転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第十九話 作戦会議

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 我らはディザントに滞在している王都所属の部隊である。しかし、部隊と言っても戦う為のものではない。我らがどういう者かと言うと、砂漠のモンスターの調査が主な仕事だ。戦うでもなく、逃げるでもなく、観察するのである。資格取得が必須であり種類も豊富である。細かい事は省かせてもらうが、最低でも三等英雄に匹敵する実力がなければならないと言う決まりがある。
 現在はとある勇者様から調査依頼を受け、特定の物の調査にあたっている。
「この先だな?」
「こいつは確かにゴーレムが開けたとは思えない大穴だな」
 そのゴーレムは特異性を無くし、ただの岩石となって当時のまま道端に転がっていた。未採掘の鉱石も無傷であり彼らの手際は相当良かったと見受けられる。まあ彼らだからな、当然といえば当然だ。そんな中発見した、報告通りの大きな穴。時間をかけて降りていったそこには見たことも無い景色があった。
「おい…こりゃすごいぞ!」
 なぜ空間が明るく照り出されているのか疑問に思っていたが、こんな事が起こっていたとは。皆空いた口が塞がらず、無言で辺りを見渡している。
 黒曜石の岩盤に囲まれた巨大な『砂漠の蒼星』の鉱脈、では切れず傷も付かず、で初めて傷が付く。一般的には小さい鉱脈しか存在しないので、その周りを丸ごと取り出して持ち帰り加工してもらうのが主流である。となればこれほど大きな鉱脈ではそれもできないし、もし取り出せたとして後ろのマグマが流れ込み大惨事になる。
 なぜマグマがあっても溶けないのかだって?それは『砂漠の蒼星』が超特定の温度でしか溶けないようになっているからである。特定温度の0.1℃でも上下すれば固まってしまい破壊は困難を極める。
 さて、本題に入ろう。依頼の新種のゴーレム、もしくはゴーレムの進化系の調査。皆を呼び止め集合させる。
「そろそろ本題に入るぞー!色々調べたいのも分かるが!」
 皆ハッとした顔を見せて、書いていたレポートを中断し小走りで集まった。
「まず彼の証言を確認する。巨体、岩の体、炎の核。ここまでは通常種通り。加えて、牙の無数に並ぶ口、『蒼星』すらも噛み砕くと言っていた。魔力による結合は阻害がなければ解かれない。核での魔法吸収並びに火炎放射、体の再生成。見ての通り右腕が関節なしに再生成されている。パワー、スピード共に通常種の倍以上を記録と…。君たちの見解はどうだろうか、聞かせてくれ」
「それではまず私から」
 まず口を開いたのは鉱物学者のヨハンだった。
「ゴーレムの体も、彼から貰った指も、どちらも純粋な『蒼星』ではありませんね。しかし、どう見ても再生成されたあの腕の方が純度が高く、よく見れば混ぜられている不純物はゴーレムの体の岩に見える。このゴーレムは『蒼星』を噛み砕けるのだな?とすると、喰って身の一部にする事が出来るのでしょう。私にはそう見える」
 彼の言った意見には皆賛同した。報告の中に魔法の吸収とあるが、これも加味すると、吸収というのがこのモンスターの特徴と捉えられる。通常種も鉱物から魔力を吸い取るしな。次に口を開いたのはモンスター研究者の一人、スパイトが疑問を投げかけた。
「私から一つ、なぜ今の今までこのモンスターが発見されなかったのか。元々ゴーレムは進化なぞしないはずだが、この性質では別のものと考えづらいのもあり不可解だ。進化するのであればなぜ発見されなかったのか、どう御思いかな?」
 この言葉に場が鎮まった、もう一人のモンスター研究者であるビゴがしんとした場に声を上げた。
