転移した世界で最強目指す!

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第一八話 ゴーレム討伐依頼

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「なるほど、あの人はヒカルの兄弟子だったわけね…だとしてもそんなに話し込む?」
 オアシスにて、俺は寝ぼけた頭をテーブルに突っ伏している。スピットに何故こうなったかを言ったら冷ややかな目を向けられた。
「仕方ねぇだろ?意外と気が合ったんだからさぁ」
 伏したままくぐもった声で返した。時計と言うものはあるが、俺の知るものとは違うためどうにも時間が分かりづらい。それが一つの原因でこうなっている、ちなみに寝たのはおおよそ4時過ぎだ、それから集合時間に間に合わせるため一時間半ほど寝て、朝食とか諸々済ませて来ていた。
「みんなー!昨日良いのが取れなかったが、今日は良いのがあったぞ、朝イチで来て正解だった」
 手に紙を持ってジラフが戻ってきた。こんな早朝でも人が多いため、ジラフ一人にクエストを受注しに行ってもらっていた。今回のクエストは俺の力量を間近で見るための試験も兼ねている。確かに今までは、上から『獣稟』を見ていただけとか、護衛中に遠くから見ただけとかだったから。
「良いのがあった?ねぇどいつの事?」
 スピットが問いかけると、ジラフはテーブルに持ってきた紙を広げた。

『 <複数討伐> <難易度>Pt.II
 <概要>
 鉱石採掘場にてゴーレムを確認。
 周辺にも同様のモンスターあり。
 我ら労働者は即刻避難済み、
 良い知らせを待っている。  』

「よくある話なんだ、鉱物の近くにゴーレムは湧きやすい、あいつらは鉱物を餌にするし、知能もあるから群れてこうやって時々坑道を襲うんだ」
「へぇ」
 バトラが知らない俺のために説明してくれた。依頼文にもある通り、今回出向くのは鉱石採掘場、バトラの言葉からすると洞窟なのだろう。ゴーレムも、オッサンの家で情報を見たが、おおよそ人型をしていてとても背が高いのだと。だがこいつは最高レベル50の中級モンスター、強いと言えなくもない程度。俺は過去に同じ中級モンスターのウィンドドラートとファボイを下してるから個の強さより物量が心配だ。
「これで良いな?お前ら」
「異議なし」
「異議なし」
「同じく」
「ちっと物足りないかな」
「お前にとってはな?」
「…」
 スピットが物足りないとか言ったうちに、後ろにいたターラが頷いた。これでようやく出発となる。
「そういえばさ、メル空気だったよな」
 歩を進めた途端、唐突にバトラが振り向いて言った。
「だってしょうがないじゃん。ここに着いてからそう言う雰囲気じゃ無かったし、あの店でもおしゃべり出来なかったし、気づいたら部屋で一人だし…」
 そうメルが嘆いていたら隣にそっとターラが近づき、慰めるように覆鎧の手を取ってゆらした。メルは手をぷにぷにした鎧の手で握り返し、そのまま腕に抱きついて頬擦りをした。メルは異様にターラに懐いているように見えたしターラもメルに甘いように見えた。それにしても彼女が小動物に見えて仕方ない。
 ともあれ俺達は今度こそ鉱洞へ向かった。未だ冴えない頭を働かせて足元もおぼつかないまま歩き出した。
 このオアシス及びディザントから坑道はかなり離れている。護衛時と同様に歩いていけば、これまた一週間以上かかってしまう。行き帰りで二週間、こんな労力はかけていられないと最近あの転移装置が導入された。最近と言っても今から数十年前の事らしいが、それから急速に宝石の加工や販売が盛んになったと言う訳だ。
 転移装置を行き帰りで用意するために、大きめの建物を建ててそこに設置することになっている、周りの景色に紛れるために、未だ新設と呼ばれるくらいの部屋には埃が多く、外見もそこらに浮き出た岩と差異が無い、出口も外から見りゃただの亀裂にしか見えない。
「俺たちこの亀裂から出てきたの?もっと広かったような…」
 俺が不思議がっているとメルがその説明をしてくれた。この世界での風魔法だと言う。こう言うと語弊があるが、細分化して説明すると、風の上位互換の複雑な魔法だと言った。大方空間を操るだとかそこらの魔法だろう。
「ちなみに、私も頑張ればできるけど、いつも使ってる氷みたいに上手くは出来ないと思うよ。その人それぞれで適正みたいなのがあるんだって」
 俺は表情も変えずにへぇと言った。俺の世界の魔法も同様に適性なるものがあるから、そこに不思議だとは思わなかった。彼女の言う適正は得意不得意のようなもの、対してこっちの適性はそもそも安全に扱えるかに関係する。扱えないのにそのまま使えば、魔法に呑まれる。
