転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第十七話後譚 ラグル

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 受け取った地図はある区域を示していた。それは完全な住宅地、つまり研究所も店もないという事だ。弧を描くようにブロックごと区切られていてマニラウを思い出す。縦七、横十三に分けられたブロックの内、縦三横八にあたる場所であり、またそのブロックの左側で、焦茶の屋根と赤黒い壁が目印だと書いてある。
 ドアの前までやって来た、今更手に汗を感じている。ノックし、声をかけてみた。返事がないが、取手を少し引くとカチャっと扉が開いた。恐る恐る隙間から中を覗くと、薄暗い部屋が見え、壁紙はザラザラしたようなものが貼ってある。壁掛け式のも含めいくつか棚があり、ソファとテーブル、置かれた真白いカップ、その奥にはキッチンも見える。しかしまだこの部屋はどうでもよくて、気になるのは奥に見えるオレンジの明かりのついた部屋。他にも部屋はあるが扉が閉じている。あまり気が進まないが、俺は家に入る事にした。
「お邪魔しまーす」
 ゆっくりと扉を引き中へ入る。足元にはマットがあるだけで靴は脱がなくていい。やっぱりこの世界はアメリカなどの国と同じ様式であるようだ。床はカーペットが隅々まで広がっていた。主張の控えめな模様をしていて、長く使われているようで繊維は押し固まっていた。だんだんとオレンジの明かりに歩み寄っていく、それは不規則に揺らめいていた、蝋燭の明かりだろうか。
 そっと角から覗くと、男が座って本を読んでいた。彼がウノン・ジードのリーダー『ラグル・リーラ』だった。顔は深く被ったカウボーイハットの様な帽子で見えない、スリーブの無い服とジャケットを着ていて、あらわになっている腕は引き締まって、筋肉量は少ないがラインが出ていた。その横には丸テーブルがあり蝋燭が彼らを淡く照らし出していた。
 見ていると、ラグルは本に栞を挟み込み大きく伸びをした、それによってこちらの存在に気付いた様だった。微かに見える口元は微笑み、本を隣の丸テーブルに置いて立ち上がった。
「いらっしゃい、待ってたよ」
 そう言って彼は壁の一部に触れた。すると部屋の明かりが灯り、やっと良く見える様になった。ラグルはこちらに向き直り、帽子を押さえながら言った。
「もうこんな時間だったのか、いやぁ時の流れって意外と早いもんだね」
 帽子から覗く顔は中性的で、髪色は赤茶色。前髪は帽子の中にしまっていて、耳は尖っている。耳の形から紛れもなくエルフであると分かった。またエルフだからなのか、目には黒目のかわりにXの文字があった。そう言えば、どこかでこの人を見た気がする。
「俺はラグル、一応ディザントいちの英雄なんだ。君の名前は?」
「俺はひかる、それで、俺に何の用があるんだ?」
 俺が言うと、ラグルはおもむろに部屋の隅にある引き出しから一つの手紙を取り出した。それを開け何故か読み始めた。要約すると、手紙の主はラグルの師匠に当たる人物、初めは長く会えていないラグルに対しての言葉、もう一つは節介な彼女はまだかと言う文。次にあったのはもう一人の弟子の話、才に溢れそれをとてつもないスピードで叩き上げていると言った。自らは勇選会に行っておらず詳細は不明だが、その新しい弟子が勇者に選ばれたと言った。
 俺は手紙の差出人の正体を察した。要約する過程で口調も変えている。元の文は話す時と同じもので、それはもう聞き覚えしかない話し方だった。その弟子は今マニラウを出ようとしている。この手紙を受け取ったならそいつはもうディザントにいるだろうと。そして最後にラグルが述べた。
「そいじゃ、どうするかはお前次第だ。ヴィザー・エルコラド」
 俺はポカンと口が小さく空いたまま動かなくなった。ラグルは少し涙が出るほど笑った、つまるところ、ラグル・リーラと言う男はヴィザーの弟子。俺の兄弟子に当たる人物だと言う事だ。
「そう言うわけさ、固くならないでいいよ、普通に話し合おうよ」
 あのオッサンヴィザー、聞けば今現在47歳だと言う、そう言うラグルは36歳、人間で言えばまだ24か25歳くらいだ。ヴィザーが21歳の時、はぐれて森を彷徨っていたラグル当時10歳を拾ったのが全ての始まりだった。
「それでさ、今のあの人どうよ?」
 俺をもう一つ用意した椅子に座らせた後、ラグルが言った。
「なんか、特段変わったこともしないで放置って感じだったけど」
「んーやっぱりかー」
 ラグルは頭の後ろで手を組んで仰ぎ見た。それはどうも知っていたような口ぶりだった。
「やっぱりって?」
「昔っからあの人はそうやってたなって思っただけさ。最低限の戦闘技術や常識だけ教えて後は丸投げ、個人の努力や意欲に任せて、あくまでも補助のやり方なんだ」
 彼の言葉によって今まで何故放置のような体制をとっていたか合点がいった。資料や基礎だけを与えて後は個人に任せて成長させる、あの家に色んな図鑑や資料本があったのはそういうことだった。でも、それだとやり方に合う人はなかなか少ないとも思った。
「だから弟子になって必ず強くなることはない、そりゃ合わない奴の方が多いさ」
 ラグルは俺の顔を見て言った、考え込んでいたのが顔に出ていたのだろう。
「だから死んじまう奴もいたんだ」
 ラグルは続けた。椅子に肘を付き、手の甲は頬を突いている。しかし、目は何処を見ているのか分からない、遠くを見つめて悲しげな顔をうかべている。
「あの人はどうしても一人で育てたいらしい、だから他の英雄達とパーティを組ませる事は殆どない。だから世に出てから人間関係の所で縺れて、結果一人死んで行く。周りよりも秀でた才をあいつらは持ってたからな、本当にそれが残念だ」
 確かに以前、オッサンは弟子を亡くしていると言ってた。どんな人達なのか分からないけど、あの人が見込んだ人材だから才能は高かったのだろう。
「俺は最初の出会いだったから特に過保護でさ、ありがたいことに死ぬ事は無かったよ」
 ラグルは苦く微笑んで見せた。俺にとっても全くの無関係では無い、彼は全て見て来た分俺よりも心苦しいだろう。
「さぁ、暗い話はもう無しだ。今日は色々語り合おうぜ」
「そうだな」
 過ぎた事はどうにも出来ない。抱える事は良しにせよ、引きずってしまっては進めない。俺達はその日初めて会ったとは思えないほど心置きなく話し合った。いつのまにか月は沈みかけ、日は登ろうとしていた。
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