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第五章

第五章

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登場人物

主人公 千(せん)
背中に5の数字が入っている王子の一人として選ばれた男の子。化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水や周囲の水を操って攻撃が出来る。ただ、この能力をあまり使っていないからどんな技を使えるのかについて本人は分かっていない。
身長は178㎝の高身長だが心は少年で感じた事や思った事を顔にも態度にも出してしまう。
四葉さんと両想いになって最近は浮かれている。

化け狐 サクラ
198㎝弱の背丈を持つ人型の化け狐。千とは魂の繋がりの儀式で千を自分の器として認めた。魂の繋がりであり相棒である千と常に一緒に行動をしている。千を背中に乗せる時は獣化になり、大人二人は乗れるくらいの大きさになれるが本人曰く気安く乗られるのは好きでは無くプライドが高い。昔は暴れて沢山の国や村を崩壊しては恐れられる事に喜びを感じていたが3番の数字を持つ王子に封印されて洞窟の中で暮らしていた。千が器になってから千の行動に振り回されるが魂の契約があるからか千の事は一番信用していていつまでも幼い子供のような性格でいる千の世話をするのが最近は少し楽しかったりするが振り回される度に器にして良かったのかと考えさせられる。夢はサクラの名前で世の中に恐怖で震え上がらせる事。

龍神 好実四葉(このみ よつは)
千の家に繋がる道の門の所にある桜の木に惹かれ桜の花を見ていた所を千に見つかり、四葉が住む村の代表として王子達に挨拶をした。昼は村の妖怪達に評判の薬屋さんをして、夜は龍の姿になり迷える子供達の魂を天に返す仕事をしている。
見た目は174㎝で年齢は千よりは年上の男性。髪は白く千曰くとてもサラサラの風になびく姿は静かなせせらぎの川のようで美しいらしい。
最近の悩みは今まで奴隷のように扱われていた村が幸せな生活を送る為にはどうしたら良いのかという事である。またお漬物が最近は上手に出来てきた為来たお客さんに提供し食べて貰うのが密かな楽しみである。

村の一族
千の両親
千が生まれた時に数字がある事に気が付いていたが数字がある者は化け狐に必ず殺されるという昔からの言い伝えがあった為本人には内緒にしていた。
村の中では爺様と実の兄の亜廉(あれん)は千が生まれた時から知っていたが王子として正式になった日には他の村人も知り、今まで我が子の死ぬかもしれない儀式までよく耐えたと慰められて今も村で普通の暮らしをしている。

実の兄 亜廉(あれん)
千の実の兄。6個違いで亜廉にとっては千は可愛くて仕方が無い存在。しかし王子としての数字を持っている事とその数字がある者は化け狐に殺される言い伝えを聞いて千が器の儀式の時までは気が気じゃ無かった。王子として頑張る千の成長に驚くがまだまだ幼い弟を守りたいと思い爺様の所に行っては千の近くに居たいと頼み断られ続けられている。

爺様
千の村に住む一番偉い爺様。そして化け狐のサクラの師匠でもある。千が生まれた時に数字がある事を千の両親から相談されて言い伝えを教えたのは爺様だった。両親が我が子の未来を知って嘆き悲しむ姿に心を傷め少しでも化け狐が千を殺さないようにと千が洞窟の中に入って居る時に爺様の化け狐と共にお祈りをしていた。ただ、その事については村人も含めて千も知らない。爺様は自分の事をあまり話さないので村人の間では年齢は幾つなのかという話を良く耳にする。

兄弟の盃を交わした王子達
1番 新一(しんいち)
鎖骨に1番の数字を持つ1番上の王子。能力は炎で、弱点は水と炎を操るには力が必要なので疲れてなかなか能力の力を維持する事が出来ない。また性格上やる気がある人物では無く、なるようになれという性格なので戦の時も基本は「なるようになるさ」というスタイルで戦う。最近の悩みは盃を交わした兄弟達が冷たいこと。一人っ子なので兄弟が出来る事に1番楽しみにしていたのも新一だった。最近は長男の王子として弟達を引っ張って行く事に必死になりすぎてしまっている所がある。

2番 龍次(りゅうじ)
腕に2番の数字を持つ王子。能力は風使いだが力のコントロールが出来ず戦場となった場所を壊滅したり味方にも被害が出るので国の中では厄介者にされているが本人は気が付いていない。他者にヒソヒソと悪口を言われていても「俺が格好いいから噂をしているんだな!子猫ちゃん~」と言って近づくので皆からウザがられている。根っからの女好きだが女が好きというよりもチヤホヤされるのが好きなだけで本気でその人に恋をしている訳では無い。因みに千の事を馬鹿にしていたが龍次も初恋はまだである。

3番 鏡夜(きょうや)
舌に3番の数字を持つ王子。能力は千里眼である程度の距離であれば何が起きているのかを見ることが出来る。眼鏡はその距離を伸ばそうとしてわざと視力を上げているがそれで見える距離が伸びる事は無い。逆に千里眼を使う時は目を瞑ってしか出来ないので意味が無いことを本人は気が付いていない。鏡夜にも実の兄弟が居るが特に仲が良い訳でも無く会えば話すくらいのあっさりした関係の10個離れた兄が居る。
ただ、兄の影響を受けて和風な家を好むようになったが本人は「兄は関係ない、自分の好みだ。」と言い張っている。
最近は血が繋がらないが盃を交わした弟達を大事にしたくて新一兄さんと意見が度々ぶつかる。

4番 楓(かえで)
左足のふくらはぎに4番の数字を持つ王子。見た目は前髪が目を隠す程伸ばし背中を丸くしてのそのそと歩いている。能力が闇使いというのもあるからか常に闇のオーラを発しているが本人はその方が居心地が良いと思っているので気にしない。ただ新一と同じ能力は使い手で楓の場合も体力の消耗が大きく体力が新一より無いので疲れやすく戦ではあまり派手な活躍はしない。出来れば戦も帰りたいと思って影で終わるのを待ったりする事もある。姉が二人居るので良くおもちゃにされて扱き使われていたので弟が二人出来て兄という立場を手に入れて嬉しいからか弟達の事はとても大切な存在になって来ている。
ただ、恥ずかしいので本人達には絶対に言わない。
兄弟の中では龍次と性格が合わないので嫌い。よく率先して龍次を虐めるのも楓である。
そして極度の人見知りなので女性達を囲んで飲む時は千と一緒に端でお酒を飲むのが好き。女性が近づこう者ならシャーと威嚇する程苦手。(原因は姉達のせいで女性に対して夢を持っていない。)
弟達の事を大事に思っており、体力が消耗しようとも弟達の為ならと能力で助けてくれる優しい一面もある。

6番 希生(きなり)
耳裏に6番の数字を持つ王子。いつも派手なメイクをしていて美容が大好きな男子。千よりは少し下の男の子でよく千の背後にくっ付いて隠れたりする。新一と龍次と違って女性が根っから好きというよりも女性達とメイクや最近流行なファッション、美容について話をするのが好きなだけでこの人が好きという感情は特にない。
国に仲の良い幼なじみ(男)が居てよく遊んだり毎日文通をする程の仲良しである。能力は氷使いの冬。その場がどんなに熱い環境でも冬の環境にする事が出来る。体力はそれなりにある為ある一定の距離であれば基本はそこまで体力を消耗せずとも冬にする事が出来る。
ただ戦いの時は相手を凍らせる事に夢中になって他に目を向けていないと自分の身体も一緒に氷になってしまう為不意打ちで攻撃された場合身体を傷つけられるというよりも壊されてしまい死に至る事がある。
1番年下で甘えん坊だが本当は結構腹黒くて計算高くどんな頼み方をすれば面倒な仕事をしなくても済むかを常に考え、兄達に仕事を押し付けてはマッサージに通ったりするのが好き。

千の部隊
1番隊隊長 はじめ
見た目はスキンヘッドの男で見た目は厳つく感じるが意外とお茶目でクマの人形が無いと眠れないという可愛いギャップを持つがそれを知っているのは同じ部隊の人達か千賀しか知らない。千に言われてから敬語無しで意見を言えるようになり、最近では千と千賀とはじめで意見交換をするのが好き。因みによくこの3人が固まって訓練するが部下からは筋肉バカの集まりだと影で言われている事に気付いていない。

2番隊隊長 千賀(ちか)
ボブヘアーの千賀は村1番美男子と言われている。美容が好きなのか顔に傷が付かないような戦い方をする為はじめと千に泥を付けられたりよく虐められる。
それでもはじめと千と千賀の相性は良く、千賀も千に対して意見をハッキリ言えるので困った事は無いが、爺様にはバレないようにはじめよりは周囲の目を気にしている。

花の都
王子達が住む場所。それぞれ王子達の家に続く道の入り口に門がありそこには個性溢れる様々な飾りがされている。その門の入り口にある中心部には城がありその建物の中に入っていくと通行証を持った商人や王子達に商品を渡して使用して貰うまたはそれにお墨付きをして貰う事で売り上げを伸ばそうとしている人達が出入りしている。中にはその人々の群れを利用して物乞いをする人達も居る。王子の間は基本は王子以外は立ち入り禁止されている。中には2階建ての部屋が広がっていて寝転がることが出来るソファとキッチン(料理が出来るのは新一、龍次、鏡夜、楓だけ)があり良く材料を買ってきては料理を自分達で作り兄弟達でご飯を食べる。またそれぞれに部屋が与えられているので一人になりたい時はその部屋に籠もる事も出来る。1階は兄達の部屋があり、2階に弟達の部屋がある。
花の都にある王子達の家に続く道の門の所は王子の家で働いている者や王子達以外は固く禁じられていて他の王子の所で働いている者が違う王子の家に行く事も固く禁じられている。これに反した者は死刑、または流刑されてしまう。

王子の掟と村の掟
王子と村の掟は厳しく守らないと王子であっても反逆者として死刑になることがある。
例えば王子が国や国民に対して殺しをした場合や王子の力を使って国中を混乱させた場合は特別な許可の元死刑にされる。実際に過去の王子達の中で王子の権力を使って好き放題にした事により同じ兄弟の盃を交わした兄弟に殺されるという事はあった。
また、王子の身の危険を守る為に厳重に警備を強化しており村人と深い関係を持つことや自分達の城に招き一緒に食事をする事は禁じられていて王子の家で働く者達との交流も控えめで無いといけない。
また王子は常に戦では先頭に立たなくてはいけなく、それぞれの出身の国、村の軍隊の指揮を取るのも王子達の仕事である。
また戦での王様はそれぞれの出身の1番偉い人が戦の中心部に座らないといけない。
(例:千の村の1番偉い人は爺様なので爺様が戦の時は中心部に他の王様と一緒に戦が終わるまでは座って待機しておかないといけない。)
王子達は偉い人達(王様)を守りそして領土を拡大していく為に尽力しなくてはいけない。