 今は目的地である坑道に向かっているのだが、ここから多少歩く事になる。モンスターも馬鹿じゃ無いと言ったが、あの空間の魔法さえも見破るほどだそうで、そんな理由から転移装置は目的地より何百mか離れた位置に置かれている。それでも時々モンスターが侵入してくる事があるらしい。
 ともあれ、そこから北の方角へ歩いて行くと、小さな砂山に囲まれた岩場が見えてきた。転がる岩は大小さまざまで、どれもこれも角ばっている。遠くに見える中心地には、補強された坑道の入り口が見えた。ここでスピットが指示を出した。
「さぁ、ゴーレムを片っ端からやっつけるか。ヒカル、あいつらについて説明するぜ」
 スピットが語るゴーレムの基本知識。土属性及び魔力性モンスター、比較的動きは遅いが力は強いというよくあるパワー型。体が岩石で構成されているため鉱石のエネルギーを活動源にしている。自分等の性質をある程度理解しているため単体で坑道を襲撃する事はなく、必ず集団で襲いくる。そのほとんどは坑道でをするが、数体は入り口で門番の役を務めると言う。俺は説明を受ける内にだんだん察してきた。
 今立ち止まって説明を垂れているのは坑道の入り口付近、もうゴーレムが出てきてもいいような場所なんだ。なのに一向に姿を表すこともないし、それっぽい音沙汰もない。スピットの説明が終わるとジラフが急かした。
「さぁ、終わったな?それじゃあ早速掃滅しようか」
「てかさ、もうあそこに二体居るんだけど。動いてないだけで」
 言ったのはバトラだ、眼鏡の上から指で片眼鏡を作って凝視している。その方向を見てもよく分からない、なんせ大小していても全部同じような岩しかないからだ。
「え、マジで?…全く分からん」
「まあ無理もないな、見分けられるのは俺みたいに目が良くて利く奴か、見慣れてる奴くらいだ」
 そう言いながらバトラは背の矢筒にかけた弓を手に取り、同時に矢をつがえた。弓の大きさは体より少し小さい程度、上部には刃が備えてある。つがえる矢は三段構造の返しがあり、通常の矢よりも抜けにくく何倍も重そうで破壊力がありそうだ。
「とりあえず先やっとくね」
 そう言って放たれた矢はヒュンと言うような軽い音ではなかった、一瞬衝撃波を放ったような重い音だった。それはほとんど高さを変えぬまま岩の間を縫って行き、一つの小さな岩に着弾した。岩は着弾した場所から割れて破片が飛び散った後ボロボロと崩れていった。
「なー、本当にあれが?遠くて見えない」
「あれがそうだ、スピットがさっき言ったようにゴーレムは核がある。頭にあるからそれを壊せば寝てる間にこうやって倒せるんだ」
 スピットはゴーレムには核があると言っていたが、バトラの補足でそれは頭にあるとわかった。確かにあの岩には何故か小さな窪みが見えた、バトラの放った矢はそこを射抜いていたし、きっとそこに核があるのだろう。
「あの隣にもう一体。まだエネルギーを確保できてないらしいしこれから仕留めるけど、試しにヒカル一人でってみたら?」
「…ねぇマジで言ってる?」
 バトラが勝手な事を言い出した。俺自身ここでは相手にならず、坑道でみんなとやるもんだと思っていた。
「別に君がこいつを倒しても構わんだろう?」
 俺が言ったら絶対フラグになってる言葉だ。バトラの言葉を受け俺は気が進まないが、周りからは賛成の声が挙がるばかりだ。誰も反対しないし相応の実力があると見ている。
「分かったよ、やるから」
「よく言った!」
 未だテンションの低い俺をよそにみんなは笑顔だ。いつも思うがこの人達のクエストに対する気持ちがおかしいと思う。普通はもっと真剣にやるはずなのに、この人達は世間話とかをしながらクエストを片手間にこなしてしまう。彼らくらいになると戦闘もつまらない物になってしまうのだ。たった一人を除いて。そんな折に俺が来て『育成』の楽しさを覚えてしまったらしい。
 みんなが見守る中俺はバトラが指差した方へ歩いていく。少し歩くにつれどんどん地表に岩が多くなる。先には壊れたゴーレムの頭があり、矢が崩れた岩に埋もれている。その左隣に岩の山、一番上に窪みのある石がある、よく見ると小さい穴に大きな空洞があるようだった。
 あと5mくらいまで近づいた時、異変が起きた。窪みに火が灯り、サーっと砂を巻き上げながら岩が組み上がっていく。
(なるほど、こう言う事ね)
 組み上がっていく内に岩石郡は人の形を成し、巻き上がったように見えた砂は操られており、そのまま指などの足りない部品へ変わっていった。見上げるほどに積み上がった岩は気配を帯びてモンスターになった、およそ3m弱位だろうか。
「思ったよりでけぇ…」
 そんな事を言っていたらゴーレムは肘を曲げて大きく引き、上体を捻り、眼のような火は俺を捕らえている。振りかぶった拳を打ち下ろし俺を潰す気だった。ゴーレムは力任せに拳を打ち下ろした。バックジャンプで回避をする、しかしゴーレムの打った地面から砂が弾かれるように大量に噴き出した。
(砂っ!)
