3 / 3
弍章 謎の敵
しおりを挟む
フェネクスがセトルマを食べ進めている光景を見つつ、クシャナフは誰かに見られているような違和感を感じた。
直後、微かだが鋭い殺気を感じ、素早く叫ぶ。
「敵だ、フェネクス!離れろ!」
その声を聞き、反射的にフェネクスはバックジャンプしつつ空に舞い上がった。
その僅かな一拍を置き、先程までフェネクスがいた場所に槍が飛んできた。
その黒塗りの槍は壊せないはずの遺跡の金属を容易く貫通し、地面に突き刺さる。
「貫通しただと!?」
困惑するクシャナフの前で、槍に雷が落ちる。隣にあったセトルマの死骸が一瞬で黒く焦げる。空に雲は無い。魔法か、と思ったもののマナの動きは感じられない。
これでは素早くても的の大きいフェネクスは格好の餌食だ。
「フェネクス!一旦戻す!」
そう言い、クシャナフはカードをケースに戻した。すると、フェネクスが元々いた場所に戻される。
「さて・・・」
クシャナフはアサシンナイフを抜き、振り返る。そこにいたのは黒い服の上から黒いドラゴンの甲殻を被せた防具を身に付けた女性だった。左手には盾を装備している。敵なのは間違いない。
女性は手の甲に取り付けた機械からチェーンを発射した。それは遠くの建物から一瞬にしてこちらまで届き、槍を絡め取って戻っていく。
クシャナフは今いる建物を降りる。女性は自分の建物の真下に見え見えの雷の罠を設置した。あんな見え見えの罠でこちらの動きを止めようとでも言うのだろうか。
(どうする・・・。敵は魔法が使えないようだ。魔法で遠距離で攻撃する手もあるが、あの雷のような類いの能力で防がれないとも限らない。ならば近付いて切るべきか・・・。どうする・・・)
そう考えつつもクシャナフは走って女性に近付いていた。
どうなろうが、サーチャーの目的を邪魔するとするなら倒さなければならない。
と、女性がチェーンを発射してきた。当たったものの、アサシンナイフで斬りかかり弾き返す。
絡め取って罠まで誘導しようというのだろうが、流石にそれに引っ掛かるほど弱くはない。
と、いきなり動いてもいないのに立っている場所が変わった。こんな能力もあるのか、と思いつつ焦る。何故ならあの罠に掛かっていたからだ。
体が電気で痺れ、上手く動けない。
「がぁぁっっっ!!!」
呻くクシャナフの前に、あの女性が降りた。
「へーえ、タルアンス帝国の人は始めて見たな~。プレイヤー?NPC?どっち?」
攻撃する訳でもなく話し始める。
「まあどっちにしても、あのカレスを飼い慣らしてたから召喚師だよね。経験値の足しにさせてね。じゃ、お疲れ~」
そう言って槍を突きだしてくる。が、クシャナフは体を無理矢理動かした。アサシンナイフでそれをギリギリ払い除ける。
が、クシャナフは次に雷が降ってくると読んでいた。
(させるか、シールドでっ!)
間一髪、クシャナフに雷が当たる寸前でシールドの障壁が雷を防いだ。クシャナフは無傷だ。
(倒す!)
クシャナフはアサシンナイフで斬りかかる。その斬撃と、皮から吹き出す毒液を女性は左手の盾で防ぐ。
「むー。中々やるわね~」
クシャナフはそれを無視し、女性の背後に火球を発生させ、そのまま発射する。
「がっ!?痛いっ!?」
女性はダメージと言うより火球の当たった衝撃で仰け反った。
それを見計らい、クシャナフはその首筋にアサシンナイフを突き立てた。
女性は槍を取り落としてしばらく固まっていたが、少しすると喉の奥でくぐもった笑い声を上げ、その内大きく笑い始めた。
「あははっ!お兄さん、強いわね!」
それに、クシャナフはアサシンナイフをしまって呆れ顔で答える。
「まーな。俺はプレイヤーの端くれさ」
「へ~。やっぱり魔法が強いね」
「あれより強いのも使えるけどな。それより、さっきのあの能力は何だ?」
「あ~。あれはね、スキル」
「スキル?」
「そう。あの槍に落ちる雷が『雷の神の怒り』で、雷の罠が『束縛の雷光』、ね。まあ他にも何個かあるけど」
(スキル、か)
クシャナフも聞いた事があった。ラムス僧国と呼ばれる、国民全員が宗教の熱狂的信者で宗教の長がそのまま国を治める国で魔法のように使われている能力だ。マナを介さず、武器に付与する事で使用できると聞いた事があった。
「じゃあ、ラムス僧国の人間なのか?」
「いや、私自身は浮浪の身。名乗り遅れたけど、ネトリィって名前」
「俺はクシャナフ。よろしくな」
「うん、クシャナフ、ね。良い響きね」
「そうか?まあ、なら良かった」
「うん。こっちもよろしく。あ、そうだ、今私、旅の途中なんだけどさ、私の仲間になってくれない?」
「仲間?良いけど・・・。俺はギルドのお抱えでな、あんまり自由に動けないぞ?」
「良いの良いの、とりあえず色んな所に行ければね」
「そうか、ならよろしく頼むよ、ネトリィ」
「うん、よろしく、クシャナフ!」
