魔王の愛は重すぎる〜生き返った俺は、今度こそ親友(魔王)を救いたい〜

タッター

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53.そろそろ


「だからお前も俺の仇を取ってくれたんだろ!? 俺を殺そうとしたかしらを殺してくれたのはお前だろ? やっぱり俺を愛してたからだろ!? 喜べ! 俺はお前と同じ存在になれるんだ存在なんだ!! あの魔王にも負けないッ、神になれる存在なんだ!!」

「……神、ねぇ……。やっぱりって、俺愛した素振り見せたか?」

「ずっと俺と一緒にいてくれたじゃねぇか!!」

「…………」

 ……あれはテメェらのアジトが『悲』の濁りに満たされすぎててすぐに逃げられなかっただけだよ。

 ウェルトが俺を殺して飛ばす場所ってランダムだけど、飛ばされた場所が『悲』に満ちた場所だった時にはなんの嫌がらせかと思った。
 しかも、その辺では名の知れた極悪山賊団の巣だと知った時には目眩がすると同時に、ウェルトが俺を飛ばす意味について真剣に考えたものだ。

 だって俺を見つけた最初の人間がこれだぜ? 
 この妄言に狂言。あ~ちゃんと息の根が止まってんのをこの目で確認すべきだったなぁ……。しかもこの流れからいってーー

「なぁなんで俺の前からいなくなったんだルクス? 俺を愛してたはずだろ? お前に相応しいのは俺しかいないってわかってたことだろ? 結界のせいで居場所はわかってんのに会いにいけねぇし、こんな遠回りな手を使ってお前に会うのに百年もかかっちまったよ。ッ今度は逃がさねぇからな。こうなって、力を持ってようやくなんでお前があの時俺らから逃げなかったのかわかったよ。
 そりゃそうだよな。あの洞窟で何人の女男共を犯し殺したか覚えてねぇよ。そりゃァイキのいい濁り感情が溜まってただろうな! だから逃げられなかったんだろ!?」

「やっぱてめぇか俺の弱点バラした奴」

 くそっ、悪いギルディア。
 俺らの弱みバレたの完全に俺のせいだった!

 ギラギラと狂気に光る目に、俺は後でギルディアに謝ろうと決めた。

 というかこいつ、自分で言ってる言葉に矛盾があるってことに気づいてねぇのかな?
 俺が逃げたって自覚があんならそれは運命じゃなかったって諦めればいいのに。

 はぁぁ……、とバレないよう息を吐き出し、どこまでの堕人に弱点をバラされてるんだろうなと考えた。

 赤痣も「聞いた」って言ってたし、この話し方から言って、やっぱり堕人全員にバレてるって言うよりも、個人的なバレみたいだ。
 それなら、まだ希望はあるか。

「……どこまでバラした?」

 少し臆したように、慎重な表情を作って問いかければ、オーガルは開き切っていた瞳孔を元に戻し、優越に浸った甘い笑みを見せた。

「ああ、安心しろよ。俺以外に捕まって所有物にされちゃァたまんねぇからな。俺の部下にしか話してねぇよ」

「!」

 まじか!

 これはついてる。
 その部下がここにいる全員で終いとは限らないが、実見したことのあるこいつ自身が得意げに触れ回っていないのなら望みはある。

 いくら他から情報が漏れて他の堕人の耳に入ったとしても、一度ならず二度までも失敗したと伝われば信用性は限りなく低くなるだろうしな。
 絶対に逃さねぇようにしねぇと!

「ふっ……、まだこんな状況でも諦めてねぇんだな」

 密かに喜んで気合いを入れつつ、壁に触れる手から瘴気を浸透させいれば、そんな俺を見てオーガルは懐かしむ目をした。

「ほんと、昔と全く変わってねぇな……。キラッと光る瞳に不利な状況でも構わず見せるその余裕の笑み。俺の前で仮面なんて被らなくていいんだぞ? ーー本当のお前は、そんな強くねぇだろ?」

「……どういう意味だ?」

「だから、俺は全部知ってるって話だよ」

 オーガルは優しく、だけど嘲笑を含んだ笑みで肩をすくめ、俺を見下ろしてくる。

「本当のお前は振り向きもしない背中に追い縋って、追いつけず膝をつくしかない哀れな男でしかねぇ。
 向けられねぇ興味と忘れられる恐怖に焦って、狂いそうなほど怯えて泣きそうになってたじゃねぇか。そんな弱ぇ心を、お前は必死に隠していつも笑ってるだけだろ?」

「……」

「まだ、あの男を追いかけては苦しんで笑って……。この目ぇ見るとなんも昔と変わってねぇみてぇだな」

 オーガルは手を伸ばして、俺の目元をスッと親指で撫でた。

「ルクス、気づいてるか? お前は上手く隠してるつもりでもな、この目の奥はずっとゆらゆら揺れてんだよ。
 今にも壊れそうで、本当は壊れかけてる自分に気づいてるんだろ? だから笑って平気なふりをするんだ」