「鉱夫達はゴーレムの襲撃に慣れている。すぐにクエストと言う形で依頼を出し、結果早急に解決できる。だとすると、今までゴーレムに十分な進化の時間を与えず、先に英雄らが片付ける事で進化する事が出来なかったと。あくまでも考察の領域を出ませんが、私はこう考えました」
 確かにゴーレムは鉱物に含まれる魔力を感知し集まって来る。だがそれ以前は砂中を意識なく遊泳している。初めて魔力を得るのは砂の下の鉱物からの吸収である。
 通常よりも早くに依頼が達成された、一日と経たず仕事が再開できる。鉱夫達はそう言っていた。猶予時間が通例よりも短いのになぜ進化するほどの魔力を得たのか。もし事前に進化していたなら鉱夫達はなぜこのモンスターに気が付かなかったのか。
「にしてもよ、最近変な事が多すぎると思うんだ。全て何がしかの関係性があるならば、一体何がそうさせているのだろうな。俺には検討も付かん、そもそもの情報が少なすぎる」
 スパイトがボヤいた、それは現在私たちが最も重きを置く問題とも関わっている。その問題は必ず何かが引き起こしたものだと踏んで入るが、ここ数ヶ月悪化するばかりで何も成果がない。たった五人では人手不足だった。
「全く、これでは頭が痛くなるばかりじゃ無いか。糸口は無いものか…」
 苦悶するばかりでまた成果は無かった。点と点はいつか線で繋がれると言うが、どうもこればかりは点が多くそれぞれの間隔もまた広い。このままでは解決する前に一つの種が絶えてしまう。一人で頭を抱えていると、ビゴが苦肉の策を提唱し出した。
「これはディザントだけの問題じゃない、ファムエヤ全土の問題だ。もう埒が明かないならば、鉱夫達と同様の事をすれば少しは楽になるのでは無いか?テレンス、あなたならどうします?私はもう覚悟の上です」
 人一倍熱心に研究、調査する彼が匙を投げた。こんな状況では足踏みするだけだと考えたからだろう。変に頑固にこのチームだけで達成しようとするには、余りにも巨大な壁だった。気づけば私ももうその言葉に流されてしまっていた、しかし同時にそうすると決心した。
 ゴーレムに関しては、この巨体と強度では我々に持ち帰る事は不可能故、必要なレポートを記録し終えた後、各々のレポートの続きを書き、この場を去る準備はできた。
「皆いいな?気になるものはもう全て記録し終えたな?」
 私の呼びかけに気のいい返事が返ってきた。珍しく四人分の声だ。
「ルイス、今回は気になる事があったんだな」
「ふん、まあな」
 こうして私たちは坑道を去り、すべき事をするためにオアシスへ向かった。

 あのゴーレムの討伐から今日までの数日、正直何もやる事が無い。あの人達は俺に気を遣ってくれているのかクエストをこなすペースはいつもとほぼ変わらなかった。しかし二日に一回のペースでクエストをこなす筈の所、なぜかその二日目である昨日はクエストを受けなかった。どうなってるのか分からないが、どうやらターラがストップをかけたらしいし、今もその状態のままだ。今日は何もしなくなってから三日目の夜。ずっとラグルの家のソファでくつろいで本を読み漁っているし、夕飯もさっき食べ終えたばかりで少しうとうとしてきた時だった。コンコンと誰かがドアをノックした。パッと眠気が飛んで、栞を本に挟んで閉じた。その時ラグルが玄関へ向かいガチャンとドアを開けた。
「あ、やあ、日暮れにどうしたの?」
 誰だ誰だと見てみれば、顔を覗かせたのはバトラだった。バトラと目線が合い、眉が上がるのが見えた。
「ああ、ヒカルを呼びに来たんだ」
「俺を?何か急用でもできたの?」
「ああそうさ。依頼だヒカル、これは今までになく長くなりそうだぜ?なんせ『砂丘隊』直々のやつだからな」
 俺はピンと来なかったが、ラグルはそれを聞いて眉をひそめた。そして俺よりも先に口を開いた。
「それって奇人変人のあいつらか?最近ロクな活動をしてるとこ見た事ないしよ、それに…」