こうして2人の旅が始まった。
直後、微かだが鋭い殺気を感じ、素早く叫ぶ。
「敵だ、フェネクス!離れろ!」
その声を聞き、反射的にフェネクスはバックジャンプしつつ空に舞い上がった。
その僅かな一拍を置き、先程までフェネクスがいた場所に槍が飛んできた。
その黒塗りの槍は壊せないはずの遺跡の金属を容易く貫通し、地面に突き刺さる。
「貫通しただと!?」
困惑するクシャナフの前で、槍に雷が落ちる。隣にあったセトルマの死骸が一瞬で黒く焦げる。空に雲は無い。魔法か、と思ったもののマナの動きは感じられない。
これでは素早くても的の大きいフェネクスは格好の餌食だ。
「フェネクス!一旦戻す!」
そう言い、クシャナフはカードをケースに戻した。すると、フェネクスが元々いた場所に戻される。
「さて・・・」
クシャナフはアサシンナイフを抜き、振り返る。そこにいたのは黒い服の上から黒いドラゴンの甲殻を被せた防具を身に付けた女性だった。左手には盾を装備している。敵なのは間違いない。
女性は手の甲に取り付けた機械からチェーンを発射した。それは遠くの建物から一瞬にしてこちらまで届き、槍を絡め取って戻っていく。
クシャナフは今いる建物を降りる。女性は自分の建物の真下に見え見えの雷の罠を設置した。あんな見え見えの罠でこちらの動きを止めようとでも言うのだろうか。
(どうする・・・。敵は魔法が使えないようだ。魔法で遠距離で攻撃する手もあるが、あの雷のような類いの能力で防がれないとも限らない。ならば近付いて切るべきか・・・。どうする・・・)
そう考えつつもクシャナフは走って女性に近付いていた。
どうなろうが、サーチャーの目的を邪魔するとするなら倒さなければならない。
と、女性がチェーンを発射してきた。当たったものの、アサシンナイフで斬りかかり弾き返す。
絡め取って罠まで誘導しようというのだろうが、流石にそれに引っ掛かるほど弱くはない。
と、いきなり動いてもいないのに立っている場所が変わった。こんな能力もあるのか、と思いつつ焦る。何故ならあの罠に掛かっていたからだ。
体が電気で痺れ、上手く動けない。
「がぁぁっっっ!!!」
呻くクシャナフの前に、あの女性が降りた。
「へーえ、タルアンス帝国の人は始めて見たな~。プレイヤー?NPC?どっち?」
攻撃する訳でもなく話し始める。
「まあどっちにしても、あのカレスを飼い慣らしてたから召喚師だよね。経験値の足しにさせてね。じゃ、お疲れ~」
そう言って槍を突きだしてくる。が、クシャナフは体を無理矢理動かした。アサシンナイフでそれをギリギリ払い除ける。
が、クシャナフは次に雷が降ってくると読んでいた。
(させるか、シールドでっ!)
間一髪、クシャナフに雷が当たる寸前でシールドの障壁が雷を防いだ。クシャナフは無傷だ。
(倒す!)
クシャナフはアサシンナイフで斬りかかる。その斬撃と、皮から吹き出す毒液を女性は左手の盾で防ぐ。
「むー。中々やるわね~」
クシャナフはそれを無視し、女性の背後に火球を発生させ、そのまま発射する。
「がっ!?痛いっ!?」
女性はダメージと言うより火球の当たった衝撃で仰け反った。
それを見計らい、クシャナフはその首筋にアサシンナイフを突き立てた。
女性は槍を取り落としてしばらく固まっていたが、少しすると喉の奥でくぐもった笑い声を上げ、その内大きく笑い始めた。
「あははっ!お兄さん、強いわね!」
それに、クシャナフはアサシンナイフをしまって呆れ顔で答える。
「まーな。俺はプレイヤーの端くれさ」
「へ~。やっぱり魔法が強いね」
「あれより強いのも使えるけどな。それより、さっきのあの能力は何だ?」
「あ~。あれはね、スキル」
「スキル?」
「そう。あの槍に落ちる雷が『雷の神の怒り』で、雷の罠が『束縛の雷光』、ね。まあ他にも何個かあるけど」
(スキル、か)
クシャナフも聞いた事があった。ラムス僧国と呼ばれる、国民全員が宗教の熱狂的信者で宗教の長がそのまま国を治める国で魔法のように使われている能力だ。マナを介さず、武器に付与する事で使用できると聞いた事があった。
「じゃあ、ラムス僧国の人間なのか?」
「いや、私自身は浮浪の身。名乗り遅れたけど、ネトリィって名前」
「俺はクシャナフ。よろしくな」
「うん、クシャナフ、ね。良い響きね」
「そうか?まあ、なら良かった」
「うん。こっちもよろしく。あ、そうだ、今私、旅の途中なんだけどさ、私の仲間になってくれない?」
「仲間?良いけど・・・。俺はギルドのお抱えでな、あんまり自由に動けないぞ?」
「良いの良いの、とりあえず色んな所に行ければね」
「そうか、ならよろしく頼むよ、ネトリィ」
「うん、よろしく、クシャナフ!」
こうして2人の旅が始まった。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる