不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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72.チャンスを待つ  sideフレイ 

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「……あの、ここにいるみなさんってツキさんとボスさんの恋を応援しているんですよね?」


 ちょっとなぁ……と未練がましく聞いてみた。


「「「「当たり前だろ?」」」」


「…………」


 ですよねー。まぁそれは見てればわかるし。でももっとこう……なんかないのかな?


「はは、ですよね……。でも聞いた話ボスさんって元貴族なんですよね? みなさんボスさんが貴族だった頃から従事していた方も多いみたいですし反対する人とかいなかったんですか?」


 両方「元」がつくとは言え、貴族と奴隷でしょう? こういうのでよくあるでしょう。身分差とか、男同士だとかでさ。ラックが別に家を取り戻したがっていなくても部下までそうとは限らないんだし、俺は絶対にお前を認めない! とか相応しくない! とか言っていがみ合うの。他にもラックって顔はいいからモテるみたいだし女の嫉妬とかでさ、ツキさん虐められたりとかあるでしょ? ないの?


 ……僕はもっとそういう感じのを見たいのに。姉様には趣味悪すぎって言われるけどワクワクしちゃうんだよ。それで僕もそこに加わって二人が嫉妬とかすれ違いとかで関係が拗れていくのを間近で楽しみたかったのに失敗するし、なんで皆そんなにもツキさんに好意的なの? なんでそこまでツキさんを可愛がってるの? 僕も可愛いよ? 持て囃してもいいよ? こんな惜しいような惜しくないようなヤキモキさせられ、砂をダラダラ吐くような甘い展開見せられ続けるの苦じゃない? 誰も望んでなくない? 胸焼け起こしちゃいそうだよ。


「んーだいぶ昔はいたよな?」


「んん? ああ~確かいたなぁ」


 モー達が言う。


「! いた――っ! コホン……いたんですか?」


 ……危ない危ない。ちょっとテンション上がりそうになっちゃった。ちょっとその連中呼んできて。話聞きたい!! 煽りたい!!


「いたいた主だってたのはやっぱ年寄りとか年長連中だったけどな~」


「別に男同士での付き合いとか結婚とか普通にあるけど、やっぱ貴族の、しかもボスは他に兄弟も誰もいなかったからなぁ。ともなれば子ども問題とかでいろいろとな~」


「子どもに関してはなんかここ最近になって男同士でもできるようになった~とか風の噂で聞いたことはあるけどあの頃はなぁ……。あー確かレトの爺さんとかも反対してたよな」


「してたなぁ」


「へーそうなんですね」


 なるほどなるほど。その辺でね、レトのお爺さんとかがね。うんうんなるほどいいね~身近な人物が反対的。面白いね。


 淡い妄想が芽を出す。ニヤニヤを隠すのが大変。


「でもレトの爺さんもそうだけど、そういう連中に限って今ではツキのこと溺愛してね?」


「ブハッ確かに!!」


「実の孫、子どもより可愛がってんじゃね?」


「可愛がってるなぁ」


「…………」


 あ、芽が枯れちゃった……。


 ……話に聞けば反対していた年長者達全員今ではツキさんにメロメロらしい。朝行く畑によく見かけるお爺さんとか動物のお世話をしてるお婆さんとか、この家の家事を取り仕切ってるおばさんとかも初めはツキさんのことを嫌っていたそう。


 え? すっごくデレデレした顔でツキさんに飴玉とか蒸甘芋渡してたし、ツキさんがどれだけ失敗しても全く怒らないのに? それどころかニコニコしながら優しく泥を払ってあげたり、破れた服を繕ってあげたりしてるよ?


 その他にもモー達が「ああ、こいつも初めは~」とかあ挙げた人達はみんな、よくツキさんにお菓子をあげたりお小遣いをあげている人達だった……。あの人達完全に孫、子どもを見る目でいるのに。あと、母性父性高鳴らしてツキさんのお世話焼こうとしてるよ? 本当にツキさんに負の感情持ってたことあるの? ……いや、待て、年長者による嫌がらせ系や認めない系がないとしても女関係ではあるかもしれない。


「じゃ、じゃあ恋愛面では? ボスさんってモテそうですもんね~」


 ここにだって若い女の人何人かいるし……


「ぶはッ!! それこそほとんどないぜ! 坊ちゃん昔っからあんな感じだからなぁ。いくら顔がよくてもあれじゃあな笑」


「逆にツキの方が女連中に可愛がられて人気だぞ? だからツキに手を出そうとする坊ちゃんに女どもは容赦ねぇ」


「……ああ、そうですか」


 モーとズーの言葉にガックシと項垂れた。

 ……だからラック、あんまり女の人達がいる目の前ではツキさんに手を出さず気持ち距離をとってるんだ……。


 食堂カウンターでご飯を受け取る時とか、ラックは絶対ツキさんを揶揄ったりアピールしたりしない。さっさと席に座ったり、いつもは拳二つ分の距離がその倍だったりとか、家の外でもそんな感じで今考えればなるほどと思う場面がいくつかあった。


「あとはまぁツキに手を出そうなんて奴はボスも周りも黙ってなかったからな。初めの頃なんて、ボスがしょっちゅう影で潰しにかかってたし、ツキを連れ出して逃げようとしてたからな。日が経つ毎にツキの味方も多くなるしで、だんだんそんな奴等も消えていったよな」


「「「ははははは! そうそう!」」」


 レトの言葉に軽快に笑いながら三馬鹿達は「俺昔こんな奴放り出しぜ~」とか「俺はこんな奴!」「一回、坊ちゃん怒って寝てるツキ勝手に背負って山越えようとしてたことあったよな~、ツキも起きねぇし総出で探し出して止めたわ笑」と、言い出して盛り上がり出した。その内容に僕はドン引きした。


 いや、怖いよ。みんなツキさんのこと好きすぎ。ラックは行動力ありすぎ。なんでツキさんは起きないの? 


 ……ツキさんの不幸体質は僕も身をもって体験してるけどあれは相当大変なものだ。予想以上に大変なものだったのに、なのにこれ? ……僕よく敵認定されて排除されなかったなぁ。ツキさん様様だ。


 ――けど物足りないよね? 


 ツキさん達を見ているのは面白いけどやっぱりもっと刺激がほしい。ワクワクドキドキするような刺激が。……いや、ドジと不幸に巻き込まれる以外でさ。……ここはやっぱり僕が何かアクションを起こす必要があるのかもしれない。もっとハラハラドキドキ二人の関係が楽しくなるような何かを――


「……なぁフレイちゃんよぉ」


「ん?」


 モーに、硬いパンを歯をギリギリさせ一生懸命噛み砕きながら返事をする。これはそういうパンみたいで、硬いけど食べ応えがよくて僕は好き。気をつけないと歯をやっちゃうけど。


「フレイちゃんがさぁ。ツキと仲良くしてくれんのは嬉しいぜ?」


「ツキも楽しそうだもんなぁ」


「そうそう。だから……――あの二人の仲を悪戯に引っ掻き回す真似だけはやめとけよ?」


 ビクッ   ガチンッ

「っ」


 いったぁ!! 歯、やっちゃったっ。


 ズーのドスの効いた声に、モー達を見てみれば、いつものようにヘラヘラとした笑みを浮かべてはいるけど、僕を見るその目の奥は一切笑ってなかった。隣にいるレトもだ。


「みんなで仲良くしてようぜ? 馬鹿な真似しない限りはボスがフレイちゃんを排除しようとしても味方でいてやるからさ」


「フレイちゃん手強そうだからおじさん達、できるならやり合いたくないわ~」


「ツキ本人は隠してるみてぇだけどあいつ血、苦手なんだよな~」


「はは、ほんと、フレイ君にはぜひツキといい友達でいてやってほしいな」


「…………」


 こいつらエスパーかな? 僕はツキさんほど顔に出ないよ! ……でも、血っていうのはそれどっちが流すって意味なんだろ。


 どれだけ目の前の連中が僕を凄もうとも、この僕がたかだか人間に負けるわけがない。僕はこいつらとは違う、特別で偉い存在なんだから。だから全く怖くなんてない。……うん、ないけど、まぁ、