「それが俺らの受けた依頼なんだ、手伝いと、念押しな」
 ラグルの話に割って入り、簡潔に依頼内容を言ってみせた。少し肩を落としてラグルが言った。
「じゃあ念押しってなんの為に?」
「調査先が今までに行った事が無い場所らしくてさ、強力なモンスターとかが居ると彼らじゃ対応出来ないから、俺らに声がかかった訳だと」
 バトラの話を聞いて何となく事情は理解できたが、俺にはそれ以前に聞きたい事があった。
「でさー…その砂丘隊ってのはなんなの?」
 あ、と言う声が漏れたのを聞いたが、すぐにバトラがこれに答えた。
「砂丘隊ってのは五人の研究者の集まりで、それぞれのエキスパートが自己の研究をしながらここディザントの環境保全をしてくれているんだ。所属は王都トエントだけど、ディザント出身者がほとんどなんだ」
「で、砂丘隊ってのは本当の部隊名じゃ無いんだ、よく砂丘の上でモンスターの観察をしてるのを見かけるからこの愛称で呼ばれているんだ」
 バトラの説明に付け足すようにラグルも答えた。要するにトエント所属の調査部隊で、この砂漠の環境と生態系を守っている訳だ。それにしても奇人変人と呼ばれるあたり、自分の研究にも超がつくほど熱心なんだろう。
「さてと、いつまでも話してちゃダメだな、待たせてるんだから早く行こうぜ」
「分かった」
 手に持った本を置き、ソファを飛び越えて足早に外へ出た。
「じゃあ行ってくる」
 手をスッと上げてラグルに別れの挨拶をした。今回ばかりはいつ帰るか分からないが、それでもラグルの顔はいつもとさほど変わらない微笑みで、額に二本だけ揃えた指を当て「あばよ」とだけ言って扉が閉まった。
「なあヒカル、今のってなんだ?」
「彼なりのさよならの言い方だよ、いつもあれなんだ」
 ふーんと言ってその他に追求もなく、本来なら寒いだろう月夜にオアシスに向かって歩いて行った。
 オアシスに到着、いつもの通りに門をくぐるが今日は何かが違かった。どうにも人が居ない、夜だからもあるがそれでも人影が無さすぎる。近くに行けばどんな時間でも中から声がしたり人の出入りもあった筈だった。それなのに今日は誰一人としていない。とは言っても俺含めた勇者パーティの面々と、砂丘隊らしき人らを除いてのことだ。
「おーい、連れてきたぞー」
 バトラの声を聞き、皆明るい顔をして俺を迎えてくれた。久しぶりだなと和気藹々和んでいるのも、咳払いで遮られて一気に沈黙が広がった。砂丘隊の一人が前へ出て自らの作った沈黙を破った
「済まないが、手短に話を終わらせたくてね。私の名はテレンス、『トエンティスファムエヤ砂漠調査保全隊』、あだ名で言えば『砂丘隊』、そのリーダーを務める者だ。まぁ、言ってもリーダーなど型式だけだがね」
 テレンスと名乗った男は、白髪では無いが歳をとったシワの目立つ老人に見える。落ち着いた声で淡々と話す姿は不思議な威圧感を覚えた。
「あなた達は、以前ゴーレムの進化形態と戦ったね?私たちはアレを『デーモンコア』と名付けているが、その調査を依頼されて、今日の昼間にそれを終えた。そこでデーモンコアは確かにゴーレムの進化形態であると判明した。しかし、ゴーレムは今まで進化しないものと思われていた。だが私たちもあなた達も、その確かな姿を見た。なぜ今日こんにちまで発見されなかったのか、一体なにが進化させたのか!…私たちは、現在ある調査に難航していてね。もしかするとこれもばら撒かれた点の一つなのかもと、そう思ったのだよ。だがそれを深く調査するには今までに無い危険が伴う。元より五人では手に余る物だ、だからあなた達に協力してほしいのだよ、其方らの意見も捨てがたい事だろう、経験則からくる直感もあるだろう。私たちだけでは絶対に解けない無理難題を共に解いて欲しい。それが私たちがあなた達に依頼した理由だ!」