「……」

「どんな状況でも、どれだけ不安であってもな。
 まったく馬鹿みてぇだよな? ……でも、その虚勢と、恐怖と不安でいっぱいの癖に無理して笑うその危うさに、どうしようもなく惹かれちまうんだよな」

 鼻で笑うオーガルは、目元から髪へと手を移動させ、軽く髪を摘んだ。そして、俺の耳元へと顔を近づけると、睦言のように囁く。

「……もう無理に強がんなよルクス。力も魔法も使えず弱体化したお前にできることなんてなにもねぇんだ。それとも、誰か助けに来てくれるって時間稼ぎでもしようとしてんじゃねぇだろうな?」

 チラッと、オーガルは後ろの部下を見て笑った。

「もし、もう一人の不死者様を待ってんなら街から出ようともしてねぇようだぞ? そんなに感瘴が怖ぇのか? ハハッ! 情けねぇな。不死者といってもこれじゃあ人となんも変わらねぇじゃねぇか。
 なら、いい加減素直になってもいいんじゃねぇか?」

「………素直?」

「ああ、過去なんて全部捨てればいいんだよ。捨てて俺のものになれよ。そうすればなんの心配も恐怖も感じなくて済むぞ。俺は恋人には優しいんだ! だから、何も痛てぇことしてやってねぇだろ? ずっとそばにいてやるし大切にしてやるぜ? この大事な血肉も、魔物になんかくれてやる必要はねぇんだ。さっさと頷けば、俺だけが独占してやるよ」

 甘い、誘惑擬きの言葉が吐かれれば足元の魔物の牙が皮膚を押す。
 そして、オーガルの後ろで話を聞いていた堕人共が焦ったように声をあげた。

「オーガル様お待ち下さい!! まさかそいつを独り占めするおつもりですか!?」

「我らはあなた様が神になられるべきと今日まで付き従ってきたんですよ!」

「私達にも血をっ」
 
「安心しろよお前ら。俺はかしらとは違っていい主人なんだ。お前らにはもう一人の不死者をプレゼントしてやるよ」

 鷹揚に語るオーガルに堕人どもは色めき立つ。
 それを見て、俺は顔を下に向けた。

 ……ふっ!
 やべぇ。そろそろ笑うの堪えんの限界なんだけど。
 こいつ、さっきから何を得意げに語ってんだろ?
 傲慢さもここまでくると、いっそ笑えて称賛したくなってくるな。まさか、この後ギルディアも捕まえる気とか。ちょっと抵抗しないだけでどこまで調子に乗るんだよ。

 笑いに震える身体を、なんとか抑え込む。
 もうオーガルの中じゃあ完全に強者自分弱者の図が完成してるんだろうな。

 俺を狙ってきた理由もそうだけど、こいつほんっと面白れぇわ。

 俺、こいつに捕まってた時そんなに精神弱ってたのかな? こんなにすぐ無力化できるって思われるほど?
 まぁすぐに逃げられなかったくらいだから相当弱ってはいたんだろうけど、だとしても俺を舐めすぎだと思うんだよ。

 忍び見れば、オーガルの目にも、後ろにいる堕人達の目にも揺るぎない勝利の色が満ちていた。

 どうしてこいつら堕人はこうも自分達を俺達にとっての脅威だと思えるんだろう。

 特にオーガル。こいつは今まで会った上位種に比べてダメだな。力に酔って、ただ傲慢に警戒のかけらもなく愉悦に浸って、まるで自分が主役だと言わんばかりの態度。
 不死者という存在を全くわかっていなさすぎる。

 たった百年っていう小さな時の枠の中でしか生きていないのに、なんで同じ土俵、目線で話ができるって思ってるんだろう?

「どうだルクス。二千年もお前のことなんかほったらかしにして、気にも留めない男なんてやめて俺にしとけよ。俺はこの百年ずっとお前を想ってきたんだ」

 安っぽい口説き文句を自信満々に吐きながら、オーガルは俺の首に巻いていたストールへと手を伸ばす。

「もし、嫌だってんなら仕方ねぇよな。せっかくの不死の体だもんな。たっぷりと遊んでから、頷いてもらうのもありかもしれねぇな」

 ビリッとストールが破れる音がする。
 皮膚を押す魔物の牙の圧が強まり、オーガルは俺の首筋へと顔を近づけてくる。

 そんな男を冷ややかに見やりながらも、俺は自由にさせた。

 ……向けられねぇ興味と忘れられる恐怖に怯えてる、か。態度はどうであれ、言ってることは合ってるのは合ってるんだよな。

 そうだよ。いまだに俺はお前の言う通りの男だよ。でもさーー

 俺はウェルトを思い出してクスッと笑った。
 
 気にも留めない男? いいや、ウェルトはずっと俺を想ってる。何回不安になってもその不安を覆すほどの執着を持って俺に示してくる。
 だから、俺はどれだけ苦しくても怖くても壊れそうでもここに立ち続けられてるんだ。

 なのに俺を想って百年? 短けぇなぁ。
 二千年に対してたった百年なんてどう頑張ってみたとしても桁が足りるわけがねぇ。

 準備もできたし……ーーそろそろこの茶番を終わらせようか。

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