「戦に勝ったぞー!!!」
大きな声で国の旗を揚げ叫ぶ。数ヶ月に及ぶ戦に勝利の旗を挿す事が出来た。
「はじめ!千賀(ちか)!怪我人を皆滑車に乗せろ!!」
と俺は叫ぶ。息切れしているが俺も休んでいる暇は無い。怪我人を化け狐の上に乗せるが化け狐が引く引き車に乗せるか俺は指示をしなくてはならない。
「死者はどうしましょう。」
「今回どれだけいるかは分からない、ただ一つでも持って帰りたいが全ては無理だろうが、フードに付いたお面を剥がして持って帰って家で帰りを待つ者に渡すしか無いな。」
「はい!ありがとうございます。きっと彼等も家に帰れて喜ぶかと!」
「ああ、宜しく頼むよ。」
俺はそう言うとサクラの元に行く。サクラは切り傷があるだけで大きな怪我はしていない。
「サクラこの薬を使って。」
と言って四葉さんがくれた薬を使う。
「ありがとうございます。千は怪我は・・・」
「俺は舐めたら大丈夫なくらいにしか怪我をしてないよ。それより今回の戦はなかなかでしたね。」
「ああ、兄さん達も苦労したんだろうな。今回前線とは言え前から三番目の所まで敵が突破して来るとは俺も思わなかったもんな。」
「この後は会議で?」
「ああ、きっと帰ったら怪我が無い王子は会議をすると思う。サクラは休んでて良いから。」
「いえ、私も一緒に参ります。」
「大丈夫なの?」
「ええ、それよりも千は王子らしくよく頑張って戦い指揮を採りましたね。」
「そうかな、俺は全然だったよ。偉そうに指示をしてもまだ自分の事でいっぱいだった。正直敵が兄さん達の軍をすり抜けて来た時は焦ったもん。」
「あらあら、さっきまでの部下に対する言葉使いがまた子供みたいになってますよ。」
「いいよ、サクラだけだし。皆それどころじゃないし、それに俺今日も生きれた事に感謝の気持ちと失った仲間の事を思うととても複雑な気持ちだよ。」
「そうですね、本当に今回の戦はとても厳しいものでしたね。兄王子達の安否も気になります。」
「うん、でも兄さん達も希生(きなり)も怪我はしていると思うけど無事だよ。」
「何故それが分かるのですか?」
「何となく兄弟の繋がりがあるからかな。兄さん達が危ない状況じゃないくらいは俺等は分かるからなー。」
「そんな事が分かるなんて知りませんでした。」
「俺も分かってなかったけれど、1回練習で龍次兄さんが骨折したでしょう?その時に何故か腕に痛みを感じて医療チームの所に行ったら他の兄弟達も来てて何も怪我して居ないのに痛みがあるって言ってたら龍次兄さんが運ばれて来たんだよ。その時に兄弟が怪我をするとそれが分かるというのが分かったんだ。」
「それは痛覚共有というやつですね。よく双子で片方が怪我をするともう片方が同じ場所に痛みを感じるのは稀にあると聞いた事があります。きっとそれなんでしょう。」
「痛覚共有って言うんだ、知らなかった。俺等はただ何故か皆龍次兄さんの怪我した所が痛かっただけで大きな怪我以外は特に兄弟全員が同じ所が痛いって言うのは無かったから。」
「そうなんですね。兄弟の繋がりをした事できっとそういう点でも繋がりが出来たのでしょうね、本当の兄弟のようです。」
「本当だね。」
と俺達は少しの時間しか無い休憩をとりながら先程までの気持ちを落ち着かせる。
すると千賀が傍に来て
「三名の死者を確認しました。負傷者は十名です、ただ緊急の怪我は無くすぐに治る怪我かと。また化け狐にも同じくらいの死者と負傷者が確認出来てますが細かい所までは・・・」
「そっか、三人も亡くなったのか。三人の遺体は運べそうか?」
「怪我をしている者と一緒に滑車に乗せれば行けるかと。」
「そうか、どうか遺族の元に返そう。共に戦った者をここに置いていけないよ。それと怪我をして痛みが酷い者は痛み止めを塗ってあげなさい。塗り薬はまだあるよね?」
「塗り薬がもう無くて・・・」
「それなら俺の塗り薬を深い傷の者に使ってあげて。」
「良いのですか?」
「もちろん良いよ。俺の傷は舐めたら良くなるから。出来れば化け狐にも塗ってあげてね、化け狐も俺達と同じ仲間で大切な存在だから。」
「千、ありがとうこれで皆痛みが無くなるよ!!」
と言って傷薬を持って怪我人の所に走って行った。
この傷薬は万能で妖怪の村に住む俺のパートナーである龍神様の四葉さんが心を込めて作ってくれた薬で他の戦士達も持っているが王子は他の者と比べて一回り大きいのを持たされている。
三人も死者を出し、化け狐にも死なすなんて俺の力不足かもしれない。そんな気持ちと共に俺より前で戦っていた鏡夜兄さんと楓兄さんは大丈夫なのだろうか。

「戦の説明をする、今回の戦はそれなりに大きい戦になると覚悟をして欲しい。多分死者もそれなりに出るだろう。それだから鏡夜と楓は部隊の数を増やして戦って欲しい。一つの部隊に200人で三つ会わせて600人は考えて欲しい。」
と王子会議で新一兄さんが皆に言う。
「以前から戦に参加したいと言っている国民が多いからきっとそれ以上の数が集まれると思うが人数が多い方が良いのか?それとも600人少しを考えたら良いか?」
と鏡夜兄さんが言うと
「600人で十分だと思うし、それ以上の人数が集まると連携が難しくて出来ないだろう。戦まで連携の練習が必死になりすぎて戦う所まで持って行けないとお前の部全体が壊れるかもしれないだろ?」
「分かった、それじゃあ今まで戦に参加していて戦いの意欲があって試験に受かった者のみにするよ。」
「その方が良い。それじゃあ前線から挙手で行くぞ、一番前で派手に戦いたい奴は?」
「今回は俺に行かせてくれ。」
と鏡夜兄さんが手を挙げる。
「お?鏡夜が珍しく会議に参加してくると思ったらド派手に暴れたかったのか!」
と少し揶揄うように新一兄さんが言うと鏡夜兄さんは少し新一兄さんを睨みながら
「違うよ、俺は実の兄から今回も前線には行かないのか?て聞かれたから行きたいだけだよ。」
「完全に自分の私情じゃ無いか!」
と俺達が口を揃えて言うと鏡夜兄さんはズレた眼鏡を直しながら
「そんな事を言うなよ、仕方ないだろ?王様にも今回の活躍を楽しみにしていると言われているんだ。」
と少し不貞腐れながら言う。
「俺も王様から今回の戦は前線に行くように言われている。」
と小さく手を挙げながら楓兄さんが言った。
「楓兄さんが?珍しい!」
と俺はつい思った事を口にしてしまったが、楓兄さんは嫌な顔もせずに
「うん、俺も本当は後ろの方が良いのに王様が煩くて・・・・自分は行かないくせに偉そうに言いやがってあのジジイ。」
とボソっと悪口を言うので俺達は大笑いした。
「楓兄さん、そんなの間違っても外で言わないでよー、まあ僕の所も偉そうに言ってて煩いけど~。」
と希生が笑いながら楓兄さんを軽く小突く。
楓兄さんは小突かれて身体を揺らしダルマの様に椅子に座り直すと
「それで新一兄さん今回どうする?」
と聞いた。新一兄さんは悩み、ずっと地図と睨めっこをすると
「じゃあこうはどうかな?鏡夜が一番前で次に楓、三番目が千で俺が四番目。五番目が希生で六番目が龍次の順番はどうだ?」
と聞く。鏡夜兄さんが驚いて
「千を三番目に持ってくるのかよ!!大丈夫か?前回の戦は一番後ろだったんだ。前線にいきなり来て大丈夫なのか?」
と聞く。皆が俺の方を向くので
「部隊は村だから増やすことは出来ないから20人ずつしか出来ないけれど、化け狐も戦えるから何とか対応出来るようにするよ。」
「化け狐も今回戦ってくれるのか?」
「うん、基本器とは別行動を取るのが俺達の戦いだからね。一緒に戦う時は少人数が相手の時だから。」
「そうなのか、知らなかった。ただ俺も楓もお前の所に敵を行かせないようにするから何とか耐えてくれよ。」
と鏡夜兄さんと楓兄さんは力強く言った。

それから数ヶ月後の今やっと大きな戦が終わったのだ。
鏡夜兄さんと楓兄さんは力強く言ってくれたお陰で最初の数ヶ月は二つの王子達だけで対応をしていたが少しずつこっちにも敵が来るようになった。
俺は耐えていると前の部隊が前に進めば進む程綻びの穴が出来るからかその間を上手くすり抜けて団体が押し寄せてくる。俺は初めての戦に戸惑いながらも指揮を採り皆の命を守りながら戦っていた。
暫くそんな日々が続き数ヶ月戦うと段々と戦という物が見えてくる。練習通りには行かなくても前の状況を見ながらの戦いに少しずつ分かるからか皆も予知能力の力を上手く利用して戦えるようになった。
予知能力は化け狐の一族だけが持つ力で相手がどんな動きをしてくるのかを野生の勘で防ぐことが出来、人によっては相手の弱点にも気付ける程優れた者も居る。
俺はそんな能力を使いつつも周りを見なくてはいけないと忙しく戦っていると前から勝利の旗が掲げ挙げられた事を伝えられた。
そして今やっと一つの大きな戦が終わったのである。
俺はこの戦場を目に焼き付けなければと思った。戦いの最中俺は何度もどうして同じ人同士なのに戦わなくてはならないのかと思ったが、数年前に雷の国の歩鞠雷夏(ほまり らいか)達と出会い協定を結んだ日から部隊に入隊する者もとても増えた。
そんな人達と一緒に居るうちに協定でもこうやって一緒に居られるのにどうして戦いをしないと人と仲良くなれないのかと思うととても心が痛む。しかしそんな敵に同情してしまっては相手は俺を本気で殺しに来ているのだ、同情の迷いが俺の身体に武器の刃を向けられ下手をすれば俺自身が死ぬ。
そんな経験はこの数ヶ月で嫌という程味わった、敵を攻撃する度に心が傷み人の為に役に立ちたいと思う四葉さんと真逆な行動を取っている俺自身に違和感を感じた。
「サクラ、この戦は正しい戦だったのか。」
と独り言を言うと
「それは分かりません。戦に正しいも正しくないも無いのです。」
とサクラは傷の手当てをしながら答える。
俺はそれを呆然と考えながらどうにか出来ない物かと敵が地面に伏せて転がっている姿を俺は力無く見渡した。

「千、お帰りなさい!!」
と俺が四葉さんの所に行くと四葉さんが沢山の料理を作って俺を出迎えてくれた。
「ただいま」
と俺は言うと
「とてもお疲れでしょう。力が漲る程のご馳走を沢山作りましたのでお食べ下さい。」
と言われて部屋の中に案内される。俺は四葉さんの言葉に従って部屋に入るといつもいる紫月が居ない事に気が付いた。
「あれ、紫月は居ないの?」
と聞くと四葉さんが不思議そうな顔をして
「どうも最近は紫月さんは来る日が減っておりまして、特に赤鬼さんに聞いても特別に忙しい時期では無いようなのですが少しずつ千を訪ねに来るのが減っているのです。」
「どうしたんだろ、今日はもう夜遅いしもう少し早い時間に来れば良かった。明日紫月に会いに行くよ。」
「そうしてあげてくださいな。旅館に行っても忙しいからかあまりお会い出来ず戦の最中は一目も会っていないのです。」
「そっか、それは心配だね。明日会ってみて四葉さんが心配していた事を伝えておくね。」
「本当ですか!!ありがとうございます。助かります。本当に何も無いと良いのですが少し胸騒ぎが以前からありまして。」
「もしかしたら翼君に何かあったのかもしれないもんね。」
「ええ、何も無ければ安心するのですが。」
「そうだね、何も無いことを願おう!じゃあお腹ペコペコだからご飯食べても良い?」
「あら、そうでした!ご飯が冷めてしまいますね。食べましょう、サクラさんもご飯を止めてしまってすみませんでした。」
と言って四葉さんはどうぞ、と手でご飯を食べるように促してくれた。
俺達は手を合わせて
「「「頂きます!!」」」
と言ってご飯を食べた。