 彼の言葉は異常に熱を帯びていた。だんだんと感情がこもって強さを増す口調は、俺達勇者パーティに強い期待を向けての物であり、またその眼差しは閉ざされた闇に差した光を見つめるかのようだった。彼ら自身にとって、これは文字通りの最終手段なのかもしれない。ここへ来る間、バトラが呟いていた。
「依頼をしてくるなんて、あいつららしく無いな」
 普段から依頼をするような人達では無い、しかし現に依頼をしてきている。どれほど切羽詰まった状況か聞かないでも分かってしまいそうだ。
「なるほど、俺が受けといてなんだけどかなり面倒めんどっちぃ内容だね」
 そんな心情を考えるより先にスピットは口が開いた。
「確かにそうだな、だがもう少しだけ話させてくれないか?今度はその私たちの遂行する調査についてだ」
 再び俺らは黙って耳を向けた、テレンスは喉の調子を確認してから説明を続ける。
「あなた達は、『コーレット』と言うモンスターをご存知ですね?彼らの食糧が今尽きかけているのです」
 俺は全く知らないから隣のバトラに耳打ちで聞いた。彼らは動物性で中型のトカゲ型モンスター。砂漠を駆け回り獲物を見つけてそれを食べる。彼らの獲物は死骸で、所謂いわゆる腐肉食のモンスターだと言う。また、お世辞にも頭が良いとは言えないらしい。テレンスの説明は続く。
「だが既にファムエヤの半域に渡ってその食糧が消失しているのだ。幸いこのディザント周辺ではその傾向は無いようだが、いつそうなってもおかしくは無い。その波はいずれここさえも飲み込むだろう」
「一体、それでなんの問題があるって言うんだ?なるべく詳しく頼みたい」
 口を挟んだのはジラフだった、珍しく真剣な面持ちだ。
「そうだな、どこから説明したら良いものか…。コーレットの食糧が最初に消失した場所はディザントとは真反対の場所だった。そこにもディザントほどでは無いが一つの拠点があるだろう?そこへ向かう途中のキャラバンがコーレットに襲われたんだ。普通なら襲う理由も無い、主食は基本死骸だから隣を運行していても寝転がっているだけだったさ。だが報告を受けて調査すると、死骸はおろかコーレットさえも姿を見せなかった。そして次の場所でも、その次の場所でさえも状況は同じだった。分かった事は、先に消えるのは砂中のモンスターだと言う事、地上のモンスターは後回しだ」
「そう言う事だと、馬鹿みたいに強いか、大きな砂中のモンスターの仕業とは考えませんか?」
 バトラが首を傾げて言った、それに消沈した気で答える。
「それもとっくに考えついているが、平行線だな。思い当たるのはテンダット、しかしあれは強力なモンスターではあるが骨まで食うほど食欲はない。他に巨大なモンスターを探すとなっては手がかりも無いし、張り込みをしていても次の拠点に被害が出始めるのがオチだ」
 それは常に移動し続ける事を示していた。その大元のモンスター、仮にXエックスだとすると、Xが根こそぎモンスターを食べて死骸がなくなり、死体が無くなってコーレットが獲物欲しさに人を襲う。でもそのコーレットも最後にはXに食べられる。そしてXは他の場所へ移ってその繰り返し。やっと俺はその恐ろしさに気がついた。
「絶滅…」
 不意に声が漏れた。どんなにモンスターが邪魔だったり、人に害が出るとしても、全て生態系の一部でありこの砂漠を支える掛け替えの無い存在だ。もし滅びれば、最悪この砂漠は消滅して後には何も残らなくなる。
「意外と察しがいいな、新入り君の言う通りだ。おそらくたった一種、もしくは一匹のモンスターが環境を破壊しようとしている。だがなぁ…そこまでしか分かっていない」
 テレンスが項垂れてしまった、十分の情報を得ていると思うが一体何が不足し、何が不安とでも言うのか。
