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13 終
しおりを挟むーー翌日
昼過ぎ、王城から戻ったイアンはこの後に待っているアリスとの時間に内心複雑な思いだった。
あの日からイアンの頭はアリスのことでいっぱいになり、心臓が不整脈を起こすのだ。伴侶としてあり得ないと思っていた相手であり、年齢も一回り離れている相手であるのにまさかこの自分が?そう思うもののアリスのあの目が忘れられない。それによくよく考えれば自分を不快に思わず嬉々として触れ、又会話が弾み話していてこれ程楽しいと思える女性などアリス以外に出会った事がなかったことに気がついた。だがそれでも…
イアンは整理がつかない初めてのこの気持ちに悩みに悩んでいた。
「……ふ。何を深く考えておるのだろうな。別に深く考える必要などないであろう。平常心である。いつものように普通に接すればいいだけである」
そう気持ちを持ち直し玄関を開けた所…
「イアン様ぁ~!お帰りなさぁ~い!」
「ぐふっ!?な、なっ!?」
予想だにしないまさかの人物がおり、自分に飛びついてきた。宰相ともあろう者がこんなにも狼狽えてしまうなど情けないと思いつつも動揺を隠せずイアンは目の前の存在を確認する。
「な、なぜここにいるのだねアリス嬢」
「イアン様の帰りを待ってたんですぅ~」
「だが時間まで…」
アリスとの時間までまだ2時間以上もある。その間に落ち着こうとの計画が台無しだ。そこへ上機嫌な執事長がやってきた。
「旦那様お帰りなさいませ」
「あ、ああ。今帰った。何故ここにアリス嬢がおるのだね?」
「アリス様は昨日私達と話をするためお屋敷に来てくださったのですよ」
「は?」
「そうなんですよ。朝方までたくさんお話を致しましたわ」
「よかったなイアン様!」
「……は?」
イアンは理解が追いつかない。何故かあまりアリスに対して良い感情を抱いてなかったはずの執事長やメイド長、護衛長のアリスへの態度が軟化している。いや、この3人だけではない。屋敷にいる者達が皆、微笑ましげに自分達を見てアリスを歓迎している雰囲気があるのだ。
「……お前達はあまりアリス嬢のことを…」
「ええ。あまり良い感情を抱いておりませんでしたが昨日アリス様と話し、これ程まで素晴らしい方はいらっしゃらないと思い至りました。全く…こんな素晴らしい方を排除しようとしていたなど執事長として恥ずべきことです」
「ええ、ええ本当に…イアン様の素晴らしさを理解し、こんなにもイアン様のことを想い恋慕っていた方になんて酷いことをしてしまったのでしょう」
「よかったなイアン様!アリス様と幸せになれよ!」
「…………」
全く持って訳がわからない状況にイアンは唯一この中でまともであろう執事見習いの方を見るも苦笑して頭を振るだけ。
「さぁ旦那様。お食事の用意はできております。奥様と共に召し上がってはいかがでしょうか?」
「…ぬ、ぬぅ?奥様?」
「ええ。さぁどうぞ」
「わぁ!イアン様ぁ~早く食べに行きましょう~」
「…………」
何故か執事長がアリスのことを奥様と呼び出した。そして、そのことに誰も突っ込まない。イアンは愕然としつつニコニコと笑顔で自分の腕を引くアリスを見つめる。
…着々と外堀を埋められている。
この状況に抗おうと思えばいくらでも抗う手段はある。だが、何故か抗おうなどという気は起こらず、嫌な気分にもならない。逆に感心してしまうほどである。
(仕方あるまいな…)
イアンはアリスを受け入れかけていた。それはイアンを見るアリスの目がどこまでも真っ直ぐだったからだ。
「なんですかぁ?イアン様ぁ?」
「………いや、なんでもない」
イアンが完全に落とされるまで後…ーー
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