現実では平凡なギルド勤めの召喚師は電脳空間世界で奮闘中

MA九蛇

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序章 羽原カイ、又の名をクシャナフ

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 日差しが顔に当たった。それを感じて、深い所にあった意識が段々と表層に上がり始める。そこから覚醒するまでに、さほど時間は掛からなかった。
 「げっ!」
 そう叫び布団からがばっと起き上がる。そのせいでホコリが舞い上がり、生来からのハウスダストアレルギーでくしゃみを連発してしまった。
 既に寝ぼけ眼ではない。時計を見ると、午前10時を回っていた。
 「あわわわわわ・・・。」
 急いで布団から出ると、コンビニで買ったおにぎり(紅鮭)を外装を破って取り出す。そしておにぎりを口に放り込み、噛みながら服を急いで着替える。
 おにぎりを1個飲み込み終わるのと、着替え終わるのが同時だった。財布を取り、スマホを取ってバッグに入れる。
 「急がねえと・・・。」
 最後に、紐の通ったカードケースを首から下げる。カードには『メノテキネ』という文字が書いてある。
 「もう仕事始まってるぞ、こりゃ・・・。」
 ドアを開け、鍵を閉めるとアパートから出る。
 羽原カイ、19歳。職業、ゲーマー。
 出勤時間を大幅に遅れていた。



 遥か昔、太古の時代。その大陸は1つの科学文明が支配していた。だが、ある時その科学文明は大きな厄災に見舞われる。その厄災は、科学文明を消滅させるほどの物だった。
 厄災が去り、生き残った人々は意見や考えの違いにより分裂。その大陸には幾つかの国が出現した。
 そして現在。それぞれの国々は軍隊と、それより自由度の高いギルドを設立。来たる大戦に備え、着々と準備を進めていた・・・。



 「羽原カイ!まーた遅刻か!」
 「しゅ、主任!すみません。朝早起きすんのがどーも苦手で・・・。」
 そこはメノテキネセンター。メノテキネのプレイヤーが電脳空間世界に移動するための機械がある場所だ。ここでなければメノテキネはプレイできない。
 「むぅ、まあ仕方無い。さあ、早く。今から仕事だろう?」
 「はい、そうです。ありがとうございます!」
 彼は他のプレイヤー達とは違い、メノテキネでの戦闘や探索等で得た情報をメノテキネを造った会社に売る、というサーチャーと呼ばれる職業をしている人間の一人だった。
 どういうことかと言うと、そもそもメノテキネを造った会社は1からメノテキネを造り上げた訳では無かった。彼らは、何処からか入手してきたデータ(メノテキネの世界の情報が全て詰まったデータだ)をVR装置によってゲームとしてプレイできるようにしただけだ。
 そのため、彼らもメノテキネがどのような世界観で、どのような生物が存在するのかさえ知らなかったのだ。
 それらの情報を調べ、会社に販売し会社の今後のメノテキネのメンテナンスや企画に役立てるのが、羽原カイのようなサーチャーの仕事なのだ。
 また、RPG要素の強いこのゲームのストーリーを調べるのも彼らの仕事だった。
 羽原カイは開発主任と別れると、通常のプレイヤーとは違うサーチャー専用の入口からメノテキネにワープする為の機械が大量に設置された部屋に入って行った。



 バッグを機械の隣にあるカゴに入れ、首に下げたカードケースからカードを取り出す。カードケースもカゴに入れる。
 そして機械の前に立つ。
 機械をストレス無く使用するために設置された椅子に座る。良い座り心地だ。
 頭に無数のチューブで椅子の背もたれの後ろにある機械本体に繋がったリングを填める。
 このリングが神経に伝わる微弱な脳波さえも感知し、機械に伝える。それによって、電脳空間世界の中でもリアルに動き回る事ができるのだ。カードを椅子の腕かけ部分に差し込む。それと同時に、機械の周囲に外部から干渉されないようにドームが形成される。
 すっかり慣れた高揚感に包まれる。何度この動作をしてもきっとこの期待感が消え去ることは無いのだろう。
 周囲が静かに暗転していった。



 タルアンス帝国の帝都ノルン。
 その帝都の中心に位置する城と、その周辺を囲むように幅が2キロもある広大な城下町。
 その城下町の一角を占拠している軍隊関連の施設の片隅に、ギルドの建物はあった。
 そしてその中に羽原カイ━クシャナフはいた。
 これは彼、羽原カイことクシャナフの物語である。
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