優しくホッとするような香りがするおこわはお米がふっくらしていて、中にニンジンと甘い椎茸がある。
「美味しい・・・」
と声を出すと
「良かったです。」
とニコリと笑いながら四葉さんが受け止めてくれる。
戦ではもちろんこんな食べ物は食べられなかった。いつも固いご飯に冷たいおかず、ご飯が配られるだけで良かったと思う程で遺体が転がる中ご飯を駆け込み食べをしながら周囲が安全かどうかを確認しなくてはならない。俺も交代で見張りを買って出て周囲に攻撃して来る敵が居ないかを毎晩見守った。
そんな中で食べるご飯には色も味も無かった。ただ恐怖が隣り合わせで緊張が休まる事が無い。中には怪我をして治療をしなくてはいけない人も居る。
俺の部には看護班が来てくれて後ろの状況は伝えられていたが前は余りも危険な状況だったので鏡夜兄さんと楓兄さんが経験したのはもっと酷い状況だっただろう。
戦が終わってすぐ俺達兄弟はすぐに集まり、皆の無事を確認した。
鏡夜兄さんは疲れ果てて居たが何とか勝利を収めた事への安堵感と、楓兄さんが連携が少し乱れたことで死者が少し多く出してしまった事に落ち込んでいた。
俺は二人を慰める事も労う事も出来なかった。
鏡夜兄さんのお陰で勝利出来て、楓兄さんが連携が乱れたと言っても守ってくれたから俺の部隊は最小限に被害は抑えられたのである。
だが、死者を出してしまったのは俺の力不足だったと分かっている。
俺は段々と落ち込んでいく背中を新一兄さんがバンと大きく叩いた。
俺はむせ込むと
「ごめん、ごめん。そこまで強く叩いたつもりは無かった!でも初めての前線にしてはお前等良くやったな!」
と俺の背中を擦りながら俺達三人に話始めた。
「今回の相手は大国だったからな~相当掛かると思ってたし、どれくらい攻められるのと思ってたけれど、鏡夜は前に出て行き楓がその後ろを守る。千がその後ろで固く守ってくれたお陰で俺の所は被害がゼロ。こんな弟達を持てて本当に助かったよ、よく皆頑張ったな。」
「俺何も出来て無いよ。だって、俺鏡夜兄さんと楓兄さんから比べたら敵が少なかったのに皆を纏めることがあやふやになって死者まで出しちゃった。」
「それが戦だ。千は守りの戦から攻めの戦に変わったんだ、難しくて当たり前だ。そうだろ?」
と慰めてくれる新一兄さんに俺は涙目で兄さんの笑顔を受け止めた。

「四葉さんはさ、戦の事どう思うの?」
「どうっと言いますと。」
「俺、戦に出て思ったのが死者が出た時の責任感。俺がもし指示をしっかりしていたら死なずに済んだかもしれないのにと思うとどうしても切り替えられなくて俺のせいで死なせちゃったのかなと思ったら怖くて。」
「そうでしたか、確かに戦は死が付き物ですよね。それは敵の方も同じでその方にもきっと大切なご家族が居て友も居るそんな人を敵として見て戦わなくてはいけないのは辛いことですし、味方は一緒に居た分思い出もあるでしょう。その気持ちがきっと千はお優しい方ですから悩んでしまったのですね。」
「俺は優しいのかな。何も決断が出来ないだけだと思う、もし俺が四葉さんみたいに優しくて強かったら自信持って戦をしない環境が作れたかもしれないけれども、それが出来ないんだもん。」
「それは王子としての掟があるからも関係するのではありませんか?ただ国の一人が言う言葉よりも王子の言葉は重く国を引っ張って行かなくてはなりません。実質王様が他国の王様と戦をするのか相談をして決めますが、その決定に従って戦に出向くのは王子達です。そのしなくてはならない気持ちと平和で優しい気持ちがぶつかるのですね。とても辛いですね。
私は一国民として戦は好きではありません、人と人がぶつかり殺し合いをするなんてとても悲しい事ですし、話合いではどうして出来ないのかと思ってしまいます。ただ土地を増やしたい発展した国にしたいという気持ちばかりで欲望の塊になってしまったら足下をいつ掬われてしまうか、国として滅ぶ道に歩む事になるかもしれません。ただ、一方で奴隷として今を生きる人達には新しい選択が与えられるのも戦なのです。
私の村も以前は見た目が妖怪で人にとって害があるという理由から毎日のように馬さんや牛さんのように扱き使われ時には暴力もありました。そんな奴隷の生活から掬い出して下さったのが戦なのです。
戦があったお陰で私達の奴隷の生活が終わったのです。」
「そっか、俺達が戦で勝った事によって人によっては生活が180度変わって幸せになる人も居るんだね。」
「そうです。ただ、戦をしなくてもそういう人達を救えれば良いのですが。なかなか難しいかもしれませんね、雷夏さんのようにこの国でしか得られない物があってもきっとそれを巡って争いになる。人は常に欲を手に入れる為なら必死で手に入れる生き物ですから。」
「そうだよね、俺今回の戦で他にも方法が無いのか考えてみたいしそれ以外にもこの国の奴隷の人達に対して何かしてあげたいな。」
「千は優しい王子様ですね、きっとそういう王子が居ればいつの日か平和が訪れてきっと良い世の中になるでしょうね。」
「そうかな、そうだと良いんだけれど。そういえば最近は妖怪の村はどうなの?」
「そうですね、毎年行われるお祭りの影響もあって毎日色んな人が国の境を跨いで来て下さってますよ。」
「へえ!そうなんだね、確かにさっき来た時も前までは奴隷の人が多かったけれども綺麗な身なりの人が妖怪の村から出て行くのを見たよ。毎年お祭りするなら王子も毎年参加にしてくれたら良いのに、最初の1回だけで他は出店させてくれないだもん。希生と文句言ってたんだよ。」
「フフフッそれは面白いですね、普通の王子様なら出店をしたいなど言わないですし。希生王子もとても稀有な方なのですね。」
「そうかも、希生はまた恋のおまじないかメイク道具を売りたいって言ってたよ。最近は自分で作ったお店を開きたいって言って今は奮闘中らしいよ。」
「それはそれは、きっと女の子達には人気のお店になりますね。」
「うん!希生は毎日雑誌を読んだりして最近の流行している物を勉強しているんだよ。だからきっと良いお店が出来ると思うし、俺も何か考えて皆が笑顔になれる物を出したかったのに、それが出来ないのが残念だな。王様がもう王子は皆に顔が知られているから人によっては王子を我が物にしようとする者も現れたり、人によっては恨みを持つ者も居るから警護無しでの出店は禁止されたんだよ。出せても代理人が務めるんだ。」
「そうなのですか、昔と比べてかなり厳しくなったのですね。」
「うん、俺はサクラが常に居るから良いけれど他の王子達も最近は付き人が出来た位に常に誰かに付きまとわれて楓兄さんは途中で頭が変になるって言ってたよ。一人の時間が無いからって。」
「四番目の王子の楓王子ですよね?そんなに常に王子と一緒に居るのは大変なお仕事ですね。」
「そうなの!王子の間に行くだけでも付き人が来るから皆嫌がってたよ。花の都を行き来するだけだし、花の都も昔と違って警備が強化されたから用が無い人以外は通行証が貰えないからね。だから安全なのに王様達は皆口揃えて王子に何かあったらって言って許してくれないんだ。」
「そうですか、それは厳しくなりましたね。最近は戦の訓練も変わったのですか?」
「そう、前回の戦から年数も経過しているからもう前線で戦う練習には変わっているけれどこの間の戦で練習とは全く異なっていて落ち着いて出す指示と焦っている時に出す指示が違くてこの間の戦では凄く大変な思いをしたよ。」
「それ程、戦地は緊張感も増しますしそれぞれが戦いに向けての興奮度も違いますからね。それはとても大変でしたね。」
「うん。それに今回俺は能力を発揮しなくちゃいけなくてそれで苦労したよ。」
「そういえば千の能力は何なのですか?」
「あれ、言って無かったっけ。俺の能力は水だよ。その場の空気や地面からの水分を操れるんだ。」
「それは凄い能力ですね!」
「うん、でも俺不器用だからなかなか能力が使えなくて今回苦戦したけれど何とか形にはなって前線に参加させて貰えたんだ。」
「そうでしたか、お兄様達が練習相手になってくれたのですか?」
「うん!特に楓兄さんの闇使いのお陰で水で攻撃しても誰も怪我をしないから安全だろうって言われて練習に付き合って貰ったんだ。そういえば四葉さんは?俺1回しか龍神様の姿見れていないから見てみたいな~。」
「それでしたら、後で子供達の迷える魂を天に昇らせますのでサクラさんも一緒に見守りに参りますか?」
「良いの?」
「ええ、もちろん!きっと子供達もお二人に見送って貰えて嬉しいでしょうし、一緒に参りましょう。」
「うん!じゃあご飯いっぱい食べて出かける準備しないとね!!」
と言うとフフッと笑う四葉さんを見ながら俺は沢山ご飯を食べた。
四葉さんの作るご飯はとても美味しくてお漬物を食べた時やっと帰ってきたと実感が湧いてきた。

「四葉さん!見ても良いー?」
と俺はサクラと一緒に目を瞑って準備を待っていた。何でも四葉さんが龍神の姿になるのを見られるのが恥ずかしいとの事で目を瞑っていたのだ。
目が見えない分耳と鼻が良く聞く。さわさわとした木々達の声と草の青臭い匂い、そして夜にしか臭わない寂しくて静かな匂いがしてきて風の音が爽やかに耳の奥を響かす。
俺はその音を聞きながら待っていると、ブワッと強い風が吹いた。俺はこの風はと思ってつい目を開けると大きな龍が目の前に現れた。
その龍はコロモが薄水色で美しく月の光でまるで発光しているような綺麗さだった。
俺とサクラは突然現れた龍神に四葉さんで合っているのかとお互いに顔を見合わせて見ていると
「私ですよ。」
と龍が口を開いた。
俺達は驚いて少し後ずさりしたがすぐに
「四葉さん?」
と聞くと
「ええ、そうです。大きい姿で驚きましたよね?ごめんなさい。」
と言った。俺達は無言で顔を横に振るり、龍神の姿をよく見た。
するとどこからかカサッと草を踏む音が聞こえた。俺はその場所を見たが誰も居なくてただの風の音かと思いサクラは気付いていないようなので気の間違いかと思って気にしなかった。

「それでさー、四葉さんの龍神様の姿凄かったんだ!!」
と俺は紫月の村に来て紫月に昨日の晩の話をした。
あれから俺達は四葉さんと一緒に迷える子供の魂を天に昇らせたのだ。俺とサクラはただ丘で見守るだけだったが、四葉さんが連れて来てくれた子供達の魂は優しくて温かかった。どんな時でも魂は優しい物なのかと思う程だった。
紫月は何故か俺の前に座る事無くせわしなく家の中を動き回っている。
「おい、紫月どうしたんだよ。」
と聞くと紫月の動きが止まってこちらを見る。紫月の顔はとても疲れているのか目の下にクマが出来てゲッソリしている。
「ここに来てから思ったけど、お前何があったんだよ。そんなに旅館忙しいのか?」
「忙しくない。」
「じゃあどうしてそんなに目の下にクマが出来てゲッソリしてんだよ。」
「見た目は分からないが俺は普通だ。」
「そんな訳無いだろ?俺に言えない事かよ。」
「言えない訳じゃ無い。ただ言いたく無いだけだよ。」
「何でだよ。俺達友達だろ?」
「そうだけど、言いたく無いんだよ。友達だから。」
「そんな事言っててお前が倒れたら翼君一人になるだろ?」
「・・・・それは。」
「お前一人で翼君を食べさせるんだって数年前に俺に言ったの忘れたのかよ。」
「覚えているし、今は翼も旅館で働いているよ。あれから大きくなって見習いなら良いって言って貰えたからな。」
「それで今日も居ないのか。いつもお前にベッタリの記憶しか無かった。」
「それだけ時が経ったという事だろ。それよりどうしてお前が今日ここに来たのか教えろよ。」
「何言ってんだ、俺はお前に会いに来たんだよ。昨日会えるかと思ったら来ないし。」
「わりぃ最近疲れやすいんだよ。」
と目を擦る紫月に何か出来ないかと思っていると紫月の手首に黒々としたブレスレットが付いているのが見えた俺は隣に居たサクラに
「サクラ。」
「はい、あのブレスレットの事ですか?」
「気付いてたの?」
「ええ、ここに入ってから妖気が部屋を満ちているので変だなと思っていたのです。その出所を探してみたら紫月さんのあのブレスレットから発せられていたので。」
「やっぱり。あのブレスレットって昔お祭りで出したブレスレットだよね?」
「ええ、千も同じのを持っていましたでしょ?今じゃ戦の練習で壊れるかもしれないと言って付けてはいませんが。色が数年経過しているからと言ってあれだけ黒くなるのは変です。」
「やっぱり、変だよね。」
「あの邪悪なブレスレットを今すぐ外さないと紫月さんの魂が危ないかもしれません。」
「そんなに?でも希生はあんな危険なブレスレットを売るとは思わないんだけど。」
「それは分かりませんが、何かをきっかけにあのように邪悪になったのであれば今すぐ外させた方が宜しいかと。」
「分かった。」
と俺は頷いて紫月を見ると、紫月は俺達の会話は聞こえていないのかずっとこめかみをグリグリと指の腹で動かしていた。
「紫月、何か最近変わった事があるか?」
「・・・・・・変わった事?」
「うん。嫌な事が起きているとか。」
「嫌な事。それはあるけど、でも言えない。」
「どうして?」
「言いたく無いから。」
「でも、それってお前のブレスレットが関係しているんじゃないのか?」
「これが?」
「うん、それ希生が作ったにしてはあまりにも邪悪な感じがする。それを付けてて何も無いわけ無いんだよ。」
「俺、なんでブレスレットなんてまた付けているんだろう。」
「え?」
「あの時に外したはずなのに。」
「無意識に付けたって事?」
「・・・・・・・そうかも。」
「そうかもって、そんなの危なすぎるじゃないか!」
と言って俺は紫月の傍に行くと無意識なのか紫月はブレスレットを付けた腕を隠すようにしたが俺がすぐに紫月の腕を掴みブレスレットを見た。
そのブレスレットは確か昔は白と黄色だったはずだが漆黒のような色に変わっており、どこかそのブレスレットの所だけ時が違うような膜が張っているように俺は見えた。
「これ触っても大丈夫かな。」
と不安になってサクラに聞くとサクラは
「あまり宜しくないかと。私が触りますので千は下がって何かこのブレスレットを封印できる為の瓶を用意して頂けませんか?」
「分かった。」
と俺は家の隅にあった空の瓶を用意するとサクラはその中にブレスレットを入れようとするとバチッと大きな火花が散った。
「・・・・っ!!!」
とサクラが痛み触った掌が赤くなる。
「サクラ大丈夫か?」
「大丈夫だ、気にするな。それよりも何か見えたか?」
とサクラは緊急だからか口調が丁寧な言葉使いから少し乱暴な言葉使いに変わる。
「火花が見えたよ。後音もね。」
「だよな、これは結界だ。昔俺を封印した王子が張った結界に近いがこっちは悪だな。あの時の感覚とは違うぞ。」
と言うサクラの額には冷や汗をかいていた。
「サクラ、汗。大丈夫?」
「ああ、悪い。こんなブレスレットを人が付けていて何も無いわけが無いんだ。一刻も早く取らないといけない。」
「分かった。俺がする。」
「何言って!!!危ないぞ!」
俺はサクラが制止する中俺達の会話を聞いてもこめかみを痛そうにしている紫月の方が心配になり無理矢理サクラから紫月の腕を剥がしてブレスレットに触れた。
ブレスレットはバチッと大きな音と共に鋭い大きな針が俺の指先から手の平まで突き刺さるような大きな痛みがあったが俺は我慢してブレスレットを掴み紫月から取ろうとする。
ブレスレットは段々熱くなってきて俺の手を弾こうとする。
俺は余りにもの痛さに見ると掌に血が滲むのが分かったがそれでもブレスレットから離そうとは思わなかった。
俺はそれだけ紫月が心配で助けたかったのだ。
そして俺は最後だと思ってブレスレットを力強く掴むと反発するように何かブレスレットから針が飛び出して来たように数個の何かが俺の手を貫通した。
「いてっ!!!」
と叫ぶが俺の血だらけの手が効果があったのか、ブレスレットは黒から俺の血で真っ赤になり紫月の腕から剥がそうとしても反発する事が無くなったので俺はすぐにブレスレットを引き離してサクラが持っている瓶の中に入れた。
サクラはすぐに蓋をした途端に紫月がフラッと目が白目になって倒れ込んできた。
俺は血が紫月の服に付かないように気を付けながら支えてやると数ヶ月前から比べたら明らかに体重が軽くなっていて片手だけでも支えられるくらいだった。
俺は紫月を部屋の真ん中まで連れて行き寝かせてあげた。
上から布団を掛けるとさっきまでの痛そうな顔が安らかになって熟睡しているようだった。
俺とサクラは顔を見合わせて
「「よかった~。」」
と言ってその場にしゃがみ込んだ。
「千、手大丈夫か?」
「大丈夫だけど止血だけはしないとこの家血だらけになっちゃう。」
と笑う。
「無理をしすぎなんだ、全く。この布で止血するから手を出せ。」
「すみませんね~」
「本当だ、あれだけ抵抗されたら普通はブレスレットから手を離すのに。ただこのブレスレットは後日に希生王子に聞かないとな。」
「うん、希生がこんなブレスレットを作ったとかあの時に買った人から聞いた事が無いから不思議なんだよね。」
「何か怨念みたいなのも感じるが、誰かを呪いたくて買ったとかは。」
「それは無いと思うよ、サクラも紫月の事を知っていると思うけれど呪うような子じゃ無いもん。」
「それはそうだな、それより千もう20を過ぎているんだ。もんって言うのはもう止めろ。」
「えーそんな細かい所まで言われても、それにサクラだってさっきから話し方乱暴だよ~だ!!」
「なっ!!それは失礼致しました。これからこの話し方しか致しませんのでご安心下さい。」
「なんでよ!さっきの話し方で話してよ!!」
「いえ、王子相手にあのような乱暴な話し方をしてしまっては師匠に怒られるだけでは無いかもしれません。」
「なんでよ、爺様なら怒らないよ。」
「いえ、怒られるからしない訳では無いのです。けじめなのです。」
「あー!もうああ言えばこう言うよね!」
と俺が大きな声を出すと下から
「俺凄い眠いんだけど、人の頭上で喧嘩するの止めてくれる?」
という声が聞こえた。その声の主を探すと紫月が眠そうな目を擦りながらボソボソと文句を言ってくるので俺は目を覚ました紫月が嬉しくて抱きしめた。
「な!!何するんだ!離せよ!」
と紫月は嫌がったが俺が力強く抱きしめると観念したのか
「苦しいぞ~おい~」
と言った。急に起きたからか俺が急に抱きしめたから驚いたのか紫月の心臓はとても早く顔もさっきまでの青白さが真っ赤になっていた。
「紫月が無事で俺は嬉しいだから暫くこうされてろ!!」
と言うと紫月は
「分かったから力を抜いてくれよ、全くいつまでお前は子供なんだよ!」
と怒った。
俺は暫くそうしていたが本当に紫月が苦しそうにした為そっと手を離すとゆっくり紫月は起き上がってその場で胡座をかいた。
「それで二人して今日はどうしたの?」
と先程の記憶が無いのか今俺達が来たかのような態度で俺達に聞いて来た。俺もサクラもその言葉に戸惑いながら
「何言ってるんだよ、さっきからここに来てお前と話してただろ?」
「え?」
「だから、ずっと1時間も前からここに来て話してたじゃ無いか。」
「・・・・・・ごめん、記憶に無い。」
「どうしたんだよ、さっきのブレスレットが原因か?」
「・・・・・・なんでブレスレットの事を知っているんだ?」
「だってさっきまで大事に付けてただろ?」
「知らない、俺は付けてないぞ。だってあの時外してずっと引き出しの中に閉まってて・・・あれ?ここに入れてあったのに無くなって居る。」
とお母さんの形見なのか化粧ダンスの中の引き出しを開けてアタフタする紫月に
「ブレスレットなら瓶の中に入れたよ。でも家に置いておくのは良くないと思う。」
と俺が言うと、サクラも同じ気持ちなのか隣で頷いている。
「千がそう言うなら確かにそうだと思うし、俺もそのブレスレットを付けると嫌な声が聞こえるんだ。」
「どんな声?」
「それは・・・・・・ふぅ、四葉さんを殺せって言う声だよ。」
「何それ、なんで四葉さんに対してそんな事を言ってくる奴が居るんだよ。」
「それは俺のせいだ。」
「どういう事?」
「俺が四葉さんに嫉妬したから。」
「嫉妬したからってどうしてそんな声が聞こえてくるの?」
「分からない。何で聞こえてくるのかは分からない。」
「なんだよ、それ。それにどうして紫月が四葉さんに嫉妬するのさ。」
「俺が・・・・・・だから。」
「なに?」
「俺がお前を好きだから。」
といきなり俺に告白して来た。俺がサクラの顔を見るとサクラは知っていたという顔をして俺に頷く、俺はこの告白は本気なんだと分かった。
「でも、パートナーになりたいとかは思ってないから。」
と俺が戸惑っているのが分かったからなのかすぐに訂正してきた。
「なのにどうして四葉さんに対して嫉妬なんかするんだよ。」
「俺も何故四葉さんに嫉妬するのかは分からない、だって止めたくても止められなくて俺の中に泥臭い心臓が潰されるくらい息苦しくてお前と四葉さんが話しているだけでその中には入れない感じがして余計に苦しかった。」
「気付かなかった、紫月ずっと苦しかったなんだな。気付かなくてごめん。」
と俺が思ったことを言うとその言葉が意外だったのか
「気持ち悪いと思わないのか?」
「何が?」
「だって男が男を好きになるんだぞ?」
「それが何?」
「普通は女を好きになるだろ?」
「普通って誰が決めたのかって紫月は考えた事ある?俺はあるよ。」
「どういう事?」
「普通なんて言葉はあって無いものだって事。だってそうじゃん、女を好きになろうと男を好きになろうと誰かを好きなることがそんなに人目を気にしないといけないことが普通とは思えないんだ。」
「そんな風に考えた事が無かった。」
「だから俺は紫月の気持ちを俺は否定しないし、とても苦しい思いさせてたのに気付かなくてごめんな。」
と言うとボロボロと大粒の涙を紫月が流した。
俺は何故泣くのか分からなかったが、目の下にクマが出来て体重がとても減るほど思い詰めていたのが解けたのだと思ってこれからは苦しまないようにする為にはどうしてあげたら良いのかと考えた。
「俺の事を考えてくれるのは嬉しいけど悩んで欲しくない。」
と紫月は泣きながら言う。
「何言ってんだよ。」
「だって千は四葉さんと別れるとかはして欲しくないし、四葉さんとサクラも含めて食べるご飯も俺は好きなんだよ。だから遠慮して欲しく無いんだ。」
「分かった、ただ知ってて欲しいのは俺は四葉さんも大事だけれど紫月の事も同じくらい大切なんだ。俺にとっては王子という肩書きが無くても話せて一緒に居られるのはとても嬉しいし貴重なんだよ。だからお前を失いたくない、だからブレスレットでお前が苦しむ姿を見たくないんだ。」
と俺が言うとまた声を殺して泣く紫月に俺はソッと背中を擦った。
「ずっと言えなかったんだな、いや俺が言えなくさせてたんだな。ごめんな。」
「謝るなよ、俺が一方的に想ってただけなんだから。」
「そんな事を言うなよ、想ってくれる事に嫌がる人が居たらそれはまだ周りが見えていない人だ。俺はそんな事は思わないし感じない。ただ言ってくれてありがとう、想いを伝えてくれてありがとう。」
「うん、うん、有り難う。そう言って貰えるなんて思わなかった。王子を好きになること自体が叶わない事なのにもう誰かと想い合っている人を好きになるなんて・・・・凄く苦しかった。」
と泣きながらポツポツと語る紫月に俺はただ背中を擦り頷く事しか出来なかった。
暫く紫月は泣くと
「もう、泣き疲れた。」
と言って笑い出した。
「さっきまで泣いてたのに何でだよ。」
と言うと大笑いしていたが
「俺想いを伝えて良かった!なんかスッキリしたし、でもこれからは今までみたいに会ってくれないよね?」
と急にまた怯えたような表情で聞くので
「大丈夫、俺は紫月の想いをちゃんと受け止めたしそれを無下にする事は無いよ。紫月が嫌じゃなかったらまた四葉さんの家でご飯を食べようよ。四葉さんも心配してたし。」
「本当?」
「うん!俺も紫月とご飯が食べたいから一緒に食べよう。」
「分かった!ありがとう・・・・・でも目の前でイチャイチャしてたら怒るからな。」
「イチャイチャ?」
「四葉さんと二人だけの世界を作る事!!」
「それは気を付けるよ。四葉さんと一緒に居てて紫月が居づらく無いように気を付ける、その方が俺も紫月と一緒に居られるしきっと幸せだと思うから。」
「そういう事をよくサラッと言えるなー!さすが王子だわ。」
「そうかな~。思った事を言っただけなんだけど。」
と二人で話しているとゴホンゴホンとわざとらしく咳をする声が聞こえた。
隣にサクラが居ることを二人して忘れていたのだ。
「ごめん、サクラ何だっけ?」
と俺が言うと
「何だっけではありません!全く。この瓶を封印したいのですが如何でしょうか。」
「封印出来るの?」
「どうでしょう、ただここに置いておくのは危険かと。」
「そうだよね、どこに封印したら良いのかな。」
「実は先程思いだしたのですがここから少し先に歩いた所にこの村の先祖を祀る御神木があったのを思い出しましてこの瓶をそこに埋めたら如何でしょうか。王子達の家に持ち帰って何か遭っては持ち主の紫月さんが怪しまれてしまいますし、ご先祖様でしたらもしかしたら守って下さるのではと思いまして。」
「それ良いかも!!紫月はどう思う?」
「・・・・・あの場所は神聖な場所なんだけど、そんなブレスレットを埋めても良いのかな?」
と不安気に聞いてくる、俺はそんなに神聖な場所なのかを知らなかったので大丈夫なのかサクラを見ると
「大丈夫かと、このブレスレットを浄化して貰えればきっと誰かが悪用しないと思いますし、そんな神聖な場所に人が入って来て掘り起こそうとする者も居ないでしょう。」
と言うので俺と紫月は顔を見合わせて頷いた。