「私たちは初めて被害が出てからもう長い間同じ状況の中にある。そもそもの話、なぜ今デーモンコアなどの強力なモンスターが活発化しているのか分からないのだ。その大元さえ断てば万事解決だが私たちだけでは無理な話だ」
 頭を抱えて一人で悩み込んでしまったテレンス、そんな彼にメルが声をかけた。
「情報不足って事もないんじゃ無いかな?」
 テレンスも、他の砂丘隊のメンバーも耳を疑った。俺はその言葉に期待し、テレンスは反論し始めた。
「本当にそう思うかい?私たちは奴の現在の居場所も、姿も知らない。どうやって察知されず移動するか攻撃するか、分かっているのは食性だけなんだぞ」
 テレンスは真っ当な事を言った、正体不明のモンスターによって多大な被害を被っている。ただそれだけの状況がずっと平行線、それでもって砂漠の半分が既にオシャカだ。それにメルは何を言おうとしているのか、自然に皆の視線が集まった。
「こんな事言っては怒られるかもしれませんが、ここに来るまで待ってみるか、誘き寄せるっていうのはどうですか?」
 この場で目を丸くしない者は無かった。突拍子も無い「放置」と言う選択肢を投げかけたのだ。そこに一体何の策略があるのか分からない。待ってみれば種が滅び、誘き寄せるにせよ被害は広がり、ディザントにまで及ぶ可能性がある。テレンスは言い返そうとしたがその前にメルが話を続けた。
「あと、テレンスさん達気付いてますか?コーレットはいつでも同じ子達だって」
 これを聞いて後ろにいた砂丘隊のメンバーが身を乗り出して食い入る様に質問した。
「それはどう言う事だ?俺はビゴ、モンスターを主に研究している。詳しく説明を頼む」
 メルは続けた。
「私ね、覆鎧があるおかげで魔石を買う前からずっとキャラバンの護衛とか出来てたの。いろんなルートがあるけど同じ道には同じ子がいたの。バロデナがいい例よ、今回来た時にも同じ模様の子がいて私を見つけたらすぐに寄ってきたわ。コーレットも同じ。顔立ち、羽毛の生え際、体の傷とか生まれつきの何かで判別できるの。もちろん幾つもグループはあるけど精々10グループ位なの」
 この言葉にビゴと名乗った男はメルが話を終えた頃から震え出し、何も言わぬまま下がっていってしまった。だがこうやって驚愕しているのはビゴだけでは無かった。他の砂丘隊の四人の内三人は驚いた様子を見せていた。
「それでは、全270匹前後と数えていたファムエヤ全土のコーレットは、全てたった50そこらの数しか居なかったことになるではないかっ!これでは報告書に書いた…」
 テレンスはそれからずっとぶつぶつと呟き続け、メルはやっと話の本題に入った。
「質問します。コーレットの被害は一体何匹による仕業か判明していますか?」
 やっと黙りこくったテレンスが、間を置き、静かに返す。
「…正確な数は出ていない。だが、私は個人的に推察してみた。直近のもので考えると、同伴していた三等英雄が苦戦した末追い返す、被害にあったキャラバンの車の損壊具合。これらを加味して、およそ十匹の集団だったと見ている。証人も少なく、実際に戦った英雄らはもう既に他の場所へ移ってしまっていたから聞き出せなかったのだ」
 ふーんとメルは答えた。目はどこを見ているか分からないが、少なくとも自分の世界に入っているのだろう。
「なあヒカル、ここってメルに任せて良い所か?あいついっつも奔放だから心配でさ」
 バトラが少し首を傾けて耳打ちをしてきた。バトラは今の状況を少し心配してるみたいだ。言った通り、奔放さ加減で言うと、見張ってないとどこかへいってしまいそうな人だった。気持ちは分かる、でも今はそんな気を見せずに真面目だと思った。
「多分大丈夫だよ、モンスターに目印見つけといて正解だったのかな…この場合」
 どこかを見ていた目はふと現世へ戻った、その目はいつになく怖い。そして早口で言った。
