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第二七話後譚 闇の勢[1]
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黒く澱んだ空気の漂う、黒い炭の道を行き、これまた黒い樹々の奥に、またまた黒い塔がある。一帯に広がるこの瘴気は、万物を枯らしてしまう。体が小さければ小さいほど、動かなければ動かないほど早く枯れる。生きるにはいささか厳しすぎる土地である。しかし、そんな区域でも例外的に瘴気の無い場所がある。至極単純な答え、塔の中だ。
あらゆるモンスター達が蠢き、従属種達が暮らし、この私もここに住んでいる。便利な体故、飲まず食わずでも生きられる。しかし皆は違う、塔内部に畑や牧地を設けたのはそのためだ。養わなくてはならんのが、この塔で唯一面倒な所だ。
「そろそろ開けてはくれないかー!?私の愛する娘よー!」
「誰が開けるかってんだ!無理矢理入った所でいっつも返り討ちじゃねぇか!とっとと諦めやがれ!」
声をかけるも、返ってきたのは怒号だった。ほぼ毎日繰り返されるやりとりは、最早日課の類と成り果てた。この場所に連れて来てからはいつもこれだ、頑に私を拒絶する。
「はぁ、仕方がない」
私はびくともしない絢爛豪華な扉に手を置いた。そうして溢れるは漆黒の粒子、一つ一つが連なり水の如く扉の隙間へと入り込んで行く。やはり砂でバリケードを作っている。いつもそうだ、能力を奪った分バリエーションに華がない。ほぼ全ての砂が消し去ったのを確認し、私は両手で扉を開け放った。
「さぁさぁ、出てきてごらんなさい!」
そう言い切る前に、私の体は宙を舞い後退していた。顎に微かな痛みを感じた。一瞬だけ見えたのは黒く長く、光沢のある美しい御御足。しかし細くて華奢で折れてしまいそうだが、実際鋼の何倍もの強度を誇る物。見えたのはそれが三つの大きな爪を揃えて槍のように顎を襲った瞬間だった。早い話、顎を撃ち抜かれたのだ。
「全く、連れないお嬢様だ」
むくりと直ちに起き上がったが、重厚な扉は閉じられていた。いつも通りだ、いつも彼女に触れられない。
彼女は私の性根を利用していた、愛する者には傷を付けないと言う性根を。いつも触れる時は赤子に触るのと大差ない動作で行う。そんな動きが緩んだ一瞬を突いてこうやって追い返される。
「む、時間か…今日は立て込んだからなぁ…。フォリア!食事だ!時間までに来いよ!」
扉に向かって叫んだ。扉の向こうではうんともすんとも言わないが、私は一足先に食堂へと向かった。
食堂には大きな長方形のテーブルがあり、一枚のテーブル掛けが素朴感を薄れさせていた。そこでは食器が宙を舞い、長身の半人半獣がそれを操り既定の位置へと並べていた。彼は翼と髪をゆらゆらと靡靡かせ、風を操りそれらを並べている。
「ふむ、やはりトレアーゴの所作は美しいな」
不意にピタリと食器が止まり、彼が私に気付いた事を教えた。すると食器らはスルスルと回転しだし、それぞれが綺麗に配置されていく。
「魔王様、今日は早いですね」
真っ赤な目尻を持つ鋭い目が向けられる。しかし声は低くも優しかった。彼らは『トレアーゴ』、個体名は知らない。この係が頻繁に変わる故に、いちいち覚えていられないからだ。背から腕全体、腰から下が全て鳥の特徴を持つ。先に言った鋭い目つきと、尖った鼻先が彼らの種族の特色だ。
「なに、塔の管理も楽じゃ無くてな、愛妻にも少ししか会えなかった」
「全く、よく飽きないですね」
「今はどうやって親睦を深めるか検討中だ」
私は配下に慕われている。それは自他共に認める事。その理由の一つはこうやって立場に関係無くコミュニケーションを取るからだと思っている。その証拠に、この者と話すのは確か数ヶ月ぶり、僅かに五回目だと言うがそれなりの信頼を得ている。だから信じられないのだ、彼女に好かれないことが。
「おやおや、珍しいですな」