それから三人で瓶を持って御神木まで歩いた。そこは村よりも奥にあって、妖怪の村からも離れた場所にあった。
遠くからも分かるくらい白い木々達が生えていて白く大きな木に葉っぱも全てが白かった。
空気は神聖な場所だからか透き通っていてここに先程の邪悪な物を埋めたらすぐに浄化されるのではと思う程空気が透き通っている。
肺の奥まで入れるように空気を吸うと鼻から気管支、肺が綺麗になるように思えた。
「ここに埋めよう。」
と紫月が一つの大きな御神木の所を指した。幹が他のと違って大きく掘って埋められるくらい溝もあったので最適ではと思った。サクラも同じ考えだったからか有無も言わずに獣化になって御神木の下を掘り始めた。
「サクラなるべく深く掘ってくれこれを誰かが掘り起こさないように。」
と紫月が言う、紫月がずっと持っていてとても苦しんだのだ。きっと他の人には経験させたくないという優しさなのか誰かを傷つける事を恐れているのか分からなかったがサクラも俺も同じ意見だった。

「ワシはお前の事を心配しておるのだ。」
と俺を正座させて言うのは爺様である。俺はあれからサクラと紫月とブレスレットが入った瓶を埋めて誰にも見られていない事を確認して家に戻ってきた。
家に戻ると一仕事を終えた翼が帰って来たので俺達は夜遅くまで一緒に過ごしたのだ。
そんな中一つの文が届いた。その文には
『今すぐ帰って来い。』
と書かれていた。
出して来たのはあの爺様で俺とサクラは一気に青白い顔になった。爺様に何がバレたのかと思ったが思い当たる節が無い、そうして今こうして爺様の前で正座をしているのである。
「何を爺様は心配しているの?」
と聞くといつもはショボショボした目をクワッと開けて
「お前の嫁探しじゃ!!」
「嫁~?」
「そうじゃ!!そろそろお前も嫁くらいは貰わんとどうしていくつもりじゃ!!」
と怒る、そういえば亜廉が最近奥さんを貰ったとか言ってたなと思ったが俺ももう20を過ぎているからこんな考えが急に浮かんだのかと思った。
「爺様結婚とかまだ考えられないから先だと思うけど。」
「そんなふぬけた考えでどうするんじゃ!!今回の戦は無事に勝てて帰って来たが次はどうなるのか分からないんじゃぞ!!」
「分かっているよ。」
「ほう、それじゃあ誰か良い人が居るのか?」
「居るよ。」
「それは誰じゃ?」
「それはまだ言えない。でもちゃんといつかは紹介するからその時はどんな人でも認めてくれる?」
「千が選んだ人だからな。きっといい女じゃろう。」
「・・・・・女とは限らないけど。」
「何か言ったか?」
「いいえ、言っておりません。」
「まあ良い、紹介してくれるのを待って居るからな。良いな?」
と俺は念を押されて爺様の家を出た。
俺は玄関から外に出て溜め息を吐くと隣から
「大丈夫?」
と一人の青年に声を掛けられた。
「えっと、誰?」
「俺は紫妃(しき)だよ。違う村から来たんだ、ちゃんと通行証も持っているよ。」
と俺に通行証を見せて来る。その男は背が俺よりも低く年齢は俺よりも年上に感じたがどうも掴み所が無い。また全体的ぽっちゃりしているからか優しそうだが纏っている空気はとても澄み切っているとは言えないくらいの少し禍々しさがあった。
「それで紫妃は俺に何か用があったの?」
「うん、さっきこの家から聞こえてきたから。普通の嫁について。」
「盗み聞きしてたの?」
「そんなに怖い顔をしないでよ。大丈夫、ちょっとしか聞こえていなかったから。でも千王子も想い人が居るなんてその人は幸せだなと思っただけだよ。」
「それなら良いけど。」
「それにしても王子は大変だね、男女関係なく皆から好かれるから中には同性に好かれる事もあるでしょ?」
「それが?」
「あー否定しないんだ!てことはあの噂は本当だったんだ。」
「噂?」
「龍神様と王子が禁断の恋をしているって事だよ。」
「なに?」
「怖い怖い!そんな怖い顔をするって事は本当なんだね!」
「それが何?それが本当なら紫妃に何か迷惑でも掛けたの?」
「かけてないよ!ただその噂が本当か知りたかっただけ。ただそれだけだよ。」
「それを言いふらして俺を陥れようという魂胆だろ。」
「まさか~ただ口を滑らせちゃうと思うけど。」
「何が狙いだよ。」
「俺が欲しいのは龍神の血だよ。血が欲しい。」
「はあ?何を訳の分からない事を言ってるんだ?」
「それがくれないなら俺はきっと口を滑らせてしまうと思う。どうする?」
「どうするも何もそんな物をお前なんかにあげるわけ無いだろ?」
「じゃあ交渉決裂だ。きっと大変な事になるけどそれでも良いんだよね?」
「そんな事を言われても俺はどうしようも出来ないだろ。それを嘘と言えないし否定するつもりもない。それに屈して誰かを傷つける事をしたくない。」
「はあーご立派な王子だ。そしてとてもアホな王子だ。」
「なんだと?」
「俺は忠告したぞ、貴様が泣きついて来ても俺は知らないからな。俺は絶対に龍神の血を手に入れる。」
と言ってその男は煙のように消えた。俺は男が消えた場所を見ながらすぐに飛んで行かなくてはいけないと思った。

「それで、どうしたって?」
と聞くのは鏡夜兄さんだ。
俺は村から帰ってすぐに王子の間に皆を呼び出した。会議を解散させたのに緊急だと知らせたのもあって兄弟達が集まってくれたのだ。
「分からないけれど、どうも四葉さんの命を狙っているみたいなんだ。」
「何でそんな事を急に。」
「分からないよ、後俺の噂が出回っているって言ってたよ。」
「噂?」
「そう鏡夜兄さんは聞いてない?俺が四葉さんと恋人同士だって事。」
「それは聞いてないが他の皆は?」
と他の兄弟の顔を見るが誰一人知らないのか聞いた事が無いという顔で顔を振った。
「どうしたらいいんだろう。」
と悩んでいた時コンコンコンとドアを叩く音が聞こえた。
急に会議なんてしたから執事さんが何か言いに来たのかと思って新一兄さんがドアを開くとそこには新一兄さんの父である王様が立っていた。
「いきなりすまないな。」
と言って新一兄さんの王様はゆっくりした足取りで部屋に入って来ると
「実は最近巷である二つの噂が流れていてな。」
俺達は急いで王様の前に整列をする。王様は寛いで良いと言うがそういう訳にはいかない。
「実は第五番目の王子、千が男と交際しているという噂が今国中では噂になってきている。それは本当か?」
と俺は大きな目で見られて背筋が自然と伸びるような感覚になり、逃げたい気持ちにもなった。しかし俺の気持ちは一つで誰にも変えられない。
「そうです。」
と俺は決心して言うと
「それはお前の国の爺様も当然知っているのだな?」
「いえ、知りません。」
「そうか、面倒な事になったな。ワシの国であったらワシ自身が決めることが出来るが千の国の長が今回件について知り、理解した上で最終判断をしなければならない。」
「最終判断とは?」
と楓兄さんが俺の代わりに聞いてくれた。
「・・・・・死刑になるかだ。」
と王様は少しためらいもあったのだろう、そう言うと伏せた目で俺に
「その者と別れる気持ちは無いのだろう。」
「はい。」
「王子として女と結婚し世継ぎを作る事は掟として決まっている、それを知っても別れる事は無いのか?」
「ありません。」
俺は死刑と聞いて恐怖で負けそうになるけれども、それでも四葉さん以外の人と一緒に居るつもりもない。きっと四葉さんならこの事を聞いたら
『別れましょう。』
と言うに決まっている、それでも俺は諦めたくなかった。俺の事を数年前から一途に思ってくれた紫月の気持ちも四葉さんは俺が王子と分かっていても一緒に居てくれた。
俺は絶対にこの気持ちに嘘は吐きたくない。
「そうか、それならば掟通りに・・・・」
と王様が言いかけた時希生が
「私は千王子の恋を全力で応援しております。」
と大きな声で言った。希生は拳が震えるほど緊張しているのかそれとも意見を言うのが怖いのか小刻みに揺れながら
「私はずっと千王子が一人の男性を好きになって行く様子を傍で見ておりました。もし掟で千王子が死刑になるのであればそれを容認していた私にも同等の罪があるかと!」
と言う。俺はそんな希生の言葉に驚いて
「おい!希生、なんて事を言い出すんだよ!俺はそんな事を望んでいない。」
と言う。しかし希生は俺を一切見ずに王様を真っ直ぐ見ている、すると他からも
「俺も同じ事を思っています。」
と龍次兄さんが言い出した。
「俺も掟を知りながら千の恋を応援していました。そして二人を見ていると必ずしも女と結婚しなくてはいけないのかと想い人と一緒に居ることがそれ程までに良くないのかと思ったのです。」
「そうか、二番目の王子もそう申すか。第一王子の新一、お前はどう思う?」
「はい、俺は千の恋愛には一早く気が付いていました。千がここに四葉さんを連れてきた時にきっとこの人を千は好きになるのだと思ったのです。それは俺にとって右も左も分からない子が誰かを好きになって誰かを想う心はとても綺麗で大切に見守ってあげたいと思ったのです。父上、どうして人は誰かを好きになるのでしょうか、その感情は見た目や性別で区別しないといけないのでしょうか。先日戦でも私は思いました、どうして同じ人同士で殺し合いをしないといけないのかと。今回の件も同じです、千が誰を好きになっても千は王子として戦で指揮をきちんと採っているではありませんか。」
俺は新一兄さんの言葉が俺を弟では無く一人の王子として認められたように感じた。王様もその気持ちが伝わっているのか俺達が誰一人目を逸らさないからか、悩むような仕草をしながら
「ただ、今回の事は千だけの問題じゃないのだ。実はもう一つの噂は龍神様の血を浴びると延命出来るという噂だ。特に奴隷民を中心にこの噂が流れているようだ。」
「な!!」
と俺は大きな声をあげた。奴隷民と言うと妖怪の村に良く出入りしている人達だ。
「その人達が私が妖怪の村に出入りしているのを見てそのような噂を立てたのでしょうか。」
「それは分からん、ただ龍神は普通の妖怪と比べてとても神聖な生き物だからな。龍神だからこそ出来る事も沢山ある、それを良からぬ自分の欲望だけを考える奴らが出てきたのは間違い無い。」
「私はどうしたら良いのでしょうか。」
「暫くは監禁する事になるだろう。千の長とこれから話すがきっと長が決定を出すまでは死刑にも出来ぬ、ただ龍神の事は案ずるな。今兵士を送って身の周りの安全を確かめるまで配置する予定だ。」
「分かりました。四葉さんが無事ならそれで・・・」
と言いかけると希生が泣きながら
「何でだよ!!どうして千兄さんはそこで諦めちゃうの?ここを出て四葉さんを連れてどっか遠くに行けば良いじゃん。逃げれば良いじゃん!!」
と言う。拳は強く握りすぎて色が変わっている、俺は希生の手をソッと握り拳を解いてやると綺麗なネイルがしてある爪が握りすぎて掌に食い込んだのか血が付いていた。
俺は優しくその血を指で拭いてやると王様が
「その気持ちは分かるがワシにはどうする事も出来ん。掟なのだ、そしてその決定を下すのが千の長しかいない。」
「そうしたら千の長に俺ら全員で頼み込むのは良いのでしょうか?」
「ほう、楓王子よ。そこまで千の恋を応援するというのか。」
「私も弟の事を思うとこのまま死刑などはさせたくないのです。」
「そうか。ならば明日行きたい王子だけで構わぬから行けば良い。これから私は先に千の長に話をしなくてはならないからな。千、キツイとは思うがそれまでは自分自身の家から出て来るな。ただ文はしても良いとする、友にも文を出してやれ。」
と言って部屋を去ろうとした時俺達の方を見て
「時は流れ続け掟は止まり続ける。それを動かすかどうかはお前等しだいだ、良いな。」
と言って去って行った。
俺は王様が居なくなってすぐに皆に頭を下げた。
「ごめんなさい、俺が気を付けていれば。」
と言うと新一兄さんが
「遅かれ早かれこの事はバレていたさ。ただどうしたものか、どうやって説得するかが大切だな。」
といつもの会議と同じような態度で何事も無いようにして言う
「だけど、皆に迷惑をかけちゃう。」
「そんなの最初から分かっていたさ、それが分かっていなかったのは千だけだ。」
と龍次兄さんが俺の頭を撫でてくれた。
「死刑なんて絶対にさせないから。」
と楓兄さんが俺の脇腹を突く。
「そうだぞ、これから皆で案を出し合えばきっと何か防げるかもしれない。」
と鏡夜兄さんはソファに座りながら何かを紙に書いていた。
希生はずっと泣いていたからかメイクが取れて真っ黒の涙を流していたので俺は真剣な話をしなくてはならないのに笑った。
俺は死刑になると言うのにこの時はまだその事の実感が無かったのだ。

「おはようございます。」
とカーテンを開けるのは執事の格好をしたサクラだ。俺は帰ってからすぐにサクラに話をした。サクラお皿を割る程驚き、メイドさん達も号泣していた。俺は
「何もすぐに死刑になるわけじゃ無い。ただ暫くは監禁って事でここの家に居なくてはいけないんだ。」
と言った。俺の言葉は届いても死刑という言葉が余りにも大きくて重いからか皆が暗くなってしまった。俺はそんな気持ちにさせたかった訳じゃ無いが家の中の人でもこの様な気持ちになるなら四葉さんは大丈夫なのか知りたくなった。
ただ俺は見に行くことが出来ない、なので文を出すことにした。
「紫月へ
身体は大丈夫か、無理していないか。実は国の奴隷民の間で俺と四葉さんの噂が出てその噂を聞いた王様に問い詰められて正直に話をした。今は王様の命令が出るまで監禁だがこのままだと死刑になると思う。ただその事について四葉さんが思い詰めて欲しくないんだ。どうか俺の代わりに見てあげてくれないか?」
と送りまた雷の国の歩鞠雷夏(ほまり らいか)にも文を出した。
「雷夏へ
久しぶりの手紙で申し訳ない。実は奴隷民の間で俺と四葉さんの噂が出てその噂を聞いた王様に今死刑の決定が下るまで自宅にて監禁されている。雷夏には申し訳が無いが紫妃(しき)という男について調べて欲しい。そいつが俺達の噂を流したと俺は思っている。見た目は身長が低く顔は中性的な顔立ちでぽっちゃりした体型だから部隊の人では無いと思う。」
と書いて送った。
兄弟達にも紫妃の事を話したが誰一人そんな男を知らなかった。一つ気になるのは俺が王子だと知っているという点である。昔行われた祭りに参加した者なら王子の存在は知っていても顔まで覚えている人は居ない。
まして最近では王子としての肩書きで出かけるのは戦でしか無かったので沢山の団体の中から俺が第五番目の王子だと気が付く人はそうそう居ないだろう。
すると俺の正体を分かっている上で近づいて来たに違いない。
俺は白い紙に紫妃の存在について分かっている事と噂の出所について箇条書きで書いていた。

「そうか・・・千が。」
と肩を落とすのは千の村の長の爺様である。
一番上の兄の新一と俺を筆頭に龍次、鏡夜、楓、希生で千の村に訪れた。
俺は村の長に今回の千の話をすると昨日に父から聞いていたからか驚くことも落胆することも無かった。ただ千の様子はどうなのかと聞いて来たのだ。
「千のお相手の四葉さんですが兄として見ていても申し分ない方で人として妖怪として分け隔て無く接する姿勢は王子として尊敬しますし、その姿勢が千の気持ちを安定させていると思うのです。千もその事について分かっているのでしょう、自分が死刑になると言われてもそれに従う気は無いようです。」
「そうか、千は恋人と別れるくらいなら死を選ぶと。」
「そこまで千が考えているのかは分かりませんが、今は父に言われても顔色一つ変えずに別れる気は無いと目がそう言っていました。」
「そうであろうな。もし別れられる気持ちになれるなら今王子達がここに居ることは無かったじゃろう。」
「確かに千は自分の気持ちを貫こうとしています。私達兄弟はそれをただ見守っているつもりはありません。どうか村の長にはその気持ちを汲んで欲しくて今日ここに来ました。」
「そうか。」
「どうか千の死刑は見逃してくれませんでしょうか?」
と俺は土下座をする。それを見ていた弟達も俺と同じく頭を下げた。
「頭を上げて下さい、そんな頭を下げられてもワシも困る。」
と言って頭を上げさせようとする村の長に俺は頭を下げ続けた。俺らが頭を上げないことが分かったのか溜め息を吐きながら
「ワシも千が可愛くて仕方ないのじゃ。しかし掟がある以上はそれをワシの情一つで変える事が出来ないのじゃ。」
と言う。
すると鏡夜が
「一人でなければ良いのでしょうか?」
と言い出した。何を言い出すのかと思って俺は鏡夜を見ると
「一人では無く皆の意見が揃えば良いのでは?」
と言った。
「皆とは?」
と言う村の長に
「そのままの意味でこれから私達それぞれの国の者に千の死刑について賛否を行いそれを参考になさったらいかがでしょうか?」
「なるほど!民の声に耳を傾けるという事じゃな!」
「はい、そうです。以前から千は掟について世の中は変わりつつあるのに掟が変わらない事に疑問を持っていました。私も同様な意見を持っています、戦でも人と人が争わない未来が無いものかと思うのです。今回の件は千が言うには紫妃という男がこの件に絡んでいると言っていました。」
「紫妃だと?」
「ええ、何でも先日村に帰った際に話掛けられたとか。」
「その紫妃の特徴はなんだ?」
「中性的な顔立ちで背は低く小太りの男性だったと。」
「それは本当か?」
「ええ、その人は以前この村に居た男じゃ。ただその男はもうこの世に居ないはず、その男は化け狐を殺して血を飲み干したりする異常な奴で死刑になったのじゃ。」
「え?死刑に?」
「ああ、ワシが命じて処刑したのだから間違い無い。」
「もしそれが本当なら煙のように消えたのは亡霊という事?」
と希生が言う。
「そういう事になるじゃろうな。」
「亡霊相手にどうすれば良いんだ?」
と俺が言うと村の長は
「亡霊はいつの世も人の心に巣くうもの。人がそれが幻じゃと思ったらそれは居ないのと同じじゃよ。」
と言った。

「千聞いているのか?」
と言うのは新一兄さん。
俺はあれから数週間まだ家の中で監禁されている。あれから事態は大きく動いていた。兄弟は爺様に会いに行ってくれただけでは無く説得し、決定を下すまでの期間を延ばしてくれたのだ。
「聞いてるよ。」
「まず、あの紫妃だがあれは亡霊だと爺様は言っていた。昔化け狐の一族の村で死刑になった人らしい。しかしその亡霊が何故かここに来て噂を流している。お前その紫妃に関する情報が無いか?」
「特に無いな・・・。」
「何か思い出せよ!!その前に何か遭ったとか。」
「んー、そういえば希生が作ったブレスレットが黒く滲んでいたのはあったけど。」
「どういう事だ?」
「いや、実は少し前に紫月が持っていたブレスレットが黒くなってて紫月自身も変でさ、それでサクラと一緒に封印したんだよ。」
「・・・・なんでそういう事をちゃんと言わないかなー!!」
と怒る新一兄さんに俺は驚いた。
「いや、解決したし良いかなって。」
「そんなの分からないだろ?」
「紫月が言うには四葉さんの血を飲めって言って来たって。」
「それ千が会った紫妃が同じ事を言ってただろ?きっと同じ奴じゃないのか?その封印は何処でしたんだよ!
それが紫月の村の近くにある御神木に埋めたよ。」
「それじゃあこれからそれを探してきて完全に滅するから待ってろ。きっとそれが居なくなれば噂も小さくなるだろ。それと今各国で投票をしている、その内容は千の死刑を賛否するものだ。千を良く知っている者なら否定するだろうが掟に厳しい人なら賛成するだろうな。ただその意見は参考にしかならないからあまり重く感じる必要は無いぞ。」
「分かった、兄さんごめんね。」
「ったく、こんな大変な弟が居てお兄ちゃんは忙しいよ。全く。それじゃあ兄ちゃんは王子の会議があるから行かないといけないから今日の報告はここまでだけどまた何か進展があったら言うから大人しくしとけよ。」
と言って兄さんは帰って行ってしまった。
するとサクラが手紙を持って部屋に入って来た。
「千、手紙が来ておりましたよ。」
「ありがとう。」
「どなたから来たのですか?」
「んー、紫月だ。内容は・・・・・あーやっぱり四葉さん塞ぎ込んで寝込んでるって。ご飯も食べていないって書いてある。紫月が毎日行ってくれているみたいだけど泣いてばかり居るから手紙を出してあげて欲しいと書いてある。もう一つの手紙は・・・雷夏だ!・・・・雷夏凄く怒ってるんだけど、文字からして怒っているのが伝わってくるよ。雷夏は紫妃の事は分からないけれど雷の国と他の協定を結んだ国に対して俺が死刑にならないように呼び掛けてくれているらしい。」
「有り難い話ですね。」
「うん。」
「私は最期まで一緒ですよ。」
「ん?」
「千賀さんの化け狐に聞きましたよ、化け狐と契約を切る方法を。」
「げっ、それ千賀の化け狐が話しちゃったの?」
「ええ、貴方と私は魂の繋がりですよ?考えている事くらい分かってます。」
「やっぱりサクラに隠し事が出来ないな~。」
「当たり前です。」
「でも本当に今回の死刑はサクラは死ぬ事は無いんだよ。俺だけの問題だけだから。」
「そんな事はありません。私は千を器にした時に覚悟は出来てましたから大丈夫ですよ、それに掟の事も知っていた上で千に四葉さんへの気持ちを気付かせたのです。
もし私が最初から死ぬのを嫌がっていたら四葉さんへの気持ちを気付かせなかったでしょう。」
「そっか、最期まで一緒に居てくれるんだね。」
「当たり前です。」
「もう、あの願いは良いの?」
「サクラという名前で恐怖で世界を染まらせる事ですか?」
「うん。」
「もう叶っているではありませんか!」
「え?そうなの?」
「千は知らないかもしれませんが第5番目王子に仕える執事が強すぎるという話を以前ある国で買い物をしている最中に耳にしまして、これはきっと皆さんに恐れられているのだとまた新一王子からもサクラの教育は一番怖いと仰って頂けましたので私の夢は叶っております。」
「そんな噂されていたの知らなかった。それに新一兄さんはサクラの事凄く怖がっているのは事実だもんね。」
「ええ、ただ今回の紫妃に関しましては私も許せない所があります。千のご友人である紫月さんを利用して四葉さんを殺そうとするなんて。」
「ただ、あの紫妃は四葉さんを殺そうとは思って無さそうだったよ。龍神はそんな事で死にはしないと言ってたから。」
「それは分かりませんよ、そう言っているだけで実は・・・という事もありますから。」
「そうだよね、後はブレスレットが見つかれば紫妃が居なくなるのかな。」
と話している最中にコンコンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「大変です!!」
とメイドの声が聞こえる。
「どうした?」
とサクラが俺の代わりに出ると
「今新一王子から連絡があり先に出発していた龍次王子の話によるとブレスレットが入って居た瓶は見つかったものの誰か別の者が先に掘り出してブレスレットだけを盗んでいた事が分かったそうです。その人物がどなたか分からないそうで。」
と言う。俺とサクラは目で合図をして
「監禁中だけどもし誰か来たら上手いことを言って誤魔化して。これから俺とサクラはそのブレスレットを持ち去った人を探してくる。」
「しかし!もしも千王子が出て行ったのが分かったらその場で処刑も!」
「分かっているけれど、あんな物を人が持っていたらとても大変な事なんだ。紫月がそれで苦労したように他の人も同じ苦労をする事になる。黙ってここで待ってられないよ。」
「千の言う通りです。このままブレスレットが見つからなければ噂がもっと広がり内容も誇張したものになるでしょう。そうすると収集出来なくなり相手の思う壺です。今動かなくては後で後悔するだけかと。」
「サクラさんまでそう言うのでしたら分かりました。私達メイドも含めて従者が協力致します。」
「ありがとう。」
と俺は礼を言うとすぐに出かけた。その目的地は紫月が居る村だった。