 慌てて腕で顔を覆い、最低限目だけを防御した。幸いそれほどダメージは受けていない、ただちょっと首や手がヒリヒリするだけだ。
(最悪だなこりゃ、服にも靴にも砂だらけだ)
 砂を気にするのも後にして奴を見ると、また殴る体勢をとっている。今度は大振りなアッパーカットをしようとしているみたいだ。少し横にステップするだけでゴーレムの拳は空振り、自身の勢いによろけた。聞きしに勝るパワー型、大振りすぎて動作が見え見え、回避も容易だ。後は攻撃が効くかどうか。
 土属性は風属性に対し脆弱になる、何かと最近使ってなかったがやっと使い所ができた。
「『風刃』」
 手をゴーレムへ掲げて風の刃を放つ。ゴーレムはよろけた体を戻しつつ揺らめく目で俺を見つけた所だった。奴も気がついたようで、ピクッと動こうとしたのが分かったがそれ以前に風刃はゴーレムの頭を上下に両断した。眼の中の火は消えて、岩はゆっくりとずれ落ちた。完全に頭が分離したと同時に体の岩と砂もぼろぼろと崩れた。
「ナイスだヒカル!」
 さっと振り向くと、皆が歩いてこちらに向かって来ていた。
「な、れたただろ?」
 バトラが微笑みながら言った。彼は少し列を外れたと思うと、埋もれた矢を回収し戻って来た。
「お前さ、自信無いような感じだけど、自分の思った以上につえぇからな?自信持てよ」
 戻ってきたバトラは俺の肩に手を置いてそう言った。ふと後ろでゴロゴロと物音がした。振り向くとスピットがゴーレムの頭を持ってはしゃいでいた。
「なぁ見ろよ!断面ツルツルしてるぜ!触って見ろよー!」
「ああそうだな、風に脆弱とは言えどもこれほどのものは久し振りに見たな」
 岩の断面を摩って談笑する子供とおじさま。何度も言うようだがこれはクエスト中だ、なぜか和んでるけどそれどころの話では本来無いはずである。そんな空気の中真面目に声を掛けた人がいた。
「ねー早くクエスト終わらせよーよ。鉱夫さん達が待ってるわよ」
 メルだった。まず戦闘の出番を奪われて何も出来ず、声を掛けようにもバトラに役を奪われ、岩を触ろうにも覆鎧のせいで物理的に不可能な状態。つまらなくなるのは仕方ない事だし、今言った事も正論だ。
「あ、ああ!そうするか…悪かった…」
 メルの不思議な気迫に気圧されてかスピットが謝った、珍しく悄気ている。にしても本当にターラは何も喋らないし、必要な事以外何もしない。店でも仮面をつけたまま時々話す位で食べやしない。彼か彼女か知らないが、それでいて平然としているのが不思議に思う。お腹は空かないのだろうか。
 いらない時間を食ってから坑道内へ来たが、予想以上に広い。何かのダンジョンみたいになっている。途中でメルから説明を受けた。鉱脈が大きすぎて道が広がり、時折あるゴーレムとの戦闘によって坑道が破壊され、今の形は幾つもの道が崩れてできた空間なのだと言う。何と言うか、鉱夫さん達にとってありがた迷惑な事だ。光源は松明や不自然に灯る火がある、後者は恐らく魔法だろう。もちろん各自でランタンを持つのも忘れずに。
 ゴーレムが主にいる場所は深部、今ではもう浅いところに鉱石があまり無いため必然的に奥地になる。坑道内は度重なる戦闘による地盤の崩れや今まで広げた道によって、さながらアリの巣の様な構造になっていた。これでも崩れないのは土魔法による補強が理由だと聞いた。
 歩き続けて十分ほど、どれだけ下ったか分からないが少し空気が冷えている。今掘り進めているのはこの先らしい、つまりこの先にお目当てのターゲットがいるという事。最後の下り坂に来て何か聞こえてきた。岩同士が擦れる不気味な音だ。徐々に比較的に狭い坑道が見え、鉱石も幾らか散りばめられている。
「居たぞ」
 先頭のスピットがゴーレムを発見した、鉱石に頭を近づけ食事をしている様だった。ゴーレムの食事とは、鉱石に含まれる魔力を吸い取る事を指す。こいつも眼のような炎で魔力を吸っている様だった。その時グリッとゴーレムの頭が回転しこちらを見た、眼の炎はさっきの奴より何倍も強く輝いている。
「さあ本番だぞ!楽しんでいこうか!」
 スピットが背に括った武器を取り、気合十分に構えた。皆も各々武器を手に取り臨戦態勢になった。ここへ来る前に作戦会議は終わっている。ただ頭を狙って倒し、ゴーレムが崩れた時鉱石が傷つかない様に道の中心で倒す。もしくは崩れる方向を手動で変える。みんな圧倒できる力を持っているから各自撃破でいいとの事。
 ゴーレムはプロレスで言うアームスレッジハンマーのように両拳を高く上げた。しかしその時既にスピットが眼に双剣の片振りを突き立てていた。何もする事ができないまま微動だにしなくなった。
「よっ」
 スピットが鉱石のない道の傍へ、ドンとゴーレムの胴を押して崩れさせた。
「ヒカル、こんな感じだ、簡単だろ?」
 岩に突き立った剣を手に取りながら言った。それに呼応する様にジラフが言う。
「行こうか。では後程な」
