緒に送られてきたURLをクリックして美晴の家の近くであることも確認して、いいよと返事を返した。例えそこが私の家から一時間以上かかる場所でも美晴の方が私よりも移動は大変なのだから仕方が無い。ただ私の頭に次に浮かんだのが電車賃だった。
財布を取って携帯で検索しながら食堂に向かう。
オムライスを食べ少し気分的に甘い物も食べたくなったのでプリンもついでに頼んだ。
お盆に乗せて私は窓際に行く。窓際はカウンターのようになっており、一人になりたいときに使用している。
お盆を置いて、携帯の画面を開きマッチングアプリのメールを開いた。左側にはそれぞれのアイコンと共に登録したときのニックネームが表示されている。
上から順に見ていくと殆どが朝の「おはよう」の挨拶だった。私は沢山並んでいるその言葉達を見ながらふと少し前の事を思い出した。
私がマッチングアプリを始めたのが、友人の結婚式の二次会の後。
あのときは25歳で少しまだ可愛いドレスに身を包み参加した。
メイクもそれなりに可愛い感じのメイクにしていた。
友人は看護師をやっていたのもあり、同じテーブルには私よりも若い子が多く、職場の話で盛り上がっており全く話すことは出来なかった。
ただ、二次会ならお医者さんとの出会いもあるだろう。と少し期待も含めて参加した。
新郎新婦の軽い挨拶をした後に新婦は休憩しにホテルに戻るといい、新郎だけが会場に残り新郎の友人であり進行係の明るい感じで少し明るさを前面に売りに出してる感じの子がマイク片手に「本当におめでとー!」とお酒で呂律が回らず真っ赤な顔して叫んでいた。
私は、とりあえず周りを見渡してみた。
新郎はまだひよことは言え医者であり、いい人が居るかなと思い見てみてももうそっちはそっちでグループに分かれて盛り上がっていた。
一人ぽつんと立っていると、一人の男性が近づいてきて
「新婦の友人ちゃんだよね?可愛いね~今いくつなの?」
「25です」
「あ~もうアラサーなんだね!おばさんの域だよね!結婚はしてるの?」
「してません。」
「彼氏は?」
「居ません」
「そうなの~?こんなに可愛いのに!このままだと年齢だけいって可愛いは若い子に取られるから何も肩書き無くなるよ~寂しいよ~」
と絡まれた。何だこの人と思うも新郎の友人だろうと思い新郎の顔をちらっと見たら酒を飲みながら絡まれてる私のことをとても面白い物でも見たような感じで大笑いしていた。
何が面白いのか私にはさっぱり理解が出来なかったが、この新郎は今日皆の前で誓った妻の友人に自分の友人が失礼なことを言っていることに対して何も咎めることも無く、むしろそれに乗っかるガキなんだと知った。
この場所にはアホしか居ないのかと思いその場をすぐに後にした。
友人からLINEで
「今日は結婚式来てくれて本当に有り難う!とてもドレス似合ってたよ!髪型も本当に可愛かった!柚木が来てくれて本当に嬉しかったし、さっき旦那も柚木が一番可愛いって話をしてたんだ~」
と来た。
絶対社交辞令だっていうのは分かっていた。なぜなら先程の二次会で散々侮辱を受けたからだ。
結婚式の引き出物を出していると、二つの赤と青のマグカップが入っており裏にはそれぞれハートの片方だけが印字されていた。
今時こんな引き出物あるんだと思い食器棚にすぐにしまい、ドレスを脱いですぐに返却が出来るように段ボールに詰めた。
一通り、返却準備が出来たのでお風呂に入り今日の出来事について忘れようとした。
だが、お風呂から上がっても怒りは収まらず、冷蔵庫からお酒を取り出して缶の口を開けプシュという空気が抜ける音と共に缶を開けた。
これでもかっていうくらいグビグビ飲んで、一息ついた。
飲んで暫くすると頭がホワ~としてきた。
さっきまでの怒りは少し和らいだが彼氏が居ない事に再び気がついた。
そんな時にふと思いついたのがマッチングアプリだった。
恋愛なんてほぼ経験なんて無いに近い。学生時代にはそれなりに恋愛は経験してきたが、正直本気で好きかなんて分からなかった。好きという感情は分かってもそれ以上は分からない。その人とどうなりたいかなんて未だに分からない。
学生時代に付き合っていた彼氏がキスをしてきたとき、彼氏は凄くドキドキするね。
なんて言っていたが、私はいつも友人達と過ごす学校の誰も居なくなった放課後の教室でいつもと違う状況にドキドキしただけで、キスをされたことにドキドキしたのかは分からなかった。
手を繋いでも同じだった。放課後の帰り道に一緒に帰宅していると当時の彼氏が急に手を繋いできた。
少し汗ばんだ少し皮膚が硬くてガサガサした大きな手が少し冷え性のひんやりした私の手を包み込んだ時、ふと彼氏の顔をみると少し緊張した顔をしていた。
私は放課後に誰に見られるか分からない状況でこのような体験をしている事にドキドキした。
そんな日々を過ごしていると、美晴が教室で
「彼のどこが好きなの~?」
と聞いてきた。私は言葉に詰まった。彼と付き合っているが彼の性格が分からなかったから。優しい、笑顔それが理由で付き合ってると言っても良いのだろうか。
正直そこが好きなの?と聞かれても違うが答えで、なんでこの人じゃ無くては駄目なのかなんて考えた事が無かった。
私にとって今まで一緒に過ごしてきて嫌悪感が少ない特にキスをされても手を繋いできても嫌だとは思わず、彼がそれに照れながらスキンシップしてきていることを傍観している感じだった。
「私を好きなところかな?」
と無難な答えを貼り付けた笑顔で答えると周りで聞いていたクラスの女子達が一斉にきゃーと叫び次々に愛されるっていいね~と私もそんな彼氏が欲しいと言っていた。
私のその恋愛は数ヶ月で終わった。
理由はキス以上の事を求められたからだ。彼が今日は親が家に居ないから家でDVDを観ようと言いだし、私は何も考えずにその言葉に従った。
映画を観ている最中に彼が手を握ってきた。いつもの事だから私も握り返した。
すると彼がテレビでは無く私の顔をジッと見つめてきた。
いつもと何か違うことにこの時私はなんとなく分かっていたが、ただ私を真っ直ぐ見る彼を見つめ返した。
彼が顔を近づけてきたので私は目を瞑り、彼がいつものようにキスをしてくるのを受け止めていたが、途中から彼の手が私の身体を触り始めた。
ビックリして目を開けたが彼はただ私を見つめながら反応を見ているようだった。
とうとうワイシャツの中に彼の手が入ってきた時に
「やめて!」
という声が聞こえた。
びっくりして手を引っ込める彼とその声が私であることに驚く私。そして耳にはテレビから流れてくる音楽が聞こえてきた。
その後はただただ気まずく彼はごめんと言いながらびっくりしたよね?と微妙な笑顔を見せながら離れた。
私は、初めて男性に性的に見られているという事を実感したことで、生まれて初めて嫌悪感を感じた。
その後から彼がキスや手を繋いできても男と女であるという事が、漠然と伝わってきて少しずつ触れられることが苦痛に変わってきた。
私はこのときから彼に嫌悪感を抱いていたのだ。
それから間もなく彼から別れを告げられた。私はただ頷くだけだった。
「少しの間だったけれども幸せの時間を有り難う」
別れの言葉の最後に言われた言葉が今でも忘れられない。私は彼と過ごした日々は幸せだったのだろうか。幸せとはなんだろうか?
その恋愛から他にも沢山嫌悪感を感じない人と付き合ってきたがどの人も一線を越えることは無かった。
ただ25の歳になり、周囲が結婚していく中で孤独という文字が私の頭の中に浮かんだ。
嫌悪感よりも孤独の方が私には耐えられそうに無かった。
そこでこんな私でももしかしたら受け入れてくれるのではと始めたのがマッチングアプリだった。
バイト先でも出会いが無い私には画面上でのやり取りで、自分が合わないと思えばそのまま自然消滅出来るこのアプリは最適だった。
最初の登録はただ個人情報仕事が年齢や名前はニックネームや本名以外を使う人が多い。
写真はどうしよう。今パーティーから帰ってきた顔だから少し崩れているとは言え少しお酒が入っているのもあって、少し可愛いワンピースを着て少しメイク直しをして自撮りを撮った。
登録し始めはひっきりなしにマッチした連絡が入る。
私は一人一人プロフィールを確認しながら選んだ。
様々な内容の自己紹介を読んで思うのが、誰を選べば良いのかだった。
私は今までの恋愛は会っての雰囲気で決めていた。どうしようと悩みながら、何となくの雰囲気の好みで振り分けていた。この人達の顔だけじゃ分からないからこそ、話してみたくてもプロフィールを書いている人も居れば顔を暈かしていて全く分からない人も居る。また、家族の誰かに誘われてという明らかに嘘を書いている人も居た。中には既婚者もそんざいしていたのは驚いた。妻公認です。と堂々と書いてあった。私は確かに恋愛が出来る人を探すたにアプリを始めのだがなかなか苦戦していた。好きなタイプなどがあれば楽なのかもしれない。
私がなぜこんなにも無頓着なのか、私にも分からない。
友人達のように誰かを好きになり、その人と家庭を築いていく事に私は想像も出来ないのだ。
恋愛はいつだって私にとっては友情と変わらなかった。異性としてその人を性としての対象で見ることが出来ない。
そんな事を思いながらマッチングアプリを開く、沢山メッセージが来ていて一人一人に返していく。
このアプリは人によってだが、積極的に会おうというタイプと何度も連絡をとるタイプに分かれていた。また一番多いのが仕事帰りでいいから少し会おうだった。
初めて会う人と一対一で夜遅くに会うことに私は警戒感を抱いていた。
大体そういう男は真剣な出会いよりも一期一会を大切にしているのだろう。
オムライスを食べながら私は一つ一つ未読になっているメッセージを読んでいった。
「愛ちゃん何してるの?」
「仕事中です(^^)」
「愛、今度飯食べに行こう」
「ここ最近多忙なので時間が合えたら是非一緒にご飯食べに行きましょう」
「愛ちゃん!今日買い物に行ったんだけど愛ちゃんに似合いそうなのがあったから今度一緒に買い物行こうよ!」
「私に似合う物があったんですか?それは見てみたいです!教えてくださってありがとうございます!是非!」
こんなのが延々に続く。中には仕事についてしつこく聞いてくる人もいる。
アルバイトである事もどんな仕事かもごまかしながら私は演じて書いている。
理由は以前アルバイトである事を伝えると何故その歳でアルバイトなのか、また返事が来ない事も多々あった。
人によっては特に気にしないという人も居るが、恋愛感情が分からないとは言えそういう行動は少し傷つく。最初は本当に友人の結婚式で言われたことが気になって始めたのが今では、チャットでのやり取りで行うから恋愛感情は生まれなかった。しかし、一人一人話してみて会話のやり取りが人によって違うのが面白くて気がついたら夢中になった。
しかし、私はあまりにも深く入ってくるのが嫌なので職業の欄には接客業としか記入していないし、名前も偽名である。本名は安藤柚木だが何故かニックネームは愛にしてみた。今までやり取りをした人で私の本名を知る人は居ない。多分この先本名なんてここに居る人達には明かす事は無いと思う。
またマッチングするためにイイネ!ボタンがあるのだが、かなりの率で若い男の子で接客業と書いている人はホストの人が多い。
ホストに対して抵抗があるわけでは無いが以前マッチングした時に、途中から営業か?と思ったら
「一回お店に来て僕の接客している姿を見て欲しい!愛ちゃんが来てくれたらいつもより仕事が頑張れそうなんだ!」
と言われてこれは客引きしてるのかと思ってメッセージを取るのを止めた。中には本当に出会いを探している人も居ると思うが、私は今のところ出会ったことが無い。
また、職業欄が空欄なのに収入がそれなりにある、または新宿辺りによく出没するとプロフィールに書いてあって接客業は大体ホストであった。
マッチングアプリも様々で物によって年齢層も違ったり、本当にその人なのかという確認が厳しいものもあった。
ただ、共通しているのは男性が有料である事。一ヶ月無料もあるようだがメッセージを交わしている男性があるときにもうそろそろ更新期間になってしまって退会しようと思っていると言っていて聞いたら一ヶ月単位で料金が発生し、それをしないとメッセージが見れないようになっているらしい。
ここには男女差別を感じた。男性の中でも、マッチングした女性とお会いしたら宗教の勧誘で名前を書いて欲しいと言われたや写真とは全く違くてかなり加工されていて待ち合わせ場所に居ても全然気づかなかった。などもあったらしい。
見えない相手にするわけだからリスクはあるが両方無料にして本人確認を必須にすればいいのにと思ってしまう。
また営業や失礼な人だなとか出会って全く違った人や宗教勧誘に関して通報ボタンがあれば良いのにと思ってしまう。
通報が多ければその人のアカウントが停止し、二度と利用できなくなれば良いのにと思ってしまう。
そんな事を思いながらオムライスが食べ終わったので、プリンに手を掛けた。
ここのプリンは職場の近所の老舗の甘味処で作られているらしく、そこの社長の奥様と縁があって数量限定だがプリンを何個か持ってきて食堂で売られている。
とてもプリンの卵の所が優しくしかしズッシリ感がある凝縮したコシのあり、味も優しいのに優しすぎずしっかり味が主張されていた。またカラメルはコンビニのプリンと違ってさらっとしていなく、キャラメルに近い程しっかりしており味はとても甘い。
このプリンがとても好きだが値段が高い。一個600円するのだが今日のような少し憂鬱な時には気分を上げて良い日に無理矢理持って行くには食べるしかない。
一旦マッチングアプリの返信が落ち着いた頃に、今度友人の結婚式に着ていくドレスを選ぶことにした。
今はインターネット一つで全てを揃えることが出来るのだが色がとても悩む。30になるとピンクは躊躇してしまう。二十代半ばくらいなら可愛いが、30になるともう少しくすんだピンクにしないと派手にそして若作りしていると周囲に思われて浮いてしまう。
しかし、インターネットの写真は明るすぎて色がハッキリ分からないのが難点である。
ただ、オレンジも茶色っぽい色であったらそれも老けて見えてしまう。
悩みながらスマホをスクロールしていくと休憩の時間がそろそろ終わりに近づいていた。
スマホの電源を一旦オフにしてロッカー部屋に戻るために、食器とお盆を返却窓口の所に置いた。
「ごちそうさまでした」
とか細い声で言うと
「はいよ!午後も頑張ってね!」
と食堂のおばちゃんがいつものように笑顔で答えてくれた。一人暮らしをして毎日部屋は静かだからこういう会話も嬉しい。
ロッカー部屋に戻ると財布を鞄に閉まって歯ブラシを出し洗面所に向かう。歯磨きをしながら自分の顔を見てみる。
今日はまだ五時間残ってる。毎日ご飯休憩が終わるときに数えてしまう。後何時間ここに居なくてはいけないのか。別にこのバイトが嫌いでは無いし、働かないといけないことくらい分かっているのにいつも何故か考えてしまう。
歯磨きが終わるとロッカーに荷物を閉まって鍵を閉めてそのロッカーの鍵をポケットにしまった。
「戻りました。」
一人一人に挨拶をする。こうすることで誰が今このフロアに居て誰が今抜けているのか分かりやすくする。仕事場に戻りまず周囲を確認し今何をしていこうか考える。
在庫管理は他のアルバイトの子がやってくれていた。そしたら私が行うのは、お客さんが殆どいなかったので違う階のハンガーやカゴをそれぞれの階に返却しに行くことにした。全部で八階ある建物で売り場として使われているのが六階までで、七階は事務所で八階はイベントが行われる場所だ。ハンガーやカゴにはそれぞれ階のシールが貼られているそれを見ながらその階に運んでいく。レジにさりげなく近づきそっとカゴを置きハンガーが纏められている所に置いていく。
それが終われば一階まで非常用の階段で降りてくる。緊急な用で無ければ基本はお客様と同じエスカレーターやエレベーターを使用することは無い。
一階に降りてきてチラッとレジを見たが誰も会計はしていなかった。試着室も誰も使用している感じでは無かったが、試着室にゴミや忘れ物が無いか確認のために試着室の中を確認すると、試着するためにメイクが服に付かないように頭に被って貰うシートが落ちていた。それを拾い他にゴミが無いことを確認してカーテンを綺麗に端に纏めてレジに向かった。
レジの所にあるゴミ箱に試着室で拾ったゴミを捨てた後に私は領収書の紙がどこまで残っているのかを確認した。まだ残っていたが新しく印を押して増やしておくのも良いかと判断し、株式会社のサイン等の判子を引き出しから出して押していく。少し慎重にして押さないと上下が逆さまに押してしまう事があるので少し苦手の作業である。
このバイトに入ってすぐにこの仕事を任された時に何度か紙を無駄にしてしまい、先輩に凄く怒られた。好きで失敗したわけでは無いのに相当怒られて家に帰ってから半ギレでビールを三缶開けた事がある。
領収書を押し続けていると前に人の気配を感じた。
ショートカットで顔が少し幼く私より少し年下に見える子が少し緊張気味で
「あの、私来年から学校の体操の先生になるんです。・・・それで、あの・・・どんなジャージを買ったら良いのか分からなくて・・・。」
一緒に選んで欲しいとのことか。私はチラッと横に居た正社員の顔を伺うと正社員は宜しくという顔をしてパソコンで何かをまた打ち始めた。私は、貼り付けた笑顔で
「かしこまりました!どういう色のをお求めですか?」
とそう答えると今していた作業をさりげなく片付けて引き出しに戻した。
来年から高校の体育教師になる彼女は黒髪で短髪で活発に見える一方で少し猫背で自信が無いことが凄く分かる雰囲気であった。
「一応学校からは地味な色でと言われているんです。だからオレンジとかピンクとかは駄目なんです。後は薄めの物が良くて出来れば動きやすい伸びるタイプのパンツが良いです。」
聞きながら店内を案内していく。
私が見ていてこの若い先生は明るい色にした方がいいなと思いながら見ていた。
スポーツウェアがある所に案内しつつ合う服を探すすると、淡い紺色だけど水色の雷模様が斜めに大きく左胸から右腰にかけて入っていて襟元も水色が入っているウェアが目に止まった。この服なら派手でも無いが水色が入っていることで印象が少し明るく見えて爽やかさも見せることが出来るなと判断した。そのウェアを持ち彼女に見せようとすると
「やっぱりこういうグレー一色の方が無難なんでしょうか?」
と明るいグレーにロゴが左胸の所に小さくピンク色で入っているウェアを見せてきた。
正直それは普通にランニングするには良いかもしれないがあくまで教員という立場で彼女より若くて元気がある子供達の前にするには地味すぎる。しかし、お客様が選んだ商品だ。決して否定などしてはいけない。そう貼り付けた笑顔で対応しつつ必死に頭の中でどう答えるか考えた。
「お客様の仰る通り学校からの規定を考慮なさいますとそちらのウェアも清潔感があり素敵だと思います。またこちらにありますウェアは紺色で一見クールに思われがちですが、水色が入っていることによってフレッシュさも感じられるかと思います。一度両方のウェアをご試着なさいますか?」
と指を揃えた手の平で試着室を指す。すると
「もし良ければ試着させてください。」
と照れながら若先生は答えた。
試着室に若先生が入る時ハンガーからウェアを取って試着しやすいようにチャックも開けて待機する。若先生が靴を揃えて試着の準備が出来たのを見計らって両方のウェアを渡し
「それではカーテンを閉めさせていただきます。近くに待機しておりますので、何かありましたらいつでもお声かけください。」
と言った後に端に纏めておいたカーテンを閉めた。
その後は着替えているうちに他のウェアも探しておく。万が一今渡した商品が気に入らなかった場合に備えて類似しているが少し明るいワインレッドが主の黒のウェアやまだ若いのだからピンクが入った物も似合うだろうと試着室を気にしつつも商品を手に取りながら選んでいく。少し経過すると紺のパンツを履いて上のジャケットを必死に悩みながらカーテンを恐る恐る開いて若先生が顔を出した。
「こちらの紺のジャージとグレーどう思いますか?」
「はい、率直にもう上げますとグレーだと少し地味に感じるかと思います。髪型がボーイッシュである為紺のジャージの方がスタイルも含めましてとてもお似合いかと。」
と素直に述べた。彼女は本当に顔が小さくスタイルが良かった。正直グレーだとそのスタイルを殺してしまい野暮ったい感じになってしまって凄く勿体ない。
「他にもウェアを用意させていただきましたが、やはりお客様の雰囲気も含めまして初めて沢山の生徒様達の前に立つのであれば爽やかな印象の方が親しみやすく子供達の輪に入りやすいかと思われます。」
素直に思った事を述べていると彼女の顔が最初来店した時は不安でいっぱいだったのが、少しずつ自信を取り戻し少し笑みが出てきた。
「私ずっと教員になりたくてでも実際採用された時に凄く不安だったんです。若い子達の輪に入っていけるのかなとか、後はなめられたりしないかなって。でもこの紺色のジャージを着たときに少し気持ちが引き締まった気がして・・・。うん、決めた私これ着て頑張りたいです!」
とキラキラした希望に満ちた笑顔で若先生は鏡に向かってきっと半分自分に言い聞かせているように答えた。私は
「かしこまりました。それではそちらのグレーのジャージをお預かりいたします。また本日は他に購入または他の階でご覧になられたい商品はございますか?」
「いえ!今日はこのジャージだけを購入します!」
そう言いながら少し紺のジャージを羽織りながら彼女は少し鏡を見ながら身体を半回転させたりしてスタイルを確認していた。
グレーのジャージを受け取ると
「それでは一度カーテンを閉めさせていただきます。」
と言い静かにカーテンを閉めて急いでジャージをハンガーに掛け直し、商品を元の場所に戻した。戻して試着室に着いたと同時に若先生は私服に着替えて試着室から出てきた。
「お疲れ様でした」
と言いながら出迎える。
「私今日本当にここに来て良かった。私本当に毎日不安で実は先日友人に泣きながら相談していたんです。私本当にやっていけるのかなって。私が高校生の時って若い先生って先生というよりも友達感覚だったなって。でも学校側からは生徒の指導者として怪我をさせてはいけないという重要な責任感を持って体育は特に命に関わる事もあること。なので生徒達に甘く見られないようにしっかりとした気持ちで授業を行うこと。って何度も言われているうちに不安になって居たんです。でも今日買い物に来て、あまりにも緊張しすぎてしまえば周囲が見えなくなって余計に良くないし、それに初めて会う子達に爽やかな先生の方が仲良く出来て他の先生のようには最初は出来なくてもまずその子達の輪に入って行くことで少しは指導も含めてやりやすいかもって思えるようになりました!」
そう言うと会計の所に向かった。私もその話を頷きながら聞き若先生の後ろに着きながらレジの方へ向かう。
レジに着くと若先生の後ろを通ってレジのカウンターの中に入る。するとそれをパソコンを操作していた正社員の遠藤さんが気がついて無表情だったのが急に笑顔になり、普段会話をする何倍もの高い音で
「いらっしゃいませ!商品お預かりいたします!」
と接客を始めた。ウェアについているタグをレジのバーコードを読み取る機械で読み取り、タグの下半分が切り取りが出来るようになっているので切りレジ横にある小さい缶に入れた。
この半タグは商品が売れた事で売り場に残っていないから在庫部屋から商品を出さなくてはいけないという証拠である。
そしてウェアのチャックを閉めて服を畳んでパンツも畳んで会社のマークが入った袋に入れる。
その間に若先生は会計を済ませていた。
「出口までお持ちいたします。」
と出口に向かって指を揃えた手のひらで案内すると
「ありがとうございました。」と正社員の遠藤さんに向かってお辞儀しながら若先生は着いてきた。
出口の玄関に着いたときに若先生に袋を渡しながら
「本日はお越しくださいまして誠にありがとうございました。微力ではありますがお客様が生徒様達と楽しくかつ充実した生活が送れます事を心より応援しております。また何かありましたら、いつでもお立ち寄りくださいませ。」
と伝えると若先生はありがとうございます!と入ってきた時とは全くの別人のように背筋がピンと伸びて笑顔で答えて去って行った。
私は若先生が去る後ろ姿を見て少しう羨ましくなった。このバイトをして思うのはお客それぞれの服を一緒に選ぶことはとても楽しく私には合っているが、この仕事がキラキラしていて今の私の生活が充実してるかと聞かれたらそうでは無い。正直、あんな風にこれから冒険に出かけるようなワクワクするような事は今の所全く無く、少しでも時間を見れば今日は一万は稼げたと計算してる。正社員になれば固定の給料が貰えるし賞与もバイトよりは貰えるが私にはバイトの身の方が合っていた。理由は縛られていたくないから。いつかここから飛び出して何か見つけられるんじゃないかと思ってる。そのときにはきっと誰かを想う気持ちも少しは理解できているんじゃないかとも。
私は少し快晴の暑いまだ六月なのに真夏のような空を見ながら考えていた。
「安藤さん、時間だからあがって~」
と責任者が私に声を掛けてきた。やりかけていた仕事があったが急ぐ内容でも無かった為明日に回すとして在庫部屋に一旦置いて同じフロアで働く人達全員に
「お先に失礼いたします。」
と声を掛けてそれぞれお疲れ様でした!とか安藤さん今度最後まで居るときに恋愛相談乗ってくださいね!とそれぞれ違う返事を貰いながら退勤ボタンを押した。
ロッカーまで続く所に警備員の斉藤さんが居たので
「斉藤さん、お先に失礼します!」
と声を掛けると、白髪のもう50半ばの警備服を着た真剣な顔をしている時は無愛想に見える顔が声を掛けた事によって一気に柔らかい顔になって、孫でも会いに来たのかというぐらいに優しい顔をしながら
「柚ちゃん今日もお疲れ様~気をつけて帰るんだよ~」
と言ってきた。斉藤さんとは仲が良く、斉藤さんのお孫さんと年齢が同じであるからか凄く気に入られている自信はある。
「ありがとうございます!斉藤さんまた明日です!」
と私も祖父に話しかけているような感じで答えた。
ロッカーに行きとりあえず首から掛けている社員証を外すそこには名前と個人のバーコードが印刷されている。
それをロッカーの開けて扉の所に100均のフックマグネットに掛けて制服であるジャージを脱いでいく。靴下も沢山動いて汗の臭いがしていて気になったからロッカーの方にパンプキンの絵柄の袋から新しい靴下を出して履き変えて今履いていた靴下は鞄に入れてあるビニール袋に入れて鞄に閉まった。私服に着替えると忘れ物が無いか確認した上でロッカーを閉めて鍵を刺したまま下駄箱に向かう。
外に出るとまだ明るく今日の夕飯はどうしようか悩む。実家暮らしの時は一人暮らしを始めたら嫌でも料理を作るから料理上手になると思っていた。ただ実際一人暮らしが始まるとそんなことは初めの頃だけで段々と食器を洗うのが面倒になってきて料理というのをしなくなった。後一番の理由はそこまで食費にお金をかけられないのもある。段々光熱費や電気代が値上がりしており、油や野菜も値上がりしていくのに給料は全く変わらない。その中でやりくりしていくのに食費をまず節約していかないと生活が成り立たないのである。
スーパーで安売りになっていないか見てから帰ろうと思い職場の最寄り駅である神保町の改札に向かう。職場から神保町の駅までには沢山の古本屋さんがある。少し古風な店構えが多いがその本をまだ手に取った事は無い。理由は表紙や題名からして少し専門的な内容に思えたからだ。でもその通りを夕方に通るのは凄く好きだ。夕日に照らされた古い本達が少し時代を感じる紙が淡いオレンジの色が入り少しレトロ感が増して癒やされるからだ。その雰囲気を眺めつついつものように改札に向かった。
自宅付近のスーパーは安いで有名でタイムセールもやってくれるからどんな時間に行っても人が多い。その中を掻い潜って買い物をしなくてはいけない。
最近はナスやトマトも値上がりをしている。いろんな物を見ながら定番のもやしをカゴに入れた。私が節約するのに一番する料理が野菜炒めと豆腐もしくはもやしと豆腐にポン酢を付けて食べる料理である。
にんじんをカゴに入れながらキャベツをチラッと見るが一人暮らしの人間には少し千切りをするのが面倒だなと思ってしまい少し躊躇してしまい朝もどうせ袋から直接食べるから良いかとキャベツが千切りされている袋を二袋くらいカゴに入れてしまった。
きっと女子力が高い子や料理が好きな子はきっとスーパーもキラキラに見えて買い物が楽しいのかもしれないが私は面倒という気持ちが先に来てしまってスーパーに来てもキラキラに見えた事なんて無い。いつかは私も誰かに恋をすれば誰かの為にご飯を作ったり、誰かの事を想って買い物に来たりするのだろうか。私は少しそんな日が来たら良いのにと少し近くの主婦を見ながら少し羨ましく感じた。
他に買いたい物で少し足が止まったのは明太子だった。今日は若先生に出会った事もあって少しだけ私も刺激を味わいたかった。じゃこも買おう。ご飯をレンジで温めて食べられるのがまだ家に沢山あるからそれに明太子とじゃこで一緒に食べよう。豚肉も安いから買うかなんて色々見て回る。
買い物が一通り終わり長くスーパーに居たわけでは無いのに空が暗くなっていた。
少しチラッと携帯を見たら20件溜まっていた。帰ったらまた返事を返さないといけないのか。少しだけ苦痛に感じる時もあるが、このアプリを通して私が望む人に出会えるのか分からないが少しでも私が未来に希望を持ちたいと今日はそう若先生に刺激されたからかスーパーで人の為に家族のために買い物に来ている人達を羨ましく思ったからか今日はいつもと違って少しそんな気持ちになった。
駅から歩いて10分の所にある建設当初はきっと綺麗な水色だったのが今では風化されて色が褪せて白っぽい所も出てきて水色なのか白が水色に見えるのかというくらいになっているアパートが私が住んでいるところである。
アパートが少し見えて来たので鞄を少し開けて鍵の位置を確認する。
アパートに近づきながら帰ったらまずお風呂に入ろうかご飯にしようかそれともビールかをずっと考えていた。だが玄関の前に立った時には汗のべたつきが酷くこれはシャワーを浴びた方が良いという考えに完全に変わっていた。
お風呂から出て私はテレビを付けた。テレビでは駅弁の特集がやっていた。
どうも新宿でご当地の駅弁が売られているらしく注目されているようだ。
私はそれを横目で見ながら、化粧導入液を付けた。お風呂から上がればこの私のような年齢は乾燥との戦いである。ビタミン液を付けてレチノール、化粧水は四つ夜は付けている。
人によってはあまり種類は増やすのは良くないというけれども私はどの化粧水が合うのか分からないからとにかく試している。
美容液も付けた後は乳液とにかくここまで擦らない、押し込む精神で私は気をつけている。
また美白保湿クリーム、保湿クリーム、最後にアイクリームを塗った。
正直毎日この流れは疲れるし何度止めようか考えたけれども、この年齢になると妥協をするということが凄く勇気がいる。
ここまで保湿が終わると、グ~~~~~とお腹が鳴った。
「お腹すいた。ご飯食べよう」
今日は暑かったからポン酢と豆腐と上からもやし。
それと一緒にご飯を電子レンジで温めてホカホカになったご飯にしらすと明太子を乗せて上からキャベツと韓国のりを少し乗せた。
今日はこんな感じでいいかと思い最後に冷蔵庫からビールを出して、私はテレビ前にある小さい白いテーブルに夕飯を置いた。
テレビを見ながら一人で食べる生活はもう慣れた。それこそ一人暮らしを始めた頃は寂しくて泣きながら食べていたこともあったし、バイトで酷く怒られてきた時もここで一人で泣きながらご飯を食べた。
ビールをカシュッといい音をさせながら開けて、グビグビ飲んでいく。
この時間が解放感でいっぱいだ!なんて贅沢なんだ!と思いながらご飯を食べる。明太子を最初に口の中に入れるとピリッとした後にくるたらこの美味しさに韓国のりの塩も最高に合う。ご飯が進み少しお風呂上がり直後もあるためひんやりした物が食べたくなって、ポン酢のもやし豆腐を一口食べてみる。これはほぼ毎日食べている食べ物なのに、今日は何故か全てが特別な食事でも食べているかのように味が輝いていた。
そんな優雅な癒やし時を遮ったのは、マッチングアプリだった。
「愛ちゃん今何してる?」
「愛ちゃん今度電話しようよ~」
「愛さんの好きなタイプが知りたいです。」
沢山入ってきた。そういえば沢山溜まっていたんだった。沢山入ってくる割には意外と皆質問が同じ事もあってメッセージ上でのやりとりで相手の事を知ろうと思うとこういうやり方なのかと何故か第三者の感覚で見てしまう。
また返事ついでにイイネのマッチングかどうかを分ける。
沢山来ていて一人一人見ていく。
その中に一人気になる人が居た。他の人はマスクをしていたり加工をしていたりモザイクで隠している人も居たがその人は雰囲気も含めて少し不思議な人だった。
その人の仕事は画家だった。今まで出会った事が無い職業に私は興味をそそられた。
年齢は私より3歳年上で少しプロフィールも謎だった。
「はじめまして、シンと申します。職業は芸術系です。人見知りがあったりしますが、いつも周りからは時が良く止まると言われています。正直僕の中で時が止まる感覚は味わったことが無いので未だに理解していませんが一つのことに色々考えて空回りして一人で頭を抱えてるタイプです。沢山の人と出会うというよりも少人数で沢山お話が出来ればいいなとそういう出会いがあれば良いなと思っております。まとまりが無く、思った事をそのまま書いてしまったのですが、何か写真やプロフィールに興味がおありになりましたらイイネを押してください。」と書かれていた。
一見真面目なプロフィールだが、時が止まるとは何か。またそれを書いて何が言いたかったのか私は気になってしまった。
ただの興味方位でその人と私はマッチングした。
私は他にも有り難いことに沢山イイネをくれた人達を見ながら、ビールを飲んだ。
冷蔵庫から出して時間が経ったビールは少し苦みが増していた。
気がついたらカーテンからまた朝日が差し込んでいた。
私はメッセージを返しているうちに寝てしまったようだった。
時間をチラッと見ると今日は遅番だったのでまだ全然眠れる。
いつもの早番と同じ時間に起きてしまった。
どうしようかなと悩みながらスマホの充電をせずに寝たことを思い出して急いで充電をする。
携帯の充電は一桁まで減っていた。バイトの時間まで間に合うといいのだが。
そんなことを考えて私は顔を洗いに洗面所に向かう。顔を洗おうとしてピンで前髪を両端に止める。そして少しぬるま湯で顔を濡らした後は泡が出てくるタイプの洗面石けんのポンプを3プッシュした。
それを手のひらで優しく伸ばし、頬から泡で包み込むように顔を洗っていく。小鼻の横や眉毛や皮脂が集まりそうな所は指先で優しく撫でるようにして顔を洗う。
遅番の時はいつもより朝時間を掛けることが出来るので少しでも昨日の適当な洗顔を無かったことに出来るように必死に気遣う。
洗顔が終わったらティッシュで顔を拭く。昔はタオルで拭いていたが、ある美容系のユーチューバーが洗顔後はタオルよりティッシュの方が良いと言っていたのを聞いて少し勿体ない感じもあったが、ニキビやくすみが無くなるならと信じて行っている。
その後は、化粧水導入液や化粧水、美容液を付け乳液を付けて化粧をする準備を始めた。
少しいつもより丁寧に化粧をした後に、テレビでいろんなトレンド特集をしていたので何気ない気持ちで観ていた。
「若い子達に今はやっているファッションなんです~!!」
と言って男のアナウンサーが元気いっぱいのような様子で盛り上げようとしている。
「ここは原宿で今の若い子達にはこのモコモコのベストがとても流行していて何にでも合うんです!」
「最近こういうの流行してるんだ~何にでも合うっていうけど少し難しそう。」
一人暮らしあるあるかもしれないが私はかなりテレビと会話してしまう癖がある。
するとまたあの男のアナウンサーが大きい声で
「そして何より!この帽子です!これは本当に人気でフードにもなりますし、被ると赤ちゃんみたいになるという所からとても可愛いと評判なんです!」
最近のトレンドは少し押さえておかないとスポーツ系とは言えお客様に紹介するときにその人のファッションとかでその人の傾向とかも知ればそれに沿えた商品を紹介出来る。
私はなるほどな~と思いながら観ていた。
ご飯を軽く食べていこうか少し早めに行って食道でご飯を朝と昼を兼用で食べようか悩んだ。
私はそんなことを思いながらマッチングアプリを開いた。すると昨日気になった画家から連絡が来ていた。
「はじめまして。イイネ有り難うございました。」
私は少し興味がそそられた。すぐに
「こちらこそ、メッセージありがとうございます!お話ししてみたいと思っていたのでとても嬉しいです!」と送った。
するとまたピコンとスマホが鳴った。
「僕もお話ししたいと思っていたので凄く嬉しいです。僕の名前はシンといいます。シンと呼んで貰えたら凄く嬉しいです。」
「返信有り難うございます。シンさんですね!私の事は愛と呼んでください!」
「愛さんですね!今日はこれからお仕事ですか?」
「そうです!遅番なのに早く起きてしまってゆっくり用意している所です。シンさんは確か画家さんでしたよね?どういうのを描かれているのですか?」
ここまで書いた後に私はそろそろ出発して仕事が始まるまでに食堂でゆっくり過ごそうと考えた。スマホの充電は70パーセントまでは回復していた。これくらいならなんとか帰りまでは大丈夫だろうと思いスマホを節約モードに切り替えて鞄の中に仕舞った。
私は、服を着替えてテレビを消して忘れ物が無いかチェックした上で玄関まで行き出勤した。
職場に着くと私はロッカーに荷物を置いて財布と携帯と職員証明を首から提げて私服のままで食堂に早足で向かう。来る途中からお腹がすいて電車の中でもグーグーお腹の虫が鳴いていて恥ずかしかった。
食券を買おうと選んでいると今日はハンバーグが食べたくなったので和風ハンバーグ定食を選んだ。
食堂のおばさんに食券を渡し私はハンバーグが来るまではスマホを見ていた。
マッチングアプリを開くとあの画家から連絡が来ていた。
「僕は白い大きなキャンパスにその時の感情を絵や柄で表現しています。」
と書いてあった。少し想像は困難だが、少し面白そうな職業だなと思った。
「いつか見てみたいです。私は今職場の食堂に早めに来て今日は和風ハンバーグを食べようと思っています。シンさんは今日のお昼は何を食べられる予定ですか??」
と送った時に和風ハンバーグが私の目の前に出てきた。
そのハンバーグをお盆に乗せていつものカウンターの席に座った。
肉汁がたっぷりで美味しそうな匂いがお腹の空腹をさらに煽った。
私は、それを味わいながら食べて一緒に付いてきたお味噌汁も一緒に飲んだ。ここのお味噌汁は東京の味と言うより関西よりなのか塩辛くなくて素材の味がしっかり出ていて優しい味であった。
一人暮らしをしていた私はいつもこのお味噌汁は心に染みてとても好きだ。
今日はこのお味噌汁を飲んで頑張るかと一人で心の中で思いながら一人鼓舞しながら最後まで飲んだ。
「いらっしゃいませ~」
いつもと変わらない接客。ただ今日はなんとなく嫌な感覚があった。
それは当たりたくなくても嫌なことにそういう日に限って当たってしまう。
プルルルルルルルルル
と電話が鳴る。いつものように私は電話に出る。
「はい、未来スポーツ株式会社ハヤテの安藤です。」
「あ~未来スポーツさん?あのさ~今そっちに向かってんだけどここどこ?」
・・・は?
私は意味の分からない電話にワンテンポ遅れてしまった。
「大変恐縮ですがお客様の今周囲にある建物で目印になるものはありますか?」
「ねーよ。車が沢山通っているだけでここが分かんねーから聞いてんだろ。てか、お前迎えに来いよ。」
「大変申し訳ございませんが勤務中でして職場を離れることは出来ないのです。もし他に目印がなければ道路の通り名を教えて貰えたらご案内出来るかと思われます。」
「そんなんじゃ時間かかるだろう。お前が迎えに来れば楽だろうが!」
心の中で怒りのバロメーターがどんどん上がるだけでは無く、ただただ冷静にこいつは誰なんだ?私は何故こんなに命令されなくちゃいけないんだ?と思ってきたら怒りが沸々となってきた。
「大変申しございません。私も今業務中でして、もし可能であれば近くの交番もしくはコンビニで聞いて頂けましたら地図を見ながら道案内が可能かと思われます。電話越しですとお客様の居場所は把握することは非常に困難でして。」
ここまで言い終わると
「ったく、なんなんだよ!お前役立たずだな!お前の声覚えたからな!今から行くからな!」と半分発狂しているような声でその人は電話を切った。
・・・・・ふー。
なんだこのクソみたいな客は。そこまでして来て貰いたいなんて思わねーから帰ってくれねーかな。こういう奴は大体お客様は神様精神なんだよ。俺は客なんだから偉いと思っている奴な。どうして客を選べないんだろうと怒りのあまりに様々な妄想が止まらない。
もし、こういう客に対して何を言っても良いのなら私は
「そうでございますか。そこまで道に迷われるという事は本日は本店に来るべきでは無いのかもしれませんね。お静かにどうぞお帰りください。永久に」って言ってやりたい。と思って私は少し発散した気持ちになった。
少し落ち着いたらいつもの貼り付けた笑顔に戻って店内を回ることにした。在庫を確認しつつハンガーにウェアやパンツをどんどん掛けていき指定された場所に掛けつつTシャツや少し乱れた服があれば綺麗に畳み直す。今日は本当にお客が少なく殆ど暇であった。そんな暇な時間なのに時間を気にしてしまうのは先程の怒鳴り声を上げていた男の来店である。来たらすぐさま裏に隠れようかな~とか他のバイトさんも正社員もいるし何とかしてくれるだろう。私は絶対にその男の接客は嫌だと思っていた。
地図なんて今時携帯で検索すれば出てくるのにサービスセンターでは無くここの売り場に掛けてくる時点で理解が出来ない。
バイトさんと愚痴で盛り上がりたくてもいつその男が現れるか分からないので私は入り口をいつもより何度も確認しつつレジの方に行き仕事が他に無いかとかお客様が注文された商品を分かりやすく戸棚の整理したりとソワソワしていた。
すると、玄関口で中年のお腹がぽっこりしていてベルトがギリギリで耐えてます感のグレーのパンツに上は白のTシャツを一生懸命パンツに入れているがはち切れそうだ。そして顔はもの凄く汗をかいている。顔を真っ赤にして汗だくで息づかいもかなり荒い。走ってきた訳でもなさそうな客とその隣には少し線の細いまだ高校生くらいの男の子が申し訳なさそうにしてモジモジしながら店内を見ていた。
二人が玄関に入ってきたので私達はそれぞれ「いらっしゃいませ~」と声を出す。するとその男は一目散にエスカレーターに行きその息子も小走りで後を付いて乗っていってしまった。まぁよくある場面なので何とも思わないが、少し私は嫌な感が働いた。あのふてぶてしい態度はもしかして先程の電話してきた男なのではないのだろうかと。
声覚えてるとかなんか言ってたな~と思いつつ違う階に行ってくれた事はとても救いだった。
そして私はまた暇な時間を過ごさなくてはならなくなった。今日は暇だから裏で携帯をいじりたいがここまでお客さんが居ないと私がサボっていることが正社員にバレてしまう。バレない程度にお客がいてこそがサボるときの鉄則なので今日も大人しくしておこうと心に誓い、他のバイトさん達と会話をしていた。
主な会話はバイトさん達の年齢にもよるが大体が大学生なので大学の生活を聞くことが多い。この授業のレポートが大変でとか中にはサークルも入っている子もいるからその話で盛り上がる。昼のこの時間は客も来店してくるから基本はただ話しながら作業しているが、夜のほぼ七時過ぎになると私達は正社員の目を盗んでファッションショーをしたり、接客コントをしたりして遊んでいた。年齢に差はあっても他のバイトさん達とはかなり仲良く話せるので凄く好きだった。
そんな話している最中にエスカレーターでがはははという笑い声が聞こえてきた。
上から先程の中年男とその息子と営業トークナンバーワンの正社員田島さんが降りてきた。営業トークナンバーワンの田島さんはここの売り場に少し前まで居たが、営業成績が良いのもあって本人の希望で立ち仕事から事務仕事に変わってフロアが変更になったのだ。しかし、その田島さんが何故事務仕事では無く営業をしているのか不思議だった。
時々だが芸能人やどこかの会社の社長が来るときは、上の人間または責任者がついて回ることがあるが、あの客は何か特別だったのだろうか?と少しソワソワしてしまった。先程の対応についても正しいかと言われたら良くなかったと思う。
「やらかしたわ」
と呟くと隣に居た同じバイトで今大学三年生の○○さんがランニングTシャツにサイズのシールを貼りながら在庫から出しながら私の話を聞いていて
「安藤さん何かやらかしたんですか?」
と少し興味津々に聞いてきた。私はレジで田島さんと他の正社員と楽しそうに大きな声で話している中年の男性とその2~3歩ほど離れた所で肩身狭そうにして佇んでいる少年を目線で気づかれないようにしながら
「あの客なんかの社長さんかな?」
と聞くとメイクバッチリの○○さんが長いまつげでバレないようにそーと横目で中年のおじさんの顔を見た。○○さんはショートヘアで目がクリッとしていて肌も白く餅のようなほっぺたでとても愛嬌があって本人は気づいていないみたいだがお客さんの間ではファンが多い大学生のバイトさんで私とはよく話す数少ない職場友達である。
お客さんの中にはあのバイトさんと同じウェアが欲しいという声も多数あり、モテてるなーと思うが彼女の良いところは全くその事について気づいてなく、ボーイッシュな見た目とアニメオタクで「夏休みは彼氏とか友達と遊びに行くの?」と聞いたら「私買い溜めてたBL本読まないといけないので・・・」と真面目な顔で返された時には私が大学生の時にはサークルの飲み会にサークルの合宿とか友人達と男の子達と一緒に海に行ったりしていたので、夏休みを漫画に費やすのが如何にもモテそうなこの子には合わないなーと思った。でもその事がきっかけで○○さんと話すようになり、最初はそれこそ大人しめで如何にも彼氏がいて毎日充実してます。という感じから懐くとヒヨコのように後ろに小走りで付いてきて「安藤さん、安藤さん!」と来る可愛い子である。
そんな可愛い子があの中年をバレないように見ようとしている顔が凄い変顔になっていて笑いを堪えながら小声で。
「○○さん、凄い鼻の下伸びてる。フフフしかも口がひょっとこみたいになってるよ。」
とほぼ笑いながら言うと、○○さんは中年の男性とその息子の顔を見た後私の顔を見てニヤッと悪い顔をした後にヤクザの子分のような姿勢をしながら
「安藤さん、あやつはシャチョさん違いやすぜ」
と言ってきた。もう私の中で笑いを堪えるパロメーターがマックスになっていた。笑い堪えながら
「なん・・で・・それが・・フフフ・・分か・・・フフったの?」
と聞くと
「田島さんにあんたに買い物頼んで良かったよ。ムフンて言って会計していたので元々予約で来たわけでは無く多分何か田島さんがヘルプで付き添ったんだと思いますぜボス。」
とキャラが滅茶苦茶になりながら、なるほどと思う回答が返ってきてチラッとレジを見ると正社員の○○さんがレジで田島さんが商品を畳んで袋に詰めていた。そして出口まで田島さんは商品が入った袋を持っていき出口で「ありがとうごぜいました。またのご来店お待ちしております。」と笑顔で袋を中年男性に渡し中年男性は嬉しそうにそれを受け取った後すぐに来店したときに通った道に向かって歩き出し、付き添っていた青年はペコペコと頭を下げていた。私達もそれぞれ「ありがとうございました~」と仕事をしつつ声出しをした。
中年のおじさんと息子が帰った後に久しぶりに会えた田島さんに
「田島さん、お疲れ様です!大丈夫でした?」
と聞くと茶髪のショートヘアで背が低めで声もハスキーだけど表情がコロコロ変わり化粧は薄めの田島さんが
「あ、安藤ちゃん!おつかれ~五階の人達にヘルプ頼まれてさ~。なんか息子さんの野球物を買いに来たらしいんだけど五階の人達も手に負えないくらい怒鳴られたりしたみたいで~」と肩をコキコキしながらため息をついていた。
「あのお客さん癖強そうでしたもんね。私多分あのお客さんの電話出たんですよ。今俺はどこにいるんだと・・・」
「待って、電話でどこにいるか聞かれたの?」と田島さんは笑いを堪えながら聞いてきた。
「はい、俺の所まで来いって言ってました。」
と私も笑いを堪えながら言うと田島さんと○○は一斉に笑い出し
「私達はエスパーじゃないのにキツイ!それを安藤ちゃん真剣に言ってんの本当に笑える!」
と二人はお腹を抱えながら笑っていた。田島さんがこのフロアに居た時はこれが普通でいつもこんな感じだった。私は田島さんの気配りも含めて他の正社員の人と違って仕事の切り替えも含めてバイトさん達と積極的にコミュニケーションを取る姿も好きだった。他の正社員の人達も裏では話してくれたりするが、仕事が始まると人が変わる。ただ田島さんは裏でも表でも変わらなかった。そんな所が凄く好きで私もこんな風になれたら良いのになと常々思っていた。
また、田島さんが居るときは正社員の雰囲気も柔らかくなる。だから常に居て欲しいが時間なのか上に戻るね~と言って非常階段から上に戻ってしまった。
私達は束の間の幸せを過ごした後、仕事に戻った。先程の男のお前の声覚えてるって言ってたけれどもハッタリだと分かって少し安心した。私は本当に小心者だ。
そして作業に追われていき、気がついたら閉店時間になっていた。
立ち仕事の為足はパンパンになってしまうのでお客さんがフロアから居なくなった時にはふくらはぎを揉んだり、手で少しマッサージしたりしている。そうしながら閉店のアナウンスが流れる。
「閉店の時間になりました。お客様のまたのご来店をお待ちしております。」
という声と共に夕方に公園で流れるような童謡の音楽が流れる。
私はそれを聴いてまず玄関に出してある宣伝用のCMが流れる大きなテレビを店内に閉まった。
その間に○○さんが玄関の門を半分閉める。中にお客さんが残っていることも考慮して全ては閉めない。しかしここを開けっぱなしにしてしまうと閉店時間ギリギリに間に合ったと滑り込みで来店して来られる客がいるので真っ先にここは閉めないといけない。
そしてそれが終わったらレジ締めである。レジのお金を数えて今日の売り上げの金額と合っているか確認する。それが確認できたら、お金の売り上げが書かれた紙とお金を袋に入れて八階まで持っていき機械に読み込ませて売上金の記入する。八階にはそれぞれのフロアの代表が行くので八階で少し世間話をしたりする。私は世間話をするのが苦手なのでさっさと記入してお金を精算機に入れて壁に掛けてあるボードに誰が何時に持ってきたのかを書いて一階まで降りてきた。
一階まで降りてくる時にスマホをチラッと見た。56件という数字が表記されていた。
あの画家から来ているのだろうか。でも一つだけ言えるのはこの時間になっても彼からは連絡が着ていなかった。
その後は一階フロアで私を待っていた正社員とバイトの数人が居てそれぞれの階に人がいないか確認の電話を貰って玄関の鍵を閉めて退勤ボタンを押して私達も帰れる。
「お疲れ様~」とそれぞれに言いながら私は真空の闇の空に広がる夜空を見ながら今日一日が無事に終わったことに安心感があった。
あの変な電話は災難だったが、一番かわいそうなのはあの息子である。帰るときもレジの時も父親の態度に対して怯えているのか恥ずかしいと思っているのか分からないが、ずっと猫背で俯きがちにしていた。
私があんな親なら確かに一緒に居るのは恥ずかしいよな~と思いながらいつもの帰り道を歩いているとピコンと携帯が鳴った。
画家からのメッセージだった。
「お疲れ様です。昨日メッセージ途中で寝てしまって送れて無くてすみませんでした。愛さんは好きな食べ物とかあるんですか?」
と書いてあった。好きな食べ物・・・。大雑把な内容過ぎてどう答えて良いのか一瞬迷った。人によってはグラタンが好きです!とか和食が好きです!と言えるのだろうが、アプリを通して学んだのが大体この質問で答えた後に言われるのが今度一緒に食べに行きませんか?と誘われることである。
私はかなりの気分屋な所があり、その日によって食べたいものや好みが変わる。スイーツ系でもケーキが食べたいときもあればドーナッツが食べたい時もある。この誘われて食べに行くのはあまり好きでは無い。そう悩みながら
「お疲れ様です。大丈夫ですよ!今の気持ちでは和食な気分ですかね。」
と当たり障り無い内容で返した。今の気持ちだと言えば会う約束になっても今は違うことをちゃんと言えるだろうという保険である。すると早くも芸術家から連絡が来た
「和食なんですね。魚とか?」
「いえ、京料理とかのバイキング形式の和食とか好きです」
「ああいうのが好みなんですね。僕もそういう所は落ち着くので好きです。よく行くところはどこですか?」
「新宿や渋谷が多いです」
「新宿や渋谷同じですね。買い物とかで行かれるんですか?」
「はい。メイクや雑貨とかを買いに行ったり流行物をリサーチしてます。」
「そういう流行物に敏感なんですね。僕も仕事柄そういうのに敏感なので・・・」
「シンさん(芸術家)は、どういうアートとかを描かれたりされるんですか?」
「僕は画家というより服飾系なんです。」
「服のデザインなんですね!どういう系統の服のデザインを描かれるのですか?」
「様々な系統を描きますよ。シンプルな物からモダンな物まで描きます。」
「凄いですね。日本で活動をずっとされてきたんですか?」
「実は昨年までの一年少しはアメリカに居ました。そこで刺激を貰って描いてました。今は日本に帰ってきましたが。」
「アメリカで活動されていたんですね!凄いと思います。英語とかも話せるのですか?」
「日常会話くらいは出来ますよ!かなり日本は服装が違うので楽しかったです。」
「海外の服と日本の服は色も違いますが露出度も違いますよね。」
「日本は大人しいイメージと共に肌を出さない系統がありますが、海外は体型を気にせずとにかく主張をしっかりしている服装が多いですね。」
「日本でキャミソール一枚で歩いたら浮いてしまうけど、海外なら普通ですもんね。」
「短パンとかも若い子とか足が細い子というイメージが日本にはありますが、海外なら着たいから着るので年齢も体型も気にすること無く履いています。」
「そういう所からシンさんは刺激を受けて仕事に活かして居るんですね。素敵だと思います。」
「愛さんは接客業だと書かれていましたが、どういう販売をされているんですか?」
「私は服を販売しているんです。なのでシンさんから服を売る為の色のアドバイスとか気になります。」
「僕が扱う色ですか・・・難しいですね。愛さんの職場にある服の系統と言いますか、服のデザインも含めて実際に目にしないと同じ黄色でも様々な黄色の色があるので何とも言えないですね・・・。」
「そうですよね。芸術家さんならこういう珍しい組み合わせの色の持ってきかたをするのでは?と勝手に考えていました。言われてみれば見てもいない色で組み合わせを教えて欲しいは難題過ぎますよね笑」
「でも、こうやって同じ服について語れるのは僕としてもとても興味深いです。一度お会いして話してみたいです。」
「是非、カフェとかで良ければお話ししませんか?」
・・・ふ~~~~
帰り道も含めて家に帰ってきてご飯を食べている間芸術家のシンさんと連絡をずっと続けていた。プロフィールに掲載されている写真はどこかの俳優のように目が大きく二重で鼻も高く少し髪が肩まであるような人だった。見た目は悪くない。私はそう思った。それ以上に芸術家というのが私の中では高評価だった。理由は今まで出会った事が無いタイプで殻を自ら破いて先頭を歩くような人が多いイメージだったから。
私が悩んでる事も殻を破ってくれるような気がして会ってみたくなった。
もしかしたら会って恋愛が少しは分かるかもしれない。
シンさんと会う日。あれから先程まで連絡は絶えず、好きなタイプは外見は色気や雰囲気がある人と言われていたが、私が持っている服は色気はさすがに昼間に着るわけにはいかないので黒いワンピースにすることにした。今日は少しメイクも大人用にして清楚系よりほんのり顔色が良く見える酔いメイクに挑戦してみた。我ながらに良い感じにメイクはいった。後は待ち合わせの時間まで待つだけ。
「愛さん、すみません!少し時間が押していて30分くらい遅れますので先に喫茶店に入っていてください!」
「わかりました!急がずゆっくりで大丈夫ですよ~」
と送り先にカフェに入ることにした。カフェの店内はお昼時だからか少し混んでいた。店員に案内されて席に座る。少し時間があるなら小腹が空いているから少しおやつ代わりに何か食べたいなーと思いながらメニューを見る。
そこには「期間限定!ハローウィンカップケーキ」と書かれていた。直感で食べるしか無いじゃんと思い他にもメニューを見てドリンクはキャラメルフラペチーノにしようと考えた。少し甘い系で良いかもと思い店員さんに注文を頼む。
注文の品が届くまで暇だったので店内を観察していた。店内には学生くらいの子達が多く居て女の子二人で飲み物を必死にスマホで撮ったり、サラリーマン三人組が多分営業の一息入れるために寄ったのであろう感じで疲れ切った顔で甘い物を無言で飲んでいたり、○○さんがこの場に居たらきっと妄想をブツブツ言いながら私に語ってくれるような学生の男の子二人が頭がくっつきそうな距離感で真面目に話し合っては二人で一つのスマホを見てたり、中にはカップルかと思いきや友人らしく女の子が男の子肩をポンポンと慰めているようにしてるのかと思ったらハッと鼻で笑うような顔をして賑やかに会話をしていた。
これから私は知らない人にここで会うのかと思い、少し緊張してきた。もしかしたら楽しい時間を過ごせるかもしれない。今日でよく漫画や友人から聞くトキメキや恋愛の一歩を経験するかもしれないと思うと初めての人に会うかもという少し怖い気持ちと皆と同じ恋愛が分かるかもしれないというワクワクした気持ちでいっぱいになった。
少し時間が経った頃にピコンと携帯が鳴った。
「どんな服装で着てますか?」
「黒いワンピースにカフ店内入って真ん中にレジがあると思うのですが、そのレジに対して右側の所に居ますよ。」
「分かりました!」
と着てあーそろそろ会えるんだという気持ちになった。初めての事では無いがいつも会う前はこうやって緊張してしまう。でも今回はいつもより新しい感情になれるのではという淡い期待が混じっているので少し違うと思う。まだ来ないかなと思いながら何回も携帯を確認して時間も気にしつつ、半に待ち合わせが40分になっていた。少し不安になってきた。私は今の所経験は無いが待ち合わせしていたのになかなか来なくて最終的にキャンセルされた人も居たのでそのタイプかと思った。
少しソワソワしていると髪が胸元まで長く肩から下は金髪で全体はウェーブがかかっていたようにフワフワしていてTシャツにパンツ姿のラフな格好で鞄にはシャーロック・ホームズの絵が書かれていた。
「お疲れ様です。」とその男性は椅子に鞄に置きソファに座りながらシンさんは話しかけてきた。
「あ、お疲れ様です。飲み物どうしますか?」とメニュー表を渡した。
「はい。」と私からメニュー表を受け取ると静かにメニュー表を静かにめくって探していた。私はその姿を見ながらあまり芸術家というより大学生に居そうな普通な感じだなと思っていた。私の中で芸術系に進む人は少しファッションに個性が出ていたり、髪型も個性があったりしているのかと思っていたが普通な感じであった。
「すみません、注文いいですか?」と右手を挙げて店員さんを呼んだ。そしてカプチーノを頼むと私をチラッと見た。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
少し沈黙が流れた。私はここでお疲れ様なんだなと思ってしまった。今まで会った人達は時間に遅れた場合とかはここで「待たせてしまってごめんね」とか「はじめまして。リアルで会うのは緊張するね」とか場を和ましてくれる人が多かったのでここで黙られるのは少しどうしていいのか分からずただ、シンさんの姿勢を見ていた。シンさんのカプチーノが届くまで私達は沈黙だった。その沈黙の間に彼は足を組んだり、腕時計を何度か見ていた。
カプチーノが来たときに私達はお互いの飲み物を乾杯して再び「お疲れ様でした」と言い合った。
「えっと、仕事どう?」
・・・は?仕事の話を最初にし始める?私は心の中でまず遅刻してきた事も含めて何も謝ることをしないのかと私は少し疑問に思ったがここは大人の対応をしようと思い
「はい、変わりは無いですかね。今はそろそろ次のどういう傾向の物が売れやすかったのかを上に報告したりしてます。もう少ししたら売り場の夏服の物を冬服の物に変えたり入れ替えしなくてはいけないので少しバタバタすると思います。」
「ふーん。そういえば洋服の色合いとかって知りたいって言ってたでしょ?」
「はい!やはりユニフォームとかで色々考案を報告したりしているんですが、なかなかこういう服が売れてますというのは難しかったりしますし、お客さんに販売する上でブルベとかイエベの勉強もしてますが化粧しているとそれが少し分かりにくかったりしていて悩んでしまうんです。」
「なるほどね。ブルベとイエベは今の流行だよね。でもそこばかりに注目しすぎてるのもな。どちらかといえばあまりそこに限定されないで、ここにそういう着方をするの?ていう違うやり方も良いと思うんだよね。それはやっぱりのもっと視野を広げていかないといけないし、雑誌とかって海外のも読んだりしてるの?というよりも海外とかに暫く留学とかしてみて海外の着方とか流行物を取り入れてお客さんにもそういう風にして接客してみたら?日本の着方って固執しているのもあるから、皆同じ感じの着方しか無いでしょ?そういうのはあまり良くないと思うんだよね。」
「なるほど・・・」
・・・・・・・待って。私別にスポーツの衣類だから海外の着方とかそこまでしなくても良いともうんだけど。しかも私がデザインしている訳では無いし、イチバイトの身だからそこまで私の意見って重要視される訳では無いんだ。どう反応して良いのか全く分からない。少しずつだけれども確実に合ってないのかもという気持ちになってきた。
そうやって考えている間にもシンさんは海外の良さを凄く語っていた。
「それで、最近の出会いは?いい人居たの?」
・・・・・マッチングアプリで会ってる人に対して聞く内容?いい人かなと思ってメイクの時間も含めて用意したのにどういう事?と私は心の中がパニック状態だった。
「まぁいい人は居ましたが、恋愛になるかは分からないです。私恋愛感情があまり分からないので。」
「恋愛してないから恋愛が分からないんじゃ無いの?ここに植木鉢があるとしてこの植木鉢の花の色を当てなさいって急に言われても分からないじゃん。あなたが付き合う定義は何?セックスをすることが大事?それとも一緒にとにかく居たい理由で関係に名前が付けたいの?結婚だって付き合っても居ない人にその先なんて分かるわけ無いんだから先の事なんて考える必要ってある?恋愛も付き合ってから人を好きになってから考えなきゃ分かるわけ無いじゃん。」
と段々シンさんの感情がヒートアップするにつれて声も大きくなってきた。
私は心の中で段々冷めていくのを感じた。シンさんの言っていることも分かる。でも私は恋愛が分からないのだ。毎回付き合っても異性として好きなのか分からないのだ。私がこの人と一緒にいて楽しくてもそれは人間としての楽しさになるから恋愛感情というより人としてその人と一緒に居たいだけでそれ以上の男女関係が私には分からない。それを恋愛をしていないから恋愛が分からないんじゃ無い?と言われても私の恋愛はこうだったのだ。恋愛感情が分からないで恋愛をしていた、でもこの人の言っている事はそれは恋愛ではないという事なのか。
結婚もそうだ好きだからで結婚する人もいるが私は相手の事を知った上で結婚を考えたい。付き合うのも付き合ってから知るよりも付き合う前にその人の事を知りたいと思うのは間違えているのだろうか。好きなだからその感情で付き合ったりその先を考えることが出来るのかもしれないが私は、その人となりを重視して一緒に居たいかを考えるそれが私の恋人とに関係だと思っている。
そんなことを考えているとシンさんは一人で凄く語っていた。私はシンさんの話を聞くのが少し疲れてしまったので、私はシンさんの行動に興味を持った。まず、話しながら足を組みしているそしてその足が出口の方に向いていた。
そこから分かるのが帰宅したいのか解散したいのだろうなと思っていた。そして腕時計を先程からここに座ってから話しながらも五回、いや今もう一度見たから六回見た。感覚としては10分間隔。早めに返りたいのかそれともこの後に何かあるのかを考えたが、足の向きや時計の確認の繰り返しをしているのを見ていると早めの解散をした方が良いのだろうなと私は思っていた。
会う前は凄く楽しみだった。少しは殻破りの人が来て私の恋愛の悩みについても、一緒に居て楽な人が居てそれ以上の関係にならなくてもそういう悩みを抱えている人は沢山いるよ。なんて甘い言葉が貰えるとでも思っていた。でも、現実は口を開けばただの説教のような状態で海外に行けや、恋愛に関しても恋愛をしていないのに恋愛について悩むなと言われても、恋愛がしたいのに好きという気持ちが分からない、その人と一線を越えることなんてもっと考えられないことがこんなに苦しいのにこの人も理解してくれないんだ。
友人達もそうだった。友人達も皆なんで彼氏出来てもそんなに淡泊なの?と聞かれる度に彼氏にもいつになったら心の準備出来るの?て言われる度に世の中の恋人はすぐにそのような関係になるのだろうか。と不思議に思っていた。ゲームやくだらない事を話したり、色んな所に出かけたり何かをパズルを二人で作る事だって楽しいじゃ無いか。なのにそこにどうして性の営みを持ってこないとこの人と一緒に過ごせないのか教えて欲しい。
今日はそれが少しは分かると思っていたのにただ傷つくだけで終わるようだ。
私は一方的に何かを熱く語るようにして説教しているシンさんを見ながら私はただ冷めた目で冷めた心でフラペチーノを飲んだ。チラッと携帯を見た。
シンさんの事があってから私は考える時間が多くなった。
私の中の恋愛は恋愛をしたいという恋に恋をしていることなのだろうか。今までみたいに誰かと一緒に居てその一線を越えたら何か変わるのだろうか。友人達が結婚して子供がいるような幸せな家庭を築くことが出来るのだろうか。私はそんな事を毎日考えていた。こんなに悩むのは大学生の時以来だ。私が通っていた大学ではLGBTQ+について勉強する機会があり、当時私は男性と付き合うことすらも嫌悪感を持っていた時期が合った。異性として見られる事にかなりの拒絶があったのだ。その事について相談したときにそういう人も沢山居るから大丈夫だと言われ、別に身体の相性を含めてそれが一番じゃ無いよ。人としてその人と一緒に居たいかだと思う。きっと同じ考えの人に出会えるよ。と言われた事がきっけとなり前向きに気持ちが変わった。私のように一緒にパートナーとしての考えを理解してくれる人が現れると信じ、告白されても恋人という関係よりもパートナーという関係を望むけれどもそれでも良い?という風に聞けるようになった。それだけでも私の中ではかなりの進歩だった。最初は皆僕も、俺も同じ気持ちだよ。と言ってくれるが段々時が経つにつれて「やっぱり・・・」という展開になる。
私は、いつになったらこの悩みと解決出来るのだろうかという考えながら今日も服を売り、レジを担当したりしていた。
仕事をしていても集中できない。明日は友人の結婚式だ。だから特に今日は考えてしまう。明日のメイクや美容院でしてもらう髪型も考えなくてはいけないなと少し嫌な事を忘れて久しぶりに会う友人達に会えることだけを考えようと思い私は店の出口に向かって
「ありがとうございました~」と大きな声を出した。
「ひさしぶり!」
と私は東京駅のホームで黄色や紫、紺に近い青色のドレスをそれぞれ華やかに着た中学からの友人達に小走りで近寄りながら挨拶をした。皆に会うのは大学生三年生の時にカラオケでオールした以来だ。あの時はこの中の誰かが失恋したとかで急に集まろうという話になり急遽集まって朝まで騒いで一緒に泣きながらMを歌ったり加藤ミリヤを歌ったりしていた。そんなに時が経過しているように思っていなかったが私以外は結婚していて皆幸せを掴んでいた。少し心の距離が遠く感じるがそれでも皆の笑顔はあの時と変わらなかった。
「皆久しぶりだね!」と言うとそれぞれが
「今その話してたんだよ~」
「本当に久しぶりすぎて今日、見て!パックして脱毛までしたんだよ!」
「待って。あんたが花嫁じゃ無いじゃん!なんでそんなに気合い入れてんのよ!」
「もしかしたら新郎の知り合いでイケメンに出会えるかもしれないじゃん!」
「いや、既婚者が何言うてんの!も~今日は結香の結婚式なんだから、とりあえず皆今日は写真撮りまくるよ!」
と言いながら私含めて他三人と私達は笑いながら会場に向かった。
私達は会場に向かうと
「ここで合ってるのかな?」
「レストランだよね?」
「うん。多分貸しきりだからここで合ってると思うよ。」
「入り口で荷物預かったりしてるね。」
「あそこで荷物渡すんだね。」
「あーなんか緊張してきた。私が挙げるわけじゃ無いのに!」
「ねぇ、なんでそんなにソワソワしてるの?トイレ行ってくる?」
「せやねん、トイレさっきからめっちゃ我慢しててん。・・・違うわ!結香とも久しぶりに会うから凄く緊張してるの!」
学生時代と本当に変わらない。楽しい。さっきまで嫌な事を考えてた事が嘘みたいに忘れて自然と笑顔になって皆と一緒に笑い合っていた。
会場に入って荷物を渡すと番号札を貰った。そして受付に行くと結香のお姉さんが着物を着て受付をしていた。
「柚木ちゃん?久しぶりだね!」
「結香のお姉さん、お久しぶりです!本日はご結婚おめでとうございます!」
「ありがとう。ドレス綺麗だね。本当に妹の結婚式に来てくれてありがとうね。ここに名前書いて貰っても良いかな?」
と言われ、ご祝儀を袋から出して渡した後に私は名前を書いた。
後ろでは友人達が
「柚、良い?名前間違えたら駄目よ?あなたの名前はセーラームーン。あなたは月の戦士なのよ。分かった?」
「やめてよ。私マーキュリー派だから!」
と笑いながら列から外れた。お姉さんが私達の会話を聞いて
「本当に皆変わらないね!今日凄く綺麗なのに会話が昔のままなのね。」
と笑っていて私達も笑った。
「お姉さん!久しぶりです!本日はおめでとうございます!今日私脱毛しました!」
と大きな声でお姉さんに報告している友人に対してお姉さんは笑い崩れそうになるのを必死に踏ん張りながら
「なんでそんな報告を私にするのよ~。知らなくても良い情報じゃ無い!もうご祝儀だけ頂戴!」
とヒーヒー笑いながら言っていた。
結香のお姉さんは今は二児の母だが昔はそれなりに不良だった。昔沢山このお姉さんに皆悪いことを教えて貰っていたほどだ。
結香とお姉さんは性格は真逆で結香は優等生タイプに対してお姉さんは屋上の鍵を粘土で合鍵を作るという漫画の中でしか聞いたこと無いことをやり遂げ屋上で昼寝をしたり、美術室の絵や作った作品を保管する教室に美術室の先生を脅して授業が退屈したらそこで休んだりしていた。今とは見た目も違い今は黒髪にメイクも清楚系にしていて本当に綺麗な大人の女性になっているが、昔は耳に何個もピアスを画鋲で開けたり(よい子は絶対に真似しては駄目)、眉毛も剃って一時期「剃りすぎたわ」と言って眉なしの時もあった。いつも結香の家に行くときは結香の部屋よりもあちこちに下着や雑誌、化粧道具が散乱したベッドがあるお姉さんの部屋にお菓子をそれぞれ持って放課後集まるのが多く、当時は私達は中学生でお姉さんは高校生だった。中学生の私達からすればお姉さんは凄く大人に見えたがお姉さんいわく良く校則違反で母親が呼ばれる問題児で口癖は「今私反抗期なの。いつかはこんな時代も終わるわ。」だった。私達が高校生になってもそれは変わらなかったが。