サクラの背中に乗って紫月の村まで行く。
サクラの背中はいつもより広く感じた、この乗り心地もいつまで味わって居られるのか風を切って走るのを一緒に体験できるのはいつまでなのかと嫌でも考えてしまう。
皆は一生懸命俺が助かるようにと頑張ってくれているが俺にはどこか諦めた部分もあった。
俺がサクラに
「一応四葉さんの村にも行こう。」
と言うと
「四葉さんの所は見張りがいるのでは?」
「遠くから見れば分からないよ、見張りは警備の人達だから俺の顔を知っているとは思えないし。」
「そうですか?仕方ないですね、少しだけ寄り道するだけですよ。」
と言って俺達は四葉さんの村に向かった。
紫月は手紙で四葉さんに手紙を出してくれと言っていた。
死刑になるかもしれないと分かった時に紫妃という男に気を付けて欲しいという言葉を書く為に手紙を出していた。
内容は簡単な内容で詳しく書くと会いたくなってしまうし、書けば書くほど涙が止まらなかったので俺は簡潔に書くことにしたのだ。
ただ、最後に
「この問題が解決し、皆に認められたらその時は一緒にこれからの人生を歩んで欲しい」
と書いた。返事はまだ無いが四葉さんの事だきっと嬉しい気持ち半分俺が死を選んだ事に罪の意識を抱いているに違いない。
俺はそんな事を考えて欲しくて好きになった訳じゃ無いのに。

暫く走ると四葉さんの村が見えて来た。
いつもの長閑な風景が待っていると思っていたら妖怪の村が近づいていくと悲鳴や怒号が聞こえてきた。
(なんだ?)
と思い近づくと奴隷の民が流れ込んできて門番が余りにもの人数で抑えきれなくなっていた。
俺はその姿を見て一人の奴隷に話掛けた。
「何が起こっているの?」
「見て分かんないのかい!龍神を殺しに来たんだよ!」
「何で龍神様を殺す必要があるの?」
「龍神は王子を誑かして王子を好きなまま操り国を乗っ取ろうとしているからさ。」
「そんな事を龍神様がする訳ない!!」
と俺はサクラから降りて止めるが何か奴隷の民の様子が可笑しい。
皆が目がだらんと焦点が合っていないのか同じ方向に身体は向けていても顔が四方八方と違う所を見ている。
「サクラ!!この人達変だよ!!」
「ええ、目の焦点も皆バラバラの方向を見ていますね。それに何です?この甘ったるい匂いは・・・・酒でもない何でしょう。」
「この甘ったるい匂いで皆変になったのかな?」
「分かりませんがこの匂いを嗅がずに居て下さい。今すぐ四葉さんの所に向かいましょう。」
と言って俺はまたサクラに跨ぐとサクラは人々の間をすり抜けて四葉さんの家まで行った。
四葉さんの家の前にも人集りが出来ていた。
警護をしていた人が俺達に気が付いて
「どうか!四葉さんを!他の者と一緒に丘に向かって居ます!」
と言って来た。俺はすぐに丘の方にサクラを動かして走る。人は皆四葉さんの店に向かって歩いているからか俺達が通り抜ける事に誰も何も疑問に思っていない。
俺はそんな人々の顔を見ては亡霊のように操り人形のように歩く姿に恐怖を覚えた。
丘の上には四葉さんが居るのが遠くから見えた。俺は四葉さんに追いつこうとサクラに
「早く!早く!」
と言っていると
「ドーーーーーーン」
と大きな音と共に左肩に痛みがあった。
俺はその音の勢いと大きな音に身体を吹き飛ばされた。サクラも俺が吹き飛ばされた事によって足下が崩れたのか二人して勢いよく地面に叩き付けられた。
「サクラ!大丈夫か!!」
と俺はサクラの怪我が無いかを心配するがサクラは俺を見て
「千!後ろ!!」
と叫んだ。俺は後ろを見ると子供が銃を持って構えていた。そして
「ドーーーーーーン」
とまた俺の腹にめがけて打ってきた。俺はお腹に熱くてジワジワとした感覚が広がっていた。口からゴボゴボと熱い液体が零れてくる。俺は逃げようと必死に立ち上がろうとしたがお腹に力が入らない。すぐにお尻を地面に着いてしまいその反動で口から赤い血が零れた。
その時俺は冷静だった。俺は銃で撃たれ今左肩とお腹を怪我をしているのだと分かった。そしてその怪我をさせた少年が翼君だという事も。
俺は翼君を蹴り飛ばした。俺はその反動で力が抜けて倒れる、翼君は何かに操られているようにフラフラとしてその場に座り込んだ。
何か虚ろで何が見えていて何が見えていないのか分からない、そんな顔で呆然と人形のように座り込む翼君の背後の草むらから一人の人が飛び出して翼君を地面に伏せさせた。
それは紫月だった。
「わりぃここまで来るのに手間取った。後ろからどんどん村人・・・・おいその傷。」
と俺が血だらけなのが分かったのか言葉を失い血の気を失う紫月に俺は笑って見せた。
「こんな傷で俺は死なねーから心配すんな。」
とその言葉は紫月に言ったのか虚ろの目をしている翼君に言ったのか心配そうに後ろで見ているサクラに言ったのかそれともまだ死にたくないという気持ちで俺自身に言ったのか分からない。
でも俺は言った。
この言葉を言わないといけないと思った。
「紫月、その翼君のブレスレットを・・・・」
先程銃を構えている時に腕に大きいサイズの漆黒の珠々が見えたのだ。俺は力無く暴れ出す翼君を押さえ込んでいる紫月からブレスレットを受け取ると掌が焼ける音がした。
紫月もブレスレットを取る時に痛かったかなと変な考えが頭に浮かぶ。きっとそれどころじゃ無いのに今目の前で起きている事がゆっくりと時間が動いていて俺の血もゆっくり出ているように全てがゆっくりで紫月の後ろから大声を上げて奴隷の民が来ているのが見えていても全てがゆっくりだった。
俺は力を込めて珠々を壊した。掌が焼けただれ珠々は弾け飛び地面の上に転がる。
その珠々からは獣の叫びのような悲鳴が聞こえた。
俺の耳は遠くなっているのか目が霞んできている。
ああ、ここで俺は終わるのだ。紫月が何か泣きながら叫ぶ俺は両膝を地面に付けて後ろを振り返るとサクラが泣いていた。そして後ろではこちらに走って来ようとする四葉さんの姿が見えた。俺はサクラに最後の言葉を残した。
「四葉さんを頼む。」
そう言って俺は腰に付いていた刺刀を鞘から出した。
俺の、俺だけの武器。今まで人を傷つけたことが無い武器。
俺は刀を大きく振って空に大きく舞い上がらせ大きく背中を仰け反らせてにこりと笑い自分の首を落とした。
どこかで大きな声が聞こえたが誰の声かは分からなかった。
これでサクラは解放される。

「オギャーオギャー!!!!!」
一つの呼び声が聞こえる。
その声は天高く響きそしてその赤子を大事に母が抱く。
私はこの世に生まれてきた。
「始めまして、私の可愛い赤ちゃん」
と呼ぶ母に一生懸命手を伸ばす。母にまだ抱っこされていたいのに引き離されて不満で泣く
「大丈夫、大丈夫」
と母じゃ無い誰かが私を慰める。私は大丈夫なものかと思うがそれでも何度も揺さぶっては泣き止ませようとする。
私はそんな抱っこの仕方では泣き止まないぞという気持ちを持って泣くが時既に遅しで私の心とは反対に涙が引っ込み泣く意力も無くなってきた。
そんな私はその誰かに色々身体をチェックされた。そしてその人が大きな声を出したのだ。
「数字があります!」
と。大きな声で言うものだから私ビックリして泣いた。大きな声で泣いた。でも私の泣き声なんて誰も気にしていないのか私をひっくり返しては腰の辺りを見ている。
「この子は女の子だ。どうして王子の数字が・・・」
「この子は長くは生きられない。一例しか・・・」
そんな声が頭上で聞こえる。母に助けて貰いたくて母に手一生懸命伸ばすと母は言葉を失ったという顔をして固まって私を見ている。
そして私が母の事を呼ぶのと同時に母が泣き始めた。