 その言葉でスピットは足早に奥へ行ってしまった。皆もそれぞれ散り散りになり、各地で戦闘が起こった。俺も二体撃破した、さっきスピットがやったように何もさせぬままに倒してみた。どうにも呆気ない、スピットが出発前にああ言ったのも無理はないと思った。だが、そんな事を言えるのは今の内だけだった。いずれ坑道内にゴーレムの蠢く音は聞こえなくなり、皆が少しづつ集結してきた。場所は少し開けた道の分岐地点。
「よし!おーわりっと!」
「元気だなぁメルは…俺はもうどっと疲れた気がする」
「帰りは上りだぞ、頑張れー」
他人事ひとごとか…弓引くのも結構体力使うんだぞ?」
 バトラは顔をしかめて壁にもたれた。メルはいつも通り表情は笑顔のままふよふよと楽しそうだ。ジラフも顔色を変えずに佇んでいるだけだ。そう言ってる俺も少ししか疲れていない。
「バトラ、大丈夫?」
「平気だよ、いつもよりはマシさ、少し休めばいつも通りだよ」
「そう」
 少し心配になったがそれも必要なかったようだ。考えれば妥当だ、彼らは今までこれ以上の奴らと戦ってきただろうから。気づけば音も無くターラが後方で佇んでいた。皆少し驚きはしたが、すぐにメルが近寄って話しかけた。これにて、戻って来ていないのはスピットだけになった。
「あいつ奥の方に行きすぎて迷ってんじゃないの?」
 バトラが物珍しいような、だが何処か心配しているように言った。確かにスピットは一番最初に一番遠くに行っていた。しかも、まだここは崩れる前の入り組んだ坑道、この分岐地点だって比較的広いからってだけで突発的に決めただけの場所だった。決めたその時スピットが遠くで返事をしていたが、地図もないため戻ってくるのは至難を極めるだろう。だが、杞憂にもスピットはトコトコと普通に戻って来た。
「なんだ、お前が一番遅いなんて珍しいな。道にでも迷うたか?」
 ジラフが問いかける。ニヤニヤしていて、いかにも彼をイジっている。
「馬鹿言え、俺は一度見た道は覚えられるんだから万に一つも迷わねぇって」
 そっかぁと愉快に、だが軽く残念そうなジラフとは裏腹に、スピットの目は笑う事は無かった。俺がそれを不思議に思った時、スピットが皆に切り出した。
「みんな、ついて来てくれ」
 異様に強い気迫を感じ、皆が黙り空気は一気に張り詰めた。そして、珍しくターラが口を利く。
「お前、何を見た」
「へっ、やっぱその目は何でも見通せるんだね。とりあえずついて来て、話はそれからだ」
 ターラがスピットの後を行き、首をクイっと曲げ、俺たちにも着いて来いと合図した。坑道の狭い道を下る、ここから先は一本道だった。この道には魔力を吸われ色を失った鉱石がいくつかあった。しかし、ある場所を境にそれきり鉱石は姿を見せなくなり、代わりに砂のようなものがあっただけだった。そして俺たちは異様な光景の前で足を止めることになった。
「なるほど…これは気をつけないといけなさそうだね」
 姿を消した鉱石達の奥、坑道には坑道らしからぬ大穴が斜め下へ伸びていた。大穴は坑道の二倍以上の直径があり、地面は凸凹していて、岩でも転がったような跡だった。
「ここを守るように二体も狭い通路に居たんだ。もちろん瞬殺だったけどさ、なんかおかしいと思って奥に来たらこれがあった」
「掘られたのもかなり最近だな。土魔法のコーティングも知らない形だし、モンスターの可能性が高いな」
 こう判断するのは理由がある。魔法と言うのはどんな形であろうと、その多くは伝承されて行く。新たに開発された魔法も迅速に広まる。故に人間の知らない魔法はモンスターの生み出した魔法と考える事が多い。俺らの魔法では元の見た目を崩す事はない、だがこの壁面には透いた鉱物が薄く貼られているように見えた、紛れもなくこれは人の知らない魔法だった。
 不可解な大穴を下って行く。岩の転げた跡が階段のようになっていて幾分か下りやすかった。しかし下って行くほど階段は無くなって行き、明かりも無いため暗くなり、また同時に穴の直径が大きくなっていった。そして、穴の奥が見えた時、その奥には広い空間がある事が分かった。
「どんな奴が掘ったのだろうな、この穴だ、かなり大きなモンスターかね?」
「分からん、そこの空間に居るだろうけど…想像ができねぇな」
 あと十数mほどでようやく穴をを抜ける。もう少し地面が見えているが、どうも殆どが鉱物で構成されているらしい。その岩盤のように広がる鉱石はとても暗い色で、しかし何かしらの光を反射し輝いていた。
「…みんな、聴こえる?」
 メルが移動をやめて言った。それに皆が振り向き立ち止まる。
「なんだよ、別に何も…」
 スピットが言葉を飲み込んだまま固まってしまった。彼を含め、そこで皆が耳にした。ガリッガリッと何かを砕くような音、それが一定の間隔でずっと響いている。
「行こう、さっさと済ませるぞ」