そんなお姉さんが最初は他の人も居る手前なのもあったので凄く上品にしていたが段々私達に対して「ここに金を置きな」と言わんばかりな態度を取るようになり更に笑いが生まれた。そんな受付も無事に済むと今度は席案内を見ながら自分達の席を探そうとキョロキョロしていたら、レストランのキッチンの所に結香と旦那さんに対してボードで寄せ書きのようにしてメッセージを新郎新婦それぞれの枠に書けるようになっていたので、私達もそれぞれ書きながら皆で学生時代に使っていたサインを書いて横に本名を書いた。
そんな事をしていたら結香のお母さんが
「皆久しぶりね!今日は来てくれて有り難う!」
「お母さん!お久しぶりです!」
「お母さん!見てサイン書いたの!」
「お母さん見て私脱毛したの!」
「お母さん聞いて!お姉さん私に対して酷いのよ!皆には来てくれてありがとう位は言っていたのに最後に並んでいた私には冷たかった~。」
30の大人がそれぞれ子供のように結香のお母さんに甘える雛鳥のようにして話していくのに対して結香のお母さんは慣れた状況のように
「はいはい、あー本当だ綺麗にサイン書けたね!昔皆が必死に考えたサイン覚えてたのね~。綺麗にして来てくれたのね!有り難う。昔の可愛さを残しつつ綺麗なお姉さんになったわね~。お姉ちゃん!今日はしっかりして頂戴!」
結香のお母さんは昔から皆のお母さんだ。久しぶりに挨拶を交わし、お母さんは他の来客者に挨拶をしに忙しそうにしていていたのであまり絡まないようにしつつ私達は席に座った。
席は円状になっていて私が使命された席には小さいカードが置いてあった。
「柚木!久しぶりだね。今日は忙しい中来てくれて有り難う。」
一人一人に結香の丁寧な字で書かれていた。あの子らしいねという風に見せ合った。
「結香の旦那さん5つ上だっけ?」
「職場の先輩?」
「違う、それは元彼。旦那さんは3つ年上の人で本とかそういう図書館司書っていう?そういう人らしくて近くのカフェで店員さんに勧められて話したのがきっかけらしいよ。」
「なに、そのロマンがある感じ!」
「結香らしいけど凄くジブリに出てきそうな感じだよね。」
「耳をすませばじゃない?俺、お前の隣に何度か座ったこともあるんだぜ!ていう感じでしょ?」
「それそれ!たまたま使用している図書館司書の人とカフェで会って、あってなってそこからマスターが言うんだよ。お客さん達知り合いか何かなんですか?って。それで、えっとって言いながら気まずそうにするの。それでこのコーヒー是非飲んでみてください。きっと気持ちが落ち着いて二人とも話しやすくなりますよ。ってなったんだよ!」
と妄想が進み皆でキャーキャー騒いでいた。今まで確かに連絡は定期的な報告連絡はあったが大人になるとそこまで一々報告しなくなるので一連の流れは大体で済まされる。学生時代みたいに好きな人が出来て皆で恋が成就出来るようにサポートしたりすることは無い。
だからか、正直新郎についての情報が少なめになってしまう。でも結香が結婚しようと思った相手なら全力で祝うよね!が私達の暗黙の了解だったし、今日は皆気合いをいれてカメラの準備は出来ている。結香が登場したそのと時から私達がやることはとにかく動画担当と写真担当で分かれて撮影し、それを纏めて一人一人のメッセージ付きで結香に送ろうという話になっていた。
新郎の方も知っている人達を多めに集めたのか、そちらはそちらで盛り上がっていた。
新婦側は私達グループと多分高校や大学、仕事場の先輩達のテーブルがあった。何度か友人の結婚式に出席した事はあるが他とは違いレレストランが会場だからか式場の緊張感よりは少し同窓会のようなアットホームな感覚だった。こういう所を選択する辺り結香らしいなと私は少し思った。
私と結香はグループの中でも比較的に大人しい配置として一緒に居ることが多く、他三人がギャーギャー騒ぐのに対して少し円の外側からクスクス笑っている事が多かった。中学と高校が一貫校だった私達は常に一緒に行動し、喧嘩も沢山してきたがよく考えれば結香は誰とも喧嘩する子ででは無かった。グループの人数が多い分どうしても派閥のような事が起きたりする。今では笑い話に変わっているが昔は好きな子が出来たら報告して皆で協力しあって成就出来るようにサポートしていたのだが、あるとき好きだと知っていたにも関わらずサポートするのでは無くて友人の好きな子に対して好意があるようにして接していたという所謂嫉妬が原因でグループ内が険悪状態になった。その時私は好きな子が居ると教えてくれた子の味方をしていた気がするが結香は一人中立の立場に立っていた気がする。最終的にどのようにして仲直りしたのか誰も覚えていないが確かその男の子の事が好きじゃ無くなったことで解決したと私の中では記憶している。結香は常に私達の中ではおっとりしているイメージでお姉さんの事を知らなかったら良い所のお嬢さんみたいな風に感じるだろう。あのお姉さんがイメージを壊したと言っても過言では無いが、お姉さんの行動に対しても私達でも「結香の姉ちゃんまた何かやったの~?」と言うことがあっても、結香だけは「お姉ちゃん、お茶ここに置いておくからね。」と何も気にしてないむしろ自由に様々な悪さをする姉に対して微笑みながら見守っているイメージだった。そんな結香が選んだ相手ならきっと素敵な人なんだろうと私もカメラの準備をしつつ思い出に浸りながら新郎新婦の入場まで楽しみ待っていたら
「そういえば柚木はいい人居ないの?」
と聞かれた。正直今日は忘れたかった事だったのだが、そんな事は相手は知らないし何気ない会話の一部なんだろう。さっきまでのゆったりした気持ちのままで居たかったのを引きずりながら、
「実はマッチングアプリで出会い探しているんだけどなかなかなんだよね~」
と苦笑いしながら言うと
「昔から一番柚木がモテてたから一番に結婚すると思っていたのに、元彼と比較しちゃうとか?」
「元彼と比較することは無いかな。なんだろう、元彼の顔も忘れてるくらいだから比較しようも無いんだよね。」
「それ分かるかも!テレビでさこの間言ってたんだけど、女性は元彼の事はデーターくらいな感じらしくて、上書きしていくんだって。でも男は元カノを引き出しみたいに残しておくらしいよ。」
「え?そうなの?」
「確かに言われてみればあの時には格好良く思っていたけど今じゃ何とも思わないもんね。むしろ、昔の彼だったから好きだった的なね。今再会しても多分苦笑いで変わったねーしか言えないわ。」
「それ悪意しか無いじゃん!変わった部分が悪意だよ!想像しちゃったもん!」
「中年太りとかさ、ね?昔は爽やかだったのが、ね?これ以上はここでは言えないけれども。」
「言ってるわ!凄い悪い顔して言ってるわ!」
「でも、柚木は今まで普通の人ていうか性格重視だったじゃん。なんでアプリやり始めたの?」
「実はさ、ある結婚式の二次会で年齢言ったら彼氏が居ないなんてって笑われてさ、悔しくて始めたんだけど、この間良い感じになりそうな人に一時間意味分からずに説教されたわ。恋愛なんて恋愛していないのに分かるわけ無いでしょ。って」
「そいつ何様なの?うけんだけど。」
「なんか同棲していないのに結婚なんて考えるのが変らしいよ。」
「そいつは頭おかしいわ。普通に同棲して子供が出来ちゃったら結婚はまだ考えてないし、俺には責任とれないなんて言われたら傷つくのが女じゃん。同棲という名の家政婦が欲しいだけでしょ。」
「結婚は確かに恋愛感情は本当に短期間なの。でもね、恋愛結婚望むなら恋愛から始めないといけないけれども、結婚はお見合いみたいなフィーリングから始まるのもあるから恋愛したいなら好きな人を探すのは確かに最もだけど、彼氏と旦那じゃ全然求める物違うもんね。経済も含めて相手の事が好きなだけではやっていけないからな~」
「皆さ、こんな所で聞くのもあれだけど肉体関係無しの結婚ってありかな」
「あり」「なし」
両方の意見が出た。完全に分かれた。すると久々の討論がこの結婚式という祝福の場で起きることになった。
「ありでしょ~。普通に私の所なんて最初だけだったよ。本当。子供出来たら子供につきっきりになるし旦那のことは子供の父親にしか見てないもん」
「なしだよ。なんか愛されてるか不安になるし最初から肉体関係なしなら子供はどうするのさ。」
「人工授精とか出来ないのかな。したから出来る訳でもないし確実に子供が欲しかったら相手の了承得てお金出して受精した方が良くない?」
「確かにそうだけどそこに二人の愛情というよりはなんか冷たい感じがするんだよね。」
「愛情なんて女は出産や子供が生まれて世話していけば自ずと生まれてくるし、最初は子供に対してもエイリアンみたいな感情しか私は持てなくて、母親になれるか不安だったけれども少し赤ちゃんから成長して幼稚園に入り出してから自分の時間も取れて余裕が出来てきて母親になれた気がするよ。」
「確かに、自分の時間ないと母親というよりロボット感覚かも。無になりたい感はあるわ。」
「でしょ?それに旦那は父親の自覚まだ無いよ?この間もせっかくの休みなんだから子供と遊んでくれるのかと思ったらお昼まで爆睡。そんで起きたら携帯とかずーとゴロゴロしてて掃除機で髪の毛吸ってやった位腹立ったよ。子供は何回もパパ~って呼んでもパパ忙しいからってあしらっててさ~」
「確かにお父さんの自覚を最初から持つ男は少ないわ。なんなら、私の父親も未だに話すときとかモゴモゴしてるよ。この間もモゴモゴしてたら娘が、ジージおくち、ないない?って言ってて多分あれ歯が無いのか?て聞いてるんだよね!」
「なにそれ!めっちゃ受ける!そんで、お父さんなんて言ったの?」
「ただ無表情で、あるよ。って言ってて私一人で爆笑してたんだよ~」
「お父さん相変わらずの天然すぎん?あるよではないんだわ。会話が欲しいんだわ!」
「母いわく何て私に対しても孫に対しても話して良いのか分からないらしくて、今じゃ両親が揃っている時にしか帰らないから、必ず会うじゃん?そんで緊張してるみたいなんだよね。」
「そんな歳になってたら流石に父親の自覚はあるんじゃ無いの?」
「あっても、娘が結婚するってなった時に初めて自覚するもんじゃない?それまで仕事一途で全く誕生日も祝って貰えなくて干渉もあんまり無かったし。」
「確かにウチの父親も同じだった。ちびまる子ちゃんに出てくる、たまちゃんのお父さんみたいなのって珍しいんだよね。基本幼稚園でも一緒に来てる夫婦はお母さんが強くてお父さんが尻に敷かれて命令されて聞いてる感じだよ?積極的に参加してる人は少ないかな。」
「なるほどね。」
「いい人が居たら同居人感覚で籍入れてこの人の子供欲しいなと思ったら、そのときに出来ることを考えれば良いんじゃ無い?柚木が選ぶ人って昔から柚木にベタ惚れで付き合うから優しすぎる人が多かったじゃん。だからきっとそういう事も含めて受け止めてくれる人が絶対現れるよ。なんならいい人が居たら紹介するし!」
「確かに!我慢は最初は出来ても長年の目で見たらキツくなるからそういう事も含めて受け止めてくれる人を探した方が良いわ。結婚ってゴールじゃないからね。そこから別世界の生活が始まるもんだもん。」
「そうよ!私も結婚するまでは悩んだし。今でも悩んでるよ。旦那を見る度に子供が成人するまでは頑張るけれども老後まで一緒には居たくないな~て。単身赴任してくれないかな~って」
「まだ子供幼稚園通い出してそんな事思うのね!」
「そうよ!そんなもんよ!あれだけ結婚の時には一生二人で居ようね!なんて言ってても恋は三年も経たずに終わるわ。そんなもんよ。」
「現実は厳しいんだね。」
「だから、その説教してきた男なんてどうでも良いのよ。むしろ責任感が無い男じゃない!」
「てか柚木そいついくつなの?説教するくらいだから、年上?」
「3つ年上よ。」
「は?年上で30の大人の女性に対して言う内容じゃ無い。子供相手なら分かるわよ?でも、大人の女性は結婚になると選択肢が増える分感情では乗り越えられないし、なんならその不安を俺が居るから安心しろ的な事が言えないのは駄目だわ!その男は駄目!」
「スッキリした!私ここ最近そんな事を言われてから悩んでいたのよ。」
「スッキリしてよかった!そんな男は無理さよならバイバイしておきな!」
「どこの肝っ玉の母さんよ。でも本当にありがとう。一人で悩まないでその日にライムで愚痴ってればよかった。」
私はあれだけモヤモヤしていた気持ちが晴れた気がした。こんな祝いの席で相談することでも無いむしろマナー違反なのかもしれないが私の中で心から今日の結婚式を祝えるような気がしていた。きっと私を理解して私を受け止めてくれる人が現れるに違いない。と
思ったときに少し会場が動きがあった。
「始まるのかな?」
「なんか、そんな感じだよね?」
「こういう教会じゃ無い所での結婚しきって初めてだからどんな風に登場するのかな?」
「確かに!控え室なんてあるのかな?玄関から車で来るとか?」
「確かに控え室が無いよね。スタッフルームが広かったらそこで化粧とかも出来るけれどもどうなんだろう。カメラはいつ準備すれば良いの?」
「どうしよう。私が緊張してきた。」
「そんな事言わないでよ。私まで緊張するじゃ無い!」
一人が緊張すると私達にそれが伝染したかのように全員の顔がさっきまで冗談言い合っていた顔とは違って少し緊張と強張った表情になり、全員が玄関と司会者をするのであろう結婚式の会場スタッフが黒まではいかないスーツに身に纏って髪の毛を上に纏め左胸にはピンクの花の形をした飾りを付けて進行の紙なのか何かボードを見ていた。
私はそれを見ながら皆と同じく玄関を見たり、司会者がいつマイクを使用して話し出すかを今か今かと待っていた。少し経過してから司会者の人が会場を見渡して
「これから悠樹様と結香様の式を始めさせて貰いたいと思います。本日進行を務めさせて貰います、私岸田と申します。本日はこのような素敵な式で進行役をさせて頂くことに心から感謝しております。また、本日お二人の為に遠方からお越しくださいましてお二人に代わりまして感謝の意を述べさせて頂きたいと思います。本日の進行についてまず説明させて頂きます。この後皆様が受付をなされた場所奥から新郎新婦が入場されます。その際にこちらの会場の真ん中を通って参りますので真ん中のテーブル席にお座りの方は床に物を置かず新郎新婦の入場にご協力をお願いします。また、入場の際にはこちら新婦がこの日の為に作られた鶴の折り紙を新郎新婦にかけて頂きますようお願いします。こちらの一羽一羽丁寧に作られておりますので、新郎新婦が席に到着した際には皆様で拾って頂きスタッフの者が籠を持って回収いたしますのでその中に丁寧に回収して頂けたらと思います。それでは皆様にスタッフから折り紙の鶴が入ってます紙コップを配布させていただきます。」
そうアナウンスがあると四人のまた司会者と同じ色のスーツを着た女性男性それぞれが紙コップをテーブルに人数分置いていく。紙コップの中には五羽の色とりどりの鶴が入っておりこの一羽一羽を結婚式の準備だけでも大変なのにその上こういうサプライズがあるのがとても可愛くて私は少し緊張が和らいでその一羽一羽を丁寧に見ていた。
暫くすると司会者がまたマイクで
「それでは、新郎新婦の準備が整いましたので皆様ご起立ください。」
その声に皆椅子をギギギと言わせながら少し緊張とやっと始まるというワクワクした気持ちで受付をした所を会場で新郎新婦を待つ皆全員が見つめていた。
ガチャ
という音と共に新婦である結香が胸元から肩までレースになっていて半袖のようになっていて腰回りはキュッと締まっており色は真っ白では無く少しクリーム色が入ったウェディングドレスで昔の記憶の時から比べたら大人の綺麗な女性になっていてあの頃の幼さは無く、少し緊張しているような表情で新郎は薄い水色のスーツにクリーム色のネクタイに少し背丈はあまり結香と変わらないので多分170センチ無いくらいだと思う。結香の身長は学生の頃と変わらなければ165センチ辺りだと思う今日のウェディングドレスのヒールはロウヒールなので168センチとかだろう。表情は結香よりも断然緊張していた強張っていた。そしてその新郎新婦の隣にはそれぞれのご両親では無く今回は兄弟が一緒に歩いていた。結香の隣には着物を着たお姉さんが、新郎の悠樹さんの隣には中学生くらいの背丈の弟さんがスーツを着て一緒に歩いていた。私達はスマホのカメラ機能やデジカメで一瞬の隙も逃さないように写真を撮りながら
結香素敵だよ
結香綺麗!おめでとう
結香可愛いよ!!結婚おめでとう!
結婚おめでとう!
それぞれの声に祝福されて二人は少しずつテーブルの所に歩いた。そんな二人に祝福の声を上げつつ結香が一生懸命手作りしてくれた鶴を結香の方に軽くフラワーシャワーのようにしてかけた。目の前を通ったときに少し結香がこちらのテーブルをチラッと見た。そして微笑んでくれた。私はその姿が目の前にまるで天使が舞い降りてきたかのように感じた。初めてこんなに澄んだ人が前を通ったのが凄く感じ、本当に私の友人の結香なのかと疑問に感じた。そんな友人に対して私は
「本当に綺麗だよ。結香」
私は気がついたら涙が止まらなくなっていた。悲しい寂しいそんな訳じゃ無い。ただ私はあまりにも綺麗な姿に涙が止まらなかった。
そして二人がテーブルに着くと一斉に拍手が沸いた。そして新郎新婦が着席した際に現実に戻り、鶴を集めることに今度はアタフタし始めた。私も泣いたことによって鼻水が出始めていたのでそれを誤魔化すのに鼻を何度か吸いながら、鶴の折り紙を拾ってスタッフが持っていた籠の中に入れた。
私達は回収が終わると席に座り、少し息を整えようと皆の顔を見たら全員号泣していた。
カメラのデーターをそれぞれ確認しながら涙がボロボロこぼれていた。私は一度涙が止まっていたのに皆の顔を見たらまた泣き出しそうになったので私は誤魔化しながらデーターを見ていた。何とかぶれている事は無かったので安心していると司会者が
「皆様ご協力誠に感謝いたします。ご着席の程宜しくお願いいたします。これから行いますは新郎新婦のそれぞれの幼少期から二人の出会いまた、本日までの思い出をスライドショーと共に説明させていただきたいと思います。」
そう言い終わると部屋の明かりが暗くなりスクリーンの光が一層強い光を放ち私達はその光をただ見つめていた。
そして、新郎新婦それぞれの赤ちゃんの時からの写真と生年月日の文字が大きく表示され私達はその写真を静かに見守っていると結香の中学生編になるとほぼ私達の集合写真が沢山映るようになった。
「懐かしいね。」
一言ほんの一言を私が言うと皆が小さな声でさっきまでは泣いていたのに少し懐かしい思い出に浸るような優しい声で
「ねぇ、見てあの裏ピースよくやってたよね。」
「DAIGOのウィッシュポーズとか私やってるわ~恥ずかしい」
「大丈夫よ私なんて見てみな、ローラの頬にオーケーサインしながらベロを口の端に持ってきてウィンクしてるけど、今の子達からしたらあれ絶対ペコちゃんだわ。」
「髪型も何で無駄に前髪にピン付けてたんだっけ?」
「確かにあんたはピンだった!私は大きいヘアクリップだよ?ダサすぎて・・・」
「さっきまで久しぶりの結香を見てあまりにも綺麗になっているから涙が止まらなかったのに昔の自分の写真を見て懐かしさよりもダサさが目立ってる。この感情どう表現しろと。」
「見て。皆でスクバ(スクールバッグ)をリュック風に背負うのは分かるけどなんでチャリで来ました的な感じのバイクのポーズしてんの?」
「この時の私らに何かあったんだね。それだけは理解できたわ。」
「さすが結香だね。あの子やっぱあの姉の妹だわ。大人しく見せてやるときはきっちり全てを見せていくタイプだわ。」
「それね!だって一緒に映ってるお姉ちゃん面影無さ過ぎだから!今暗くて表情見えないけどあれ絶対死んだ目になって見てるよ。」
「それな。」
「結香大人しいイメージが私らの中ではなってたけど、こうやって写真を見ると私らと変わらない位笑っていたんだね。微笑んで私らを見てるイメージがあったからこんなに素敵な笑顔だったんだなって今気づかされた。」
「そうだね。黒歴史に見えて結香の楽しい思い出に私らが沢山映ってるの嬉しいね。」
私も皆と同じ事を思っていた。今日の結婚式行くまでは正直行くのが怖かった。グループの中で唯一私は結婚してないし、結婚できるのかも不安でしか無い。それこそ最近はマッチングアプリで出会い求めてでも皆送ってくる内容が会っても居ないのに付き合おうだけでは無く、中にはセフレになれる?とか少しメッセージのやり取りですぐに会おうとしてくる辺り軽いなと思う事が多く余計に恋愛感情が生まれる訳では無かった。職場でも確かに男性職員も多いし出会いが無いわけでは無いが、私は職場恋愛は向かないタイプである。恋愛よりもパートナーを探す私には恋愛関係自体が難しいのだけれど。
スクリーンに映っている私は、未来の自分が未来のパートナー探しで毎日悩んでいる事なんて知らないんだろうなと私はただ結香の思い出を眺めていた。
「良い結婚式だったね~」私達は二次会に参加せず、結香に泣きながら呼んでくれてありがとうという感謝の言葉を皆鼻水出しながら伝え新郎はそんな私達の姿に祖父が孫を見るような目で見ていた。新郎の両親は驚いていたが、結香の母と姉は笑って見ていた。
結香は来てくれて本当にありがとう。と何度も言い、私達は幸せになってね。また集まろうねと何度も確認するように言い合っていた。
そんな状況が長すぎて結香のお姉さんに追い出されたのが十分前。
結香に大きく手を振りながら東京駅まで歩きながら私達はまだ興奮が冷めずずっと結婚式の話をしていた。
「結香らしい結婚式だったね。」
「うん。人前式って言うのは聞いたことがあったけれども実際に見たのは初めてだった。」
「私も!やるならああいうアットホームな結婚式良いな~と思ってた!」
「お?柚木とうとう結婚への本気出した?」
「本気というかパートナー探す!今までそういうのは苦手って避けて逃げてたけれどもそういうのは無理ですってちゃんと言えるようにするよ。」
「そうだよ!人間沢山居るんだからそういう理解して柚木を大切にしてくれる人居るよ!!」
「焦りは禁物だけれどもね!」
「久しぶりにメイクしてお洒落したから帰りたくないけれど旦那が絶対子供の世話ちゃんと出来なくて部屋が荒れてそうな気がするわ。」
「それは私もそう思う。家に帰るのが怖いわ~」
「柚木はどうする?」
「実はヒール借り物なんだけれど、さっきから靴擦れしてて痛いんだよね。」
「まじか!それは大変じゃん。じゃあ東京駅で解散してまた後日ライムでやり取りしようよ!」
「いいね!!」
私達はそう言葉で約束を交わし駅で解散した。私は皆と全く違う路線だったのでその場で一人になった。
結婚式の最中はライムが鳴らないようにマッチングアプリも音が出ないようにしていたので電車に乗って真っ先に見ると80件マッチングアプリはなっていて、ライムは40件になっていた。私は一個一個見ながら決心が揺さぶらないうちにメッセージを一人一人に送った。
「私は恋愛感情は持ててもその先の感情は分かりませんし、正直苦手です。きっとそういう関係にはなれないと思ってください。私はこのアプリで家族のように支え合っていけるパートナーを探しています。」
この文を打つのに私は凄く怖かった。きっと返事は来ないかもしれない。それでも今日久しぶりに友人達に話せたことも含めて私は違う私になれそうな気がしていて少しワクワクしていた。
電車の窓に映る私の顔が行きとは違って少し活き活きとした表情になっている事に気がついて余計に嬉しくなった。もしかしたら一人くらいは私を認めてくれる人が居るかもしれない。それでも構わないと言ってくれるかもしれないと思うと今日は早くスマホが鳴らないかなとワクワクした。
電車から降りて家までの道路を歩きながら携帯を見ると
「正直に話してくれて有り難う。でも、僕はその感情を全て受け止めることが出来ないかな。」
「それは一時的なもの?」
「それは友人関係と何が違うの?」
「正直今混乱してるわ。なんでこのアプリ始めたの?」
「まだ会っても居ないからそう言われても何とも言えないけれども、会ってからじゃなきゃ分からないかな。」
「アプリ退会しろよ」
「なんか詐欺にあった気分だわ」
「恋愛感情はあるの?」
「それはそういう気持ちになれるほどの人に出会ってないって事なんじゃ無い?俺とならそういう感情分かるかもよ?」
沢山メッセージが来る殆どが批判的な物だった。私も久しぶりに友人達に会えた事で突っ走ってしまった部分もあるのかもと少しメッセージを読む度に少しずつ冷静な考えに変わりその分この一言一言が心に突き刺さってきて辛くなってきた。
友人達が受け止めてくれた事で他の人も受け止めてくれると軽く考えていたのもあったが、毎日あれだけ好きだと言ってきた人達が掌返しでここまで全否定されるとは思ってはいなかった。
私は夜空を見ながら今にも溢れて目にいっぱいに溜まった涙が溢れないようにめいいっぱい目を開きながら泣くまいと唇を噛みしめて耐えた。いつも夜空の星が今日は歪んで見えない。星の光なのかそれとも街頭の光なのか私には判断できなかった。
どれだけ辛いことがあっても次の日が来る。朝なんて来なければ良い。そう思っても朝は来る。いつもと変わらない雀の声と携帯のアラームで起こされる。今日の目はとても重い。昨日はあれから家に帰って結婚式の引き出物やレンタルしたドレスを送り返す為の箱に入れたり、メンバー全員からのグループLINEで私は泣きながら返していた。
家に帰ると一人というのが余計に私の心の中を冷やしたのである。
「あ~目が腫れた。」
虚しく響く一人暮らしの辛い所はこういう時に慰めてくれる人も居ない虚しさが次の日が来たという事実だけれども一層現実を突きつけてくる。携帯を見たくないがもしかしたら一人でも良い言葉寄り添ってくれる言葉をくれるかもしれないと思って見てみた。
結香の結婚式の為に綺麗に塗ったネイルでスマホを操作していく。
あれだけ毎日愛ちゃん、愛ちゃんと言ってきた人達からの連絡は無かった。「おはよう」とか「今日も眠いね」とか送ってきた言葉も今日は無かった。
やはり無理なのかもしれない。と思っていたらピコンと携帯が鳴った。
「おはよう。愛さん、昨日は返事が出来なくてすみませんでした。凄く辛かったですね。話すのにとても勇気が要りましたよね。僕も実は人には理解されない事が趣味でメイク男子なんです。少しずつ動画配信などで増えてきては居ますがまだまだ需要がないからか世の中には浸透されて居なくて人によってはホストやオタク系に分類してくる人も居れば女になりたいのかとも言われたことがあります。なので今回愛さんが仰ってくれた事はとても他人事に思えませんでした。」
一つ一つ文を読みながら私は涙が止まらなかった。愛という偽名であっても文を受け取るのは本人の柚木。私自身なのである。この言葉が本当は嘘かもしれない。でも今の私にはこの言葉が嘘とは思いたくなかった。一人でも理解してくれる人がいる事を信じたかった。
「おはようございます。」
私は涙が零れて頬に伝うのを拭うことも無く震える指先でスマホで文を打った。
「凄く嬉しい言葉を有り難うございます。共感して頂いた件にしてもとても嬉しく思いました。実は昨夜から様々な方から頂いたメッセージが殆どが否定的な内容が多く辛い思いをしていた所だったのです。本当に有り難うございます。」
そう文を打ち終わると送信ボタンを押した。宛名を見るとリュウと書かれていた。年齢は20歳見た目は韓国アイドルに居そうな雰囲気の人だった。
「プロフィールは都内の大学生、身長は170後半。韓国アイドルに憧れています。美容コスメが好きです。人によっては美容やメイクに関して不快に思われる方もいらっしゃったので必ずプロフィールは必ず確認してください。またメイクや美容について興味がある方は語りたいと思っています。」
と書かれていた。私は彼のプロフィールをきちんと読んでいなかった事に後悔した。私はいつも雰囲気だけで選んでいたり文章の雰囲気で選んでいた事に後悔した。こういう人は最初から書いてちゃんと書いている人も居ることを私は把握していなかった。
私は少し元気が取り戻した気分になった。
「ちゃんと見てくれる人が居た。言ったことは間違えじゃ無かった。」
とホッとするとグーとお腹が鳴った。あまりにも大きな音に私は少し笑ってしまった。部屋には勿論私しか居ないのにさっきまでの虚しさとは全く違う空気がここには流れている。ご飯を食べよう。そう決めて冷蔵庫を開けるが昨日帰り道に何も買ってこなかったので冷蔵庫の中身は空だった。それを見て私はまた笑った。笑えることがとても幸せに思えた。
「いらっしゃいませ」
なんとか朝は行きにパンやサラダをコンビニで買って朝からの出勤に間に合った。目は腫れているが昨日の私よりも朝来たメッセージで元気が出たことで目の腫れに対しても何も思わなかった。それよりも今日は小さな事でも笑ってしまう。朝の集まりでもいつもなら無視してしまう内容も今日は笑ってしまった。そんな姿を見てバイトの○○さんが声を掛けてきた。
「安藤さん今日はウキウキですね!そんなに昨日の結婚式そんなに感動的でした?」
「え?はい。久しぶりに中学時代の友人達に会えたのもあって感動的でした。」
「そうなんですね~私はまだ友達の結婚式は出たことがないのですが、そんなに感動的な式なんですね。私もいつかそういう式に出席したいです!」
そう話をしながら私も微笑みながら話していた。するとパンツのポケットに入れていたスマホがブーブーと鳴り出した。私は、この鳴り方はマッチングアプリの鳴り方なので誰からだろう。嫌な内容で無ければ良いなと思った。開店準備をしつつ在庫倉庫から服を出すタイミングでチラッと携帯を見た。すると朝連絡をくれたリュウ君だった。
「お返事有り難うございます。そんなに辛い思いされたんですね。僕でよければ話聞きますしお互いわかり合える所があると思うので今度カフェでも行きませんか?」
と来ていた。正直凄く嬉しかった。もしかしたら恋愛感情抜きでも私の事を理解してくれるかもしれないと思った。それだったら会わないわけ無い。急いで在庫管理室に行って携帯を広げて正社員にバレないように
「是非!私で良ければ会って話したいです!」
と送った。少しスッキリした。気持ちを綺麗に切り替える事が出来たような感じがした。
少し私は端っこで外に見られないようにその場で足踏みをしながらガッツポーズをした。
これが私にとってマッチングアプリを辞めるきっかけになった出会いになった。
「愛さん、今日はお昼にここのレストランでどうですか?」
と地図と共に後日送られてきた。レストランの雰囲気は爽やかで森林がメインなのか机も建物も木で作られていてお店の箇所箇所には植物が置かれていた。
このお店を見たときに凄く私好みであることと、同時にお店の選び方のセンスに感動した。きっと同じような店や食べ物が好きなんだなと思ったらこの約束の日まで楽しみで仕方なかった。
そんな日がやっと今日来た。ずっと楽しみにしていた。待ち合わせの時までずっと連絡を取り合っていた。年下と今までメッセージのやり取りをした事は何度もあったが、今までのやり取りの中でリョウくんは文がとても丁寧だった。写真の雰囲気横顔の写真が多くあまり正面の写真が無いがクールな写真の割には
「おはようございます!愛さん!聞いてください!今日新しいメイクが発売されるみたいなんです!朝一に今日は学校自主休校して買いに行ってきます!」
「自主休校するのね(笑)出席の回数大丈夫?どんなメイクなの?限定品?」
「そうなんです!買ったら本当にすぐに写真送ってもいいですか?出席は大丈夫出す!一応確認してます!!」
「わかった。写真楽しみにしてるね」
その数分後にパレットがモナリザの絵が描かれてて美術品のように思えるアイシャドウのパレッドを頬に付けながら凄い笑顔で自撮りをした写真を送られてきた。そういうやり取りが何度も続き私の中では今までは男性とメイクについてとか美容についてとか話したりしなかったけれども、いつの間にかそういう話も自然と盛り上げて出来るようになったし、私の中で我という主を段々年下のリョウ君から教えて貰ってるような感じだった。
今では連絡を頻繁に取り合う前から比較すると私の中のリョウ君は癒やし系の弟のような存在になった。あの事を公表してから当時やり取りしていた人達とは全員連絡を切った。正直私という人間よりも身体の関係を重視している時点で誰も私という人間と向き合おうとしていた人は居なくて下心しか無かったんだな。と思えばあれだけの酷い言われよう傷つかず気持ちを切り替えれる事が出来た。
今回の待ち合わせは駒沢公園だった。リョウ君からの希望で公園で散策しながら話しませんか?との事だった
私は待ち合わせの時間まで少し緊張していた。前回の男のように価値観が違くて嫌な思いしたくないなと思いながら公園の入り口の石碑の前で車が行き交うのを眺めなら彼の姿を探していた。
暫くすると携帯が鳴り、
「愛さん、今どこにいらっしゃいますか?」
少し緊張気味で少し声が青年に近い爽やかな声が電話から聞こえてきた。
「今私は駒沢公園入り口でバス停近くに居ます。隣にスタバがありその隣に駒沢大学の入り口があります。」