「よいか、これからここの洞窟に入って三日間で化け狐の器になって来るんじゃ。」
そう言う爺様はヨボヨボの足を震えさせながら私の手を引いて歩かせた。
私は六歳になった。
あの生まれた日の事は忘れない。お母さんが何度も外では見せては駄目と言う腰の数字も見せた事も無い。この日化け狐の一族として私はある化け狐と契約をしに来た。
この日が楽しみだった。
お母さんは複雑だったようだ、女の子だから積極的に戦には行かない。この村は昔は何も無い化け狐と共に生きる街だったが最近は色んな国と交流を持っている為様々な物が手に入り家も木で出来た家からレンガの家に変わったと何度も丘の上の授業で習った。
昔ここに王子様が居て悪い奴が村の人達を操って龍神様を襲わせた時に命を張って守った事も英雄として銅像が建てられていた。
村一番の英雄でそして若くして死んだ王子だと。
若い王子が死んだ後掟が変わった。それ程までに王子の死は皆を悲しませたのだ。
王子が好きだった人は同性だった。
そこから王子であっても好きになった人と結ばれるべきだと掟が変わり、戦も領土拡大とは言え闇雲に戦をするのでは無く話合いで解決出来る物はお互いが利益が得られる形で納得するまで話し合う事に変わったと歴史の先生が言っていた。
私は歴史が苦手だった。
先生は優しくて俺の弟は歴史が苦手だったが体育が得意で戦でも良く活躍していたと言っていた。
その弟はどうしたの?と前に聞いた事がある、先生は少し悲しい顔をして死んだと言った。
先生が泣きそうになっていたので私はすぐに先生に駆け寄り手をヨシヨシと撫でた。
先生は私の行動に驚いたのか少し涙を溜めながら
「ありがとう、春。」
と言った。
学校では沢山友達が出来た、かけっこが得意で村では一番か二番かという位なのに勉強は全く出来なかった。そんな折りに授業で習ったのが化け狐についてだった。
化け狐の一族として化け狐と一緒に暮らす事は掟で決まっているらしい、友達はその話しを聞いて怖がっていた。
中には話を聞いて泣き出す子も居た。
私達は器になるまで化け狐が見えない。他の村の者や国の者は器にならなくても見えるらしい。でも私はまだ器になっていないから見えない。
先生も器になって化け狐の背中に乗ったらきっと楽しいぞと言ってくれた。
さっきまで泣いていた子達が
「それなら怖くないね~」
と言って泣き止んだ。
よくお母さんと一緒に色んな国に出かけた。
炎の国は門の所が国を囲う壁に沿って炎があって暑くて私は近寄れなかった。
でも国の中は涼しくて私は街中で飛ぶ炎の鳥が気になって買い物中のお母さんから離れて炎で出来た鳥を触りに行くと背が高くて赤い髪をした人に捕まった。
「これ触ったらアチチだぞ~。お兄ちゃんもしお嬢ちゃんに何かあったら泣いちゃうぞ~。」
と言う声が聞こえたが顔は太陽で見えなかった。
私は降ろしてと身を捩らせたがその人は私を抱きかかえるとお母さんの所に行って
「娘さん迷子になりかけてましたよ~」
と言って連れて行った。お母さんは
「ありがとうございます!!」
と言って私をその人から受け取ると大事に大事にギュッと抱きしめながらお礼を言った。
私はお母さんに抱きしめられてしまったので余計にその人が見えなかった。その人は私の頭を軽く撫でて
「家族を泣かしちゃ駄目だぞ~お兄ちゃんとの約束な」
と言って去って行った。
お母さんからはその後とても怒られた。
約束で勝手にどこかに行かないと約束させられたけれども、私は生まれつき落ち着きが無い子だったので気になった物があったら一人でどこかに行ってしまう子だった。
その度にふんどし一丁の人が筋肉を見せながらお母さんの元に戻したり、眼鏡を掛けた人が私を捕まえてお母さんの所に連れて行ったり、黒猫を連れた前髪が長い人が猫の背中に乗せてお母さんの所に連れて行ってくれたり、顔がキラキラした星さんで一杯の人がその場で寒くないのに雪を出してくれて雪だるまを一緒に作ってお母さんを待ったりした。
皆決まって
「家族を泣かしちゃ駄目だぞ~」
と言うのだ。もしかして大人達の秘密の言葉なのかもしれないと私は思った。

そして私は洞窟の入り口で仁王立ちをしている。ここに化け狐が居ると爺様は言う。
三日間かけて器になって来いと。
三日間高熱が出て苦しみ時には死ぬらしい、それでもこの化け狐の一族として生きるにはこの方法は外せないと言われた。爺様はここで待っていると洞窟の前でヨロヨロしながら立っていた。
ここに来るまでにお母さんが大泣きして大変だった。
「大丈夫。」
と頭を撫でる度に大きな粒の涙を流すのだ。私はその度に撫でてお父さんも同じように泣きながらそれでもお母さんの背中を擦っていた。
丘の上の学校の先生も特別だぞと言って来てくれた。
「怖いと思うな、怖いと思うとあいつらに喰われるぞ。」
と教えてくれた。私は力強く頷いて約束した。

そう約束したのだからこんな洞窟は怖くない。
そう思って一歩足を踏み出した。
洞窟の中はヒンヤリしていてお母さんがお手製で作ってくれた狐のお面を片手に壊れないように握りしめながら一歩ずつ中に入って行った。
中に入るとヒンヤリさが増した。ぞくぞくと背中を何かが背後から見ているような気がするのはきっとこの肌寒いせいだろう。
私はそんな空気を気にしないという顔で狐のお面をブンブンと振り回しながら歩くと目の前に大きな牢屋が見えた。
牢屋の中には一人の執事が立ってこちらを見ている。
私はその執事の前で立ち止まった。
「ここに何しに来たのですか?」
「器になりに来た。」
「今すぐ逃げ出す事も出来ますよ。」
「それは良い、しないここで器にならないといけないから。」
「そうですか、死ぬかもしれませんよ?」
「その覚悟が無ければここには来ない。」
「死ぬと分かっていても器になりに来たのですか?」
「うん。」
「私が器にした所で何が叶うのでしょうか?」
「何が欲しいの?」
「何でも良いのです。何かくれますか?」
「私には何も持っていないの。このお面しか無いわ。」
「お面は要らないです、そんな玩具のお面は要りません。」
「それなら何だろ~。」
「・・・・・・」
「分かった!自由をあげる。」
「自由ですか?」
「そうよ、自由。」
「貴方が器になればそれが叶うのですか?」
「ええ、きっと貴方は以前に色んな物を手に入れたからきっともう何も要らないと思ったのよ、だけどここに居るのは良くないわ。きっと自由に行動出来れば欲しい物が見つかるわ!」
「そうでしょうか・・・」
「ええ、そうよ!!それじゃあ早く私を器にしてよ。」
「今度の器はせっかちさんですね。」
「そうよ、私はグチグチさんは嫌いなの。」
「はあ、私は王子の数字しか持っていない者しか器をしないと決めているのに。」
「王子の数字ならあるわよ。」
「嘘です、男しか持てないはずですから。」
「嘘だと思うなら器にしてよ。」
「なんて横暴な・・・」
と言いながら牢屋から綺麗な手を差し出す。その手には白い手袋がされていた。
「手袋のまま握手するの?」
「ああ、そうでした。手袋を外さないといけないですね。」
「ええ、人と握手する時は外してちょうだい。」
「これでどうですか?」
手袋を物音立てずに外し手を差し伸べる。
私はその手を掴んだ。
大きな手は段々光が見えてきて顔が照らされて見えて来た。
その顔立ちは美しくキリッとした顔立ちだ。身長も高くきっとイケメンと言われる部類なのだろう、私はそんな執事の格好をした化け狐の器になった。
「貴方のお名前は?私の名前は春よ。」
「春、これから宜しくお願いしますね?」
と言いながら執事は目を瞑る。私も一緒に目を瞑った。
執事と手を繋いだ所から暖かい光が体内に入ってくるような気がして来た。
ヒンヤリとした洞窟の中で暖かい太陽のような光は私の掌からどんどん身体の中に入ってきて心臓に辿り着く。
私は少し目を開けると金色の光を放つ繭に包まれていた。
(うわぁ)
と声が出ないが心の中で驚きの声が漏れた。
こんな体験をするとは聞いてなかった。高熱が出るって言ってたのに爺様は何を言っていたのかと思うくらいに綺麗で暖かい。
段々光が小さくなってくる、私の心臓に光を射した後細く小さくなって消えた。
執事はどこに行ったのか。
「執事さん、何処?」
声が聞こえない。シーンとした音が私の耳に響くだけ、どこに逃げてしまったのか立とうと思った時に心臓から脳に声が響いた。
「ここに居ますよ。」
「何処に居るの?」
「心臓です。」
「どうして心臓を選んだの?」
「心臓が一番入りやすいので。」
「そうなんだ、絆はどうなの?」
「知っていらしたのですか、心臓に近いと絆が深まる事を。」
「うん、知ってた。」
「それならばきっと絆が強く深くなるでしょう。そう私が望んだので心臓にしたのです。」
「そう。なら私達友達になれるわね。」
「どうでしょう、私は友達を作ったことが無いので。」
「きっとなれるわ、私が言うのだから間違いないわよ。」
「そうでしょうか。」
「そうよ、それでどうすれば良いの?」
「門を開けて下さい。そうすれば私の身体が自由になります。」
と言われて私は牢屋についている門を思いっきり開けた。
牢屋の中には誰も居なかった。騙されたのかと思って私が振り返るとコツンとデコピンをされた。
「何処を見ているのですか?」
「あら、もう出て来ていたのね。気付かなかった、どうしてそんな意地悪をするの?」
「春が意地悪だからです。」
「もう、それで貴方の名前は何て呼べば良いの?」
「サクラ・・・・サクラと呼んで下さい。」
「サクラ。分かった、これからサクラと呼ぶわ。」
「名前を聞くなんて珍しいですね。」
「貴方には名前があるでしょう?」
と言うと豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしてサクラは立ち尽くした。そしてニヤリと笑うと
「そうです、私には名前があるのです。」
と言った。

洞窟を出るとそこにはお母さんとお父さんと先生、そして爺様が立っていた。
数分の出来事に思っていたがいつの間にか三日経過していたらしい。
私はサクラと手を繋ぎながら戻ってきた姿を見てお母さんが駆け寄ってきて強く抱きしめてくれた。
爺様は驚きの顔で見ていたが、私が爺様の化け狐を触ったら本当に器になったと認めてくれた。爺様は、私は器になれず死ぬと思っていたらしい。
その日を境に私は化け狐の一族の一人前として認めて貰った。
爺様は私に
「これでお前は一人前に化け狐の一族の一人じゃ。これから勉強をもっと頑張って戦にも参加するように。そしてもう一つ行かなくてはいけない国がある、それは花の都じゃ。そこでお前は一つの儀式を行わないとならぬ、それを怖がればお前は掟で殺される。よいな?」
と言われた。お母さんは私の身体を抱きしめ優しく撫でながら私の顔を伺う。
「いいよ。」
と答えると先生が
「いいですよ、だろ?」
と言って来たがこれから何が起きるのか全員が分からず爺様しか分かってなさそうだ。
私はそんな自慢気にしている爺様を横目にサクラをチラッと見るとサクラは微笑んで私を見た。サクラが微笑むならきっと大丈夫だと思った。

「今日から兄弟になる春だ。」
と私はサクラを連れて花の都である男の人達に会った。
「宜しくなー春!久しぶりだなーサクラー。」
と赤髪の人が私に話しかけて来た。
「ていうか女の子が王子になるの初めてだよね?本当に王子の数字が入って居るの?」
と顔に何かをパフパフ粉を付けている人が居る。
「数字ならあるよ。」
と私が言うと、
「ほう、何番がお前の身体にはあるんだ?」
「五番よ、龍次兄さん。」
「そうか!五番か・・・・どうして俺の名前を知っているんだ?それに五番って」
「まず私の自己紹介するわ。私は第五番目王女、春よ。能力は水。以前の私はあまり能力を使わなかったけれどもこの身体になってからは能力を使うようになったわ。」
「以前の身体?どういう事?」
「希生、そのままの意味よ。私はここの出来事を全部覚えている。」
「「「「「もしかして!!」」」」」
と皆が驚いた顔をしたので私はサクラと二人でイヒヒと笑った。
サクラも器になるまで私が千の時の記憶がある事に気付かなかったらしい。
数字があるのもただの痣だと思ったと後から謝られた。
サクラは私が生まれ変わって嬉しかったのか朝が来る度に起こしに来たのだ。お母さんが
「手が掛からなくなって良かったわ~。」
と言っていたがサクラ曰く目が覚めないのではと怖くて確かめるのだと言っていた。

あの日の事はサクラから聞かされていた。王子である兄弟達は千が死んだ後国民からの投票を元に掟を変えたと言う。
そして千の死を惜しむ葬式は何日にも及んで行われ、皆が涙を流した事。
千が死に際に壊したブレスレットのお陰で奴隷の民は正気に戻ったと、そして龍神様の四葉さんは。
私はサクラと一緒に花の都に来る前に妖怪の村に行った。
丘の上には大きな龍が眠っていた。
そう、龍神様の四葉さんは千の死に耐えられず千の後を追って自分を封印したのだ。
私は手を合わせて独り言を呟いた。
「辛い思いさせてごめんね。四葉さん、戻ってきたよ。」

貴方を今でも私はお慕いしております。
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