 前へと向き直るスピット、その時一瞬だけ顔を歪ませるのが見えた。苦悶の様な表情ではない、酷く心から楽しみに思うような狂喜の笑顔だった。皆が足早に大穴を下り穴を抜け、光をその身に浴びた時、その音の正体が判明した。
「なんだ…あいつ…」
 だだっ広い空間にドーム状の高い天井、穴から見える右側には巨大な鉱石と、それを裏から照らすマグマは鉱石によって青白い光を放つ。
「あれって…全部『砂漠の蒼星』の原石か?…」
「なぜ光が白い…は何をしている…」
 その異様な空間は皆を圧倒した、今まで見たことのない不思議極まりない光景だったからだ。だが、皆が息を凝らしている一番の原因はそこに居たモンスターだった。
「ゴーレム?…にしちゃデカすぎる」
「手に何か…」
 遠目でも分かる巨体、普通のゴーレムは高さ3m弱だった。しかし今見えるアイツはかなり屈んだ状態で2m強はあり、鉱石の前で何かをしている。砕く様な音はそこから聞こえてくる。
「…はぁ、新型か…勘弁してくれ…」
 バトラの口からボソッと溢れた。ここでこちらの存在に気づいたのか、ピタッとゴーレムは動きを止めた。グリっと首が回り顔をあらわにした。それに皆が怖じける。その顔は通常通りの一つ目だが、眼孔は丸い空洞では無く、左右に亀裂の如く裂けている。目の様な火も、もはや炎と言えるほど燃え盛っている。更に違うところと言えば、こいつには一文字の口があった。細かく鋭い牙が無数に並び、歯間からは青く煌めくものが見える。そのまま新型ゴーレムは立ち上がり、手に残った青い塵を払い、完全に俺たちの方を向いて姿勢を低くした。
「あっそう…やる気か!」
 スピットはにやけた、新しい強敵を目の前にして。だが俺を含めたその他は楽しむような余裕はなさそうだ、揃って眉間に皺を寄せ、ゴーレムをじっと見張っている。一触即発とはこの事か。
 そして戦いの火蓋は切られる。ドッと新型ゴーレムが駆けて来た。通常の倍の体躯で倍のスピード、重機の類に見えてくる。
「散れ」
 スピットが一言、それにより皆が武器を手に取りながら散開した。俺はそれを合図と知らずに留まり、構えたままの姿勢で置いてけぼりになった。
「え!ちょっと!?」
 気づいた時には皆は散り散りに、おまけに新型ゴーレムは拳を振りかざしていた。何とか既の所で避けれたが、ぶれた視界で捉えた俺のいた所にはヒビが入っている。少し目線を上に向けると、もう次の拳は振り下ろされている。ふと、ゴーレムの動きが止まった。その間に遠くへ下がった、そしてなぜ止まったのか理解した。
「そっか、合図教えとけばよかったね!」
 メルがゴーレムの背後を氷で覆っていた、徐々にゴーレムを侵食して行き、肩の関節はもうピクリとも動かない。足で移動しようとした所でそれも氷で覆われた。そこに二つの足音が駆けて行く、スピットとジラフだ。
「任せた」
「おうよ」
 一言で示しを合わせ、並列で走っていた所をスピットが先に出た。差は開きジラフは置いてけぼり、ゴーレムの注意はスピットに集まる。その時、ゴーレムを覆う氷に亀裂が走った。
「ごめん!もう無理!土相手じゃ効果薄い!」
 メルが叫んだ直後に氷の拘束は解かれた、飛散する氷の中心でゴーレムが拳を打ち下ろす。スピットはこれを危なげも無く躱し懐へ潜り込む、そして瞬く間に幾度も斬撃を繰り出した。スピットは刃をゴーレムのへ滑り込ませている。
 ゴーレムというのは岩を自身の魔力で繋ぎ体を形成している。だがその結合は基本弱く、そこへ何か外から干渉するものがあればあっさりと結合は解けてしまう。遠目で、さっきスピットが実践しているのを見ただけだが、通常の奴なら間に何かが一度通るだけで腕も胴もボトボト落ちてしまい何もできなくなる。
 だが今回の新型はどうだろうか、全く四肢が落ちる気配は無い。それも当然かもしれない。核である火は豪火のように勢いを増している、アイツが持つ魔力は通常とは比較にならない。よって結合も何倍も固く出来ているらしい。それを悟ってスピットが叫ぶ。
「結合が強い、俺のじゃ無理だ」
 ゴーレムの重拳を躱しスピットが下がる、同時に潜んでいたターラと入れ替わった。ターラは地に触れた拳を踏み台に低く跳び、ギラつく歪な刃を右肩の関節へ飛び込ませた。スピットの短い双剣で落とせなかった太い関節は、長い刀身とによって簡単に落とされた。
 空いたゴーレムの右半身からジラフが接近する、ゴーレムはターラを気にするよりジラフに目を向けている。ゴーレムは腰と胴の関節を稼働させ、左腕をジラフ目掛けて掻き払った。ジラフは避ける素振りを見せず駆け続けている。このままでは強固な左腕はジラフに当たる。しかし当たらなかった、何かが爆発音と共に左腕を弾いた。矢だ、だが刃はなく、先端に見えたのは荒い目の袋。
(火薬か)
 ゴーレムのまだ凍ったままの足を踏み切りジラフが飛び上がった。核に向かって槍を突き出し、深々とゴーレムの頭を抉った。火の粉が窪みから上がり、ぐらついた後に、新型ゴーレムはゆっくりと崩壊する。
 筈だった。突然ジラフが抉った頭から猛炎が巻き起こったのだ。皆顔から驚愕の色を示す中、ジラフは成す術なく豪炎に包まれた。炎の中から弾かれた様にボッとジラフが飛び出した、だが転倒せず、バランスを崩しながらも両足で深く構え直した。彼は思ったより外傷もなく無事でいた。
「どう思うかね?あの新型」
「おそらくゴーレムの進化形態だろうな。完全な体で火も扱える」
 落ちて来たジラフに俺は声を掛けた。
「ジラフ大丈夫か!?」
「問題ない、少々熱気にやられたが火そのものには焼かれちゃいない」
 ジラフは盾を持っていた、咄嗟に挟み込んでいたようだ。多少足元がふらつくだけでゴーレムは再び俺達を捕捉する。ゴロゴロと落ちた腕が地を這い体を這い元に戻る、いつの間にか足元の氷は溶けている。それを見ていた時メルが丁度合流した。
「あの子、体にも熱を発生させられるみたい、炎を出した時足元の氷も溶かされちゃった」
「すると…アイツは核が弱点なのに、その核は火で守れて弱点じゃない。あれ、コイツどうやって倒すの?」
 会って今まで顔が暗くなることは無かった、それは俺が見ていないだけかも知れない。だがそれを差し引いてもそんな事はほとんどなかった筈だ、彼らは初めて行き詰まったのだろうか。そんな中、唯一表情の分からないターラが前へ出た。
「作戦変更だ。頭では無く体を狙え。関節ではなく、胴体をな」
 詳しい事は後で言うと捨て台詞の様に言い残し、ゴーレムへと単騎で突撃して行った。つられて残された俺達も加勢した。あのゴーレムの体は刀も双剣も刃こぼれをしそうな程硬い。槍は先端が折れそうになり、矢は浅い窪みを作るだけ、氷の魔法は水の上位互換であるが故効きにくく、俺の魔法も未熟な為に期待できそうにない。それでも、それでもゴーレムの体は徐々に傷を帯びて来た。汗も滲み出て来た頃、ターラがストップをかけた。ゴーレムの体勢を崩した所で一度集合し、スピットはターラに問い質す。
「ターラ、これに何の意味があるって?」
「見てな」
 ターラはスピットの問いに答えずゴーレムをまじまじと見つめる。傷だらけになり、ぎこちなく軋むゴーレムは膝を突き、それから微動だにしなくなった。
「なんだ、何をするって…」
 ターラが人差し指でスピットの口を突いた。指を振ってみせ、ただ見てろと言った様だ。言われた通りに固唾を飲んで見ていると、ゴーレムがガタガタと激しく振動し始めた。振動したまま不自然に立ち上がり、同時に何やら体が蠢いている。
「うっそー…」
 傷はみるみるうちに塞がれていった、傷の奥から何かが湧いたと思ったらすぐに硬化して傷を治している。振動が収まりまたゴーレムは活動し始めた。だが、そのゴーレムに皆違和感を覚えた。
「なんか…小さくなった?」
 バトラがつぶやいた。しかもそれだけじゃない、核の炎も微々たる減衰を見せている。再び攻撃に転じたゴーレムを捌きつつ、ターラがこの作戦の訳を話した。
「ジラフが焼かれ離脱した直後、コイツの頭部付近の魔力の流れが変わり核の魔力は若干の減衰を見せた。ジラフの槍は奴の眼孔奥を傷つけ、それを治す為に魔力が消費された。そう踏んだからこそ体を直させ魔力を枯渇させる。そうすれば炎で守ることも出来ない。耐久戦にはなるが核を破壊できるだろう」
 今思い出したゴーレムの仕組み。吸収した魔力を火の魔力に変換し、それをまた土の魔力に変換して体を動かす。岩の体を動かす為に、あらゆる魔力から燃料を作っている訳だ。だからこそ核という元を断てば動けなくなる。
 この新型ゴーレムはそうやって作り出した燃料を流用し、体をも治してしまう。だったら体の修繕をさせておけばいつかは倒せるということになる。前から話には上がっていたターラの目。とてつもなく便利だと思うが、なぜその能力に目覚めたのかが少し気になる。ともあれ俺たちはその作戦を続けた。ゴーレムが三度体を治した所で変化があった。刃が通らなくなったのだ。
「おいおい…ここまで来て今度はなんだ?」
 バトラが皆に意見を聞く。
「青いな…ちょっと予想はつくけどさ」
「ああ、これ以上は無理かもな」
 ゴーレムの体は今、元の岩石の黄土色は薄くなり、青く煌めく色をしていた。ゴーレムはさっきまで宝石を喰っていた。それが取り込まれているなら、これはその宝石、『砂漠の蒼星』に他ならないだろう。
「じゃあ、もっかいやってみる?」
 メルがジラフにもう一度核に攻撃をしようと提案をした。新型ゴーレムの体躯は、通常個体よりも多少大きい位程まで小さくなっている。これならもう先程の力に任せた防御ができるほどの力は無いと判断した為だ。
「そうする」
 短く返答しジラフが駆け、皆がそれを補助した。迫る拳の軌道は矢によってずらされ、薙いだ手足は凍らされた。ジラフが頭にくる直前、腕から氷が伝播し目を覆った。筒から炎が出ている状態になり、核は逃げられず、槍で狙うには十分の穴が設けられた。
「オッケー!核は逃げられないよ!やっちゃえー!」
 ジラフは再び氷を踏み台にし、核へ槍を突き立てた。引き抜いても炎は出ず沈黙し、ゴーレムも動かない。氷が体の余熱で溶け、ゴーレムはズシンと大地に伏した。戦いは終わった。俺は初めて多人数での共同討伐成功を喜んだが、あまりこの戦いに貢献できたとは言えない気がした。そんな面持ちでゴーレムを見ると、まだその形を保っていた。通常なら核を破壊した後何か小さな衝撃でも崩れてしまうが、このゴーレムの結合はかなり強固の為、倒れた程度では離れなかった。
「ふぅ…やっと倒せたか。にしても、後一歩後ろだったら下敷きだったな」
 ゴーレムの前に着地していたジラフが足元のゴーレムを見ながら槍を背に納め、やっとの事で一息つく。
「ほんとだよ、もうくたくただっての」
 スピットが文句を言う。しかしこの時間があってこそ奴は弱体化し、倒せたのだ。スピットがいうのも分からなくは無いが必要な労力だった。
「ん、どうしたターラ?」
 皆武器を納め警戒も解く中、ターラだけは手に武器を持ったまま固まっていた。見つめる先はゴーレムか。
「…おい、嘘だと言ってくれ!」
 ジラフが叫び走り出し、同時に倒れたゴーレムの頭から火が吹き出す。頭は下を向いている為炎は地を這いジラフを追いかけた。ターラも瞬時にに駆け、ジラフとの入れ替わりに斬撃を放つ。斬撃は複雑な気流を生み、影を追う炎を掻き消した。それだけをしてターラは下がった。
「ねぇなんで!?確かに核は壊したんでしょ!?」
 メルが叫喚した、それにターラは答える。いつもと違い冷静さを欠いた声で。
「アイツ、魔力であればなんでも吸い取れるみたいだ…」
 皆がターラを戦慄したような目で見た、それを後目にターラは続ける。
「氷で眼孔を閉ざし動きを封じた。しかしその氷を吸い魔力へ変え、核の十分に逃げられる空間を作った。眼孔は広い、十分無傷で回避できるだろう。しかも体の氷も溶けてなどいない、ゆっくりと吸収されていったに過ぎん」
 ゴーレムはゆっくりと起き上がる。それを見ながらターラは不気味にほくそ笑み、誰にも聞こえぬ声で言った。俺の耳は辛うじてそれを拾った。
「そうだよなぁ、おかしいと思ったんだよ。魔力が増えるんだ。お前なら或いは…いや。お前にゃ…」
 皆再び武器を手に取るが、眼前の絶望を前にその場から動けずにいた。だが、俺はその時一つ案が浮んだ。交わされた言葉と、奴の性質。それらを何度も咀嚼すると、答えは簡単に出てきた。
「なぁ、俺に任せてもらっていい?」
 いきなりの提案に、振り返った顔も見上げた顔もキョトンとしていた。
「…何か算段があるのか?だったらやってみよう」
 藁にも縋る思いでジラフが応じる、それに賛同して皆が口を揃えて言った。
「「それに援護は必要かい?」」
 俺は頷きなるべく動きを止めてくれとだけ言い、ゴーレムへと歩み寄っていった。
「何をする気だろうな」
「…物理も魔法も効かないからな、常識外れな魔法を使って何をするか」
 十数歩前進しゴーレムの間合いへと踏み入った、ゴーレムは余裕を見せつけるかの様に見下ろす。
「さぁ、援護開始」
 初手、ゴーレムはストンプをする。バトラの矢がそれを弾き、俺は半歩程動いただけだ。ゴーレムは上体を捻り腕を振り回した。ゴーレムの関節は360°回せる、首も肩も胴も腰も、どの関節も際限が無い。二本の青い鉄柱は俺を何度も襲う。しかしこれでは縦への攻撃は出来ない、上へ飛ぶだけで簡単に避けられる。だがそれを見越してゴーレムは軸を傾け俺を追尾して来た。そこへターラが渦へ飛び込み、瞬く間にゴーレムの腕の結合を解除させ、二本の鉄柱はそれぞれ壁面に叩きつけられた。
「膝裏を突け!」
「オーケー!」
 俺の咄嗟の指示もジラフが実行した。腕を失ったゴーレムは簡単によろけて膝を突いた。この低姿勢、俺はこれを待っていたんだ。火を吹かれながらもそれを避け、俺は膝を踏み台にゴーレムの頭にしがみつきそのまま後頭部へ移った。ゴーレムは振り落とそうと暴れるが、凹凸のある岩故に安定させやすく、容易に固定できた。ゴーレムが起き上がり、俺を壁へ打ち付け攻撃しようとしても皆がそれを防いでくれる。ただ彼らの眉間には皺が寄っていた。一体何をしようとしているのかと思っているだろう。きっとこれを見たら目が飛び出すかもしれない。俺はゴーレムがまた壁へ頭を打ち付けようとする中、ゴーレムの燃え盛る炎へ手を突っ込んだ。同時にゴーレムが大口を開けて初めて大音声で叫んだ。
「あいつ正気か!?腕が焼け落ちるぞ!」
「いや、アイツは何とも無いさ。お前はそんな事も出来るのか」