話していれば、豪勢な料理を運ぶ者が来た。機械仕掛けの体に、流水の四本の腕が、重いだろう四つの配膳台を押して来る。テーブルの近くに止まると、流水の腕はそれぞれが大皿を運び、テーブルの上に並べていった。
「なに、偶々だ」
「…顎に小さな打撲がありますな」
「これか?気にする物でも無いさ」
顎の事を気に掛けられながらも、仕事は完璧に熟していた。
彼らの種族名は『マヴォーキヴ』、この個体名は『トンクード』。鋼鉄で作られた頭と体は老人の様に曲がっているが分厚く安定感がある。腕は水で構成されて、脚は鉄とゴム質のスポンジで成されている。彼らの本体はコアであり、記憶も魔力もそこが根源。機械の体は入れ物で、その構造は未知なところがまだ多い。しかし彼らの本質はその腕と頭脳にある。それらを駆使して複数の仕事を同時に熟せる、それが一番の取り柄であり、私が買った彼らの能力だった。またトンクードは族長を務め、従属種の証である黒い紋様が頭部にある。
「それでは、私はこれで」
配置をし終えるとそのまま背を向けてワゴンを押して帰った。少し不満そうに見えるのは、彼の研究を中断してまで料理の担当に勤しんでもらっているからだ。だが、ここ二十年文句を垂れた事はないし、それが理由で裏切る事もないと確信している。私達は相利共生を築いている故、そんな心配はしていない。
鉄板の背中が完全に見えなくなってしばらく、続々と食堂へ人が集まってくる。トレアーゴ数名、『ディースプリーヴァ』が十数名、そして唯一来ていない『エスタゴイル』の『フォリア』。時計は既に夕食の時刻を指し示し終えており、皆は思うがままに食事を楽しんでいた。
私も鳥の丸焼きに食らいつきながら時計を見た。いつも少し目を逸らせば見える位置にあるから何度でも見てしまう。我ながら簡素だなぁと思いながら、次なる料理を口に運ぶ。その時計は、起床、朝食、昼食、夕食の四つの時間しか指し示さない。もっと目盛りを細かく出来るが、それでは心にゆとりが無くなると思いわざと設けなかった。
「なんだ?やけに茶色の料理が多いな」
「ああ、ドクロ君が今日は美味いものだけを食べさせようって言ったました。確かに美味いですよね、胡椒が結構効いてるけど」
私は珍しがった。何せいつもは鮮やかなサラダやスープが並ぶのに、今回に限って油の多い肉料理が並ぶのだから。いや、それよりも気になる事がある。それは胡椒の事だ。一体どうやってここへ運んで来たのか小一時間問い詰めたい。胡椒なんて超高級品はここでは育てていない筈だからだ。
因みにドクロ君とはトンクードの愛称だ。今トレアーゴの中で流行っている呼び名で、頭が単眼の髑髏だからそう呼ばれている。またマヴォーキヴの中でも、皆によく顔を出すのが彼故に彼だけの愛称になっている。
「あれ、肉ばっか…どうしたんだ…ドクロ君」
暗い通路から一人やってきた。彼女は一つだけの空席に座ると私を軽く睨みつけた。
「おお!来たかフォリア!もう半分無くなってしまったぞ!」
そう投げかけて返ってくる冷ややかな目さえも愛おしい。
『エスタゴイル』。男女共に頭が小さく胴も細く短い。しかし四肢は相応に細くも極端に長く、男性はそれが更に極端になる。フォリアはそれに加えて、乱雑に伸ばすも艶やかな銀髪を持ち、天を刺す太い角を顳顬から生やす。柔く折れない小さな翼は片翼しか完全ではなく、右翼は根元で折れている。何も身につけていない小さな体は幼くも妖艶に見え、露わな秘所を見られても気にする素振りを全く見せない。ダラんと垂れ下がった尾には刃があり、しかしただの飾りでもある。
「ねぇ、どんな味?」
彼女は近くで肉を食べるトレアーゴの一人に尋ねた。その者は何食わぬ顔でちょっと辛いけど美味いぞ?と言った。まず彼女の裸体を見ても何とも思わんのが凄いと思うが、同時に『鶏肉』を食ってどうとも思わんのがおかしいと思った。以前聞きはしたが、大型の鳥が小型の鳥を喰うのと同等の認識だと言う事が分かっただけだった。それこそ我ら人間と似通った思想だった。