「……もちろんですよ」


 ニコリと頷いた。ちょっと頬っぺたが変で笑いにくいのは気のせいだと思う。


 ツキさんと一緒にいることで襲いくる不幸をものともせず笑いとばし、生き抜いてきた連中。戦いたくないのは僕も同じだ。なんかすっごくしぶとそう。そもそもツキさんはこいつらが怪我をする事を心配しているようだけど、僕いまいちこいつらがツキさんといて僕ほど不幸に出会ってるイメージないんだけど? それってそれほど自然に回避か対応してるってことなんじゃないのかな?


 ……背中に薄寒いものが走った。


「そっかそっか! それならいいや! ははははは!!」


「「「ははははは!!」」」


「はは……」


 ~っくそぉ、どいつもこいつもそんなにツキさんが大切? 僕も可愛いでしょ? もっと僕のことも持ち上げて敬ってよ!!


 心でそっと涙した。


 ちょっと自分に自信なくす。僕偉いのに。なんでこんな奴らに牽制されて、頷かないといけないんだろう。


 チラッとツキさん達を見れば、ちょうどツキさんが水を飲もうとしていた。


「…………」


「わっ!」


 ムカつくからその水を操作してこぼしてやった。ラックに睨まれた。なぜわかる。


「……おい、ツキ大丈……!?」


「うぅ……さっき着替えたばっかっすのに……」


「…………」


 ちょうど胸元に水をこぼしたみたいで濡れた服にショックを受けるツキさんと、その首元に垂れ張り付く服にゴクリと唾を飲み込むラック。


 ……ん? 何? 


 でも、ラックのそれは欲情というよりなんか困ってる雰囲気が伝わってくる。


「あー、坊ちゃんああいう系のツキの突発のには弱いんだよ」


「惚れた相手だからなぁ。自分からはいいんだけど相手からくると照れるんだよ」


「普段偉そうなのにああいうの見たら和むだろ?」


「…………」


 四人がやれやれと立ち上がる。そして、ラック達の元へ。


 こう……和みはしないけど「ああ……」って感じで、ラックってほんとツキさんのこと好きなんだなってことは伝わってくる。


 ……これはこれでいいのかもしれないけどやっぱり僕は違う刺激もほしいよ!! 僕がたかが人間達の言うことを聞く必要なんかないよね?


 そう切り替え、水がかかり給餌も終わったことでボスさんから離れようと暴れ出したツキさんに、僕はいつものように「大丈夫ですか?」と猫を被って近寄った。


 ギャーギャーと賑やかな攻防を繰り広げる二人を見ればバカップルの痴話喧嘩のように見えるけど、どれだけラックがアピールを頑張ったところでツキさんにはいまいち伝わってないし、響いてもいない。逆にラックの行動のせいで後退してるんじゃないのかな? もうツキさんのラックを見る目が不審者だ。


 だけど、そう油断はできない。あの餌付けを見たあとじゃ二人がくっつくのは時間の問題かもしれないと思う。ツキさんはラックに翻弄され、流されるがままにいつの間にかなぁなぁで攻略されてそうだ。だけど、それじゃあ僕がここにいる意味がない。


 ……姉様が言ってた。愛に試練はつきものだって。でもそれは~とかどうたらなんか説教してきてたけどそれは置いといて、……僕自身がその試練になれないのなら他の人間を使えばいい。どうせ何を仕掛けても「勘」とか訳のわからないこと言ってバレるんだから、ここぞというときが来た時にはいっぱい仕掛けて楽しませてもらおう。……僕からはね、うん、ちょっとやめておいてあげるよ。


「ふふ」


「? どうかしたんっすかフレイ君?」


「いえ、別に」


 さぁいつチャンスが来てくれるかな?


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