 ゴーレムはあらゆる魔力を吸い取り、火の魔力へ変換する。もっと言えば魔力そのものを吸収する。それはさっきも目の前で何度も見たから分かっている。じゃあ俺も同じ事が出来ないだろうかと考えた。この世界の枠組みから外れた俺の魔法は、同じ属性なら吸い取ることが出来る。燃料として核の形をとっている火の魔力を奪えるのだ。ゴーレムの核は実体化していて、剣で切れるし素手でも触れる。今掴んでいるこいつの核も例外ではなく実体化している。そして核のみを荒ぶらせ逃れようとするが、ガッチリ掴んだ硬い手は逃す事などなかった。
 ゴーレムの体は核へ触れた瞬間から大きな動作をしなくなった。錆び付いて動きにくくなったブリキの木樵りのように精密さを失った。それでも俺への攻撃を止めようとせず、肩から生成しだした腕を少しずつ、ギリギリと震えながら伸ばしていった。皆は唖然として何もする気が起きずにいたみたいだった、この状態では助けは望めないだろう。
「これじゃ間に合わない。手伝ってくれ、『憐華れんか』!」
 これを皮切りに俺の右半身は炎に包まれた。だが感じる熱も無ければそれで俺が燃える事もない。これは俺の炎なのだから。
「今度は…」
「吸収速度が上がった。あの体の火はあいつのだぞ」
「はっ…吸収!?…そう言う事かよ」
 掴んだ核は徐々に小さくなっていった、少しずつ少しずつ。テニスボール程だった核は、ピンポン球より小さくなり、ウズラの卵より小さくなり、ビー玉より小さくなり。いつしか確かにあった感覚がふっと消えた。噴き出し続けていた火もついに途絶えて、二度と灯る事は無くなった。
 棒立ちになった抜け殻から飛び降り、足がジンとしたがそれもすぐに治まった。前を見ると、皆が俺を見つめていた。
「…流石に驚いた?こういう奴も勘弁してほしいよね」
 色々考えた末に出た苦し紛れの言葉だった、皆がこれを見て何を言うか少し怖かった。
「ふむ。どうやらゴーレムも手で来るとは思ってなかったようだな」
 初めに口を開いたのはジラフだった、ハッとしたようにやっとみんなが動き出した。
「はぁ、驚くわそりゃ。最初っからそうしていれば苦労しなくてよかったのに」
「無茶言うなって、あれ結構疲れるんだから」
 スピットは俺の肩に手をを置き大きくため息をついた。ふよふよとメルがゴーレムに近づき、身を屈めて小突いて言った。
「ねーターラ、この子どうする?」
「報告する、前情報なしで勝てる奴が何人いると思う」
 その隣でバトラは砕けたゴーレムの青い破片を摘んで呟いた。
「ふーむ…これって売れるかな…」
 各々が思い思いに話し出した、過ぎた事はあまり気にしない方向性なのだろうか。
「にしてもさー、俺らもヒカルのやり方に慣れないとダメだな。さっきみたいに動けなかったら場合によっちゃ一大事おおごとになるからな」
「そうだな」
「…さて、帰るか」
 俺達のテンションはいつしかクエストを始めた時と同じくらいになっていた。新しいモンスターに出くわし、俺のやり方に驚愕もした。それでも肝が据わっているのか動揺は無いように見えた。坑道を出るとバトラが皆に話しかけた。
「なぁ、腹減ったな。朝もまともなモン食わなかったしな」
「おい言うなって!気にすると腹が減ってくるだろ!」
 転移装置に乗る前の待ち時間で朝食と言えるか分からない食事を摂っていた。摂らないよりかはましにはなるだろうが、例え簡単なクエストであっても動いてしまえば腹が減るのも時間の問題だった。
「じゃあ帰ったら飯にしようか、時間的にも大体昼くらいだし」
 バトラの言葉に賛同しない者はなく、ましてや一気に場が盛り上がった。その後は食事の話で盛り上がり少々論争が起きた、と言っても居酒屋にするかレストランにするか、そして第三勢力のメルの料理の案。こうやって話すほどに腹が減っていく。ディザントに戻るまで皆が皆待ちきれない思いだった。
「ねーターラ、さっきから手に持ってるのは何?」
 メルが少し後ろに下がっていたターラに問いかけた。ターラは何も言わず手のひらを上に向けて開いてみせた。
「ああ、あのゴーレムの欠片ね…今日もみんなとご飯行かないの?」
 メルの寂しそうな問いかけにターラはうつ向き気味で首を縦に振る。
「私が勝手にやっている事だ。これを持っていけば業界の奴らも動いてくれるからな」
 二人の間にしばらくの沈黙があったが、メルが再び口を開いた。
「ねぇ、いつかさ、二人でご飯食べに行きたいなぁ。楽しく話し合いたいなぁ、なんて」
 それはメルの願いだった。海エルフであるメルは、陸上で一度も食物を口にしていない。並びにターラが何かを食べている所を、誰も見たことが無い。それは到底叶う事は無い願いだった。しかしターラはこう言った。
「ああ…いつかな…」
 二人の目の前で四人の男たちがワチャワチャとうるさい中、静かな空間がそこにあった。だが、ターラは密かに思案していた。
(私が見たは何だったのだろうか。火で成された子供…精霊の類だろうか…)
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