現実では平凡なギルド勤めの召喚師は電脳空間世界で奮闘中

MA九蛇

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壱章 蜘蛛狩り

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 メノテキネの中にある国の内の1つ、タルアンス帝国。
 その帝都であるノルンの城下町に豪華な割に立地が立地だけにひっそりと建つ帝国ギルド本部。
 そこのお抱えの召喚師であるクシャナフ━羽原カイは、目ぼしい依頼をリストから探していた。
 ギルドには様々な職業の人間が所属している。だが、彼らが何の職業であれギルドのメンバーには1つ義務として行わなければならない仕事がある。
 それは『モンスター、危険人物の討伐』である。前者の場合は街や村に接近してきた時や個体数が増えすぎた時、後者は何処かで確認された時に依頼が舞い込むのだ。
 だが、リストを見ても特に良い情報になりそうな依頼は無かった。
 危険人物の討伐依頼は無く、モンスターの討伐依頼もドラゴン型はゼロでせいぜい糸蜘蛛セトルマやオオトカゲの討伐依頼ばかりだ。
 溜め息をつきつつもクシャナフは受ける依頼を決めた。受ける依頼の書いてある紙をリストから破る。そしてその紙を依頼ボードにピンで貼る。これで依頼を受注した事になる。
 「さて、と・・・」
 今クシャナフが身に付けているのは全体的に布地の衣服のような印象を受ける防具だ。
 黒地でところどころ濃い赤色が使われている。頭はフードで覆われている。見た目に反して防御力はかなり高い。
 武器は、アサシンナイフと呼ばれる毒を分泌する皮で金属の刀身を覆った武器だ。それを二刀流で使っている。強力な毒でワイバーン相手にも即座に毒を喰らわせる事が可能な一方、強すぎる毒で刀身はすぐにダメになってしまうので1ヶ月毎に刀身は新しい物に交換しなければならない。
 武器も防具もかなりの力量の持ち主でなければ所持できないレアな物だ。
 それだけで無く、クシャナフは支援魔法が一切使えないが幅広い攻撃魔法が使用でき、召喚の腕もワイバーンを同時に5体召喚できるほどだ。
 だからこそ、クシャナフは帝国ギルドのお抱えになったのだった。



 古代遺跡の1つ、マテアの遺跡。現在では生成不可能な金属でできた建物が並び、周囲をマテア密林に囲まれた遺跡。
 神殿のような建物の頂上にはワイバーンより強力なドラゴン、フライングリザードの住み処となっているが繁殖期ではない今はフライングリザードはいないようである。
 ここには、マテア密林から時に危険度4以上の危険モンスター(人間を一撃で殺せる力を保有する全長3メートル以上の生物)が迷い混む事がある。
 今回の標的、セトルマもそのパターンのようだった。
 クシャナフは川を下ってそこに到着し、舟を降りてしっかり紐で太い木の棒にくくりつけた。その作業を終えると、クシャナフは密林の外縁部にある申し訳程度の小屋を出て、マテアの遺跡へ歩き始めた。
 そこを出ると、いきなり目に飛び込んできたのは建物と建物の間に張り巡らされた糸だ。
 「近い。何処にいる?」
 アサシンナイフを両手に1本ずつ持ち、構える。
 周囲に目を光らせる。不意に糸が張り巡らされて見えない前方から殺気が迸るのを感じた。
 どうやら、向こうはとうにこちらに気付いていたようだ。
 糸で出来た巣を自在に登ってきて現れたのはセトルマだ。本来は一対の小さな尖った顎がある場所からは代わりにもう一対の手が生えている。顎が巨大化して出来たのだ。本当は8本しかない脚は10本あるように見える。後ろの6本は移動用にのみ用いる。前の2本は鋭い鎌のような見た目の通り、攻撃用だ。顎が巨大化して出来た2本は、腹部と同じように糸を発射できるようになっている。腹部の糸は巣を作る為、顎の糸は敵を拘束するために用いるのだ。
 「キシャァァァ!!!」
 セトルマは手と顎を振り上げてクシャナフを威嚇する。だが、クシャナフにとってはむしろ相手は戦い慣れた獲物でしか無い。
 その程度で動じることは断じて無い。
 クシャナフは魔法で火球を幾つも発生させ、セトルマに向けて発射した。
 セトルマが怯み、糸が燃える。セトルマは慌てたように糸から離れ建物に向かう。既にクシャナフのペースだ。
 尤も、魔法が使えない人間はこの頃には既に拘束されているだろう。そうなれば後は死を待つのみだ。
 だが、クシャナフはかなりの力量を持ち、帝国ギルドでは18歳という年齢でありながら期待をかけられている人物だった。そう簡単に死ぬような人間では無い。
 武器を納めると、クシャナフは何やらカードを取り出した。
 そのカードを地面に置くと、そこからワイバーン、カレスが召喚された。
 細身ながら、ほぼ全身を甲殻に覆われたその体は破格の堅さを誇り、その巨大な翼はワイバーン随一の飛行能力を生み出す。
 氷塊を食し、その氷を喉元の特殊な器官に貯め、膨大な肺活量を駆使し氷レーザーを発射する。
 ワイバーンでは敵無し、とさえ言われる。
 最も有名なドラゴンだ。
 このカレスはクシャナフが幼竜の頃から育てており、信頼関係の築かれた相手なのだ。名前はフェネクス。
 フェネクスはセトルマを敵と認識するや否や、氷レーザーをセトルマに発射した。その一撃で建物の上に逃れていたセトルマの顎が両方吹き飛ぶ。
 「ギシャッ!?」
 困惑するセトルマへとフェネクスが飛び立つ。カレスの全長は8メートル。その中でも巨大なフェネクスは9メートルだ。全長3メートルのセトルマの、実に3倍だ。
 踏みつけてあっと言う間にセトルマの動きを封じると、セトルマが反撃しようと振り上げた右腕をフェネクスは噛み砕いた。セトルマを下敷きにしたままその手を食う。
 食べ終わると、セトルマにトドメとばかり氷レーザーを発射しようとしたフェネクスを制止する。
 「待った!後は俺がやる。こいつは食わせてやるから、フェネクスは下がってくれ!」
 「ガルッ!」
 分かった、とばかりフェネクスは一鳴き上げると、そこを離れた。
 クシャナフはダッシュし、起き上がり始めたセトルマに一気に近付く。
 魔法で自分に衝撃波を当て建物の上まで跳躍すると、ようやく立ち上がったセトルマを二振りのアサシンナイフで切り刻む。斬撃によるダメージと瞬時に回った毒で、セトルマはくずおれた。
 「よし、食べて良いぞ、フェネクス!」
 その声を聞き、フェネクスはセトルマを食べ進む。体内で解毒できるカレスであるフェネクスは、毒は薬味とばかりにセトルマをガツガツ食べる。
 それを微笑みながら見ていたクシャナフは、微かな殺気を感じ、素早く振り向いた。
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