「分かりました。今駒沢の田園都市線乗り場で下車しましたのですぐに向かいますね。」
「大丈夫ですよ。ゆっくり来てください。」
「有り難うございます。一度電話切りますね!」
と言って少し小刻みに雑音が聞こえた後に電話が切れた。多分小走りで走っているのだろう。悪い人じゃ無さそうで少し安心した。
少し経過するとこっちに小走りで走ってきた人が居た。遠くからなので分かりにくいが田園都市線下車の駅からここまでそれなりの距離がある。その距離を走ってきたのか。年下なのもあってそんな姿は可愛いなと思ってしまった。少しずつその人影が大きくなっていくのを見ていると、息を切らせながら私の目の前まで来て
「遅れてすみません・・・はぁはぁ。意外と・・・はぁここまでの距離あるんですね。知らなくてすぐに着くだろうと思って地図見ながら来たんですけど意外と距離ありました。」
肩を大きく揺らしながら呼吸を整えようと必死にしながら額に汗をかいた青年が目の前に立っているのを返事を曖昧に返しながら観察していた。髪は黒髪でサラサラしている鼻は高く肌が美容に興味があると言っているのが分かるくらいとても綺麗で背も高い。目は下を向いてしまっている為見ることは出来ないが私服は白いTシャツをパンツにインしてるが太い茶色いベルトを巻いている為お洒落に着こなしている。韓国風と言えば想像が出来るだろうか。新大久保によく居そうなお洒落な人である事はこの一瞬の観察でよく分かった。また、鞄が薄い黒の皮のような手提げでも肩に掛けても持てるタイプで中に沢山は入って無さそうなのも今時の子だなと思ってしまった。私は沢山荷物の中に物を入れるタイプだが最近の若い子は財布もコンパクトで鞄はとても小さくスマホすらも入れない。入らない物は今ではエコバッグが流行してる中でブランドの紙袋を手に持ちそこに入れるらしい。小さい鞄はようはお洒落の小物扱いで必要な物を運ぶ用では無いのだというのを以前テレビで見たことがある。この子もそういうタイプなのかもしれない。そういう少しした所からジェネレーションギャップみたいな物を感じてしまった。
静かに彼が息を整えて顔を上げるのを見守っていると少し息が整ったのか私の事を皆見ながら
「本当すみません。やっと息が整ってきたので・・・あ、そうだ改めまして俺の名前はリョウです。愛さんですよね?写真と同じで遠くからでもすぐに分かりましたよ。」
「息整ってきたみたいで良かったです。私だと分かって貰えて良かったです。」
「ありがとうございます。あ、公園の入って左側にお店あるでしょ?あそこ本当に美味しいんでそこで一度飲み物とか飲みながらその後公園を散策するのはどうですか?」
「いいですよ」
「本当に会えて良かったです。中にはバックれたり冷やかしの人も居てもしそうだったらと思って少し不安だったんで。」
そんな他愛も無い話をしながら私達はお店に向かって歩き出した。話しながら彼の顔を見てみると目の周りも含めてしっかりメイクしているのが分かった。メッセージのやりとりからもメイクに興味があるのは知っていたが目の前で男性がしっかりメイクをしているのに少し驚いた。しかし、そのメイクは綺麗で肌は元々綺麗だからかデコボコしておらず、眉毛周りもしっかり処理されているため不潔感は全く無く、それよりもアイドルのような姿に一瞬芸能人かと思う程の見た目だった。
一分もかからない場所にある喫茶店で私達は入店した。外でもカフェが出来るらしく公園の中にある喫茶店だからか犬連れのお客さんも沢山来店しており外のテーブルで犬も一緒にご飯を食べたり、多分犬友達なのか様々な小型犬や中型犬も一緒に居た。私はその姿を見ていると長毛の小型犬がピンクのリボンを額に付けて私の姿を笑っているような表情で見ていた。店内を見渡すとお昼時ではあるがそれなりに人は居るもののすぐに案内して貰えそうな感じであった。自然をテーマにしているのかとても明るい雰囲気でお洒落な店であった。私達は女性店員に促されテーブル席に案内された。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます。」
リョウ君は私達を席に誘導してくれた女性店員に対して自然と感謝の意を述べたことに私はとても良い子だなと感心した。私が今までお会いした人達はこういう事が出来ない人も多かったので若いのにしっかりしているなと思い好感度はとても高かった。
「愛さんは何飲まれますか?」
「柚木です。」
「え?」
「私の本名。柚木」
「本名柚木さんって言うんですね。俺は涼太です。」
「あだ名で登録したんですか?」
「えぇ。何て登録して良いのか分からなくて友人達からの呼び名で登録しました。」
「そうなんだね。私はロコモコとレモネードにします。」
「決めるの早いですね!ちょっと待っててください。俺はどうしよう・・・」
メニュー表を一生懸命悩んでいる姿を私は見守っていた。ここに来る前にネットでメニュー表を食べログで見ていたので待ち合わせしている時に見ていたのだ。私はブツブツ言うリョウ君改めて涼太君の姿を少し姉になった気持ちで見ていた。何故挨拶のタイミングで彼に本名を言ったのかそれは直感だった。彼は本名を言った所で何か悪用することも含めてそこまで警戒しなくても平気なように思えたからだ。
暫く別の店員さんが持ってきた水を飲みながら私は待っていると涼太君が
「決めました!俺はシーザーサラダとポモドーロのパスタにオーガニックアイスティーにします。」
早速店員さんに頼むと私達は少し水を飲みながら会話の始まりを探していた。
「あの愛さ・・・じゃなくて柚木さん」
「はい。」
「今日は時間取っていただいて有り難うございます。」
「いえ。大丈夫ですよ。」
「俺、こうやって本当に会うのは初めてで少し緊張しています。」
と言いながら少し照れ笑いしながらこちらを見て言ってきた。
勝手な私の想像ではメッセージのやり取りをしてすぐに遊んだり会ったりしているのかと思っていたのでこういうのを聞くと私が会話のリードを取らないといけないのかと思ってしまった。しかし、涼太君は元々人懐っこいのか
「そういえば柚木さん、この間メッセージで送った新しいコスメで今日メイクしてきたんです!」
「そうなんですね。一目でメイクしてるのかなとは思っていましたが、結構オープンで話されるんですね」
「メイク男子は確かに少ないですし、俺も実は大学デビューで外でもメイクするようになったんです。でも、やっぱり直接会うと気になるじゃないですか。だから俺は最初に言った方が良いなと判断して言うようにしているんです。」
「なんか格好いいですねそうやって言えるの。私はまだ自分が恋愛は出来てもその先はとかはこの間勇気出して伝えてその後は散々の言われようで今もかなり引きずってますよ。」
「俺もそうでしたよ。最初はそれこそ男なのに化粧や美容に興味があるっていうだけで高校ではいじめにも遭ってました。でも俺には姉が居てメイクとか凄く教えてくれて変わったんです。後、今日はこんな感じですが普段はV系のメイクとかしてますよ。」
「え?涼太君V系なの?」
「はい!今日はさすがに辞めておけって友人?世話している人に言われて今日はナチュラルに近いですかね。V系の写真見てみます?」
「良いんですか?見てみたいです!」
涼太君はスマホを操作すると一つの写真を私に見せてきた。それは目の周りは黒くキリッとしていて眉毛も細く、服装も首にチェーンが付いていたりしていて今目の前の涼太君の確かに面影はあるが別人ともとれるくらい雰囲気が全く違う姿に私は驚きが隠せなかった。
「雰囲気も含めて全く違いますね。眉毛とかもV系の時は細いけれども今は太いよね。」
「あぁ、それはねまずペンシルで縁を描いてから眉毛用のマスカラがあるから自然にぼかしながら描きましたよ~。あとは全体的にV系では黒とか赤を俺は主に使用してるけれども、今日は柔らかい印象を演出したくて茶色でもロイヤルミルクティーの色を主にマスカラも含めて使用してますよ。」
「肌の色はそれは・・・」
「パウダーを二種類使用しています!一つは肌に優しいのであまりにも白すぎるのも浮くのでデパコスのパウダー使用したりしてます。」
「凄いな~どうやって勉強していったんですか?」
「自己流ですね。完全に。後は姉に教えて貰ったり、化粧品を借りて使用してみたり最初はそれこそメイクの道具を買いに行くのに凄く抵抗とか恥ずかしかったりしてでも、慣れてきたら普通に帰るようになりました。以外と新宿だとホストさんとか買いに来たりしてるので店も入りやすくて良いですよ。」
「へぇ~そうなんですね。」
「俺も最初凄く悩んでたんですよ。やっぱり男性って男らしいとかイメージ付けられやすくて可愛い系もあってもメイク系って少しずつ需要出てきたけれどもなかなか難しくて高校の友人に道端で会った時に気持ち悪いお前大学デビューかよって言われて凄く傷ついたんです。それで毎日泣いててそれこそ何個かコスメ捨てたくらい。でも姉に言われて傷ついて泣いてる暇があるならそんなことを言わせて恥ずかしいって思わせるくらいメイクの技術上げてそいつらのことを見返してやんなって。因みにその後俺の姉さんその高校の同級生を特定したみたいで友達を連れて一緒に遊んでやった。って事後報告されたんですが怖くて詳細は聞いてません。」
「凄く大変な経験があった話を聞いていたのに途中からお姉様のキャラの濃さで全部持っていかれました。私も今回の事で身体目当ての人をあぶり出せてそういう人を拒否できたのは良かったのですが、このままで良いのかなとかやっぱりそれを人に伝えたときに批判的な事を言われたことがまだ怖いですね。」
「確かに怖いですけれども、この短期間で自分自身がそういうタイプなんだって分かることが凄くないですか?」
「え?」
「だって今まではそういう事に気づかなくてそういう場面になったらっていう事が多かったのでしょう?だったらここで分かるのは凄いですよ。俺実は化粧に興味があったときに自分が女の子になりたいのかとか凄く悩んで苦しかった時期があったので、全く違いますけれども少しは柚木さんの気持ち分かる感じがします。」
「確かに涼太君とお話ししていて類似している感じがします。涼太君は自分が女の子になりたくて化粧をしているわけでは無いんだよね?」
「はい。化粧をするというイメージを勝手に女性だけという風に決めつけていただけで、今では化粧男子も増えてきてますしそういう女性になりたいという気持ちも恋愛対象も女性なので違うかなと大学の授業で実際にそういう方達と話しながら分かりました。」
「LGBTQ+ですか?」
「そうです!それで柚木さんの話を聞いて授業で確か聞いたことがあるなと思ったのが、恋愛感情があり、性的な欲求が無いのをロマンティックアセクシュアルという風に言うのですがもしかしたらそうなのかな~て思って」
「LGBTQ+か・・・考えても無かった。」
「確かに同性愛者とか異性愛者とかバイセクシュアル、トランスジェンダーのイメージが強くてなかなか他の事までは知らない人が多いんです。でも実際は性についてだったり自分の事について悩む人は多いですからね。」
「私もその中に含まれているのかな・・・」
「そこまでは俺も素人ですし何とも言えませんが、ただもし気になるならインターネットでも説明文が載ってますし、そういうレインボーフラッグとかの団体に話を聞けばもっと生きやすくなるとも思います。」
「そうだね。でも今すぐには受け止めるのに時間かかりそうかな。」
「良いと思いますよ!ただ俺が言いたかったのは一人じゃ無いって事です。色んな人が居てその中で自分自身に否定的なことを言う人はそういう広い世界で生きていないからこそ生まれる発想と言動でしか無いんですよ。だから広い世界があればそこまで思い詰めなくても平気だよって言いたかったんです。」
「うん。それは凄く伝わりました。」
「むしろ最初から身体の関係が出来ない事に対して文句言う人って結局その人の性格とか人間性について見てない証拠ですよ。そんな人はこちらから振った方が正解です。」
フンっと鼻息を吹きせっかくの格好いい顔が鼻が膨らんで変顔になったのでそれが面白くて私は笑ってしまった。それに対して涼太君は「格好いい事言ったのになんで笑うんですか~」と両手を胸の前で少しポカポカ叩くような仕草をしながら私を責めたので私は少し笑いを堪えながらごめんごめんと謝ったけれども正直その顔が面白かっただけではなく、その発想が私は凄く救われたので笑ったのだ。こっちから身体の関係を求めるならこっちから振ってやれば良いという恋愛対象者から好かれやすい人の台詞で少女漫画とかしか聞かないと思っていたからこんな広々とした爽やかなカフェで聞くとは思わなかった。
そして本当は今日はその話について話すつもりは全く無かった。理由は私自身この感情が一時の物であって欲しいといつかはそういう行為をしても拒否しない人に出会えると思っていたから。なのに今日その考えと共に同じ悩みを持つ人達がいて私は普通である事を知り、私は私で良いんだ私という安藤柚木という人間で堂々としても良いんだという新たな資料を渡されて私の中では人生は一通りじゃないんだなと思わされた。
その後は二人共あっという間にご飯を食べてしまったので、会計をして公園に出てきた。
「ごちそうさまでした。」
そう言うのは涼太君だ。私より年下だけでは無く、涼太君が私を認めてくれたことも含めてメイクして嫌な事を言われた過去だったりもしかしてこういう人達と話せば気持ちが楽になるよと紹介しくれた事に対して感謝の意を伝えたく私は全額支払いをした。
その後は公園を散歩していた。何でも涼太君の最近のお友達は花に詳しい人らしく沢山庭に花を咲かせているらしい。その事を語る涼太君はメイクについて語っている時と同じくらい輝いてみえた。
「涼太君はその友人さんがとても好きなんだね。」
「なに言ってるんですか!友人って言っても年上で部屋は汚いし、髪もボッサボサだしいつも花にブツブツ言う人ですよ?しかも洗濯も一人では出来ないしご飯の作れないから俺が掃除したりご飯も作るんです。」
「もう母親だね。」
と笑うと涼太君もフフと笑った。
「俺その人に本当に救われたから。俺あんな風に言ってましたけど、姉さんや家族にも沢山助けて貰ったんですけど、考え方とか物事の捉え方を一番変えてくれたのはその変人ボサボサの友人のお陰なんですよ。その人って花が好きで庭に沢山植えてるんですけれど最初こんなに庭を綺麗にする人だから綺麗な女性とかを思い浮かべて自転車で通っていたんですけど、ある日いつものようにその家を通ったら綺麗な庭にシワシワのTシャツを着たロン毛ヘアの男がウロチョロしててつい変質者だと思って通報しようとしたのがきっかけで出会ったんですけれど、最初の印象は本当に変わり者で知っていけば知っていく程もっと変人だと分かったんです。それで段々話していて家を出入りするようになって部屋見てからは散らかってるしカップラーメンしか食べないしでなんやかんやで世話するようになって本当に何者なんだ?と思っていたんですけどその人小説家なんですけどね、小説を書いてるときは凄いんですよ。花にブツブツとアイディアを話してたと思ったらパソコンに向かって休み無しに書くんです。途中で声を掛けても聞こえないくらい集中していて自分の世界に入り混むんです。そして急にスイッチが切れるとまた花に話しかけるんです。変人でしょう?でも、小説は本当に綺麗なんですよ。俺あんまり小説読まないので活字とか苦手ですしだから読みにくいと勝手に思っていたんですけどその変人のは風が心臓を通っていくようにスラスラと読めるのと本のイメージが自然の中に居るようなそういう表現が多くてボサボサ変人のことを知らなかったら爽やかな作家さんをイメージすると思う位なんです。あまりにも違うので詐欺じゃんって言ったら勘違いしたそいつが悪い。って俺はそんな風に表現したくてしてるわけじゃ無くて俺は俺だ。イメージと違いますねって言われてもイメージしたのは自分だからそれを俺に押し付けないで欲しい。何も答える必要は無い。って言っててそのボサボサヘアーで何俺様発言してんだ!て口げ喧嘩したんですよ。でも、俺の化粧していることについても、化粧してるお前がお前でそれ以上それ以下を求める奴は勝手にお前という人間のイメージを押し付けてる奴だろうお前を見ようとしてない人間にこっちからイメージを合わせる必要は無い。見たければ目の前の物をしっかり見ろと言え。って言われてそこから考え方がガラリと変わったんです。」
「見たければ目の前の物をしっかり見ろと言えか。凄いですね。確かに私もですがこの人はこうだって決めつけて人間像っていうんですかね・・・そういうのを勝手に自分自身の中で創っている感じがします。その人の言う事って確かに実際現実では難しいですけれど、でもそう思う事で私を非難する人達って私を知らない人達ですもんね。実際お会いしてなないし、私の声も知らない人もいる。私の実家や親の顔も下手したら私の好きな物嫌いな物そのきっかけの出来事も知らない。小さい頃の話も知らない只のそこに居る人なんですよね。」
「そうです!ただそこに居て柚木さんを知っているように言っている人なんですよ。ネットとかで悪口書く人も同じなんですよ。マッチした人に何か言われてもその人は柚木さんを知らないし、ただ写真を見ただけただ運良くマッチしただけの通りすぎなんです。俺も同じです。ただ今日柚木さんが会ってくれた只の人なんですよ。そんな人があなたはこうしてくれると思ったのに!と言うのは只勝手に向こうがしてくれるって思い込んで柚木さん、マッチでは愛さんがそうしてくれる。って決めつけてるだけでその人は文句言うのは筋違いなんです。」
「うん。なんかそう思ったらただ道端で出会った人に靴磨け!って言われて嫌ですって言ったらお前靴磨きの顔してるのになんでだ!って言われてる感じがしてきた。」
「その例えは面白いですね!でもそういう感じで良いと思いますよ。ネットでよくあるじゃないですか。写真とかSNSで拾ってきてこの人こんな事言ってたとかこいつ何とかだよって書く人。まぁ、個人の写真を他の所に掲載することは犯罪ですし、あまりにも酷い場合は被害届出せますけれど、そういう事も含めてその掲載してやろうっと思った人って実際は羨ましくてやったのかもしれませんけれども、俺のことだったり柚木さんの事って一ミリも知らなくてただ数回メッセージやり取りしただけとかたまたま写真と文を読んだだけで批判してるんですよね。そんな人に何言われても自分が勿論犯罪に巻き込まれていなければの話ですけれど底辺の性格に振り回されるのって変ですよね。勝手にこいつこうだって決めつけもそれに群がっている人達も所詮現実では出来なくて匿名だから出来ること。それに本当に自分に自信があったら本人に言うはずなのに言えない時点でまた、違うところで顔を掲載して悪口とか言ってる時点で同じ土台に立っている人間では無いんですよ。下から一生懸命吠えてるだけ。だから、もしこれからネットやメッセージで柚木さんの事を否定的に書いたりしてきても貴方は堂々としていれば良いと思いますよ。そういう人は何度注意してもその狢からは這い上がって来れないし、そういう所でしか幸せを感じれないあくまで生きている世界が違うんです。俺はやっぱりメイク男子として何故か盗撮されたりSNSにも掲載された経験があるので消しても消しても残るんですよ。デジタルタトゥーって。それに掲示板?にも書かれた経験もあって、実際にその掲示板を見てませんが、でもどこかに俺の写真が掲載されているって気持ち悪いし怖い思いもしました。でも、そういう事をする人が居ても一々注意できないし、してもキリが無いので盗撮している人が居たらピースしたり、掲示板も見ないようにして住む世界が違う人達が必死にそこで生きてるって思って俺は俺だから俺以外が文句や悪口を言っても只の嫉妬って思おうって。勝手に犯罪歴があるとか虚言言われてるって聞いたことありましたけれど、虚言言う時点で犯罪ですしそれを俺に言いに来る人も同類ですし、それで警察が本気になるわけでもないですし、良いかなって。堂々としていれば例えその掲示板やSNSで俺を見た人が居てもそんな風には見えないという一言があったり反応が薄かったらそれまでの情報なんですよね。まぁ、酷くねつ造するほどそういう所に熱心に書こうとはあまり居ませんし、居たらその人法律知らなすぎですし。」
「私よりも年下なのに苦労したんだね。私本当は自分の恋愛の事についてメッセージ送った後怖くてさ、一応プロフィールには私の写真掲載してるしもし悪用されたりしたらどうしようと思っていたの。だから実際会ったこと無い人達からの言葉が実際に言葉として言われ居る感覚になってかなり凹んでたんだ~。」
「苦労というより巻き込まれた、巻き込まれる所に居たっていうだけです。そういう人が居る時点でどこからそういう風に巻き込まれるのかって分からないじゃ無いですか。そうだと最初から怪しい雰囲気を纏って話しかけてくれたら楽なんですけれど、基本普通の人だったりしますから。だからそういう人に出会うのって今特にネット社会ですからネットを使用すればするほどそういう人に出会いやすくなりますよね。むしろ、ネットから離れればそういう人に会わなくても済みますが、そうだと何も情報が得られない。そういう覚悟で俺もネットとか使用してるんでもしマッチでも写真がスクショして使用されている可能性もあるわけですから。そんな人を見分けるのは難しい。だからそれをされた後の考え方を変えるしか無いなって思うようになりました。犯罪レベルなら対処して貰って、それが出来なければそういう所に流された世界から離れる。実際は嫌ですけれどね。でもそういう人を相手にしても意味ないんで。実際会ったらなんだこいつ?って思える程自分磨きをした方が時間を有効に使用できるかもしれませんし。」
そう言いながら涼太君は太陽の光を葉っぱの隙間から私達に浴びせている木達を眺めながら
「まぁ、そういう男は付き合っても絶対幸せになりませんし、世界中でその人しか選べませんって言われたら仕方ないかもしれませんけれど、実際そうじゃないんで!」
と私に年齢相応の笑顔で言ってきた。
私はその笑顔を見て、恋愛感情か分からないけれども好きという感情は持てるけれどもそれ以上の関係を持てない事について送って良かったのかもしれない。と初めて思えた。沢山嫌な事は言われたが涼太君みたいに自分を持って生きている子に出会えて本当によかった。そう思いながら私は屈託ない笑顔の涼太君に微笑み返した。
涼太君と会って数日が過ぎた。その後は散々大学の事もそうだがメイクについて二人で語りながら駒沢公園を散歩していた。時々友人作家の変人さんの悪口も含めて。そして私は久しぶりに初対面の人と笑いながら話せたことに幸せを感じた。涼太君とは未だに連絡を取っているがお互い恋愛感情と言うより友情に近いだろう。でも私達はそれで良いと思う。
ピコンピコンとスマホの画面が光る
「愛ちゃん最近どう?」
「愛ちゃん、前言ってた事俺考えたんだけれど一緒に治療していかない?協力するよ?」
「お前まじかよ。ヤラシてくれない女とか女じゃねーじゃん。つかお前処女なのかよ」
「愛さんはまだ恋愛出来てないんだよ。俺となら恋愛出来ると思う。」
「愛、なんで返事返してくれないんだ。病院一人で行くのが嫌なら俺も一緒に行くよ。支えるから大丈夫だよ。」
「お前マッチングアプリなんて使用してるけど結局冷やかしなんだろ。お前の写真ばらまいたからな。退会しろ」
「退会しろ」
「愛ちゃん言いづらい事を言ってくれて有り難う。俺なら支えて上げられるよ。」
私はその光に目が覚める。今日は仕事は休み。昨日はセールだったから沢山来客があってその対応に私は走り回っていたからか身体が鉛のように重い。そしてふくらはぎが成長痛のような痛さで顔が歪む。目を擦りながら枕元に置いてあるスマホを見ようと寝返りを打つとマッチングアプリのマッチした人達からメッセージが来ていた。私はロック画面を解除してアプリを開き一つ一つマッチングアプリのメッセージボックス画面から読んで大きく深呼吸をした。最近マッチした人には最初から言うようにしているが殆どの人が「支える」という言葉や「病院」を勧めてくる人も居る。私は病気でも無いし支えて貰おうなんて思っても居ない。そんな言葉を言ってくる人は優越感を浸りたいだけの人だと思うと女を下に見ているのがよく分かる。
「うわ~顔さらされたのか。一応運営にこの人が私の写真を晒したことを通報しておくか。」
ベッドの中で背伸びをすると背中がバキバキという音がした。あまりにも大きく鳴ったので少し笑ってしまった。忘れないようにその人を通報して起き上がる。
「あちこち筋肉痛。昨日は平気だったのに。次の日に来るのはまだ若い証拠!」
一人暮らしの部屋に私の独り言が響きそして静まる。少しまた両手を前に伸ばしながら肩と背中を伸ばすが筋肉痛の痛みでうぅと唸ってしまう。
今日は休みだけれど午後三時に涼太君と会う約束をしている。今日は実は涼太君の友人で変人作家さんに会うのだ。連絡する度に話されるので頼み込んで会わせて貰うことになった。そして今日は涼太君がいつものV系のメイクで会ってくれる約束もしている。この二つの楽しみの約束が無ければ朝からのマッチングアプリのメッセージに一日嫌な思いをさせられたのかもしれない。でも、今日は涼太君に会ったあの日から考えていたことがある。理解してくれる人が居なかったら今日退会するつもりだったのだ。
私はマッチングアプリの設定から退会するをタップした。本当に退会して良いのか確認のメッセージが出てきた。
私は迷わずに退会手続きを続けた。
「ご利用有り難うございました。」というの文字がスマホの画面に表示された。私はそっとスマホの画面を閉じてスマホをベッドに置いた。あれだけ結婚を考えてマッチングアプリに登録したけれどもそういう出会いはこのアプリでは出来なかった。けれども私は退会したことは後悔していないし、アプリは一つではないしこのアプリは私には合わなかった。ただそれだけだ。
一つ私が私に課せていた事が違う形として納得出来る形になった。次に繋ぐ経験が出来たことが私は良かったのだと思いながらカーテンを開けて朝日を浴びた。
今日ケーキ買っていこう。
・・・・・そうだこのマンションペット可だったよね。
よし帰りに前から気になっていた代々木にある猫専門店見に行こう。
今日は見に行くだけ。
うんそうしよう。
今日は絶対見に行くだけだから良いよね。
フフと私はいつもと変わらない見慣れた部屋の風景を見渡しながら一人で決意した。
枕元に置いてあるスマホの画面が明るく光った。
スマホの画面には
「愛ちゃん、起きてる?おはよう」
と書かれていた。
誰だと思ってなかなか視界がぼやけて見えない中一生懸命スマホの画面を見つつ送り主の名前を見てもピンと来ない。
ただ分かるのは名前も含め、実態が不明の人からのメッセージであること。
スマホをベッド左脇にある木材の机にベッドに寝転んだまま手を伸ばして置きまたベッドに大の字で両手両足を伸ばして天井を見た。
30手前になって周囲の友人は皆結婚した。私だって結婚に興味がないわけではない。
ただ、好きという感情が恋愛に結びついているのか分からない。他者からすれば今まで恋人が居たことがある過去の私を知っている人ならば理解出来ないだろう。学生時代は誤魔化して生きていた事が大人の私には結婚が現実になり最大の悩みとなってそこから行動が出来なくなった。
そんな考えに世拭けていると窓の外から雀の鳴き声とともに学校へ向かう子供達の声が聞こえてきた。近くには電車も走っておりガタンゴトンと沢山の人を乗せて目的地まで運んでいる。
フーとため息をついてアルバイトへ行く準備を始めようと白い天井を見ながら気合いを入れた。
まずベッドから起きて寝室とリビングの部屋の細い外のベランダに出れる身長くらいの大きさの窓に掛かっている深緑のカーテンを開ける。窓越しから見えるいつもと変わらない風景に電車が頻繁に通り下を向けばさっき聞こえてきた子供達と同じように友人達と遊びながら学校に向かう小学生の姿があった。
それをボーと見た後に、洗面所に行って顔を洗う。鏡を見て少しクマが気になった。
メイクで後でごまかすかと思いながら洗面所の鏡を開いて中に収納してある無印の化粧水や薬局で売っている美容液そして無印の乳液をつけた後にまた薬局で先日クーポンで購入した保湿クリームをつけた。最近は年齢のせいなのか季節のせいなのか化粧をする日でも保湿クリームを使用しないと肌が突っ張ったように乾燥する。
「グ~~」と大きなお腹の虫が大声を上げた。お腹の虫を右手で擦り宥めながら何を食べようか考え冷蔵庫を開けた。中にある物を探って今日の朝ご飯は野菜と食パンに決めた。食べるだけで偉い。そう思いながらキッチンで立ちながら食べる。この部屋にはご飯を食べる用の椅子は無く床に座って食べるか立ちながら食べるかだが最近はわざわざベッド脇の木材の机の所まで行き食べてゴミをキッチンの所に持って行くことが面倒になり立ちながらいつ頃からかするようになった。実家の母親に知られたら凄く怒られるだろう。
野菜は千切りにされた野菜の袋にお箸を突っ込んで取り出して食べるだけ。ドレッシングやマヨネーズをかけることすらも一人暮らしを初めて何日かでやめた。
洗い物が増えるだけだし、そこまで優雅な朝食を食べてもこの憂鬱感は無くならない。朝食を食べ終わったのでお箸をスポンジに洗剤を付けて水で洗い食器乾かしの籠に入れた。
朝起きてから何も飲んでないのと野菜をそのまま食べたからか喉が渇いてきたので冷蔵庫を開けてアイスコーヒーをコップに入れて牛乳割をした。混ぜるのも面倒なので混ざりきっていないコーヒー牛乳を少しずつ飲みながら木材のテーブルに向かって数歩歩いてテーブルの上に置いた。昔テレビで海外の人が日本人はコーヒー豆をひけないほど忙しいという意見を聞いたことがあるが私の経験上では暇が無いよりはそんな優雅な朝を迎えるほど気持ちが迎えられないのだと思う。朝起きてまず思うのが今日も仕事だ。朝が来てしまったという絶望感である。一時は月曜日が嫌すぎてサザエさん症候群というのがよく耳にしたくらいだからきっと世の中の人は同じ気持ちであると願いたい。そんなことを思いながら机の上に置いてあったリモコンでテレビの電源を入れた。
するとテレビでは若いアナウンサーが
「このお菓子本当に美味しいです!是非皆さんもお立ち寄りの際には是非買って食べてみてください!」と何か食べ物を紹介するコーナーが終わるところだった。
コーヒー牛乳を八割くらい飲みコップを木材の机の上に置いて化粧品が置いてある所に這いずって移動する。
そのとき背後の机の上でまた携帯が鳴ったので携帯をチラ見した。
「愛ちゃん今日夕方もしよかったら一緒にご飯でも食べに行かない?」
「愛ちゃんおはよう!ぐっすり眠れた?」
「おはよ。昨日飲み過ぎて完全に二日酔いだわ」
「てかさ、俺思ったんだけどあのドラマ犯人多分あの人だと思うんだわ」
「愛ってさどこ住み?」
ひっきりなしにブーブーブーブースマホ画面が明るく照らされる。でもそこに彼等の名前が表示されるわけでは無くメッセージのみ表示されていた。
スマホを机の上に戻してまた化粧台に這いずって移動して鏡に顔を覗かせて自分の顔を見た。化粧をする毎日変わらないけれども毎日気合いを入れてメイクをしている。少しでも綺麗に出来なかった日は朝から何故か気分が落ち込むからだ。一種の今日の運勢の占いのような感覚である。
化粧をしようと気合いを入れてまずSFP50プラス4の日焼け止めを顔全体と首に塗って下地クリームも同じように掌で馴染ませた後に顔全体と首に塗る。
クッションファンデをまず半回転させながらクッションにファンデに色を取り、顔半分に擦らないように少量ずつ塗っていくこの時に擦ったりするとよれたりするので軽く押さえ込むようにして私は塗っている。そして全体に塗った後に気になる小鼻の下とかクマとかニキビ跡にコンシーラーで少量ずつそこに液体を乗せ人差し指で力を入れずに軽く叩いてなじませる。
その後は私はパウダーを使っている。素肌の上から使えるパウダーで肌の負担になりにくいと聞いてからこのパウダーを使い始めた。肌は色白に見えるのもあって愛用している。このパウダーをまたパフで時計回りに半回転させてスタンプのようにして最初は顔全体に乗せていきまたパウデアーの粉をクッションに軽く付けて今度はなるべく凹凸が出来ないように肌を滑らせていく。仕上がりはいつもここで大福みたいな白さになる。眉毛までパウダーの粉で白くなるので以前友人と旅行に行ったときにメイクのこの辺りで友人が起床し私の顔を見て悲鳴を上げた後私だと分かりベッドの上で寝癖ボサボサの状態でベッドの上でひっくり返って笑っていた事があった。
その後眉毛はケイトのパウダーとペンシルで書く。ここが一番の難所だ。
眉毛をまずパウダーでぼかしながら元々ある眉毛の毛の流れに沿って作り、ペンシルで左右対称になるように眉尻に長さを足していく。仕上げは眉頭の毛を立たせて書くこと。
それだけで、りりしく見えて少しハーフっぽく見える。私は昔から優しい印象を与える眉毛は好まずどちらかと言えばキリッとしたハッキリした眉毛が好きだ。
アイシャドウは肌の色に近いクリーム色を中指で取って瞼全体に塗る。
その後はブラシでオレンジ気味茶色を取り二重幅まで塗る。このときに目尻から塗ることが私の最近のお気に入りだ。少し目尻を跳ねさせることで猫目のようになる。もともと猫目なのだがそこをあまり強調しすぎないように活かすのが私は好き。
目頭には段々薄く筆を浮かしながら薄い色になるようにブラシを持ってくる。そうする事で単色でもグラデーションのようになって目頭が薄い色になることで鼻の高さを強調するようにする。
この時に今乗せたアイシャドウの円が少し歪になっていたらその度にブラシで修正をし、整えていく。
目にコンプレックスを持っている私が一番力を入れているまつげである。ここに毎日時間がかかる。まずビューラーをまつげの根元から九十度になるように挟む。
キュッキュッと何回か軽く力を入れて上げた後に根元から先まで小刻みにビューラーで挟みながらカールを付けていく。
満足に上がったらまつげをカールキープ出来るマスカラを急いで塗る。
この行程が一番面倒だけれども一日の気分を決める大事な行程である。
雨の日や湿気が多いときはなかなかまつげが上がらないので大変でなかなか決まらない日は朝から憂鬱な気持ちになる。
反対側の目も同じようにビューラーで上げているとテレビから天気予報が流れてきた。
今日もかなり暑いらしい。もう秋の季節なのに30度を超えるなんて環境問題が本当に重視されるなんて普通の生活をしていても感じてしまう。
まつげキープを乾かしている間にアイシャドウのココアカラーを小筆で取り目頭と目尻に入れた。こうすることで目を開けたときにしっかりした目の印象を与えることが出来る。
その後は、二重線を茶ピンク色の筆ペンで薄く書き二重を強調。最後にマスカラをして目は完成した。
チークは今日の気分はコーラル ピンクだったので大きいチーク用のブラシでとってフワッと舞うような感じで頬に斜めに入れる。
あまり子供過ぎないようにでも少し若めにメイクをする。今年で30歳になるのだがメイクがまだ難しい。メイクも経験だが年齢によっては合わないメイクがあるので、アラサーは本当に難しい。
それを感じたのは、28ぐらいの時からだった。前は派手なカラコンを入れたり、派手にまつげをボリューム重視でメイクをしていたがチークの入れ方もとにかくお人形のように可愛いを求めた楽しいメイクが出来た。
だが段々年齢が上がっていくと自分が好きな可愛いメイクよりも、年齢に合ってケバさのないまたナチュラルなメイクを求められる。
そうすると自分がしたいメイクよりも人に清潔感のあるメイクに変わるため常に人の目を気にしてメイクをしなくてはならなくなった。
そんなことを思っているとテレビから
「女子アナウンサーの後藤唯さんが先日一般男性と入籍したことを発表されました。」
という結婚式のよく流れるウェディングソングと共に甲高い声の女性アナウンサーが報道していた。
「後藤唯。あたしより年下。」
カレンダーをふと見た。今月だけでも三人の友人の結婚式が控えてる。この間、高校の友達の美晴に子供が生まれたからそのお祝いもしないといけない。
私は少し憂鬱な気持ちになった。
「人の幸せを喜べる人間になりたい。」
高校の時に友人も含めて私も言っていた。大人になってから気づくのがそれにも限界があるということだ。
結婚式のドレスの着回しは、どこで写真が出回るか分からないから毎回違うドレスにしないといけない。必ずではないがやはり私は気にしてしまう。今はレンタルが出来るが、その費用も決して安くは無くバッグもレンタルで借りる。
メイクはレンタルするドレスによって色を変えなくてはいけないし、それによって髪型も美容院で頼まないといけない。
ネイルも考えないといけない。今の爪の色はくすみオレンジ色だが、ドレスによっては色も考えないと。
やることが今月まだ始まりだというのに多すぎて時間が無い。
そんなことを考えてるとバイトに行く時間が迫っていた。
「ヤバイヤバイ」
と独り言を呟くと急いで出かける準備を進めた。朝から引っ切りなしに通知があるスマホを横目に私は鞄の中に入れた。
外に急いで出る。玄関のドアを開けるとそこに広がるのはいつもと変わらない強い日差しにまだ午前中というのに既に暑い温度。まだ夏の時期ではないはずなのにもう半袖にしないといけないのかもしれないと思うほどの天気だ。
私は玄関のドアを閉めて鍵を掛けた後一度ドアノブを引いてちゃんと鍵を掛けたか確かめた後に小走りで駅に向かって走った。
「いらっしゃいませ~」
洋服を畳みながら貼り付けた笑顔で接客をする。
店内は沢山の照明で明るく照らし、店にはスポーツ用品の服を着たマネキンがランニングをするような格好で玄関扉の所に女性男性が立っている。
その後ろで私は上にスポーツブランドのマークが入ったTシャツにその下には冷房で体が冷えるので黒の長袖を着て、下は夏用のランニングパンツを履き、また同じスポーツロゴが入ったランニングシューズを着用して、店内を見回っていた。
髪はポニーテールにしているため歩く度に首に毛が当たるが、髪を結ばないと上の人達(正社員)に嫌みを言われるので結んでいる。
今日は平日だからか人はあまり私の階にはいない。
この仕事場所は全部で八階建てである。
その中で私は一階のいわゆるこの建物の入り口に配属された。
やることはそれなりにあり、まず朝来たときには玄関の施錠を解除し、門も開けやすくする。
ただし門は開店と同時に開けるため、決して開けっぱなしはしない。理由はお客さんが入ってくるからだ。
何度か学生アルバイトの子が少し門を開けっぱなしにしていたことがあり、過去には店内に中年の女性が入ってきて商品の返品について尋ねてきたことがある。
その時は最初は開店前であると伝えたが、返品するだけだからという強引のやり方で押し通してきた。
返品一つでもレジ開けもしなくてはいけないしその方がクレジットでの購入者なのかも確認が必要になってくる。
あの後正社員の人が間に入ってきてくれた事で難を逃れたが、その後はその社員に嫌みや叱責を受けた。
また、次に開店前にやることは宅配で来た荷物を仕分ける事。中にはお客様が取り寄せたものもあり、それをレジ後ろにある薄ピンクのカーテンで仕切られた場所に分かりやすく置く。
後は大きいものは在庫行きなので沢山ランニングウェアが積まれている裏の在庫部屋に隠す。
その後はミーティングだ。三階に集まって挨拶をする。内容はほぼ私は聞いていない。
特に関係がある内容なんてないからだ。
そして十一時半に店はチャイムのような音楽と共に開店する。
毎日がこの流れだ。私は人が少なくなってきたことを見計らって店内に出ている商品のサイズや物のチェックをする。
もし、裏の在庫に物があるのに店内に商品が置かれていなかったら購入してもらえなくなるからだ。チェック項目があるプリントを見ながらボールペンでチェックを入れていく。
そして、裏の在庫部屋からその商品を取り出し、お客様がいればいらっしゃいませ~と声を出しながら何事もないかのようにして店の中で作業を続ける。
ポケットに入っている携帯がずっと鳴りっぱなしである。正直中身が見たいが、今日は嫌み先輩で正社員の人がいるから出来ない。
多分昨日からやりとりしている人達だろう。朝送ってきた人達にもまだ返事が返せていない。
そう、私の携帯を何度も鳴らすのはマッチングアプリでマッチした人達だ。
早く読みたいのに返事がしたいのに、まだ出来ない。
早く休憩の時間になってくれと願いつつ在庫から洋服を出してはハンガーに掛けて商品のサイズを確認した上でハンガーにサイズ表記のクリップを止める。
それを繰り返していると店の電話が鳴った。
急いで在庫部屋にある電話を取る
「はい。未来スポーツ株式会社ハヤテの安藤です。」
「あ~、あのさこの間買い物したときに気になったけど買わなかったやつがあるんだけど、それまだある?」
「先日はご来店誠にありがとうございました。どの商品をお求めでしょうか?」
「あれだよ。靴だよ。」
「ランニングシューズでございますね。こちらの売り場はウェアの階になりますのでランニングシューズの階にお繋げさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうなの。じゃあ早く繋いで。こっちも暇じゃねーんだわ。」
「はい少々お待ちください。」
・・・内線の繋ぎ
「あ、お疲れ様です。一階売り場の安藤です。今お客様からのお電話がありまして購入したいシューズがまだあるのか確認したいとのことでした。」
「安藤さんお疲れ様~引き継ぐよ。ありがとう」
受話器を置くと一つため息が出た。
「何で売り場も確認しないで電話なんてしてくんのよ。俺も暇じゃね~て言うけど私も暇じゃ無いわ!」
と少し愚痴を言った後に元の貼り付けた笑顔に戻して店内に戻った。
「安藤さーん!5番どうぞー」
5番とはこの店での隠語でご飯の意味を指す。
「ありがとうございます」と言い私は他のスタッフに5番に行って参りますと報告をして食道に向かった。
この職場の良いところはチェーン店が多くあるにも関わらず本店は食堂があるところだ。
ワンコインで食べられるのも魅力である。
今日はオムライスの気分だと思いロッカーに財布を取りに行く、するとまた携帯が鳴った。
少しチラ見をするとマッチングアプリのアイコンに58件と出ていた。
そんなに貯まっているのかと思っていたらLINEにも着信があった。
LINEに来ることは珍しいなと思い開けると美晴からだった。
「柚木~あのさ~今度のランチなんだけどここどう?ここだったら桜も一緒にご飯食べられると思うんだよね~。」
と書かれていた。子供がいると確かにランチでも場所選びが大変なのは聞いたことがある。
私は一緒に送られてきたURLをクリックして美晴の家の近くであることも確認して、いいよと返事を返した。例えそこが私の家から一時間以上かかる場所でも美晴の方が私よりも移動は大変なのだから仕方が無い。ただ私の頭に次に浮かんだのが電車賃だった。
財布を取って携帯で検索しながら食堂に向かう。
オムライスを食べ少し気分的に甘い物も食べたくなったのでプリンもついでに頼んだ。
お盆に乗せて私は窓際に行く。窓際はカウンターのようになっており、一人になりたいときに使用している。
お盆を置いて、携帯の画面を開きマッチングアプリのメールを開いた。左側にはそれぞれのアイコンと共に登録したときのニックネームが表示されている。
上から順に見ていくと殆どが朝の「おはよう」の挨拶だった。私は沢山並んでいるその言葉達を見ながらふと少し前の事を思い出した。
私がマッチングアプリを始めたのが、友人の結婚式の二次会の後。
あのときは25歳で少しまだ可愛いドレスに身を包み参加した。
メイクもそれなりに可愛い感じのメイクにしていた。
友人は看護師をやっていたのもあり、同じテーブルには私よりも若い子が多く、職場の話で盛り上がっており全く話すことは出来なかった。
ただ、二次会ならお医者さんとの出会いもあるだろう。と少し期待も含めて参加した。
新郎新婦の軽い挨拶をした後に新婦は休憩しにホテルに戻るといい、新郎だけが会場に残り新郎の友人であり進行係の明るい感じで少し明るさを前面に売りに出してる感じの子がマイク片手に「本当におめでとー!」とお酒で呂律が回らず真っ赤な顔して叫んでいた。
私は、とりあえず周りを見渡してみた。
新郎はまだひよことは言え医者であり、いい人が居るかなと思い見てみてももうそっちはそっちでグループに分かれて盛り上がっていた。
一人ぽつんと立っていると、一人の男性が近づいてきて
「新婦の友人ちゃんだよね?可愛いね~今いくつなの?」
「25です」
「あ~もうアラサーなんだね!おばさんの域だよね!結婚はしてるの?」
「してません。」
「彼氏は?」
「居ません」
「そうなの~?こんなに可愛いのに!このままだと年齢だけいって可愛いは若い子に取られるから何も肩書き無くなるよ~寂しいよ~」
と絡まれた。何だこの人と思うも新郎の友人だろうと思い新郎の顔をちらっと見たら酒を飲みながら絡まれてる私のことをとても面白い物でも見たような感じで大笑いしていた。
何が面白いのか私にはさっぱり理解が出来なかったが、この新郎は今日皆の前で誓った妻の友人に自分の友人が失礼なことを言っていることに対して何も咎めることも無く、むしろそれに乗っかるガキなんだと知った。
この場所にはアホしか居ないのかと思いその場をすぐに後にした。
友人からLINEで
「今日は結婚式来てくれて本当に有り難う!とてもドレス似合ってたよ!髪型も本当に可愛かった!柚木が来てくれて本当に嬉しかったし、さっき旦那も柚木が一番可愛いって話をしてたんだ~」
と来た。
絶対社交辞令だっていうのは分かっていた。なぜなら先程の二次会で散々侮辱を受けたからだ。
結婚式の引き出物を出していると、二つの赤と青のマグカップが入っており裏にはそれぞれハートの片方だけが印字されていた。
今時こんな引き出物あるんだと思い食器棚にすぐにしまい、ドレスを脱いですぐに返却が出来るように段ボールに詰めた。
一通り、返却準備が出来たのでお風呂に入り今日の出来事について忘れようとした。
だが、お風呂から上がっても怒りは収まらず、冷蔵庫からお酒を取り出して缶の口を開けプシュという空気が抜ける音と共に缶を開けた。
これでもかっていうくらいグビグビ飲んで、一息ついた。
飲んで暫くすると頭がホワ~としてきた。
さっきまでの怒りは少し和らいだが彼氏が居ない事に再び気がついた。
そんな時にふと思いついたのがマッチングアプリだった。
恋愛なんてほぼ経験なんて無いに近い。学生時代にはそれなりに恋愛は経験してきたが、正直本気で好きかなんて分からなかった。好きという感情は分かってもそれ以上は分からない。その人とどうなりたいかなんて未だに分からない。
学生時代に付き合っていた彼氏がキスをしてきたとき、彼氏は凄くドキドキするね。
なんて言っていたが、私はいつも友人達と過ごす学校の誰も居なくなった放課後の教室でいつもと違う状況にドキドキしただけで、キスをされたことにドキドキしたのかは分からなかった。
手を繋いでも同じだった。放課後の帰り道に一緒に帰宅していると当時の彼氏が急に手を繋いできた。
少し汗ばんだ少し皮膚が硬くてガサガサした大きな手が少し冷え性のひんやりした私の手を包み込んだ時、ふと彼氏の顔をみると少し緊張した顔をしていた。
私は放課後に誰に見られるか分からない状況でこのような体験をしている事にドキドキした。
そんな日々を過ごしていると、美晴が教室で
「彼のどこが好きなの~?」
と聞いてきた。私は言葉に詰まった。彼と付き合っているが彼の性格が分からなかったから。優しい、笑顔それが理由で付き合ってると言っても良いのだろうか。
正直そこが好きなの?と聞かれても違うが答えで、なんでこの人じゃ無くては駄目なのかなんて考えた事が無かった。
私にとって今まで一緒に過ごしてきて嫌悪感が少ない特にキスをされても手を繋いできても嫌だとは思わず、彼がそれに照れながらスキンシップしてきていることを傍観している感じだった。
「私を好きなところかな?」
と無難な答えを貼り付けた笑顔で答えると周りで聞いていたクラスの女子達が一斉にきゃーと叫び次々に愛されるっていいね~と私もそんな彼氏が欲しいと言っていた。
私のその恋愛は数ヶ月で終わった。
理由はキス以上の事を求められたからだ。彼が今日は親が家に居ないから家でDVDを観ようと言いだし、私は何も考えずにその言葉に従った。
映画を観ている最中に彼が手を握ってきた。いつもの事だから私も握り返した。
すると彼がテレビでは無く私の顔をジッと見つめてきた。
いつもと何か違うことにこの時私はなんとなく分かっていたが、ただ私を真っ直ぐ見る彼を見つめ返した。
彼が顔を近づけてきたので私は目を瞑り、彼がいつものようにキスをしてくるのを受け止めていたが、途中から彼の手が私の身体を触り始めた。
ビックリして目を開けたが彼はただ私を見つめながら反応を見ているようだった。
とうとうワイシャツの中に彼の手が入ってきた時に
「やめて!」
という声が聞こえた。
びっくりして手を引っ込める彼とその声が私であることに驚く私。そして耳にはテレビから流れてくる音楽が聞こえてきた。
その後はただただ気まずく彼はごめんと言いながらびっくりしたよね?と微妙な笑顔を見せながら離れた。
私は、初めて男性に性的に見られているという事を実感したことで、生まれて初めて嫌悪感を感じた。
その後から彼がキスや手を繋いできても男と女であるという事が、漠然と伝わってきて少しずつ触れられることが苦痛に変わってきた。
私はこのときから彼に嫌悪感を抱いていたのだ。
それから間もなく彼から別れを告げられた。私はただ頷くだけだった。
「少しの間だったけれども幸せの時間を有り難う」
別れの言葉の最後に言われた言葉が今でも忘れられない。私は彼と過ごした日々は幸せだったのだろうか。幸せとはなんだろうか?
その恋愛から他にも沢山嫌悪感を感じない人と付き合ってきたがどの人も一線を越えることは無かった。
ただ25の歳になり、周囲が結婚していく中で孤独という文字が私の頭の中に浮かんだ。
嫌悪感よりも孤独の方が私には耐えられそうに無かった。
そこでこんな私でももしかしたら受け入れてくれるのではと始めたのがマッチングアプリだった。
バイト先でも出会いが無い私には画面上でのやり取りで、自分が合わないと思えばそのまま自然消滅出来るこのアプリは最適だった。
最初の登録はただ個人情報仕事が年齢や名前はニックネームや本名以外を使う人が多い。
写真はどうしよう。今パーティーから帰ってきた顔だから少し崩れているとは言え少しお酒が入っているのもあって、少し可愛いワンピースを着て少しメイク直しをして自撮りを撮った。
登録し始めはひっきりなしにマッチした連絡が入る。
私は一人一人プロフィールを確認しながら選んだ。
様々な内容の自己紹介を読んで思うのが、誰を選べば良いのかだった。
私は今までの恋愛は会っての雰囲気で決めていた。どうしようと悩みながら、何となくの雰囲気の好みで振り分けていた。この人達の顔だけじゃ分からないからこそ、話してみたくてもプロフィールを書いている人も居れば顔を暈かしていて全く分からない人も居る。また、家族の誰かに誘われてという明らかに嘘を書いている人も居た。中には既婚者もそんざいしていたのは驚いた。妻公認です。と堂々と書いてあった。私は確かに恋愛が出来る人を探すたにアプリを始めのだがなかなか苦戦していた。好きなタイプなどがあれば楽なのかもしれない。
私がなぜこんなにも無頓着なのか、私にも分からない。
友人達のように誰かを好きになり、その人と家庭を築いていく事に私は想像も出来ないのだ。
恋愛はいつだって私にとっては友情と変わらなかった。異性としてその人を性としての対象で見ることが出来ない。
そんな事を思いながらマッチングアプリを開く、沢山メッセージが来ていて一人一人に返していく。
このアプリは人によってだが、積極的に会おうというタイプと何度も連絡をとるタイプに分かれていた。また一番多いのが仕事帰りでいいから少し会おうだった。
初めて会う人と一対一で夜遅くに会うことに私は警戒感を抱いていた。
大体そういう男は真剣な出会いよりも一期一会を大切にしているのだろう。
オムライスを食べながら私は一つ一つ未読になっているメッセージを読んでいった。
「愛ちゃん何してるの?」
「仕事中です(^^)」
「愛、今度飯食べに行こう」
「ここ最近多忙なので時間が合えたら是非一緒にご飯食べに行きましょう」
「愛ちゃん!今日買い物に行ったんだけど愛ちゃんに似合いそうなのがあったから今度一緒に買い物行こうよ!」
「私に似合う物があったんですか?それは見てみたいです!教えてくださってありがとうございます!是非!」
こんなのが延々に続く。中には仕事についてしつこく聞いてくる人もいる。
アルバイトである事もどんな仕事かもごまかしながら私は演じて書いている。
理由は以前アルバイトである事を伝えると何故その歳でアルバイトなのか、また返事が来ない事も多々あった。
人によっては特に気にしないという人も居るが、恋愛感情が分からないとは言えそういう行動は少し傷つく。最初は本当に友人の結婚式で言われたことが気になって始めたのが今では、チャットでのやり取りで行うから恋愛感情は生まれなかった。しかし、一人一人話してみて会話のやり取りが人によって違うのが面白くて気がついたら夢中になった。
しかし、私はあまりにも深く入ってくるのが嫌なので職業の欄には接客業としか記入していないし、名前も偽名である。本名は安藤柚木だが何故かニックネームは愛にしてみた。今までやり取りをした人で私の本名を知る人は居ない。多分この先本名なんてここに居る人達には明かす事は無いと思う。
またマッチングするためにイイネ!ボタンがあるのだが、かなりの率で若い男の子で接客業と書いている人はホストの人が多い。
ホストに対して抵抗があるわけでは無いが以前マッチングした時に、途中から営業か?と思ったら
「一回お店に来て僕の接客している姿を見て欲しい!愛ちゃんが来てくれたらいつもより仕事が頑張れそうなんだ!」
と言われてこれは客引きしてるのかと思ってメッセージを取るのを止めた。中には本当に出会いを探している人も居ると思うが、私は今のところ出会ったことが無い。
また、職業欄が空欄なのに収入がそれなりにある、または新宿辺りによく出没するとプロフィールに書いてあって接客業は大体ホストであった。
マッチングアプリも様々で物によって年齢層も違ったり、本当にその人なのかという確認が厳しいものもあった。
ただ、共通しているのは男性が有料である事。一ヶ月無料もあるようだがメッセージを交わしている男性があるときにもうそろそろ更新期間になってしまって退会しようと思っていると言っていて聞いたら一ヶ月単位で料金が発生し、それをしないとメッセージが見れないようになっているらしい。
ここには男女差別を感じた。男性の中でも、マッチングした女性とお会いしたら宗教の勧誘で名前を書いて欲しいと言われたや写真とは全く違くてかなり加工されていて待ち合わせ場所に居ても全然気づかなかった。などもあったらしい。
見えない相手にするわけだからリスクはあるが両方無料にして本人確認を必須にすればいいのにと思ってしまう。
また営業や失礼な人だなとか出会って全く違った人や宗教勧誘に関して通報ボタンがあれば良いのにと思ってしまう。
通報が多ければその人のアカウントが停止し、二度と利用できなくなれば良いのにと思ってしまう。
そんな事を思いながらオムライスが食べ終わったので、プリンに手を掛けた。
ここのプリンは職場の近所の老舗の甘味処で作られているらしく、そこの社長の奥様と縁があって数量限定だがプリンを何個か持ってきて食堂で売られている。
とてもプリンの卵の所が優しくしかしズッシリ感がある凝縮したコシのあり、味も優しいのに優しすぎずしっかり味が主張されていた。またカラメルはコンビニのプリンと違ってさらっとしていなく、キャラメルに近い程しっかりしており味はとても甘い。
このプリンがとても好きだが値段が高い。一個600円するのだが今日のような少し憂鬱な時には気分を上げて良い日に無理矢理持って行くには食べるしかない。
一旦マッチングアプリの返信が落ち着いた頃に、今度友人の結婚式に着ていくドレスを選ぶことにした。
今はインターネット一つで全てを揃えることが出来るのだが色がとても悩む。30になるとピンクは躊躇してしまう。二十代半ばくらいなら可愛いが、30になるともう少しくすんだピンクにしないと派手にそして若作りしていると周囲に思われて浮いてしまう。
しかし、インターネットの写真は明るすぎて色がハッキリ分からないのが難点である。
ただ、オレンジも茶色っぽい色であったらそれも老けて見えてしまう。
悩みながらスマホをスクロールしていくと休憩の時間がそろそろ終わりに近づいていた。
スマホの電源を一旦オフにしてロッカー部屋に戻るために、食器とお盆を返却窓口の所に置いた。
「ごちそうさまでした」
とか細い声で言うと
「はいよ!午後も頑張ってね!」
と食堂のおばちゃんがいつものように笑顔で答えてくれた。一人暮らしをして毎日部屋は静かだからこういう会話も嬉しい。
ロッカー部屋に戻ると財布を鞄に閉まって歯ブラシを出し洗面所に向かう。歯磨きをしながら自分の顔を見てみる。
今日はまだ五時間残ってる。毎日ご飯休憩が終わるときに数えてしまう。後何時間ここに居なくてはいけないのか。別にこのバイトが嫌いでは無いし、働かないといけないことくらい分かっているのにいつも何故か考えてしまう。
歯磨きが終わるとロッカーに荷物を閉まって鍵を閉めてそのロッカーの鍵をポケットにしまった。
「戻りました。」
一人一人に挨拶をする。こうすることで誰が今このフロアに居て誰が今抜けているのか分かりやすくする。仕事場に戻りまず周囲を確認し今何をしていこうか考える。
在庫管理は他のアルバイトの子がやってくれていた。そしたら私が行うのは、お客さんが殆どいなかったので違う階のハンガーやカゴをそれぞれの階に返却しに行くことにした。全部で八階ある建物で売り場として使われているのが六階までで、七階は事務所で八階はイベントが行われる場所だ。ハンガーやカゴにはそれぞれ階のシールが貼られているそれを見ながらその階に運んでいく。レジにさりげなく近づきそっとカゴを置きハンガーが纏められている所に置いていく。
それが終われば一階まで非常用の階段で降りてくる。緊急な用で無ければ基本はお客様と同じエスカレーターやエレベーターを使用することは無い。
一階に降りてきてチラッとレジを見たが誰も会計はしていなかった。試着室も誰も使用している感じでは無かったが、試着室にゴミや忘れ物が無いか確認のために試着室の中を確認すると、試着するためにメイクが服に付かないように頭に被って貰うシートが落ちていた。それを拾い他にゴミが無いことを確認してカーテンを綺麗に端に纏めてレジに向かった。
レジの所にあるゴミ箱に試着室で拾ったゴミを捨てた後に私は領収書の紙がどこまで残っているのかを確認した。まだ残っていたが新しく印を押して増やしておくのも良いかと判断し、株式会社のサイン等の判子を引き出しから出して押していく。少し慎重にして押さないと上下が逆さまに押してしまう事があるので少し苦手の作業である。
このバイトに入ってすぐにこの仕事を任された時に何度か紙を無駄にしてしまい、先輩に凄く怒られた。好きで失敗したわけでは無いのに相当怒られて家に帰ってから半ギレでビールを三缶開けた事がある。
領収書を押し続けていると前に人の気配を感じた。
ショートカットで顔が少し幼く私より少し年下に見える子が少し緊張気味で
「あの、私来年から学校の体操の先生になるんです。・・・それで、あの・・・どんなジャージを買ったら良いのか分からなくて・・・。」
一緒に選んで欲しいとのことか。私はチラッと横に居た正社員の顔を伺うと正社員は宜しくという顔をしてパソコンで何かをまた打ち始めた。私は、貼り付けた笑顔で
「かしこまりました!どういう色のをお求めですか?」
とそう答えると今していた作業をさりげなく片付けて引き出しに戻した。
来年から高校の体育教師になる彼女は黒髪で短髪で活発に見える一方で少し猫背で自信が無いことが凄く分かる雰囲気であった。
「一応学校からは地味な色でと言われているんです。だからオレンジとかピンクとかは駄目なんです。後は薄めの物が良くて出来れば動きやすい伸びるタイプのパンツが良いです。」
聞きながら店内を案内していく。
私が見ていてこの若い先生は明るい色にした方がいいなと思いながら見ていた。
スポーツウェアがある所に案内しつつ合う服を探すすると、淡い紺色だけど水色の雷模様が斜めに大きく左胸から右腰にかけて入っていて襟元も水色が入っているウェアが目に止まった。この服なら派手でも無いが水色が入っていることで印象が少し明るく見えて爽やかさも見せることが出来るなと判断した。そのウェアを持ち彼女に見せようとすると
「やっぱりこういうグレー一色の方が無難なんでしょうか?」
と明るいグレーにロゴが左胸の所に小さくピンク色で入っているウェアを見せてきた。
正直それは普通にランニングするには良いかもしれないがあくまで教員という立場で彼女より若くて元気がある子供達の前にするには地味すぎる。しかし、お客様が選んだ商品だ。決して否定などしてはいけない。そう貼り付けた笑顔で対応しつつ必死に頭の中でどう答えるか考えた。
「お客様の仰る通り学校からの規定を考慮なさいますとそちらのウェアも清潔感があり素敵だと思います。またこちらにありますウェアは紺色で一見クールに思われがちですが、水色が入っていることによってフレッシュさも感じられるかと思います。一度両方のウェアをご試着なさいますか?」
と指を揃えた手の平で試着室を指す。すると
「もし良ければ試着させてください。」
と照れながら若先生は答えた。
試着室に若先生が入る時ハンガーからウェアを取って試着しやすいようにチャックも開けて待機する。若先生が靴を揃えて試着の準備が出来たのを見計らって両方のウェアを渡し
「それではカーテンを閉めさせていただきます。近くに待機しておりますので、何かありましたらいつでもお声かけください。」
と言った後に端に纏めておいたカーテンを閉めた。
その後は着替えているうちに他のウェアも探しておく。万が一今渡した商品が気に入らなかった場合に備えて類似しているが少し明るいワインレッドが主の黒のウェアやまだ若いのだからピンクが入った物も似合うだろうと試着室を気にしつつも商品を手に取りながら選んでいく。少し経過すると紺のパンツを履いて上のジャケットを必死に悩みながらカーテンを恐る恐る開いて若先生が顔を出した。
「こちらの紺のジャージとグレーどう思いますか?」
「はい、率直にもう上げますとグレーだと少し地味に感じるかと思います。髪型がボーイッシュである為紺のジャージの方がスタイルも含めましてとてもお似合いかと。」
と素直に述べた。彼女は本当に顔が小さくスタイルが良かった。正直グレーだとそのスタイルを殺してしまい野暮ったい感じになってしまって凄く勿体ない。
「他にもウェアを用意させていただきましたが、やはりお客様の雰囲気も含めまして初めて沢山の生徒様達の前に立つのであれば爽やかな印象の方が親しみやすく子供達の輪に入りやすいかと思われます。」
素直に思った事を述べていると彼女の顔が最初来店した時は不安でいっぱいだったのが、少しずつ自信を取り戻し少し笑みが出てきた。
「私ずっと教員になりたくてでも実際採用された時に凄く不安だったんです。若い子達の輪に入っていけるのかなとか、後はなめられたりしないかなって。でもこの紺色のジャージを着たときに少し気持ちが引き締まった気がして・・・。うん、決めた私これ着て頑張りたいです!」
とキラキラした希望に満ちた笑顔で若先生は鏡に向かってきっと半分自分に言い聞かせているように答えた。私は
「かしこまりました。それではそちらのグレーのジャージをお預かりいたします。また本日は他に購入または他の階でご覧になられたい商品はございますか?」
「いえ!今日はこのジャージだけを購入します!」
そう言いながら少し紺のジャージを羽織りながら彼女は少し鏡を見ながら身体を半回転させたりしてスタイルを確認していた。
グレーのジャージを受け取ると
「それでは一度カーテンを閉めさせていただきます。」
と言い静かにカーテンを閉めて急いでジャージをハンガーに掛け直し、商品を元の場所に戻した。戻して試着室に着いたと同時に若先生は私服に着替えて試着室から出てきた。
「お疲れ様でした」
と言いながら出迎える。
「私今日本当にここに来て良かった。私本当に毎日不安で実は先日友人に泣きながら相談していたんです。私本当にやっていけるのかなって。私が高校生の時って若い先生って先生というよりも友達感覚だったなって。でも学校側からは生徒の指導者として怪我をさせてはいけないという重要な責任感を持って体育は特に命に関わる事もあること。なので生徒達に甘く見られないようにしっかりとした気持ちで授業を行うこと。って何度も言われているうちに不安になって居たんです。でも今日買い物に来て、あまりにも緊張しすぎてしまえば周囲が見えなくなって余計に良くないし、それに初めて会う子達に爽やかな先生の方が仲良く出来て他の先生のようには最初は出来なくてもまずその子達の輪に入って行くことで少しは指導も含めてやりやすいかもって思えるようになりました!」
そう言うと会計の所に向かった。私もその話を頷きながら聞き若先生の後ろに着きながらレジの方へ向かう。
レジに着くと若先生の後ろを通ってレジのカウンターの中に入る。するとそれをパソコンを操作していた正社員の遠藤さんが気がついて無表情だったのが急に笑顔になり、普段会話をする何倍もの高い音で
「いらっしゃいませ!商品お預かりいたします!」
と接客を始めた。ウェアについているタグをレジのバーコードを読み取る機械で読み取り、タグの下半分が切り取りが出来るようになっているので切りレジ横にある小さい缶に入れた。
この半タグは商品が売れた事で売り場に残っていないから在庫部屋から商品を出さなくてはいけないという証拠である。
そしてウェアのチャックを閉めて服を畳んでパンツも畳んで会社のマークが入った袋に入れる。
その間に若先生は会計を済ませていた。
「出口までお持ちいたします。」
と出口に向かって指を揃えた手のひらで案内すると
「ありがとうございました。」と正社員の遠藤さんに向かってお辞儀しながら若先生は着いてきた。
出口の玄関に着いたときに若先生に袋を渡しながら
「本日はお越しくださいまして誠にありがとうございました。微力ではありますがお客様が生徒様達と楽しくかつ充実した生活が送れます事を心より応援しております。また何かありましたら、いつでもお立ち寄りくださいませ。」
と伝えると若先生はありがとうございます!と入ってきた時とは全くの別人のように背筋がピンと伸びて笑顔で答えて去って行った。
私は若先生が去る後ろ姿を見て少しう羨ましくなった。このバイトをして思うのはお客それぞれの服を一緒に選ぶことはとても楽しく私には合っているが、この仕事がキラキラしていて今の私の生活が充実してるかと聞かれたらそうでは無い。正直、あんな風にこれから冒険に出かけるようなワクワクするような事は今の所全く無く、少しでも時間を見れば今日は一万は稼げたと計算してる。正社員になれば固定の給料が貰えるし賞与もバイトよりは貰えるが私にはバイトの身の方が合っていた。理由は縛られていたくないから。いつかここから飛び出して何か見つけられるんじゃないかと思ってる。そのときにはきっと誰かを想う気持ちも少しは理解できているんじゃないかとも。
私は少し快晴の暑いまだ六月なのに真夏のような空を見ながら考えていた。
「安藤さん、時間だからあがって~」
と責任者が私に声を掛けてきた。やりかけていた仕事があったが急ぐ内容でも無かった為明日に回すとして在庫部屋に一旦置いて同じフロアで働く人達全員に
「お先に失礼いたします。」
と声を掛けてそれぞれお疲れ様でした!とか安藤さん今度最後まで居るときに恋愛相談乗ってくださいね!とそれぞれ違う返事を貰いながら退勤ボタンを押した。
ロッカーまで続く所に警備員の斉藤さんが居たので
「斉藤さん、お先に失礼します!」
と声を掛けると、白髪のもう50半ばの警備服を着た真剣な顔をしている時は無愛想に見える顔が声を掛けた事によって一気に柔らかい顔になって、孫でも会いに来たのかというぐらいに優しい顔をしながら
「柚ちゃん今日もお疲れ様~気をつけて帰るんだよ~」
と言ってきた。斉藤さんとは仲が良く、斉藤さんのお孫さんと年齢が同じであるからか凄く気に入られている自信はある。
「ありがとうございます!斉藤さんまた明日です!」
と私も祖父に話しかけているような感じで答えた。
ロッカーに行きとりあえず首から掛けている社員証を外すそこには名前と個人のバーコードが印刷されている。
それをロッカーの開けて扉の所に100均のフックマグネットに掛けて制服であるジャージを脱いでいく。靴下も沢山動いて汗の臭いがしていて気になったからロッカーの方にパンプキンの絵柄の袋から新しい靴下を出して履き変えて今履いていた靴下は鞄に入れてあるビニール袋に入れて鞄に閉まった。私服に着替えると忘れ物が無いか確認した上でロッカーを閉めて鍵を刺したまま下駄箱に向かう。
外に出るとまだ明るく今日の夕飯はどうしようか悩む。実家暮らしの時は一人暮らしを始めたら嫌でも料理を作るから料理上手になると思っていた。ただ実際一人暮らしが始まるとそんなことは初めの頃だけで段々と食器を洗うのが面倒になってきて料理というのをしなくなった。後一番の理由はそこまで食費にお金をかけられないのもある。段々光熱費や電気代が値上がりしており、油や野菜も値上がりしていくのに給料は全く変わらない。その中でやりくりしていくのに食費をまず節約していかないと生活が成り立たないのである。
スーパーで安売りになっていないか見てから帰ろうと思い職場の最寄り駅である神保町の改札に向かう。職場から神保町の駅までには沢山の古本屋さんがある。少し古風な店構えが多いがその本をまだ手に取った事は無い。理由は表紙や題名からして少し専門的な内容に思えたからだ。でもその通りを夕方に通るのは凄く好きだ。夕日に照らされた古い本達が少し時代を感じる紙が淡いオレンジの色が入り少しレトロ感が増して癒やされるからだ。その雰囲気を眺めつついつものように改札に向かった。
自宅付近のスーパーは安いで有名でタイムセールもやってくれるからどんな時間に行っても人が多い。その中を掻い潜って買い物をしなくてはいけない。
最近はナスやトマトも値上がりをしている。いろんな物を見ながら定番のもやしをカゴに入れた。私が節約するのに一番する料理が野菜炒めと豆腐もしくはもやしと豆腐にポン酢を付けて食べる料理である。
にんじんをカゴに入れながらキャベツをチラッと見るが一人暮らしの人間には少し千切りをするのが面倒だなと思ってしまい少し躊躇してしまい朝もどうせ袋から直接食べるから良いかとキャベツが千切りされている袋を二袋くらいカゴに入れてしまった。
きっと女子力が高い子や料理が好きな子はきっとスーパーもキラキラに見えて買い物が楽しいのかもしれないが私は面倒という気持ちが先に来てしまってスーパーに来てもキラキラに見えた事なんて無い。いつかは私も誰かに恋をすれば誰かの為にご飯を作ったり、誰かの事を想って買い物に来たりするのだろうか。私は少しそんな日が来たら良いのにと少し近くの主婦を見ながら少し羨ましく感じた。
他に買いたい物で少し足が止まったのは明太子だった。今日は若先生に出会った事もあって少しだけ私も刺激を味わいたかった。じゃこも買おう。ご飯をレンジで温めて食べられるのがまだ家に沢山あるからそれに明太子とじゃこで一緒に食べよう。豚肉も安いから買うかなんて色々見て回る。
買い物が一通り終わり長くスーパーに居たわけでは無いのに空が暗くなっていた。
少しチラッと携帯を見たら20件溜まっていた。帰ったらまた返事を返さないといけないのか。少しだけ苦痛に感じる時もあるが、このアプリを通して私が望む人に出会えるのか分からないが少しでも私が未来に希望を持ちたいと今日はそう若先生に刺激されたからかスーパーで人の為に家族のために買い物に来ている人達を羨ましく思ったからか今日はいつもと違って少しそんな気持ちになった。
駅から歩いて10分の所にある建設当初はきっと綺麗な水色だったのが今では風化されて色が褪せて白っぽい所も出てきて水色なのか白が水色に見えるのかというくらいになっているアパートが私が住んでいるところである。
アパートが少し見えて来たので鞄を少し開けて鍵の位置を確認する。
アパートに近づきながら帰ったらまずお風呂に入ろうかご飯にしようかそれともビールかをずっと考えていた。だが玄関の前に立った時には汗のべたつきが酷くこれはシャワーを浴びた方が良いという考えに完全に変わっていた。
お風呂から出て私はテレビを付けた。テレビでは駅弁の特集がやっていた。
どうも新宿でご当地の駅弁が売られているらしく注目されているようだ。
私はそれを横目で見ながら、化粧導入液を付けた。お風呂から上がればこの私のような年齢は乾燥との戦いである。ビタミン液を付けてレチノール、化粧水は四つ夜は付けている。
人によってはあまり種類は増やすのは良くないというけれども私はどの化粧水が合うのか分からないからとにかく試している。
美容液も付けた後は乳液とにかくここまで擦らない、押し込む精神で私は気をつけている。
また美白保湿クリーム、保湿クリーム、最後にアイクリームを塗った。
正直毎日この流れは疲れるし何度止めようか考えたけれども、この年齢になると妥協をするということが凄く勇気がいる。
ここまで保湿が終わると、グ~~~~~とお腹が鳴った。
「お腹すいた。ご飯食べよう」
今日は暑かったからポン酢と豆腐と上からもやし。
それと一緒にご飯を電子レンジで温めてホカホカになったご飯にしらすと明太子を乗せて上からキャベツと韓国のりを少し乗せた。
今日はこんな感じでいいかと思い最後に冷蔵庫からビールを出して、私はテレビ前にある小さい白いテーブルに夕飯を置いた。
テレビを見ながら一人で食べる生活はもう慣れた。それこそ一人暮らしを始めた頃は寂しくて泣きながら食べていたこともあったし、バイトで酷く怒られてきた時もここで一人で泣きながらご飯を食べた。
ビールをカシュッといい音をさせながら開けて、グビグビ飲んでいく。
この時間が解放感でいっぱいだ!なんて贅沢なんだ!と思いながらご飯を食べる。明太子を最初に口の中に入れるとピリッとした後にくるたらこの美味しさに韓国のりの塩も最高に合う。ご飯が進み少しお風呂上がり直後もあるためひんやりした物が食べたくなって、ポン酢のもやし豆腐を一口食べてみる。これはほぼ毎日食べている食べ物なのに、今日は何故か全てが特別な食事でも食べているかのように味が輝いていた。
そんな優雅な癒やし時を遮ったのは、マッチングアプリだった。
「愛ちゃん今何してる?」
「愛ちゃん今度電話しようよ~」
「愛さんの好きなタイプが知りたいです。」
沢山入ってきた。そういえば沢山溜まっていたんだった。沢山入ってくる割には意外と皆質問が同じ事もあってメッセージ上でのやりとりで相手の事を知ろうと思うとこういうやり方なのかと何故か第三者の感覚で見てしまう。
また返事ついでにイイネのマッチングかどうかを分ける。
沢山来ていて一人一人見ていく。
その中に一人気になる人が居た。他の人はマスクをしていたり加工をしていたりモザイクで隠している人も居たがその人は雰囲気も含めて少し不思議な人だった。
その人の仕事は画家だった。今まで出会った事が無い職業に私は興味をそそられた。
年齢は私より3歳年上で少しプロフィールも謎だった。
「はじめまして、シンと申します。職業は芸術系です。人見知りがあったりしますが、いつも周りからは時が良く止まると言われています。正直僕の中で時が止まる感覚は味わったことが無いので未だに理解していませんが一つのことに色々考えて空回りして一人で頭を抱えてるタイプです。沢山の人と出会うというよりも少人数で沢山お話が出来ればいいなとそういう出会いがあれば良いなと思っております。まとまりが無く、思った事をそのまま書いてしまったのですが、何か写真やプロフィールに興味がおありになりましたらイイネを押してください。」と書かれていた。
一見真面目なプロフィールだが、時が止まるとは何か。またそれを書いて何が言いたかったのか私は気になってしまった。
ただの興味方位でその人と私はマッチングした。
私は他にも有り難いことに沢山イイネをくれた人達を見ながら、ビールを飲んだ。
冷蔵庫から出して時間が経ったビールは少し苦みが増していた。
気がついたらカーテンからまた朝日が差し込んでいた。
私はメッセージを返しているうちに寝てしまったようだった。
時間をチラッと見ると今日は遅番だったのでまだ全然眠れる。
いつもの早番と同じ時間に起きてしまった。
どうしようかなと悩みながらスマホの充電をせずに寝たことを思い出して急いで充電をする。
携帯の充電は一桁まで減っていた。バイトの時間まで間に合うといいのだが。
そんなことを考えて私は顔を洗いに洗面所に向かう。顔を洗おうとしてピンで前髪を両端に止める。そして少しぬるま湯で顔を濡らした後は泡が出てくるタイプの洗面石けんのポンプを3プッシュした。
それを手のひらで優しく伸ばし、頬から泡で包み込むように顔を洗っていく。小鼻の横や眉毛や皮脂が集まりそうな所は指先で優しく撫でるようにして顔を洗う。
遅番の時はいつもより朝時間を掛けることが出来るので少しでも昨日の適当な洗顔を無かったことに出来るように必死に気遣う。
洗顔が終わったらティッシュで顔を拭く。昔はタオルで拭いていたが、ある美容系のユーチューバーが洗顔後はタオルよりティッシュの方が良いと言っていたのを聞いて少し勿体ない感じもあったが、ニキビやくすみが無くなるならと信じて行っている。
その後は、化粧水導入液や化粧水、美容液を付け乳液を付けて化粧をする準備を始めた。
少しいつもより丁寧に化粧をした後に、テレビでいろんなトレンド特集をしていたので何気ない気持ちで観ていた。
「若い子達に今はやっているファッションなんです~!!」
と言って男のアナウンサーが元気いっぱいのような様子で盛り上げようとしている。
「ここは原宿で今の若い子達にはこのモコモコのベストがとても流行していて何にでも合うんです!」
「最近こういうの流行してるんだ~何にでも合うっていうけど少し難しそう。」
一人暮らしあるあるかもしれないが私はかなりテレビと会話してしまう癖がある。
するとまたあの男のアナウンサーが大きい声で
「そして何より!この帽子です!これは本当に人気でフードにもなりますし、被ると赤ちゃんみたいになるという所からとても可愛いと評判なんです!」
最近のトレンドは少し押さえておかないとスポーツ系とは言えお客様に紹介するときにその人のファッションとかでその人の傾向とかも知ればそれに沿えた商品を紹介出来る。
私はなるほどな~と思いながら観ていた。
ご飯を軽く食べていこうか少し早めに行って食道でご飯を朝と昼を兼用で食べようか悩んだ。
私はそんなことを思いながらマッチングアプリを開いた。すると昨日気になった画家から連絡が来ていた。
「はじめまして。イイネ有り難うございました。」
私は少し興味がそそられた。すぐに
「こちらこそ、メッセージありがとうございます!お話ししてみたいと思っていたのでとても嬉しいです!」と送った。
するとまたピコンとスマホが鳴った。
「僕もお話ししたいと思っていたので凄く嬉しいです。僕の名前はシンといいます。シンと呼んで貰えたら凄く嬉しいです。」
「返信有り難うございます。シンさんですね!私の事は愛と呼んでください!」
「愛さんですね!今日はこれからお仕事ですか?」
「そうです!遅番なのに早く起きてしまってゆっくり用意している所です。シンさんは確か画家さんでしたよね?どういうのを描かれているのですか?」
ここまで書いた後に私はそろそろ出発して仕事が始まるまでに食堂でゆっくり過ごそうと考えた。スマホの充電は70パーセントまでは回復していた。これくらいならなんとか帰りまでは大丈夫だろうと思いスマホを節約モードに切り替えて鞄の中に仕舞った。
私は、服を着替えてテレビを消して忘れ物が無いかチェックした上で玄関まで行き出勤した。
職場に着くと私はロッカーに荷物を置いて財布と携帯と職員証明を首から提げて私服のままで食堂に早足で向かう。来る途中からお腹がすいて電車の中でもグーグーお腹の虫が鳴いていて恥ずかしかった。
食券を買おうと選んでいると今日はハンバーグが食べたくなったので和風ハンバーグ定食を選んだ。
食堂のおばさんに食券を渡し私はハンバーグが来るまではスマホを見ていた。
マッチングアプリを開くとあの画家から連絡が来ていた。
「僕は白い大きなキャンパスにその時の感情を絵や柄で表現しています。」
と書いてあった。少し想像は困難だが、少し面白そうな職業だなと思った。
「いつか見てみたいです。私は今職場の食堂に早めに来て今日は和風ハンバーグを食べようと思っています。シンさんは今日のお昼は何を食べられる予定ですか??」
と送った時に和風ハンバーグが私の目の前に出てきた。
そのハンバーグをお盆に乗せていつものカウンターの席に座った。
肉汁がたっぷりで美味しそうな匂いがお腹の空腹をさらに煽った。
私は、それを味わいながら食べて一緒に付いてきたお味噌汁も一緒に飲んだ。ここのお味噌汁は東京の味と言うより関西よりなのか塩辛くなくて素材の味がしっかり出ていて優しい味であった。
一人暮らしをしていた私はいつもこのお味噌汁は心に染みてとても好きだ。
今日はこのお味噌汁を飲んで頑張るかと一人で心の中で思いながら一人鼓舞しながら最後まで飲んだ。
「いらっしゃいませ~」
いつもと変わらない接客。ただ今日はなんとなく嫌な感覚があった。
それは当たりたくなくても嫌なことにそういう日に限って当たってしまう。
プルルルルルルルルル
と電話が鳴る。いつものように私は電話に出る。
「はい、未来スポーツ株式会社ハヤテの安藤です。」
「あ~未来スポーツさん?あのさ~今そっちに向かってんだけどここどこ?」
・・・は?
私は意味の分からない電話にワンテンポ遅れてしまった。
「大変恐縮ですがお客様の今周囲にある建物で目印になるものはありますか?」
「ねーよ。車が沢山通っているだけでここが分かんねーから聞いてんだろ。てか、お前迎えに来いよ。」
「大変申し訳ございませんが勤務中でして職場を離れることは出来ないのです。もし他に目印がなければ道路の通り名を教えて貰えたらご案内出来るかと思われます。」
「そんなんじゃ時間かかるだろう。お前が迎えに来れば楽だろうが!」
心の中で怒りのバロメーターがどんどん上がるだけでは無く、ただただ冷静にこいつは誰なんだ?私は何故こんなに命令されなくちゃいけないんだ?と思ってきたら怒りが沸々となってきた。
「大変申しございません。私も今業務中でして、もし可能であれば近くの交番もしくはコンビニで聞いて頂けましたら地図を見ながら道案内が可能かと思われます。電話越しですとお客様の居場所は把握することは非常に困難でして。」
ここまで言い終わると
「ったく、なんなんだよ!お前役立たずだな!お前の声覚えたからな!今から行くからな!」と半分発狂しているような声でその人は電話を切った。
・・・・・ふー。
なんだこのクソみたいな客は。そこまでして来て貰いたいなんて思わねーから帰ってくれねーかな。こういう奴は大体お客様は神様精神なんだよ。俺は客なんだから偉いと思っている奴な。どうして客を選べないんだろうと怒りのあまりに様々な妄想が止まらない。
もし、こういう客に対して何を言っても良いのなら私は
「そうでございますか。そこまで道に迷われるという事は本日は本店に来るべきでは無いのかもしれませんね。お静かにどうぞお帰りください。永久に」って言ってやりたい。と思って私は少し発散した気持ちになった。
少し落ち着いたらいつもの貼り付けた笑顔に戻って店内を回ることにした。在庫を確認しつつハンガーにウェアやパンツをどんどん掛けていき指定された場所に掛けつつTシャツや少し乱れた服があれば綺麗に畳み直す。今日は本当にお客が少なく殆ど暇であった。そんな暇な時間なのに時間を気にしてしまうのは先程の怒鳴り声を上げていた男の来店である。来たらすぐさま裏に隠れようかな~とか他のバイトさんも正社員もいるし何とかしてくれるだろう。私は絶対にその男の接客は嫌だと思っていた。
地図なんて今時携帯で検索すれば出てくるのにサービスセンターでは無くここの売り場に掛けてくる時点で理解が出来ない。
バイトさんと愚痴で盛り上がりたくてもいつその男が現れるか分からないので私は入り口をいつもより何度も確認しつつレジの方に行き仕事が他に無いかとかお客様が注文された商品を分かりやすく戸棚の整理したりとソワソワしていた。
すると、玄関口で中年のお腹がぽっこりしていてベルトがギリギリで耐えてます感のグレーのパンツに上は白のTシャツを一生懸命パンツに入れているがはち切れそうだ。そして顔はもの凄く汗をかいている。顔を真っ赤にして汗だくで息づかいもかなり荒い。走ってきた訳でもなさそうな客とその隣には少し線の細いまだ高校生くらいの男の子が申し訳なさそうにしてモジモジしながら店内を見ていた。
二人が玄関に入ってきたので私達はそれぞれ「いらっしゃいませ~」と声を出す。するとその男は一目散にエスカレーターに行きその息子も小走りで後を付いて乗っていってしまった。まぁよくある場面なので何とも思わないが、少し私は嫌な感が働いた。あのふてぶてしい態度はもしかして先程の電話してきた男なのではないのだろうかと。
声覚えてるとかなんか言ってたな~と思いつつ違う階に行ってくれた事はとても救いだった。
そして私はまた暇な時間を過ごさなくてはならなくなった。今日は暇だから裏で携帯をいじりたいがここまでお客さんが居ないと私がサボっていることが正社員にバレてしまう。バレない程度にお客がいてこそがサボるときの鉄則なので今日も大人しくしておこうと心に誓い、他のバイトさん達と会話をしていた。
主な会話はバイトさん達の年齢にもよるが大体が大学生なので大学の生活を聞くことが多い。この授業のレポートが大変でとか中にはサークルも入っている子もいるからその話で盛り上がる。昼のこの時間は客も来店してくるから基本はただ話しながら作業しているが、夜のほぼ七時過ぎになると私達は正社員の目を盗んでファッションショーをしたり、接客コントをしたりして遊んでいた。年齢に差はあっても他のバイトさん達とはかなり仲良く話せるので凄く好きだった。
そんな話している最中にエスカレーターでがはははという笑い声が聞こえてきた。
上から先程の中年男とその息子と営業トークナンバーワンの正社員田島さんが降りてきた。営業トークナンバーワンの田島さんはここの売り場に少し前まで居たが、営業成績が良いのもあって本人の希望で立ち仕事から事務仕事に変わってフロアが変更になったのだ。しかし、その田島さんが何故事務仕事では無く営業をしているのか不思議だった。
時々だが芸能人やどこかの会社の社長が来るときは、上の人間または責任者がついて回ることがあるが、あの客は何か特別だったのだろうか?と少しソワソワしてしまった。先程の対応についても正しいかと言われたら良くなかったと思う。
「やらかしたわ」
と呟くと隣に居た同じバイトで今大学三年生の○○さんがランニングTシャツにサイズのシールを貼りながら在庫から出しながら私の話を聞いていて
「安藤さん何かやらかしたんですか?」
と少し興味津々に聞いてきた。私はレジで田島さんと他の正社員と楽しそうに大きな声で話している中年の男性とその2~3歩ほど離れた所で肩身狭そうにして佇んでいる少年を目線で気づかれないようにしながら
「あの客なんかの社長さんかな?」
と聞くとメイクバッチリの○○さんが長いまつげでバレないようにそーと横目で中年のおじさんの顔を見た。○○さんはショートヘアで目がクリッとしていて肌も白く餅のようなほっぺたでとても愛嬌があって本人は気づいていないみたいだがお客さんの間ではファンが多い大学生のバイトさんで私とはよく話す数少ない職場友達である。
お客さんの中にはあのバイトさんと同じウェアが欲しいという声も多数あり、モテてるなーと思うが彼女の良いところは全くその事について気づいてなく、ボーイッシュな見た目とアニメオタクで「夏休みは彼氏とか友達と遊びに行くの?」と聞いたら「私買い溜めてたBL本読まないといけないので・・・」と真面目な顔で返された時には私が大学生の時にはサークルの飲み会にサークルの合宿とか友人達と男の子達と一緒に海に行ったりしていたので、夏休みを漫画に費やすのが如何にもモテそうなこの子には合わないなーと思った。でもその事がきっかけで○○さんと話すようになり、最初はそれこそ大人しめで如何にも彼氏がいて毎日充実してます。という感じから懐くとヒヨコのように後ろに小走りで付いてきて「安藤さん、安藤さん!」と来る可愛い子である。
そんな可愛い子があの中年をバレないように見ようとしている顔が凄い変顔になっていて笑いを堪えながら小声で。
「○○さん、凄い鼻の下伸びてる。フフフしかも口がひょっとこみたいになってるよ。」
とほぼ笑いながら言うと、○○さんは中年の男性とその息子の顔を見た後私の顔を見てニヤッと悪い顔をした後にヤクザの子分のような姿勢をしながら
「安藤さん、あやつはシャチョさん違いやすぜ」
と言ってきた。もう私の中で笑いを堪えるパロメーターがマックスになっていた。笑い堪えながら
「なん・・で・・それが・・フフフ・・分か・・・フフったの?」
と聞くと
「田島さんにあんたに買い物頼んで良かったよ。ムフンて言って会計していたので元々予約で来たわけでは無く多分何か田島さんがヘルプで付き添ったんだと思いますぜボス。」
とキャラが滅茶苦茶になりながら、なるほどと思う回答が返ってきてチラッとレジを見ると正社員の○○さんがレジで田島さんが商品を畳んで袋に詰めていた。そして出口まで田島さんは商品が入った袋を持っていき出口で「ありがとうごぜいました。またのご来店お待ちしております。」と笑顔で袋を中年男性に渡し中年男性は嬉しそうにそれを受け取った後すぐに来店したときに通った道に向かって歩き出し、付き添っていた青年はペコペコと頭を下げていた。私達もそれぞれ「ありがとうございました~」と仕事をしつつ声出しをした。
中年のおじさんと息子が帰った後に久しぶりに会えた田島さんに
「田島さん、お疲れ様です!大丈夫でした?」
と聞くと茶髪のショートヘアで背が低めで声もハスキーだけど表情がコロコロ変わり化粧は薄めの田島さんが
「あ、安藤ちゃん!おつかれ~五階の人達にヘルプ頼まれてさ~。なんか息子さんの野球物を買いに来たらしいんだけど五階の人達も手に負えないくらい怒鳴られたりしたみたいで~」と肩をコキコキしながらため息をついていた。
「あのお客さん癖強そうでしたもんね。私多分あのお客さんの電話出たんですよ。今俺はどこにいるんだと・・・」
「待って、電話でどこにいるか聞かれたの?」と田島さんは笑いを堪えながら聞いてきた。
「はい、俺の所まで来いって言ってました。」
と私も笑いを堪えながら言うと田島さんと○○は一斉に笑い出し
「私達はエスパーじゃないのにキツイ!それを安藤ちゃん真剣に言ってんの本当に笑える!」
と二人はお腹を抱えながら笑っていた。田島さんがこのフロアに居た時はこれが普通でいつもこんな感じだった。私は田島さんの気配りも含めて他の正社員の人と違って仕事の切り替えも含めてバイトさん達と積極的にコミュニケーションを取る姿も好きだった。他の正社員の人達も裏では話してくれたりするが、仕事が始まると人が変わる。ただ田島さんは裏でも表でも変わらなかった。そんな所が凄く好きで私もこんな風になれたら良いのになと常々思っていた。
また、田島さんが居るときは正社員の雰囲気も柔らかくなる。だから常に居て欲しいが時間なのか上に戻るね~と言って非常階段から上に戻ってしまった。
私達は束の間の幸せを過ごした後、仕事に戻った。先程の男のお前の声覚えてるって言ってたけれどもハッタリだと分かって少し安心した。私は本当に小心者だ。
そして作業に追われていき、気がついたら閉店時間になっていた。
立ち仕事の為足はパンパンになってしまうのでお客さんがフロアから居なくなった時にはふくらはぎを揉んだり、手で少しマッサージしたりしている。そうしながら閉店のアナウンスが流れる。
「閉店の時間になりました。お客様のまたのご来店をお待ちしております。」
という声と共に夕方に公園で流れるような童謡の音楽が流れる。
私はそれを聴いてまず玄関に出してある宣伝用のCMが流れる大きなテレビを店内に閉まった。
その間に○○さんが玄関の門を半分閉める。中にお客さんが残っていることも考慮して全ては閉めない。しかしここを開けっぱなしにしてしまうと閉店時間ギリギリに間に合ったと滑り込みで来店して来られる客がいるので真っ先にここは閉めないといけない。
そしてそれが終わったらレジ締めである。レジのお金を数えて今日の売り上げの金額と合っているか確認する。それが確認できたら、お金の売り上げが書かれた紙とお金を袋に入れて八階まで持っていき機械に読み込ませて売上金の記入する。八階にはそれぞれのフロアの代表が行くので八階で少し世間話をしたりする。私は世間話をするのが苦手なのでさっさと記入してお金を精算機に入れて壁に掛けてあるボードに誰が何時に持ってきたのかを書いて一階まで降りてきた。
一階まで降りてくる時にスマホをチラッと見た。56件という数字が表記されていた。
あの画家から来ているのだろうか。でも一つだけ言えるのはこの時間になっても彼からは連絡が着ていなかった。
その後は一階フロアで私を待っていた正社員とバイトの数人が居てそれぞれの階に人がいないか確認の電話を貰って玄関の鍵を閉めて退勤ボタンを押して私達も帰れる。
「お疲れ様~」とそれぞれに言いながら私は真空の闇の空に広がる夜空を見ながら今日一日が無事に終わったことに安心感があった。
あの変な電話は災難だったが、一番かわいそうなのはあの息子である。帰るときもレジの時も父親の態度に対して怯えているのか恥ずかしいと思っているのか分からないが、ずっと猫背で俯きがちにしていた。
私があんな親なら確かに一緒に居るのは恥ずかしいよな~と思いながらいつもの帰り道を歩いているとピコンと携帯が鳴った。
画家からのメッセージだった。
「お疲れ様です。昨日メッセージ途中で寝てしまって送れて無くてすみませんでした。愛さんは好きな食べ物とかあるんですか?」
と書いてあった。好きな食べ物・・・。大雑把な内容過ぎてどう答えて良いのか一瞬迷った。人によってはグラタンが好きです!とか和食が好きです!と言えるのだろうが、アプリを通して学んだのが大体この質問で答えた後に言われるのが今度一緒に食べに行きませんか?と誘われることである。
私はかなりの気分屋な所があり、その日によって食べたいものや好みが変わる。スイーツ系でもケーキが食べたいときもあればドーナッツが食べたい時もある。この誘われて食べに行くのはあまり好きでは無い。そう悩みながら
「お疲れ様です。大丈夫ですよ!今の気持ちでは和食な気分ですかね。」
と当たり障り無い内容で返した。今の気持ちだと言えば会う約束になっても今は違うことをちゃんと言えるだろうという保険である。すると早くも芸術家から連絡が来た
「和食なんですね。魚とか?」
「いえ、京料理とかのバイキング形式の和食とか好きです」
「ああいうのが好みなんですね。僕もそういう所は落ち着くので好きです。よく行くところはどこですか?」
「新宿や渋谷が多いです」
「新宿や渋谷同じですね。買い物とかで行かれるんですか?」
「はい。メイクや雑貨とかを買いに行ったり流行物をリサーチしてます。」
「そういう流行物に敏感なんですね。僕も仕事柄そういうのに敏感なので・・・」
「シンさん(芸術家)は、どういうアートとかを描かれたりされるんですか?」
「僕は画家というより服飾系なんです。」
「服のデザインなんですね!どういう系統の服のデザインを描かれるのですか?」
「様々な系統を描きますよ。シンプルな物からモダンな物まで描きます。」
「凄いですね。日本で活動をずっとされてきたんですか?」
「実は昨年までの一年少しはアメリカに居ました。そこで刺激を貰って描いてました。今は日本に帰ってきましたが。」
「アメリカで活動されていたんですね!凄いと思います。英語とかも話せるのですか?」
「日常会話くらいは出来ますよ!かなり日本は服装が違うので楽しかったです。」
「海外の服と日本の服は色も違いますが露出度も違いますよね。」
「日本は大人しいイメージと共に肌を出さない系統がありますが、海外は体型を気にせずとにかく主張をしっかりしている服装が多いですね。」
「日本でキャミソール一枚で歩いたら浮いてしまうけど、海外なら普通ですもんね。」
「短パンとかも若い子とか足が細い子というイメージが日本にはありますが、海外なら着たいから着るので年齢も体型も気にすること無く履いています。」
「そういう所からシンさんは刺激を受けて仕事に活かして居るんですね。素敵だと思います。」
「愛さんは接客業だと書かれていましたが、どういう販売をされているんですか?」
「私は服を販売しているんです。なのでシンさんから服を売る為の色のアドバイスとか気になります。」
「僕が扱う色ですか・・・難しいですね。愛さんの職場にある服の系統と言いますか、服のデザインも含めて実際に目にしないと同じ黄色でも様々な黄色の色があるので何とも言えないですね・・・。」
「そうですよね。芸術家さんならこういう珍しい組み合わせの色の持ってきかたをするのでは?と勝手に考えていました。言われてみれば見てもいない色で組み合わせを教えて欲しいは難題過ぎますよね笑」
「でも、こうやって同じ服について語れるのは僕としてもとても興味深いです。一度お会いして話してみたいです。」
「是非、カフェとかで良ければお話ししませんか?」
・・・ふ~~~~
帰り道も含めて家に帰ってきてご飯を食べている間芸術家のシンさんと連絡をずっと続けていた。プロフィールに掲載されている写真はどこかの俳優のように目が大きく二重で鼻も高く少し髪が肩まであるような人だった。見た目は悪くない。私はそう思った。それ以上に芸術家というのが私の中では高評価だった。理由は今まで出会った事が無いタイプで殻を自ら破いて先頭を歩くような人が多いイメージだったから。
私が悩んでる事も殻を破ってくれるような気がして会ってみたくなった。
もしかしたら会って恋愛が少しは分かるかもしれない。
シンさんと会う日。あれから先程まで連絡は絶えず、好きなタイプは外見は色気や雰囲気がある人と言われていたが、私が持っている服は色気はさすがに昼間に着るわけにはいかないので黒いワンピースにすることにした。今日は少しメイクも大人用にして清楚系よりほんのり顔色が良く見える酔いメイクに挑戦してみた。我ながらに良い感じにメイクはいった。後は待ち合わせの時間まで待つだけ。
「愛さん、すみません!少し時間が押していて30分くらい遅れますので先に喫茶店に入っていてください!」
「わかりました!急がずゆっくりで大丈夫ですよ~」
と送り先にカフェに入ることにした。カフェの店内はお昼時だからか少し混んでいた。店員に案内されて席に座る。少し時間があるなら小腹が空いているから少しおやつ代わりに何か食べたいなーと思いながらメニューを見る。
そこには「期間限定!ハローウィンカップケーキ」と書かれていた。直感で食べるしか無いじゃんと思い他にもメニューを見てドリンクはキャラメルフラペチーノにしようと考えた。少し甘い系で良いかもと思い店員さんに注文を頼む。
注文の品が届くまで暇だったので店内を観察していた。店内には学生くらいの子達が多く居て女の子二人で飲み物を必死にスマホで撮ったり、サラリーマン三人組が多分営業の一息入れるために寄ったのであろう感じで疲れ切った顔で甘い物を無言で飲んでいたり、○○さんがこの場に居たらきっと妄想をブツブツ言いながら私に語ってくれるような学生の男の子二人が頭がくっつきそうな距離感で真面目に話し合っては二人で一つのスマホを見てたり、中にはカップルかと思いきや友人らしく女の子が男の子肩をポンポンと慰めているようにしてるのかと思ったらハッと鼻で笑うような顔をして賑やかに会話をしていた。
これから私は知らない人にここで会うのかと思い、少し緊張してきた。もしかしたら楽しい時間を過ごせるかもしれない。今日でよく漫画や友人から聞くトキメキや恋愛の一歩を経験するかもしれないと思うと初めての人に会うかもという少し怖い気持ちと皆と同じ恋愛が分かるかもしれないというワクワクした気持ちでいっぱいになった。
少し時間が経った頃にピコンと携帯が鳴った。
「どんな服装で着てますか?」
「黒いワンピースにカフ店内入って真ん中にレジがあると思うのですが、そのレジに対して右側の所に居ますよ。」
「分かりました!」
と着てあーそろそろ会えるんだという気持ちになった。初めての事では無いがいつも会う前はこうやって緊張してしまう。でも今回はいつもより新しい感情になれるのではという淡い期待が混じっているので少し違うと思う。まだ来ないかなと思いながら何回も携帯を確認して時間も気にしつつ、半に待ち合わせが40分になっていた。少し不安になってきた。私は今の所経験は無いが待ち合わせしていたのになかなか来なくて最終的にキャンセルされた人も居たのでそのタイプかと思った。
少しソワソワしていると髪が胸元まで長く肩から下は金髪で全体はウェーブがかかっていたようにフワフワしていてTシャツにパンツ姿のラフな格好で鞄にはシャーロック・ホームズの絵が書かれていた。
「お疲れ様です。」とその男性は椅子に鞄に置きソファに座りながらシンさんは話しかけてきた。
「あ、お疲れ様です。飲み物どうしますか?」とメニュー表を渡した。
「はい。」と私からメニュー表を受け取ると静かにメニュー表を静かにめくって探していた。私はその姿を見ながらあまり芸術家というより大学生に居そうな普通な感じだなと思っていた。私の中で芸術系に進む人は少しファッションに個性が出ていたり、髪型も個性があったりしているのかと思っていたが普通な感じであった。
「すみません、注文いいですか?」と右手を挙げて店員さんを呼んだ。そしてカプチーノを頼むと私をチラッと見た。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
少し沈黙が流れた。私はここでお疲れ様なんだなと思ってしまった。今まで会った人達は時間に遅れた場合とかはここで「待たせてしまってごめんね」とか「はじめまして。リアルで会うのは緊張するね」とか場を和ましてくれる人が多かったのでここで黙られるのは少しどうしていいのか分からずただ、シンさんの姿勢を見ていた。シンさんのカプチーノが届くまで私達は沈黙だった。その沈黙の間に彼は足を組んだり、腕時計を何度か見ていた。
カプチーノが来たときに私達はお互いの飲み物を乾杯して再び「お疲れ様でした」と言い合った。
「えっと、仕事どう?」
・・・は?仕事の話を最初にし始める?私は心の中でまず遅刻してきた事も含めて何も謝ることをしないのかと私は少し疑問に思ったがここは大人の対応をしようと思い
「はい、変わりは無いですかね。今はそろそろ次のどういう傾向の物が売れやすかったのかを上に報告したりしてます。もう少ししたら売り場の夏服の物を冬服の物に変えたり入れ替えしなくてはいけないので少しバタバタすると思います。」
「ふーん。そういえば洋服の色合いとかって知りたいって言ってたでしょ?」
「はい!やはりユニフォームとかで色々考案を報告したりしているんですが、なかなかこういう服が売れてますというのは難しかったりしますし、お客さんに販売する上でブルベとかイエベの勉強もしてますが化粧しているとそれが少し分かりにくかったりしていて悩んでしまうんです。」
「なるほどね。ブルベとイエベは今の流行だよね。でもそこばかりに注目しすぎてるのもな。どちらかといえばあまりそこに限定されないで、ここにそういう着方をするの?ていう違うやり方も良いと思うんだよね。それはやっぱりのもっと視野を広げていかないといけないし、雑誌とかって海外のも読んだりしてるの?というよりも海外とかに暫く留学とかしてみて海外の着方とか流行物を取り入れてお客さんにもそういう風にして接客してみたら?日本の着方って固執しているのもあるから、皆同じ感じの着方しか無いでしょ?そういうのはあまり良くないと思うんだよね。」
「なるほど・・・」
・・・・・・・待って。私別にスポーツの衣類だから海外の着方とかそこまでしなくても良いともうんだけど。しかも私がデザインしている訳では無いし、イチバイトの身だからそこまで私の意見って重要視される訳では無いんだ。どう反応して良いのか全く分からない。少しずつだけれども確実に合ってないのかもという気持ちになってきた。
そうやって考えている間にもシンさんは海外の良さを凄く語っていた。
「それで、最近の出会いは?いい人居たの?」
・・・・・マッチングアプリで会ってる人に対して聞く内容?いい人かなと思ってメイクの時間も含めて用意したのにどういう事?と私は心の中がパニック状態だった。
「まぁいい人は居ましたが、恋愛になるかは分からないです。私恋愛感情があまり分からないので。」
「恋愛してないから恋愛が分からないんじゃ無いの?ここに植木鉢があるとしてこの植木鉢の花の色を当てなさいって急に言われても分からないじゃん。あなたが付き合う定義は何?セックスをすることが大事?それとも一緒にとにかく居たい理由で関係に名前が付けたいの?結婚だって付き合っても居ない人にその先なんて分かるわけ無いんだから先の事なんて考える必要ってある?恋愛も付き合ってから人を好きになってから考えなきゃ分かるわけ無いじゃん。」
と段々シンさんの感情がヒートアップするにつれて声も大きくなってきた。
私は心の中で段々冷めていくのを感じた。シンさんの言っていることも分かる。でも私は恋愛が分からないのだ。毎回付き合っても異性として好きなのか分からないのだ。私がこの人と一緒にいて楽しくてもそれは人間としての楽しさになるから恋愛感情というより人としてその人と一緒に居たいだけでそれ以上の男女関係が私には分からない。それを恋愛をしていないから恋愛が分からないんじゃ無い?と言われても私の恋愛はこうだったのだ。恋愛感情が分からないで恋愛をしていた、でもこの人の言っている事はそれは恋愛ではないという事なのか。
結婚もそうだ好きだからで結婚する人もいるが私は相手の事を知った上で結婚を考えたい。付き合うのも付き合ってから知るよりも付き合う前にその人の事を知りたいと思うのは間違えているのだろうか。好きなだからその感情で付き合ったりその先を考えることが出来るのかもしれないが私は、その人となりを重視して一緒に居たいかを考えるそれが私の恋人とに関係だと思っている。
そんなことを考えているとシンさんは一人で凄く語っていた。私はシンさんの話を聞くのが少し疲れてしまったので、私はシンさんの行動に興味を持った。まず、話しながら足を組みしているそしてその足が出口の方に向いていた。
そこから分かるのが帰宅したいのか解散したいのだろうなと思っていた。そして腕時計を先程からここに座ってから話しながらも五回、いや今もう一度見たから六回見た。感覚としては10分間隔。早めに返りたいのかそれともこの後に何かあるのかを考えたが、足の向きや時計の確認の繰り返しをしているのを見ていると早めの解散をした方が良いのだろうなと私は思っていた。
会う前は凄く楽しみだった。少しは殻破りの人が来て私の恋愛の悩みについても、一緒に居て楽な人が居てそれ以上の関係にならなくてもそういう悩みを抱えている人は沢山いるよ。なんて甘い言葉が貰えるとでも思っていた。でも、現実は口を開けばただの説教のような状態で海外に行けや、恋愛に関しても恋愛をしていないのに恋愛について悩むなと言われても、恋愛がしたいのに好きという気持ちが分からない、その人と一線を越えることなんてもっと考えられないことがこんなに苦しいのにこの人も理解してくれないんだ。
友人達もそうだった。友人達も皆なんで彼氏出来てもそんなに淡泊なの?と聞かれる度に彼氏にもいつになったら心の準備出来るの?て言われる度に世の中の恋人はすぐにそのような関係になるのだろうか。と不思議に思っていた。ゲームやくだらない事を話したり、色んな所に出かけたり何かをパズルを二人で作る事だって楽しいじゃ無いか。なのにそこにどうして性の営みを持ってこないとこの人と一緒に過ごせないのか教えて欲しい。
今日はそれが少しは分かると思っていたのにただ傷つくだけで終わるようだ。
私は一方的に何かを熱く語るようにして説教しているシンさんを見ながら私はただ冷めた目で冷めた心でフラペチーノを飲んだ。チラッと携帯を見た。
シンさんの事があってから私は考える時間が多くなった。
私の中の恋愛は恋愛をしたいという恋に恋をしていることなのだろうか。今までみたいに誰かと一緒に居てその一線を越えたら何か変わるのだろうか。友人達が結婚して子供がいるような幸せな家庭を築くことが出来るのだろうか。私はそんな事を毎日考えていた。こんなに悩むのは大学生の時以来だ。私が通っていた大学ではLGBTQ+について勉強する機会があり、当時私は男性と付き合うことすらも嫌悪感を持っていた時期が合った。異性として見られる事にかなりの拒絶があったのだ。その事について相談したときにそういう人も沢山居るから大丈夫だと言われ、別に身体の相性を含めてそれが一番じゃ無いよ。人としてその人と一緒に居たいかだと思う。きっと同じ考えの人に出会えるよ。と言われた事がきっけとなり前向きに気持ちが変わった。私のように一緒にパートナーとしての考えを理解してくれる人が現れると信じ、告白されても恋人という関係よりもパートナーという関係を望むけれどもそれでも良い?という風に聞けるようになった。それだけでも私の中ではかなりの進歩だった。最初は皆僕も、俺も同じ気持ちだよ。と言ってくれるが段々時が経つにつれて「やっぱり・・・」という展開になる。
私は、いつになったらこの悩みと解決出来るのだろうかという考えながら今日も服を売り、レジを担当したりしていた。
仕事をしていても集中できない。明日は友人の結婚式だ。だから特に今日は考えてしまう。明日のメイクや美容院でしてもらう髪型も考えなくてはいけないなと少し嫌な事を忘れて久しぶりに会う友人達に会えることだけを考えようと思い私は店の出口に向かって
「ありがとうございました~」と大きな声を出した。
「ひさしぶり!」
と私は東京駅のホームで黄色や紫、紺に近い青色のドレスをそれぞれ華やかに着た中学からの友人達に小走りで近寄りながら挨拶をした。皆に会うのは大学生三年生の時にカラオケでオールした以来だ。あの時はこの中の誰かが失恋したとかで急に集まろうという話になり急遽集まって朝まで騒いで一緒に泣きながらMを歌ったり加藤ミリヤを歌ったりしていた。そんなに時が経過しているように思っていなかったが私以外は結婚していて皆幸せを掴んでいた。少し心の距離が遠く感じるがそれでも皆の笑顔はあの時と変わらなかった。
「皆久しぶりだね!」と言うとそれぞれが
「今その話してたんだよ~」
「本当に久しぶりすぎて今日、見て!パックして脱毛までしたんだよ!」
「待って。あんたが花嫁じゃ無いじゃん!なんでそんなに気合い入れてんのよ!」
「もしかしたら新郎の知り合いでイケメンに出会えるかもしれないじゃん!」
「いや、既婚者が何言うてんの!も~今日は結香の結婚式なんだから、とりあえず皆今日は写真撮りまくるよ!」
と言いながら私含めて他三人と私達は笑いながら会場に向かった。
私達は会場に向かうと
「ここで合ってるのかな?」
「レストランだよね?」
「うん。多分貸しきりだからここで合ってると思うよ。」
「入り口で荷物預かったりしてるね。」
「あそこで荷物渡すんだね。」
「あーなんか緊張してきた。私が挙げるわけじゃ無いのに!」
「ねぇ、なんでそんなにソワソワしてるの?トイレ行ってくる?」
「せやねん、トイレさっきからめっちゃ我慢しててん。・・・違うわ!結香とも久しぶりに会うから凄く緊張してるの!」
学生時代と本当に変わらない。楽しい。さっきまで嫌な事を考えてた事が嘘みたいに忘れて自然と笑顔になって皆と一緒に笑い合っていた。
会場に入って荷物を渡すと番号札を貰った。そして受付に行くと結香のお姉さんが着物を着て受付をしていた。
「柚木ちゃん?久しぶりだね!」
「結香のお姉さん、お久しぶりです!本日はご結婚おめでとうございます!」
「ありがとう。ドレス綺麗だね。本当に妹の結婚式に来てくれてありがとうね。ここに名前書いて貰っても良いかな?」
と言われ、ご祝儀を袋から出して渡した後に私は名前を書いた。
後ろでは友人達が
「柚、良い?名前間違えたら駄目よ?あなたの名前はセーラームーン。あなたは月の戦士なのよ。分かった?」
「やめてよ。私マーキュリー派だから!」
と笑いながら列から外れた。お姉さんが私達の会話を聞いて
「本当に皆変わらないね!今日凄く綺麗なのに会話が昔のままなのね。」
と笑っていて私達も笑った。
「お姉さん!久しぶりです!本日はおめでとうございます!今日私脱毛しました!」
と大きな声でお姉さんに報告している友人に対してお姉さんは笑い崩れそうになるのを必死に踏ん張りながら
「なんでそんな報告を私にするのよ~。知らなくても良い情報じゃ無い!もうご祝儀だけ頂戴!」
とヒーヒー笑いながら言っていた。
結香のお姉さんは今は二児の母だが昔はそれなりに不良だった。昔沢山このお姉さんに皆悪いことを教えて貰っていたほどだ。
結香とお姉さんは性格は真逆で結香は優等生タイプに対してお姉さんは屋上の鍵を粘土で合鍵を作るという漫画の中でしか聞いたこと無いことをやり遂げ屋上で昼寝をしたり、美術室の絵や作った作品を保管する教室に美術室の先生を脅して授業が退屈したらそこで休んだりしていた。今とは見た目も違い今は黒髪にメイクも清楚系にしていて本当に綺麗な大人の女性になっているが、昔は耳に何個もピアスを画鋲で開けたり(よい子は絶対に真似しては駄目)、眉毛も剃って一時期「剃りすぎたわ」と言って眉なしの時もあった。いつも結香の家に行くときは結香の部屋よりもあちこちに下着や雑誌、化粧道具が散乱したベッドがあるお姉さんの部屋にお菓子をそれぞれ持って放課後集まるのが多く、当時は私達は中学生でお姉さんは高校生だった。中学生の私達からすればお姉さんは凄く大人に見えたがお姉さんいわく良く校則違反で母親が呼ばれる問題児で口癖は「今私反抗期なの。いつかはこんな時代も終わるわ。」だった。私達が高校生になってもそれは変わらなかったが。
そんなお姉さんが最初は他の人も居る手前なのもあったので凄く上品にしていたが段々私達に対して「ここに金を置きな」と言わんばかりな態度を取るようになり更に笑いが生まれた。そんな受付も無事に済むと今度は席案内を見ながら自分達の席を探そうとキョロキョロしていたら、レストランのキッチンの所に結香と旦那さんに対してボードで寄せ書きのようにしてメッセージを新郎新婦それぞれの枠に書けるようになっていたので、私達もそれぞれ書きながら皆で学生時代に使っていたサインを書いて横に本名を書いた。
そんな事をしていたら結香のお母さんが
「皆久しぶりね!今日は来てくれて有り難う!」
「お母さん!お久しぶりです!」
「お母さん!見てサイン書いたの!」
「お母さん見て私脱毛したの!」
「お母さん聞いて!お姉さん私に対して酷いのよ!皆には来てくれてありがとう位は言っていたのに最後に並んでいた私には冷たかった~。」
30の大人がそれぞれ子供のように結香のお母さんに甘える雛鳥のようにして話していくのに対して結香のお母さんは慣れた状況のように
「はいはい、あー本当だ綺麗にサイン書けたね!昔皆が必死に考えたサイン覚えてたのね~。綺麗にして来てくれたのね!有り難う。昔の可愛さを残しつつ綺麗なお姉さんになったわね~。お姉ちゃん!今日はしっかりして頂戴!」
結香のお母さんは昔から皆のお母さんだ。久しぶりに挨拶を交わし、お母さんは他の来客者に挨拶をしに忙しそうにしていていたのであまり絡まないようにしつつ私達は席に座った。
席は円状になっていて私が使命された席には小さいカードが置いてあった。
「柚木!久しぶりだね。今日は忙しい中来てくれて有り難う。」
一人一人に結香の丁寧な字で書かれていた。あの子らしいねという風に見せ合った。
「結香の旦那さん5つ上だっけ?」
「職場の先輩?」
「違う、それは元彼。旦那さんは3つ年上の人で本とかそういう図書館司書っていう?そういう人らしくて近くのカフェで店員さんに勧められて話したのがきっかけらしいよ。」
「なに、そのロマンがある感じ!」
「結香らしいけど凄くジブリに出てきそうな感じだよね。」
「耳をすませばじゃない?俺、お前の隣に何度か座ったこともあるんだぜ!ていう感じでしょ?」
「それそれ!たまたま使用している図書館司書の人とカフェで会って、あってなってそこからマスターが言うんだよ。お客さん達知り合いか何かなんですか?って。それで、えっとって言いながら気まずそうにするの。それでこのコーヒー是非飲んでみてください。きっと気持ちが落ち着いて二人とも話しやすくなりますよ。ってなったんだよ!」
と妄想が進み皆でキャーキャー騒いでいた。今まで確かに連絡は定期的な報告連絡はあったが大人になるとそこまで一々報告しなくなるので一連の流れは大体で済まされる。学生時代みたいに好きな人が出来て皆で恋が成就出来るようにサポートしたりすることは無い。
だからか、正直新郎についての情報が少なめになってしまう。でも結香が結婚しようと思った相手なら全力で祝うよね!が私達の暗黙の了解だったし、今日は皆気合いをいれてカメラの準備は出来ている。結香が登場したそのと時から私達がやることはとにかく動画担当と写真担当で分かれて撮影し、それを纏めて一人一人のメッセージ付きで結香に送ろうという話になっていた。
新郎の方も知っている人達を多めに集めたのか、そちらはそちらで盛り上がっていた。
新婦側は私達グループと多分高校や大学、仕事場の先輩達のテーブルがあった。何度か友人の結婚式に出席した事はあるが他とは違いレレストランが会場だからか式場の緊張感よりは少し同窓会のようなアットホームな感覚だった。こういう所を選択する辺り結香らしいなと私は少し思った。
私と結香はグループの中でも比較的に大人しい配置として一緒に居ることが多く、他三人がギャーギャー騒ぐのに対して少し円の外側からクスクス笑っている事が多かった。中学と高校が一貫校だった私達は常に一緒に行動し、喧嘩も沢山してきたがよく考えれば結香は誰とも喧嘩する子ででは無かった。グループの人数が多い分どうしても派閥のような事が起きたりする。今では笑い話に変わっているが昔は好きな子が出来たら報告して皆で協力しあって成就出来るようにサポートしていたのだが、あるとき好きだと知っていたにも関わらずサポートするのでは無くて友人の好きな子に対して好意があるようにして接していたという所謂嫉妬が原因でグループ内が険悪状態になった。その時私は好きな子が居ると教えてくれた子の味方をしていた気がするが結香は一人中立の立場に立っていた気がする。最終的にどのようにして仲直りしたのか誰も覚えていないが確かその男の子の事が好きじゃ無くなったことで解決したと私の中では記憶している。結香は常に私達の中ではおっとりしているイメージでお姉さんの事を知らなかったら良い所のお嬢さんみたいな風に感じるだろう。あのお姉さんがイメージを壊したと言っても過言では無いが、お姉さんの行動に対しても私達でも「結香の姉ちゃんまた何かやったの~?」と言うことがあっても、結香だけは「お姉ちゃん、お茶ここに置いておくからね。」と何も気にしてないむしろ自由に様々な悪さをする姉に対して微笑みながら見守っているイメージだった。そんな結香が選んだ相手ならきっと素敵な人なんだろうと私もカメラの準備をしつつ思い出に浸りながら新郎新婦の入場まで楽しみ待っていたら
「そういえば柚木はいい人居ないの?」
と聞かれた。正直今日は忘れたかった事だったのだが、そんな事は相手は知らないし何気ない会話の一部なんだろう。さっきまでのゆったりした気持ちのままで居たかったのを引きずりながら、
「実はマッチングアプリで出会い探しているんだけどなかなかなんだよね~」
と苦笑いしながら言うと
「昔から一番柚木がモテてたから一番に結婚すると思っていたのに、元彼と比較しちゃうとか?」
「元彼と比較することは無いかな。なんだろう、元彼の顔も忘れてるくらいだから比較しようも無いんだよね。」
「それ分かるかも!テレビでさこの間言ってたんだけど、女性は元彼の事はデーターくらいな感じらしくて、上書きしていくんだって。でも男は元カノを引き出しみたいに残しておくらしいよ。」
「え?そうなの?」
「確かに言われてみればあの時には格好良く思っていたけど今じゃ何とも思わないもんね。むしろ、昔の彼だったから好きだった的なね。今再会しても多分苦笑いで変わったねーしか言えないわ。」
「それ悪意しか無いじゃん!変わった部分が悪意だよ!想像しちゃったもん!」
「中年太りとかさ、ね?昔は爽やかだったのが、ね?これ以上はここでは言えないけれども。」
「言ってるわ!凄い悪い顔して言ってるわ!」
「でも、柚木は今まで普通の人ていうか性格重視だったじゃん。なんでアプリやり始めたの?」
「実はさ、ある結婚式の二次会で年齢言ったら彼氏が居ないなんてって笑われてさ、悔しくて始めたんだけど、この間良い感じになりそうな人に一時間意味分からずに説教されたわ。恋愛なんて恋愛していないのに分かるわけ無いでしょ。って」
「そいつ何様なの?うけんだけど。」
「なんか同棲していないのに結婚なんて考えるのが変らしいよ。」
「そいつは頭おかしいわ。普通に同棲して子供が出来ちゃったら結婚はまだ考えてないし、俺には責任とれないなんて言われたら傷つくのが女じゃん。同棲という名の家政婦が欲しいだけでしょ。」
「結婚は確かに恋愛感情は本当に短期間なの。でもね、恋愛結婚望むなら恋愛から始めないといけないけれども、結婚はお見合いみたいなフィーリングから始まるのもあるから恋愛したいなら好きな人を探すのは確かに最もだけど、彼氏と旦那じゃ全然求める物違うもんね。経済も含めて相手の事が好きなだけではやっていけないからな~」
「皆さ、こんな所で聞くのもあれだけど肉体関係無しの結婚ってありかな」
「あり」「なし」
両方の意見が出た。完全に分かれた。すると久々の討論がこの結婚式という祝福の場で起きることになった。
「ありでしょ~。普通に私の所なんて最初だけだったよ。本当。子供出来たら子供につきっきりになるし旦那のことは子供の父親にしか見てないもん」
「なしだよ。なんか愛されてるか不安になるし最初から肉体関係なしなら子供はどうするのさ。」
「人工授精とか出来ないのかな。したから出来る訳でもないし確実に子供が欲しかったら相手の了承得てお金出して受精した方が良くない?」
「確かにそうだけどそこに二人の愛情というよりはなんか冷たい感じがするんだよね。」
「愛情なんて女は出産や子供が生まれて世話していけば自ずと生まれてくるし、最初は子供に対してもエイリアンみたいな感情しか私は持てなくて、母親になれるか不安だったけれども少し赤ちゃんから成長して幼稚園に入り出してから自分の時間も取れて余裕が出来てきて母親になれた気がするよ。」
「確かに、自分の時間ないと母親というよりロボット感覚かも。無になりたい感はあるわ。」
「でしょ?それに旦那は父親の自覚まだ無いよ?この間もせっかくの休みなんだから子供と遊んでくれるのかと思ったらお昼まで爆睡。そんで起きたら携帯とかずーとゴロゴロしてて掃除機で髪の毛吸ってやった位腹立ったよ。子供は何回もパパ~って呼んでもパパ忙しいからってあしらっててさ~」
「確かにお父さんの自覚を最初から持つ男は少ないわ。なんなら、私の父親も未だに話すときとかモゴモゴしてるよ。この間もモゴモゴしてたら娘が、ジージおくち、ないない?って言ってて多分あれ歯が無いのか?て聞いてるんだよね!」
「なにそれ!めっちゃ受ける!そんで、お父さんなんて言ったの?」
「ただ無表情で、あるよ。って言ってて私一人で爆笑してたんだよ~」
「お父さん相変わらずの天然すぎん?あるよではないんだわ。会話が欲しいんだわ!」
「母いわく何て私に対しても孫に対しても話して良いのか分からないらしくて、今じゃ両親が揃っている時にしか帰らないから、必ず会うじゃん?そんで緊張してるみたいなんだよね。」
「そんな歳になってたら流石に父親の自覚はあるんじゃ無いの?」
「あっても、娘が結婚するってなった時に初めて自覚するもんじゃない?それまで仕事一途で全く誕生日も祝って貰えなくて干渉もあんまり無かったし。」
「確かにウチの父親も同じだった。ちびまる子ちゃんに出てくる、たまちゃんのお父さんみたいなのって珍しいんだよね。基本幼稚園でも一緒に来てる夫婦はお母さんが強くてお父さんが尻に敷かれて命令されて聞いてる感じだよ?積極的に参加してる人は少ないかな。」
「なるほどね。」
「いい人が居たら同居人感覚で籍入れてこの人の子供欲しいなと思ったら、そのときに出来ることを考えれば良いんじゃ無い?柚木が選ぶ人って昔から柚木にベタ惚れで付き合うから優しすぎる人が多かったじゃん。だからきっとそういう事も含めて受け止めてくれる人が絶対現れるよ。なんならいい人が居たら紹介するし!」
「確かに!我慢は最初は出来ても長年の目で見たらキツくなるからそういう事も含めて受け止めてくれる人を探した方が良いわ。結婚ってゴールじゃないからね。そこから別世界の生活が始まるもんだもん。」
「そうよ!私も結婚するまでは悩んだし。今でも悩んでるよ。旦那を見る度に子供が成人するまでは頑張るけれども老後まで一緒には居たくないな~て。単身赴任してくれないかな~って」
「まだ子供幼稚園通い出してそんな事思うのね!」
「そうよ!そんなもんよ!あれだけ結婚の時には一生二人で居ようね!なんて言ってても恋は三年も経たずに終わるわ。そんなもんよ。」
「現実は厳しいんだね。」
「だから、その説教してきた男なんてどうでも良いのよ。むしろ責任感が無い男じゃない!」
「てか柚木そいついくつなの?説教するくらいだから、年上?」
「3つ年上よ。」
「は?年上で30の大人の女性に対して言う内容じゃ無い。子供相手なら分かるわよ?でも、大人の女性は結婚になると選択肢が増える分感情では乗り越えられないし、なんならその不安を俺が居るから安心しろ的な事が言えないのは駄目だわ!その男は駄目!」
「スッキリした!私ここ最近そんな事を言われてから悩んでいたのよ。」
「スッキリしてよかった!そんな男は無理さよならバイバイしておきな!」
「どこの肝っ玉の母さんよ。でも本当にありがとう。一人で悩まないでその日にライムで愚痴ってればよかった。」
私はあれだけモヤモヤしていた気持ちが晴れた気がした。こんな祝いの席で相談することでも無いむしろマナー違反なのかもしれないが私の中で心から今日の結婚式を祝えるような気がしていた。きっと私を理解して私を受け止めてくれる人が現れるに違いない。と
思ったときに少し会場が動きがあった。
「始まるのかな?」
「なんか、そんな感じだよね?」
「こういう教会じゃ無い所での結婚しきって初めてだからどんな風に登場するのかな?」
「確かに!控え室なんてあるのかな?玄関から車で来るとか?」
「確かに控え室が無いよね。スタッフルームが広かったらそこで化粧とかも出来るけれどもどうなんだろう。カメラはいつ準備すれば良いの?」
「どうしよう。私が緊張してきた。」
「そんな事言わないでよ。私まで緊張するじゃ無い!」
一人が緊張すると私達にそれが伝染したかのように全員の顔がさっきまで冗談言い合っていた顔とは違って少し緊張と強張った表情になり、全員が玄関と司会者をするのであろう結婚式の会場スタッフが黒まではいかないスーツに身に纏って髪の毛を上に纏め左胸にはピンクの花の形をした飾りを付けて進行の紙なのか何かボードを見ていた。
私はそれを見ながら皆と同じく玄関を見たり、司会者がいつマイクを使用して話し出すかを今か今かと待っていた。少し経過してから司会者の人が会場を見渡して
「これから悠樹様と結香様の式を始めさせて貰いたいと思います。本日進行を務めさせて貰います、私岸田と申します。本日はこのような素敵な式で進行役をさせて頂くことに心から感謝しております。また、本日お二人の為に遠方からお越しくださいましてお二人に代わりまして感謝の意を述べさせて頂きたいと思います。本日の進行についてまず説明させて頂きます。この後皆様が受付をなされた場所奥から新郎新婦が入場されます。その際にこちらの会場の真ん中を通って参りますので真ん中のテーブル席にお座りの方は床に物を置かず新郎新婦の入場にご協力をお願いします。また、入場の際にはこちら新婦がこの日の為に作られた鶴の折り紙を新郎新婦にかけて頂きますようお願いします。こちらの一羽一羽丁寧に作られておりますので、新郎新婦が席に到着した際には皆様で拾って頂きスタッフの者が籠を持って回収いたしますのでその中に丁寧に回収して頂けたらと思います。それでは皆様にスタッフから折り紙の鶴が入ってます紙コップを配布させていただきます。」
そうアナウンスがあると四人のまた司会者と同じ色のスーツを着た女性男性それぞれが紙コップをテーブルに人数分置いていく。紙コップの中には五羽の色とりどりの鶴が入っておりこの一羽一羽を結婚式の準備だけでも大変なのにその上こういうサプライズがあるのがとても可愛くて私は少し緊張が和らいでその一羽一羽を丁寧に見ていた。
暫くすると司会者がまたマイクで
「それでは、新郎新婦の準備が整いましたので皆様ご起立ください。」
その声に皆椅子をギギギと言わせながら少し緊張とやっと始まるというワクワクした気持ちで受付をした所を会場で新郎新婦を待つ皆全員が見つめていた。
ガチャ
という音と共に新婦である結香が胸元から肩までレースになっていて半袖のようになっていて腰回りはキュッと締まっており色は真っ白では無く少しクリーム色が入ったウェディングドレスで昔の記憶の時から比べたら大人の綺麗な女性になっていてあの頃の幼さは無く、少し緊張しているような表情で新郎は薄い水色のスーツにクリーム色のネクタイに少し背丈はあまり結香と変わらないので多分170センチ無いくらいだと思う。結香の身長は学生の頃と変わらなければ165センチ辺りだと思う今日のウェディングドレスのヒールはロウヒールなので168センチとかだろう。表情は結香よりも断然緊張していた強張っていた。そしてその新郎新婦の隣にはそれぞれのご両親では無く今回は兄弟が一緒に歩いていた。結香の隣には着物を着たお姉さんが、新郎の悠樹さんの隣には中学生くらいの背丈の弟さんがスーツを着て一緒に歩いていた。私達はスマホのカメラ機能やデジカメで一瞬の隙も逃さないように写真を撮りながら
結香素敵だよ
結香綺麗!おめでとう
結香可愛いよ!!結婚おめでとう!
結婚おめでとう!
それぞれの声に祝福されて二人は少しずつテーブルの所に歩いた。そんな二人に祝福の声を上げつつ結香が一生懸命手作りしてくれた鶴を結香の方に軽くフラワーシャワーのようにしてかけた。目の前を通ったときに少し結香がこちらのテーブルをチラッと見た。そして微笑んでくれた。私はその姿が目の前にまるで天使が舞い降りてきたかのように感じた。初めてこんなに澄んだ人が前を通ったのが凄く感じ、本当に私の友人の結香なのかと疑問に感じた。そんな友人に対して私は
「本当に綺麗だよ。結香」
私は気がついたら涙が止まらなくなっていた。悲しい寂しいそんな訳じゃ無い。ただ私はあまりにも綺麗な姿に涙が止まらなかった。
そして二人がテーブルに着くと一斉に拍手が沸いた。そして新郎新婦が着席した際に現実に戻り、鶴を集めることに今度はアタフタし始めた。私も泣いたことによって鼻水が出始めていたのでそれを誤魔化すのに鼻を何度か吸いながら、鶴の折り紙を拾ってスタッフが持っていた籠の中に入れた。
私達は回収が終わると席に座り、少し息を整えようと皆の顔を見たら全員号泣していた。
カメラのデーターをそれぞれ確認しながら涙がボロボロこぼれていた。私は一度涙が止まっていたのに皆の顔を見たらまた泣き出しそうになったので私は誤魔化しながらデーターを見ていた。何とかぶれている事は無かったので安心していると司会者が
「皆様ご協力誠に感謝いたします。ご着席の程宜しくお願いいたします。これから行いますは新郎新婦のそれぞれの幼少期から二人の出会いまた、本日までの思い出をスライドショーと共に説明させていただきたいと思います。」
そう言い終わると部屋の明かりが暗くなりスクリーンの光が一層強い光を放ち私達はその光をただ見つめていた。
そして、新郎新婦それぞれの赤ちゃんの時からの写真と生年月日の文字が大きく表示され私達はその写真を静かに見守っていると結香の中学生編になるとほぼ私達の集合写真が沢山映るようになった。
「懐かしいね。」
一言ほんの一言を私が言うと皆が小さな声でさっきまでは泣いていたのに少し懐かしい思い出に浸るような優しい声で
「ねぇ、見てあの裏ピースよくやってたよね。」
「DAIGOのウィッシュポーズとか私やってるわ~恥ずかしい」
「大丈夫よ私なんて見てみな、ローラの頬にオーケーサインしながらベロを口の端に持ってきてウィンクしてるけど、今の子達からしたらあれ絶対ペコちゃんだわ。」
「髪型も何で無駄に前髪にピン付けてたんだっけ?」
「確かにあんたはピンだった!私は大きいヘアクリップだよ?ダサすぎて・・・」
「さっきまで久しぶりの結香を見てあまりにも綺麗になっているから涙が止まらなかったのに昔の自分の写真を見て懐かしさよりもダサさが目立ってる。この感情どう表現しろと。」
「見て。皆でスクバ(スクールバッグ)をリュック風に背負うのは分かるけどなんでチャリで来ました的な感じのバイクのポーズしてんの?」
「この時の私らに何かあったんだね。それだけは理解できたわ。」
「さすが結香だね。あの子やっぱあの姉の妹だわ。大人しく見せてやるときはきっちり全てを見せていくタイプだわ。」
「それね!だって一緒に映ってるお姉ちゃん面影無さ過ぎだから!今暗くて表情見えないけどあれ絶対死んだ目になって見てるよ。」
「それな。」
「結香大人しいイメージが私らの中ではなってたけど、こうやって写真を見ると私らと変わらない位笑っていたんだね。微笑んで私らを見てるイメージがあったからこんなに素敵な笑顔だったんだなって今気づかされた。」
「そうだね。黒歴史に見えて結香の楽しい思い出に私らが沢山映ってるの嬉しいね。」
私も皆と同じ事を思っていた。今日の結婚式行くまでは正直行くのが怖かった。グループの中で唯一私は結婚してないし、結婚できるのかも不安でしか無い。それこそ最近はマッチングアプリで出会い求めてでも皆送ってくる内容が会っても居ないのに付き合おうだけでは無く、中にはセフレになれる?とか少しメッセージのやり取りですぐに会おうとしてくる辺り軽いなと思う事が多く余計に恋愛感情が生まれる訳では無かった。職場でも確かに男性職員も多いし出会いが無いわけでは無いが、私は職場恋愛は向かないタイプである。恋愛よりもパートナーを探す私には恋愛関係自体が難しいのだけれど。
スクリーンに映っている私は、未来の自分が未来のパートナー探しで毎日悩んでいる事なんて知らないんだろうなと私はただ結香の思い出を眺めていた。
「良い結婚式だったね~」私達は二次会に参加せず、結香に泣きながら呼んでくれてありがとうという感謝の言葉を皆鼻水出しながら伝え新郎はそんな私達の姿に祖父が孫を見るような目で見ていた。新郎の両親は驚いていたが、結香の母と姉は笑って見ていた。
結香は来てくれて本当にありがとう。と何度も言い、私達は幸せになってね。また集まろうねと何度も確認するように言い合っていた。
そんな状況が長すぎて結香のお姉さんに追い出されたのが十分前。
結香に大きく手を振りながら東京駅まで歩きながら私達はまだ興奮が冷めずずっと結婚式の話をしていた。
「結香らしい結婚式だったね。」
「うん。人前式って言うのは聞いたことがあったけれども実際に見たのは初めてだった。」
「私も!やるならああいうアットホームな結婚式良いな~と思ってた!」
「お?柚木とうとう結婚への本気出した?」
「本気というかパートナー探す!今までそういうのは苦手って避けて逃げてたけれどもそういうのは無理ですってちゃんと言えるようにするよ。」
「そうだよ!人間沢山居るんだからそういう理解して柚木を大切にしてくれる人居るよ!!」
「焦りは禁物だけれどもね!」
「久しぶりにメイクしてお洒落したから帰りたくないけれど旦那が絶対子供の世話ちゃんと出来なくて部屋が荒れてそうな気がするわ。」
「それは私もそう思う。家に帰るのが怖いわ~」
「柚木はどうする?」
「実はヒール借り物なんだけれど、さっきから靴擦れしてて痛いんだよね。」
「まじか!それは大変じゃん。じゃあ東京駅で解散してまた後日ライムでやり取りしようよ!」
「いいね!!」
私達はそう言葉で約束を交わし駅で解散した。私は皆と全く違う路線だったのでその場で一人になった。
結婚式の最中はライムが鳴らないようにマッチングアプリも音が出ないようにしていたので電車に乗って真っ先に見ると80件マッチングアプリはなっていて、ライムは40件になっていた。私は一個一個見ながら決心が揺さぶらないうちにメッセージを一人一人に送った。
「私は恋愛感情は持ててもその先の感情は分かりませんし、正直苦手です。きっとそういう関係にはなれないと思ってください。私はこのアプリで家族のように支え合っていけるパートナーを探しています。」
この文を打つのに私は凄く怖かった。きっと返事は来ないかもしれない。それでも今日久しぶりに友人達に話せたことも含めて私は違う私になれそうな気がしていて少しワクワクしていた。
電車の窓に映る私の顔が行きとは違って少し活き活きとした表情になっている事に気がついて余計に嬉しくなった。もしかしたら一人くらいは私を認めてくれる人が居るかもしれない。それでも構わないと言ってくれるかもしれないと思うと今日は早くスマホが鳴らないかなとワクワクした。
電車から降りて家までの道路を歩きながら携帯を見ると
「正直に話してくれて有り難う。でも、僕はその感情を全て受け止めることが出来ないかな。」
「それは一時的なもの?」
「それは友人関係と何が違うの?」
「正直今混乱してるわ。なんでこのアプリ始めたの?」
「まだ会っても居ないからそう言われても何とも言えないけれども、会ってからじゃなきゃ分からないかな。」
「アプリ退会しろよ」
「なんか詐欺にあった気分だわ」
「恋愛感情はあるの?」
「それはそういう気持ちになれるほどの人に出会ってないって事なんじゃ無い?俺とならそういう感情分かるかもよ?」
沢山メッセージが来る殆どが批判的な物だった。私も久しぶりに友人達に会えた事で突っ走ってしまった部分もあるのかもと少しメッセージを読む度に少しずつ冷静な考えに変わりその分この一言一言が心に突き刺さってきて辛くなってきた。
友人達が受け止めてくれた事で他の人も受け止めてくれると軽く考えていたのもあったが、毎日あれだけ好きだと言ってきた人達が掌返しでここまで全否定されるとは思ってはいなかった。
私は夜空を見ながら今にも溢れて目にいっぱいに溜まった涙が溢れないようにめいいっぱい目を開きながら泣くまいと唇を噛みしめて耐えた。いつも夜空の星が今日は歪んで見えない。星の光なのかそれとも街頭の光なのか私には判断できなかった。
どれだけ辛いことがあっても次の日が来る。朝なんて来なければ良い。そう思っても朝は来る。いつもと変わらない雀の声と携帯のアラームで起こされる。今日の目はとても重い。昨日はあれから家に帰って結婚式の引き出物やレンタルしたドレスを送り返す為の箱に入れたり、メンバー全員からのグループLINEで私は泣きながら返していた。
家に帰ると一人というのが余計に私の心の中を冷やしたのである。
「あ~目が腫れた。」
虚しく響く一人暮らしの辛い所はこういう時に慰めてくれる人も居ない虚しさが次の日が来たという事実だけれども一層現実を突きつけてくる。携帯を見たくないがもしかしたら一人でも良い言葉寄り添ってくれる言葉をくれるかもしれないと思って見てみた。
結香の結婚式の為に綺麗に塗ったネイルでスマホを操作していく。
あれだけ毎日愛ちゃん、愛ちゃんと言ってきた人達からの連絡は無かった。「おはよう」とか「今日も眠いね」とか送ってきた言葉も今日は無かった。
やはり無理なのかもしれない。と思っていたらピコンと携帯が鳴った。
「おはよう。愛さん、昨日は返事が出来なくてすみませんでした。凄く辛かったですね。話すのにとても勇気が要りましたよね。僕も実は人には理解されない事が趣味でメイク男子なんです。少しずつ動画配信などで増えてきては居ますがまだまだ需要がないからか世の中には浸透されて居なくて人によってはホストやオタク系に分類してくる人も居れば女になりたいのかとも言われたことがあります。なので今回愛さんが仰ってくれた事はとても他人事に思えませんでした。」
一つ一つ文を読みながら私は涙が止まらなかった。愛という偽名であっても文を受け取るのは本人の柚木。私自身なのである。この言葉が本当は嘘かもしれない。でも今の私にはこの言葉が嘘とは思いたくなかった。一人でも理解してくれる人がいる事を信じたかった。
「おはようございます。」
私は涙が零れて頬に伝うのを拭うことも無く震える指先でスマホで文を打った。
「凄く嬉しい言葉を有り難うございます。共感して頂いた件にしてもとても嬉しく思いました。実は昨夜から様々な方から頂いたメッセージが殆どが否定的な内容が多く辛い思いをしていた所だったのです。本当に有り難うございます。」
そう文を打ち終わると送信ボタンを押した。宛名を見るとリュウと書かれていた。年齢は20歳見た目は韓国アイドルに居そうな雰囲気の人だった。
「プロフィールは都内の大学生、身長は170後半。韓国アイドルに憧れています。美容コスメが好きです。人によっては美容やメイクに関して不快に思われる方もいらっしゃったので必ずプロフィールは必ず確認してください。またメイクや美容について興味がある方は語りたいと思っています。」
と書かれていた。私は彼のプロフィールをきちんと読んでいなかった事に後悔した。私はいつも雰囲気だけで選んでいたり文章の雰囲気で選んでいた事に後悔した。こういう人は最初から書いてちゃんと書いている人も居ることを私は把握していなかった。
私は少し元気が取り戻した気分になった。
「ちゃんと見てくれる人が居た。言ったことは間違えじゃ無かった。」
とホッとするとグーとお腹が鳴った。あまりにも大きな音に私は少し笑ってしまった。部屋には勿論私しか居ないのにさっきまでの虚しさとは全く違う空気がここには流れている。ご飯を食べよう。そう決めて冷蔵庫を開けるが昨日帰り道に何も買ってこなかったので冷蔵庫の中身は空だった。それを見て私はまた笑った。笑えることがとても幸せに思えた。
「いらっしゃいませ」
なんとか朝は行きにパンやサラダをコンビニで買って朝からの出勤に間に合った。目は腫れているが昨日の私よりも朝来たメッセージで元気が出たことで目の腫れに対しても何も思わなかった。それよりも今日は小さな事でも笑ってしまう。朝の集まりでもいつもなら無視してしまう内容も今日は笑ってしまった。そんな姿を見てバイトの○○さんが声を掛けてきた。
「安藤さん今日はウキウキですね!そんなに昨日の結婚式そんなに感動的でした?」
「え?はい。久しぶりに中学時代の友人達に会えたのもあって感動的でした。」
「そうなんですね~私はまだ友達の結婚式は出たことがないのですが、そんなに感動的な式なんですね。私もいつかそういう式に出席したいです!」
そう話をしながら私も微笑みながら話していた。するとパンツのポケットに入れていたスマホがブーブーと鳴り出した。私は、この鳴り方はマッチングアプリの鳴り方なので誰からだろう。嫌な内容で無ければ良いなと思った。開店準備をしつつ在庫倉庫から服を出すタイミングでチラッと携帯を見た。すると朝連絡をくれたリュウ君だった。
「お返事有り難うございます。そんなに辛い思いされたんですね。僕でよければ話聞きますしお互いわかり合える所があると思うので今度カフェでも行きませんか?」
と来ていた。正直凄く嬉しかった。もしかしたら恋愛感情抜きでも私の事を理解してくれるかもしれないと思った。それだったら会わないわけ無い。急いで在庫管理室に行って携帯を広げて正社員にバレないように
「是非!私で良ければ会って話したいです!」
と送った。少しスッキリした。気持ちを綺麗に切り替える事が出来たような感じがした。
少し私は端っこで外に見られないようにその場で足踏みをしながらガッツポーズをした。
これが私にとってマッチングアプリを辞めるきっかけになった出会いになった。
「愛さん、今日はお昼にここのレストランでどうですか?」
と地図と共に後日送られてきた。レストランの雰囲気は爽やかで森林がメインなのか机も建物も木で作られていてお店の箇所箇所には植物が置かれていた。
このお店を見たときに凄く私好みであることと、同時にお店の選び方のセンスに感動した。きっと同じような店や食べ物が好きなんだなと思ったらこの約束の日まで楽しみで仕方なかった。
そんな日がやっと今日来た。ずっと楽しみにしていた。待ち合わせの時までずっと連絡を取り合っていた。年下と今までメッセージのやり取りをした事は何度もあったが、今までのやり取りの中でリョウくんは文がとても丁寧だった。写真の雰囲気横顔の写真が多くあまり正面の写真が無いがクールな写真の割には
「おはようございます!愛さん!聞いてください!今日新しいメイクが発売されるみたいなんです!朝一に今日は学校自主休校して買いに行ってきます!」
「自主休校するのね(笑)出席の回数大丈夫?どんなメイクなの?限定品?」
「そうなんです!買ったら本当にすぐに写真送ってもいいですか?出席は大丈夫出す!一応確認してます!!」
「わかった。写真楽しみにしてるね」
その数分後にパレットがモナリザの絵が描かれてて美術品のように思えるアイシャドウのパレッドを頬に付けながら凄い笑顔で自撮りをした写真を送られてきた。そういうやり取りが何度も続き私の中では今までは男性とメイクについてとか美容についてとか話したりしなかったけれども、いつの間にかそういう話も自然と盛り上げて出来るようになったし、私の中で我という主を段々年下のリョウ君から教えて貰ってるような感じだった。
今では連絡を頻繁に取り合う前から比較すると私の中のリョウ君は癒やし系の弟のような存在になった。あの事を公表してから当時やり取りしていた人達とは全員連絡を切った。正直私という人間よりも身体の関係を重視している時点で誰も私という人間と向き合おうとしていた人は居なくて下心しか無かったんだな。と思えばあれだけの酷い言われよう傷つかず気持ちを切り替えれる事が出来た。
今回の待ち合わせは駒沢公園だった。リョウ君からの希望で公園で散策しながら話しませんか?との事だった
私は待ち合わせの時間まで少し緊張していた。前回の男のように価値観が違くて嫌な思いしたくないなと思いながら公園の入り口の石碑の前で車が行き交うのを眺めなら彼の姿を探していた。
暫くすると携帯が鳴り、
「愛さん、今どこにいらっしゃいますか?」
少し緊張気味で少し声が青年に近い爽やかな声が電話から聞こえてきた。
「今私は駒沢公園入り口でバス停近くに居ます。隣にスタバがありその隣に駒沢大学の入り口があります。」
「分かりました。今駒沢の田園都市線乗り場で下車しましたのですぐに向かいますね。」
「大丈夫ですよ。ゆっくり来てください。」
「有り難うございます。一度電話切りますね!」
と言って少し小刻みに雑音が聞こえた後に電話が切れた。多分小走りで走っているのだろう。悪い人じゃ無さそうで少し安心した。
少し経過するとこっちに小走りで走ってきた人が居た。遠くからなので分かりにくいが田園都市線下車の駅からここまでそれなりの距離がある。その距離を走ってきたのか。年下なのもあってそんな姿は可愛いなと思ってしまった。少しずつその人影が大きくなっていくのを見ていると、息を切らせながら私の目の前まで来て
「遅れてすみません・・・はぁはぁ。意外と・・・はぁここまでの距離あるんですね。知らなくてすぐに着くだろうと思って地図見ながら来たんですけど意外と距離ありました。」
肩を大きく揺らしながら呼吸を整えようと必死にしながら額に汗をかいた青年が目の前に立っているのを返事を曖昧に返しながら観察していた。髪は黒髪でサラサラしている鼻は高く肌が美容に興味があると言っているのが分かるくらいとても綺麗で背も高い。目は下を向いてしまっている為見ることは出来ないが私服は白いTシャツをパンツにインしてるが太い茶色いベルトを巻いている為お洒落に着こなしている。韓国風と言えば想像が出来るだろうか。新大久保によく居そうなお洒落な人である事はこの一瞬の観察でよく分かった。また、鞄が薄い黒の皮のような手提げでも肩に掛けても持てるタイプで中に沢山は入って無さそうなのも今時の子だなと思ってしまった。私は沢山荷物の中に物を入れるタイプだが最近の若い子は財布もコンパクトで鞄はとても小さくスマホすらも入れない。入らない物は今ではエコバッグが流行してる中でブランドの紙袋を手に持ちそこに入れるらしい。小さい鞄はようはお洒落の小物扱いで必要な物を運ぶ用では無いのだというのを以前テレビで見たことがある。この子もそういうタイプなのかもしれない。そういう少しした所からジェネレーションギャップみたいな物を感じてしまった。
静かに彼が息を整えて顔を上げるのを見守っていると少し息が整ったのか私の事を皆見ながら
「本当すみません。やっと息が整ってきたので・・・あ、そうだ改めまして俺の名前はリョウです。愛さんですよね?写真と同じで遠くからでもすぐに分かりましたよ。」
「息整ってきたみたいで良かったです。私だと分かって貰えて良かったです。」
「ありがとうございます。あ、公園の入って左側にお店あるでしょ?あそこ本当に美味しいんでそこで一度飲み物とか飲みながらその後公園を散策するのはどうですか?」
「いいですよ」
「本当に会えて良かったです。中にはバックれたり冷やかしの人も居てもしそうだったらと思って少し不安だったんで。」
そんな他愛も無い話をしながら私達はお店に向かって歩き出した。話しながら彼の顔を見てみると目の周りも含めてしっかりメイクしているのが分かった。メッセージのやりとりからもメイクに興味があるのは知っていたが目の前で男性がしっかりメイクをしているのに少し驚いた。しかし、そのメイクは綺麗で肌は元々綺麗だからかデコボコしておらず、眉毛周りもしっかり処理されているため不潔感は全く無く、それよりもアイドルのような姿に一瞬芸能人かと思う程の見た目だった。
一分もかからない場所にある喫茶店で私達は入店した。外でもカフェが出来るらしく公園の中にある喫茶店だからか犬連れのお客さんも沢山来店しており外のテーブルで犬も一緒にご飯を食べたり、多分犬友達なのか様々な小型犬や中型犬も一緒に居た。私はその姿を見ていると長毛の小型犬がピンクのリボンを額に付けて私の姿を笑っているような表情で見ていた。店内を見渡すとお昼時ではあるがそれなりに人は居るもののすぐに案内して貰えそうな感じであった。自然をテーマにしているのかとても明るい雰囲気でお洒落な店であった。私達は女性店員に促されテーブル席に案内された。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます。」
リョウ君は私達を席に誘導してくれた女性店員に対して自然と感謝の意を述べたことに私はとても良い子だなと感心した。私が今までお会いした人達はこういう事が出来ない人も多かったので若いのにしっかりしているなと思い好感度はとても高かった。
「愛さんは何飲まれますか?」
「柚木です。」
「え?」
「私の本名。柚木」
「本名柚木さんって言うんですね。俺は涼太です。」
「あだ名で登録したんですか?」
「えぇ。何て登録して良いのか分からなくて友人達からの呼び名で登録しました。」
「そうなんだね。私はロコモコとレモネードにします。」
「決めるの早いですね!ちょっと待っててください。俺はどうしよう・・・」
メニュー表を一生懸命悩んでいる姿を私は見守っていた。ここに来る前にネットでメニュー表を食べログで見ていたので待ち合わせしている時に見ていたのだ。私はブツブツ言うリョウ君改めて涼太君の姿を少し姉になった気持ちで見ていた。何故挨拶のタイミングで彼に本名を言ったのかそれは直感だった。彼は本名を言った所で何か悪用することも含めてそこまで警戒しなくても平気なように思えたからだ。
暫く別の店員さんが持ってきた水を飲みながら私は待っていると涼太君が
「決めました!俺はシーザーサラダとポモドーロのパスタにオーガニックアイスティーにします。」
早速店員さんに頼むと私達は少し水を飲みながら会話の始まりを探していた。
「あの愛さ・・・じゃなくて柚木さん」
「はい。」
「今日は時間取っていただいて有り難うございます。」
「いえ。大丈夫ですよ。」
「俺、こうやって本当に会うのは初めてで少し緊張しています。」
と言いながら少し照れ笑いしながらこちらを見て言ってきた。
勝手な私の想像ではメッセージのやり取りをしてすぐに遊んだり会ったりしているのかと思っていたのでこういうのを聞くと私が会話のリードを取らないといけないのかと思ってしまった。しかし、涼太君は元々人懐っこいのか
「そういえば柚木さん、この間メッセージで送った新しいコスメで今日メイクしてきたんです!」
「そうなんですね。一目でメイクしてるのかなとは思っていましたが、結構オープンで話されるんですね」
「メイク男子は確かに少ないですし、俺も実は大学デビューで外でもメイクするようになったんです。でも、やっぱり直接会うと気になるじゃないですか。だから俺は最初に言った方が良いなと判断して言うようにしているんです。」
「なんか格好いいですねそうやって言えるの。私はまだ自分が恋愛は出来てもその先はとかはこの間勇気出して伝えてその後は散々の言われようで今もかなり引きずってますよ。」
「俺もそうでしたよ。最初はそれこそ男なのに化粧や美容に興味があるっていうだけで高校ではいじめにも遭ってました。でも俺には姉が居てメイクとか凄く教えてくれて変わったんです。後、今日はこんな感じですが普段はV系のメイクとかしてますよ。」
「え?涼太君V系なの?」
「はい!今日はさすがに辞めておけって友人?世話している人に言われて今日はナチュラルに近いですかね。V系の写真見てみます?」
「良いんですか?見てみたいです!」
涼太君はスマホを操作すると一つの写真を私に見せてきた。それは目の周りは黒くキリッとしていて眉毛も細く、服装も首にチェーンが付いていたりしていて今目の前の涼太君の確かに面影はあるが別人ともとれるくらい雰囲気が全く違う姿に私は驚きが隠せなかった。
「雰囲気も含めて全く違いますね。眉毛とかもV系の時は細いけれども今は太いよね。」
「あぁ、それはねまずペンシルで縁を描いてから眉毛用のマスカラがあるから自然にぼかしながら描きましたよ~。あとは全体的にV系では黒とか赤を俺は主に使用してるけれども、今日は柔らかい印象を演出したくて茶色でもロイヤルミルクティーの色を主にマスカラも含めて使用してますよ。」
「肌の色はそれは・・・」
「パウダーを二種類使用しています!一つは肌に優しいのであまりにも白すぎるのも浮くのでデパコスのパウダー使用したりしてます。」
「凄いな~どうやって勉強していったんですか?」
「自己流ですね。完全に。後は姉に教えて貰ったり、化粧品を借りて使用してみたり最初はそれこそメイクの道具を買いに行くのに凄く抵抗とか恥ずかしかったりしてでも、慣れてきたら普通に帰るようになりました。以外と新宿だとホストさんとか買いに来たりしてるので店も入りやすくて良いですよ。」
「へぇ~そうなんですね。」
「俺も最初凄く悩んでたんですよ。やっぱり男性って男らしいとかイメージ付けられやすくて可愛い系もあってもメイク系って少しずつ需要出てきたけれどもなかなか難しくて高校の友人に道端で会った時に気持ち悪いお前大学デビューかよって言われて凄く傷ついたんです。それで毎日泣いててそれこそ何個かコスメ捨てたくらい。でも姉に言われて傷ついて泣いてる暇があるならそんなことを言わせて恥ずかしいって思わせるくらいメイクの技術上げてそいつらのことを見返してやんなって。因みにその後俺の姉さんその高校の同級生を特定したみたいで友達を連れて一緒に遊んでやった。って事後報告されたんですが怖くて詳細は聞いてません。」
「凄く大変な経験があった話を聞いていたのに途中からお姉様のキャラの濃さで全部持っていかれました。私も今回の事で身体目当ての人をあぶり出せてそういう人を拒否できたのは良かったのですが、このままで良いのかなとかやっぱりそれを人に伝えたときに批判的な事を言われたことがまだ怖いですね。」
「確かに怖いですけれども、この短期間で自分自身がそういうタイプなんだって分かることが凄くないですか?」
「え?」
「だって今まではそういう事に気づかなくてそういう場面になったらっていう事が多かったのでしょう?だったらここで分かるのは凄いですよ。俺実は化粧に興味があったときに自分が女の子になりたいのかとか凄く悩んで苦しかった時期があったので、全く違いますけれども少しは柚木さんの気持ち分かる感じがします。」
「確かに涼太君とお話ししていて類似している感じがします。涼太君は自分が女の子になりたくて化粧をしているわけでは無いんだよね?」
「はい。化粧をするというイメージを勝手に女性だけという風に決めつけていただけで、今では化粧男子も増えてきてますしそういう女性になりたいという気持ちも恋愛対象も女性なので違うかなと大学の授業で実際にそういう方達と話しながら分かりました。」
「LGBTQ+ですか?」
「そうです!それで柚木さんの話を聞いて授業で確か聞いたことがあるなと思ったのが、恋愛感情があり、性的な欲求が無いのをロマンティックアセクシュアルという風に言うのですがもしかしたらそうなのかな~て思って」
「LGBTQ+か・・・考えても無かった。」
「確かに同性愛者とか異性愛者とかバイセクシュアル、トランスジェンダーのイメージが強くてなかなか他の事までは知らない人が多いんです。でも実際は性についてだったり自分の事について悩む人は多いですからね。」
「私もその中に含まれているのかな・・・」
「そこまでは俺も素人ですし何とも言えませんが、ただもし気になるならインターネットでも説明文が載ってますし、そういうレインボーフラッグとかの団体に話を聞けばもっと生きやすくなるとも思います。」
「そうだね。でも今すぐには受け止めるのに時間かかりそうかな。」
「良いと思いますよ!ただ俺が言いたかったのは一人じゃ無いって事です。色んな人が居てその中で自分自身に否定的なことを言う人はそういう広い世界で生きていないからこそ生まれる発想と言動でしか無いんですよ。だから広い世界があればそこまで思い詰めなくても平気だよって言いたかったんです。」
「うん。それは凄く伝わりました。」
「むしろ最初から身体の関係が出来ない事に対して文句言う人って結局その人の性格とか人間性について見てない証拠ですよ。そんな人はこちらから振った方が正解です。」
フンっと鼻息を吹きせっかくの格好いい顔が鼻が膨らんで変顔になったのでそれが面白くて私は笑ってしまった。それに対して涼太君は「格好いい事言ったのになんで笑うんですか~」と両手を胸の前で少しポカポカ叩くような仕草をしながら私を責めたので私は少し笑いを堪えながらごめんごめんと謝ったけれども正直その顔が面白かっただけではなく、その発想が私は凄く救われたので笑ったのだ。こっちから身体の関係を求めるならこっちから振ってやれば良いという恋愛対象者から好かれやすい人の台詞で少女漫画とかしか聞かないと思っていたからこんな広々とした爽やかなカフェで聞くとは思わなかった。
そして本当は今日はその話について話すつもりは全く無かった。理由は私自身この感情が一時の物であって欲しいといつかはそういう行為をしても拒否しない人に出会えると思っていたから。なのに今日その考えと共に同じ悩みを持つ人達がいて私は普通である事を知り、私は私で良いんだ私という安藤柚木という人間で堂々としても良いんだという新たな資料を渡されて私の中では人生は一通りじゃないんだなと思わされた。
その後は二人共あっという間にご飯を食べてしまったので、会計をして公園に出てきた。
「ごちそうさまでした。」
そう言うのは涼太君だ。私より年下だけでは無く、涼太君が私を認めてくれたことも含めてメイクして嫌な事を言われた過去だったりもしかしてこういう人達と話せば気持ちが楽になるよと紹介しくれた事に対して感謝の意を伝えたく私は全額支払いをした。
その後は公園を散歩していた。何でも涼太君の最近のお友達は花に詳しい人らしく沢山庭に花を咲かせているらしい。その事を語る涼太君はメイクについて語っている時と同じくらい輝いてみえた。
「涼太君はその友人さんがとても好きなんだね。」
「なに言ってるんですか!友人って言っても年上で部屋は汚いし、髪もボッサボサだしいつも花にブツブツ言う人ですよ?しかも洗濯も一人では出来ないしご飯の作れないから俺が掃除したりご飯も作るんです。」
「もう母親だね。」
と笑うと涼太君もフフと笑った。
「俺その人に本当に救われたから。俺あんな風に言ってましたけど、姉さんや家族にも沢山助けて貰ったんですけど、考え方とか物事の捉え方を一番変えてくれたのはその変人ボサボサの友人のお陰なんですよ。その人って花が好きで庭に沢山植えてるんですけれど最初こんなに庭を綺麗にする人だから綺麗な女性とかを思い浮かべて自転車で通っていたんですけど、ある日いつものようにその家を通ったら綺麗な庭にシワシワのTシャツを着たロン毛ヘアの男がウロチョロしててつい変質者だと思って通報しようとしたのがきっかけで出会ったんですけれど、最初の印象は本当に変わり者で知っていけば知っていく程もっと変人だと分かったんです。それで段々話していて家を出入りするようになって部屋見てからは散らかってるしカップラーメンしか食べないしでなんやかんやで世話するようになって本当に何者なんだ?と思っていたんですけどその人小説家なんですけどね、小説を書いてるときは凄いんですよ。花にブツブツとアイディアを話してたと思ったらパソコンに向かって休み無しに書くんです。途中で声を掛けても聞こえないくらい集中していて自分の世界に入り混むんです。そして急にスイッチが切れるとまた花に話しかけるんです。変人でしょう?でも、小説は本当に綺麗なんですよ。俺あんまり小説読まないので活字とか苦手ですしだから読みにくいと勝手に思っていたんですけどその変人のは風が心臓を通っていくようにスラスラと読めるのと本のイメージが自然の中に居るようなそういう表現が多くてボサボサ変人のことを知らなかったら爽やかな作家さんをイメージすると思う位なんです。あまりにも違うので詐欺じゃんって言ったら勘違いしたそいつが悪い。って俺はそんな風に表現したくてしてるわけじゃ無くて俺は俺だ。イメージと違いますねって言われてもイメージしたのは自分だからそれを俺に押し付けないで欲しい。何も答える必要は無い。って言っててそのボサボサヘアーで何俺様発言してんだ!て口げ喧嘩したんですよ。でも、俺の化粧していることについても、化粧してるお前がお前でそれ以上それ以下を求める奴は勝手にお前という人間のイメージを押し付けてる奴だろうお前を見ようとしてない人間にこっちからイメージを合わせる必要は無い。見たければ目の前の物をしっかり見ろと言え。って言われてそこから考え方がガラリと変わったんです。」
「見たければ目の前の物をしっかり見ろと言えか。凄いですね。確かに私もですがこの人はこうだって決めつけて人間像っていうんですかね・・・そういうのを勝手に自分自身の中で創っている感じがします。その人の言う事って確かに実際現実では難しいですけれど、でもそう思う事で私を非難する人達って私を知らない人達ですもんね。実際お会いしてなないし、私の声も知らない人もいる。私の実家や親の顔も下手したら私の好きな物嫌いな物そのきっかけの出来事も知らない。小さい頃の話も知らない只のそこに居る人なんですよね。」
「そうです!ただそこに居て柚木さんを知っているように言っている人なんですよ。ネットとかで悪口書く人も同じなんですよ。マッチした人に何か言われてもその人は柚木さんを知らないし、ただ写真を見ただけただ運良くマッチしただけの通りすぎなんです。俺も同じです。ただ今日柚木さんが会ってくれた只の人なんですよ。そんな人があなたはこうしてくれると思ったのに!と言うのは只勝手に向こうがしてくれるって思い込んで柚木さん、マッチでは愛さんがそうしてくれる。って決めつけてるだけでその人は文句言うのは筋違いなんです。」
「うん。なんかそう思ったらただ道端で出会った人に靴磨け!って言われて嫌ですって言ったらお前靴磨きの顔してるのになんでだ!って言われてる感じがしてきた。」
「その例えは面白いですね!でもそういう感じで良いと思いますよ。ネットでよくあるじゃないですか。写真とかSNSで拾ってきてこの人こんな事言ってたとかこいつ何とかだよって書く人。まぁ、個人の写真を他の所に掲載することは犯罪ですし、あまりにも酷い場合は被害届出せますけれど、そういう事も含めてその掲載してやろうっと思った人って実際は羨ましくてやったのかもしれませんけれども、俺のことだったり柚木さんの事って一ミリも知らなくてただ数回メッセージやり取りしただけとかたまたま写真と文を読んだだけで批判してるんですよね。そんな人に何言われても自分が勿論犯罪に巻き込まれていなければの話ですけれど底辺の性格に振り回されるのって変ですよね。勝手にこいつこうだって決めつけもそれに群がっている人達も所詮現実では出来なくて匿名だから出来ること。それに本当に自分に自信があったら本人に言うはずなのに言えない時点でまた、違うところで顔を掲載して悪口とか言ってる時点で同じ土台に立っている人間では無いんですよ。下から一生懸命吠えてるだけ。だから、もしこれからネットやメッセージで柚木さんの事を否定的に書いたりしてきても貴方は堂々としていれば良いと思いますよ。そういう人は何度注意してもその狢からは這い上がって来れないし、そういう所でしか幸せを感じれないあくまで生きている世界が違うんです。俺はやっぱりメイク男子として何故か盗撮されたりSNSにも掲載された経験があるので消しても消しても残るんですよ。デジタルタトゥーって。それに掲示板?にも書かれた経験もあって、実際にその掲示板を見てませんが、でもどこかに俺の写真が掲載されているって気持ち悪いし怖い思いもしました。でも、そういう事をする人が居ても一々注意できないし、してもキリが無いので盗撮している人が居たらピースしたり、掲示板も見ないようにして住む世界が違う人達が必死にそこで生きてるって思って俺は俺だから俺以外が文句や悪口を言っても只の嫉妬って思おうって。勝手に犯罪歴があるとか虚言言われてるって聞いたことありましたけれど、虚言言う時点で犯罪ですしそれを俺に言いに来る人も同類ですし、それで警察が本気になるわけでもないですし、良いかなって。堂々としていれば例えその掲示板やSNSで俺を見た人が居てもそんな風には見えないという一言があったり反応が薄かったらそれまでの情報なんですよね。まぁ、酷くねつ造するほどそういう所に熱心に書こうとはあまり居ませんし、居たらその人法律知らなすぎですし。」
「私よりも年下なのに苦労したんだね。私本当は自分の恋愛の事についてメッセージ送った後怖くてさ、一応プロフィールには私の写真掲載してるしもし悪用されたりしたらどうしようと思っていたの。だから実際会ったこと無い人達からの言葉が実際に言葉として言われ居る感覚になってかなり凹んでたんだ~。」
「苦労というより巻き込まれた、巻き込まれる所に居たっていうだけです。そういう人が居る時点でどこからそういう風に巻き込まれるのかって分からないじゃ無いですか。そうだと最初から怪しい雰囲気を纏って話しかけてくれたら楽なんですけれど、基本普通の人だったりしますから。だからそういう人に出会うのって今特にネット社会ですからネットを使用すればするほどそういう人に出会いやすくなりますよね。むしろ、ネットから離れればそういう人に会わなくても済みますが、そうだと何も情報が得られない。そういう覚悟で俺もネットとか使用してるんでもしマッチでも写真がスクショして使用されている可能性もあるわけですから。そんな人を見分けるのは難しい。だからそれをされた後の考え方を変えるしか無いなって思うようになりました。犯罪レベルなら対処して貰って、それが出来なければそういう所に流された世界から離れる。実際は嫌ですけれどね。でもそういう人を相手にしても意味ないんで。実際会ったらなんだこいつ?って思える程自分磨きをした方が時間を有効に使用できるかもしれませんし。」
そう言いながら涼太君は太陽の光を葉っぱの隙間から私達に浴びせている木達を眺めながら
「まぁ、そういう男は付き合っても絶対幸せになりませんし、世界中でその人しか選べませんって言われたら仕方ないかもしれませんけれど、実際そうじゃないんで!」
と私に年齢相応の笑顔で言ってきた。
私はその笑顔を見て、恋愛感情か分からないけれども好きという感情は持てるけれどもそれ以上の関係を持てない事について送って良かったのかもしれない。と初めて思えた。沢山嫌な事は言われたが涼太君みたいに自分を持って生きている子に出会えて本当によかった。そう思いながら私は屈託ない笑顔の涼太君に微笑み返した。
涼太君と会って数日が過ぎた。その後は散々大学の事もそうだがメイクについて二人で語りながら駒沢公園を散歩していた。時々友人作家の変人さんの悪口も含めて。そして私は久しぶりに初対面の人と笑いながら話せたことに幸せを感じた。涼太君とは未だに連絡を取っているがお互い恋愛感情と言うより友情に近いだろう。でも私達はそれで良いと思う。
ピコンピコンとスマホの画面が光る
「愛ちゃん最近どう?」
「愛ちゃん、前言ってた事俺考えたんだけれど一緒に治療していかない?協力するよ?」
「お前まじかよ。ヤラシてくれない女とか女じゃねーじゃん。つかお前処女なのかよ」
「愛さんはまだ恋愛出来てないんだよ。俺となら恋愛出来ると思う。」
「愛、なんで返事返してくれないんだ。病院一人で行くのが嫌なら俺も一緒に行くよ。支えるから大丈夫だよ。」
「お前マッチングアプリなんて使用してるけど結局冷やかしなんだろ。お前の写真ばらまいたからな。退会しろ」
「退会しろ」
「愛ちゃん言いづらい事を言ってくれて有り難う。俺なら支えて上げられるよ。」
私はその光に目が覚める。今日は仕事は休み。昨日はセールだったから沢山来客があってその対応に私は走り回っていたからか身体が鉛のように重い。そしてふくらはぎが成長痛のような痛さで顔が歪む。目を擦りながら枕元に置いてあるスマホを見ようと寝返りを打つとマッチングアプリのマッチした人達からメッセージが来ていた。私はロック画面を解除してアプリを開き一つ一つマッチングアプリのメッセージボックス画面から読んで大きく深呼吸をした。最近マッチした人には最初から言うようにしているが殆どの人が「支える」という言葉や「病院」を勧めてくる人も居る。私は病気でも無いし支えて貰おうなんて思っても居ない。そんな言葉を言ってくる人は優越感を浸りたいだけの人だと思うと女を下に見ているのがよく分かる。
「うわ~顔さらされたのか。一応運営にこの人が私の写真を晒したことを通報しておくか。」
ベッドの中で背伸びをすると背中がバキバキという音がした。あまりにも大きく鳴ったので少し笑ってしまった。忘れないようにその人を通報して起き上がる。
「あちこち筋肉痛。昨日は平気だったのに。次の日に来るのはまだ若い証拠!」
一人暮らしの部屋に私の独り言が響きそして静まる。少しまた両手を前に伸ばしながら肩と背中を伸ばすが筋肉痛の痛みでうぅと唸ってしまう。
今日は休みだけれど午後三時に涼太君と会う約束をしている。今日は実は涼太君の友人で変人作家さんに会うのだ。連絡する度に話されるので頼み込んで会わせて貰うことになった。そして今日は涼太君がいつものV系のメイクで会ってくれる約束もしている。この二つの楽しみの約束が無ければ朝からのマッチングアプリのメッセージに一日嫌な思いをさせられたのかもしれない。でも、今日は涼太君に会ったあの日から考えていたことがある。理解してくれる人が居なかったら今日退会するつもりだったのだ。
私はマッチングアプリの設定から退会するをタップした。本当に退会して良いのか確認のメッセージが出てきた。
私は迷わずに退会手続きを続けた。
「ご利用有り難うございました。」というの文字がスマホの画面に表示された。私はそっとスマホの画面を閉じてスマホをベッドに置いた。あれだけ結婚を考えてマッチングアプリに登録したけれどもそういう出会いはこのアプリでは出来なかった。けれども私は退会したことは後悔していないし、アプリは一つではないしこのアプリは私には合わなかった。ただそれだけだ。
一つ私が私に課せていた事が違う形として納得出来る形になった。次に繋ぐ経験が出来たことが私は良かったのだと思いながらカーテンを開けて朝日を浴びた。
今日ケーキ買っていこう。
・・・・・そうだこのマンションペット可だったよね。
よし帰りに前から気になっていた代々木にある猫専門店見に行こう。
今日は見に行くだけ。
うんそうしよう。
今日は絶対見に行くだけだから良いよね。
フフと私はいつもと変わらない見慣れた部屋の風景を見渡しながら一人で決意した。
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