「ん、美味い」
フォリアは身を乗り出して丸焼きの一部を掴んで剥ぎ取り、そのまま口に放り込んでいた。マナーと言う物を教える暇を作らんとと長年思い続けて来たが、これはむしろアリなのでは?と、最近思い始めて来た。
こう見るとフォリアは私だけには懐かず、周りの配下には悉く心を許している様に見える。一体どこで差がついたのか見当も付かないが…私の表情が原因か、はたまた目線が原因か、考えるだけで時間が溶けて行く。
「魔王様ァ!大変な事態になりましたぞ!」
いきなり波に乗ってやって来たトンクードに体がビクついた。
「な、何だ!いきなり!」
そして彼は、落ち着くなりこう告げた。
「カシオのマーヴェンタからの通達です。支配種が…アゴーボラが討伐されたと!」
私は私の耳を疑った。『支配種』私の計画を補助する特別なモンスター。人並みの自我を持ち、私が闇の力を分け与えた世界でも最上位の存在。それが殺されたとの報告だった。
「それは確かか…」
細々と、はいとの返事があった。私は食事を切り上げ、生活区から城塞区へと身を移した。私の自室はそこにあり、情報源もそこにある。
「手伝え、何者がやったか探るのだ」
トンクードは無言で情報網を解析した。それらしい人物を見つけ出すのにそう時間は掛からなかった。
「此奴らか…しかし微妙に古いものばかりだな」
思えばあれから既に二十年経つ、勇選会はもう済んだか。
「恐らくはこの五名だろう、コイツらが抜きん出ている。」
それぞれ名を、スピット、バトラ、メル、ゼーソル、ターラと言う。ターラのみ若干能力値が低いが、古いデータではそんな事はあてに出来ない。しかし、トンクードの聞いた情報では、勇者は全部で六名だと言う。
「ああぁ…面倒だ。こんな膨大な中からもう一人を探し当てろだ!?糞食らえ!」
「魔王様、口が悪いですよ。しょうがないじゃありませんか、これしか外部の情報を覗ける物は無いのです。根気強く探して行きましょうぞ」
トンクードの頭脳と見解、視点を使えばそれも可能かもしれないが、それでも一つ一つを見ていかなければならない。このデータバンクに登録された英雄の中から探し出すには途方も無い時間がかかる、ともかく最初は一等英雄の中からと決定した。
「…にしてもなぁ…。『ロヴェル』か…珍しい事もあるもんだ」
あらゆるモンスター達が蠢き、従属種達が暮らし、この私もここに住んでいる。便利な体故、飲まず食わずでも生きられる。しかし皆は違う、塔内部に畑や牧地を設けたのはそのためだ。養わなくてはならんのが、この塔で唯一面倒な所だ。
「そろそろ開けてはくれないかー!?私の愛する娘よー!」
「誰が開けるかってんだ!無理矢理入った所でいっつも返り討ちじゃねぇか!とっとと諦めやがれ!」
声をかけるも、返ってきたのは怒号だった。ほぼ毎日繰り返されるやりとりは、最早日課の類と成り果てた。この場所に連れて来てからはいつもこれだ、頑に私を拒絶する。
「はぁ、仕方がない」
私はびくともしない絢爛豪華な扉に手を置いた。そうして溢れるは漆黒の粒子、一つ一つが連なり水の如く扉の隙間へと入り込んで行く。やはり砂でバリケードを作っている。いつもそうだ、能力を奪った分バリエーションに華がない。ほぼ全ての砂が消し去ったのを確認し、私は両手で扉を開け放った。
「さぁさぁ、出てきてごらんなさい!」
そう言い切る前に、私の体は宙を舞い後退していた。顎に微かな痛みを感じた。一瞬だけ見えたのは黒く長く、光沢のある美しい御御足。しかし細くて華奢で折れてしまいそうだが、実際鋼の何倍もの強度を誇る物。見えたのはそれが三つの大きな爪を揃えて槍のように顎を襲った瞬間だった。早い話、顎を撃ち抜かれたのだ。
「全く、連れないお嬢様だ」
むくりと直ちに起き上がったが、重厚な扉は閉じられていた。いつも通りだ、いつも彼女に触れられない。
彼女は私の性根を利用していた、愛する者には傷を付けないと言う性根を。いつも触れる時は赤子に触るのと大差ない動作で行う。そんな動きが緩んだ一瞬を突いてこうやって追い返される。