「コーレットは群居性のモンスター、五体の群れで行動して死骸を探す。でも今コーレットは少なくとも六体以上の群れで行動して人を襲っている。正確には食糧を奪いに襲っているんだと思う。聞いててキャラバンの方が被害が大きい様に思えた、だってキャラバンの護衛の直後にその英雄達が別の場所に行ける位には無事なんだから。それで多数いる理由だけど、あの子達は群れが壊滅するかしないと他の群れに入らない。じゃあもしどの群れも壊滅してたら…集まるのは生き残り、少しでも生存確率を上げる為に全員で一丸となるはず」
「まさか…その約十匹だけが生き残りだとっ!?」
 テレンスの声にメルは静かに頷いた。
「私は、少なくともその子達だけは守りたい。捕獲できないかしら?」
 これを聞いた研究者達は、片眉を上げてじっとメルを見つめた。
「一応本気だよ?数も少ないし、保護ならあの場所使えば全然イケると…」
 動きがヒラヒラし出したメルを誰かが静止した、手は長く辿っていくとジラフの顔が見えた。彼はキョトンとしたメルに、咳払いをして言った。
「…あー、本筋から反れてる気がするのは俺だけかい?確か”そのままにする”とか、そんな事を言っていたような…」
 分かりやすくハッとした表情を見せてメルが畏まった。
「そうだった。それで、待ってみるって言うのは、がこっちに来るって言ってたじゃない?だったら待ち伏せして叩こうって話で、来るなら商東門からでしょう?だったら迎撃も簡単だし、何かを餌にして誘き寄せたりとか…」
 やっぱりメルはメルだった。いつもとなんら変わりは無い。お気に入りのモンスターにはかなり考え込むようだが、その大元に対しての戦略はまぁ軽薄。研究者達も期待して損した様な顔つきだ。ここでバトラからの耳打ちが。
「メルにしちゃあよくやったんじゃないか?」
「…次任せるのはやめにしようか」
 バトラは「それな」と言うように俺に人差し指を向けた。
 研究者達はあれから皆でコソコソ話し合っている。その話し合いが終わると、テレンスが向き直り言った。
「…了解した、メルさんの作戦についてだが、コーレットの捕獲に関しては賛成だ。については…検討しておく。それでは、次にコーレットの被害が出るか、目撃報告が出たら作戦を実行してくれ。内容についてはメルさんが中心になって決めてくれれば良いだろう」
 俺たちは素直に応えて、その場で会議は一時解散となった。これから宿へ向かうのだが、その宿と言うのは話にあった商東門の近くの空き家。元は人も住んでいたが何年か前に引っ越したとの事、何の気兼ねもなく借りられる。この際家賃も払う事になっているが、金もそんなに持ってないだろうと気を利かしてくれたのか俺だけ家賃は払わなくて良いと言われた。いつも思うが俺にだけ甘すぎないだろうか、一応それなりの額は持ってると思っているのだが。およそ日本円で30万位、シィエルの狩猟や、オルミボスの蜜採取を日に二度こなす事もあったからそれなりに貯まっている。そのおかげで、実はオルミボス達と少し仲良くなていた。ともあれこの世界の家賃事情は全く知らないし、後で後悔すると後の祭り、今はご厚意に甘えるとしよう。
 月明かりが良く差す夜は異常に静かだった。いつも遠くで聞こえてた鍛冶の音は無くなり、誰も起きていないのか家にも明かりが無い。勝手に『嵐の前の静けさ』なんて考えてしまっていたが、それも気にし過ぎなのかもしれない。

 深夜、月も落ちてきた頃に、彼らは集まっていた。
「結構前倒しになっちゃってるけど、いずれそうするつもりだったからちょうど良いか?」
「そうとも言える。さっ、夜が明ける前に済ませようじゃないか」
 五つの影が一人の研究室へ、ひっそりと押し入って行った。
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