「む、時間か…今日は立て込んだからなぁ…。フォリア!食事だ!時間までに来いよ!」
扉に向かって叫んだ。扉の向こうではうんともすんとも言わないが、私は一足先に食堂へと向かった。
食堂には大きな長方形のテーブルがあり、一枚のテーブル掛けが素朴感を薄れさせていた。そこでは食器が宙を舞い、長身の半人半獣がそれを操り既定の位置へと並べていた。彼は翼と髪をゆらゆらと靡靡かせ、風を操りそれらを並べている。
「ふむ、やはりトレアーゴの所作は美しいな」
不意にピタリと食器が止まり、彼が私に気付いた事を教えた。すると食器らはスルスルと回転しだし、それぞれが綺麗に配置されていく。
「魔王様、今日は早いですね」
真っ赤な目尻を持つ鋭い目が向けられる。しかし声は低くも優しかった。彼らは『トレアーゴ』、個体名は知らない。この係が頻繁に変わる故に、いちいち覚えていられないからだ。背から腕全体、腰から下が全て鳥の特徴を持つ。先に言った鋭い目つきと、尖った鼻先が彼らの種族の特色だ。
「なに、塔の管理も楽じゃ無くてな、愛妻にも少ししか会えなかった」
「全く、よく飽きないですね」
「今はどうやって親睦を深めるか検討中だ」
私は配下に慕われている。それは自他共に認める事。その理由の一つはこうやって立場に関係無くコミュニケーションを取るからだと思っている。その証拠に、この者と話すのは確か数ヶ月ぶり、僅かに五回目だと言うがそれなりの信頼を得ている。だから信じられないのだ、彼女に好かれないことが。
「おやおや、珍しいですな」
話していれば、豪勢な料理を運ぶ者が来た。機械仕掛けの体に、流水の四本の腕が、重いだろう四つの配膳台を押して来る。テーブルの近くに止まると、流水の腕はそれぞれが大皿を運び、テーブルの上に並べていった。
「なに、偶々だ」
「…顎に小さな打撲がありますな」
「これか?気にする物でも無いさ」
顎の事を気に掛けられながらも、仕事は完璧に熟していた。
彼らの種族名は『マヴォーキヴ』、この個体名は『トンクード』。鋼鉄で作られた頭と体は老人の様に曲がっているが分厚く安定感がある。腕は水で構成されて、脚は鉄とゴム質のスポンジで成されている。彼らの本体はコアであり、記憶も魔力もそこが根源。機械の体は入れ物で、その構造は未知なところがまだ多い。しかし彼らの本質はその腕と頭脳にある。それらを駆使して複数の仕事を同時に熟せる、それが一番の取り柄であり、私が買った彼らの能力だった。またトンクードは族長を務め、従属種の証である黒い紋様が頭部にある。
「それでは、私はこれで」
配置をし終えるとそのまま背を向けてワゴンを押して帰った。少し不満そうに見えるのは、彼の研究を中断してまで料理の担当に勤しんでもらっているからだ。だが、ここ二十年文句を垂れた事はないし、それが理由で裏切る事もないと確信している。私達は相利共生を築いている故、そんな心配はしていない。
鉄板の背中が完全に見えなくなってしばらく、続々と食堂へ人が集まってくる。トレアーゴ数名、『ディースプリーヴァ』が十数名、そして唯一来ていない『エスタゴイル』の『フォリア』。時計は既に夕食の時刻を指し示し終えており、皆は思うがままに食事を楽しんでいた。
私も鳥の丸焼きに食らいつきながら時計を見た。いつも少し目を逸らせば見える位置にあるから何度でも見てしまう。我ながら簡素だなぁと思いながら、次なる料理を口に運ぶ。その時計は、起床、朝食、昼食、夕食の四つの時間しか指し示さない。もっと目盛りを細かく出来るが、それでは心にゆとりが無くなると思いわざと設けなかった。
「なんだ?やけに茶色の料理が多いな」
「ああ、ドクロ君が今日は美味いものだけを食べさせようって言ったました。確かに美味いですよね、胡椒が結構効いてるけど」
私は珍しがった。何せいつもは鮮やかなサラダやスープが並ぶのに、今回に限って油の多い肉料理が並ぶのだから。いや、それよりも気になる事がある。それは胡椒の事だ。一体どうやってここへ運んで来たのか小一時間問い詰めたい。胡椒なんて超高級品はここでは育てていない筈だからだ。
因みにドクロ君とはトンクードの愛称だ。今トレアーゴの中で流行っている呼び名で、頭が単眼の髑髏だからそう呼ばれている。またマヴォーキヴの中でも、皆によく顔を出すのが彼故に彼だけの愛称になっている。
「あれ、肉ばっか…どうしたんだ…ドクロ君」
暗い通路から一人やってきた。彼女は一つだけの空席に座ると私を軽く睨みつけた。
「おお!来たかフォリア!もう半分無くなってしまったぞ!」
そう投げかけて返ってくる冷ややかな目さえも愛おしい。
『エスタゴイル』。男女共に頭が小さく胴も細く短い。しかし四肢は相応に細くも極端に長く、男性はそれが更に極端になる。フォリアはそれに加えて、乱雑に伸ばすも艶やかな銀髪を持ち、天を刺す太い角を顳顬から生やす。柔く折れない小さな翼は片翼しか完全ではなく、右翼は根元で折れている。何も身につけていない小さな体は幼くも妖艶に見え、露わな秘所を見られても気にする素振りを全く見せない。ダラんと垂れ下がった尾には刃があり、しかしただの飾りでもある。
「ねぇ、どんな味?」
彼女は近くで肉を食べるトレアーゴの一人に尋ねた。その者は何食わぬ顔でちょっと辛いけど美味いぞ?と言った。まず彼女の裸体を見ても何とも思わんのが凄いと思うが、同時に『鶏肉』を食ってどうとも思わんのがおかしいと思った。以前聞きはしたが、大型の鳥が小型の鳥を喰うのと同等の認識だと言う事が分かっただけだった。それこそ我ら人間と似通った思想だった。
「ん、美味い」
フォリアは身を乗り出して丸焼きの一部を掴んで剥ぎ取り、そのまま口に放り込んでいた。マナーと言う物を教える暇を作らんとと長年思い続けて来たが、これはむしろアリなのでは?と、最近思い始めて来た。
こう見るとフォリアは私だけには懐かず、周りの配下には悉く心を許している様に見える。一体どこで差がついたのか見当も付かないが…私の表情が原因か、はたまた目線が原因か、考えるだけで時間が溶けて行く。
「魔王様ァ!大変な事態になりましたぞ!」
いきなり波に乗ってやって来たトンクードに体がビクついた。
「な、何だ!いきなり!」
そして彼は、落ち着くなりこう告げた。
「カシオのマーヴェンタからの通達です。支配種が…アゴーボラが討伐されたと!」
私は私の耳を疑った。『支配種』私の計画を補助する特別なモンスター。人並みの自我を持ち、私が闇の力を分け与えた世界でも最上位の存在。それが殺されたとの報告だった。
「それは確かか…」
細々と、はいとの返事があった。私は食事を切り上げ、生活区から城塞区へと身を移した。私の自室はそこにあり、情報源もそこにある。
「手伝え、何者がやったか探るのだ」
トンクードは無言で情報網を解析した。それらしい人物を見つけ出すのにそう時間は掛からなかった。
「此奴らか…しかし微妙に古いものばかりだな」
思えばあれから既に二十年経つ、勇選会はもう済んだか。
「恐らくはこの五名だろう、コイツらが抜きん出ている。」
それぞれ名を、スピット、バトラ、メル、ゼーソル、ターラと言う。ターラのみ若干能力値が低いが、古いデータではそんな事はあてに出来ない。しかし、トンクードの聞いた情報では、勇者は全部で六名だと言う。
「ああぁ…面倒だ。こんな膨大な中からもう一人を探し当てろだ!?糞食らえ!」
「魔王様、口が悪いですよ。しょうがないじゃありませんか、これしか外部の情報を覗ける物は無いのです。根気強く探して行きましょうぞ」
トンクードの頭脳と見解、視点を使えばそれも可能かもしれないが、それでも一つ一つを見ていかなければならない。このデータバンクに登録された英雄の中から探し出すには途方も無い時間がかかる、ともかく最初は一等英雄の中からと決定した。
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