不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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76.魔物っす! 

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「っうるせぇ、とりあえずツキは見つけ次第捕まえて家に戻して来い」


 おっと、やはり隠れていなければならないよう。上がりかけていた頭を引っ込めた。


「ボス……たぶん、今の言葉でツキの警戒心上がったぞ?」


「なんで近くにツキがいるってわかっててその言葉言っちゃうかなぁ。坊ちゃんもうちょっと考えようぜ」


「うるせぇよ」


 レト兄とやれやれと肩をすくめるモーを睨むボス。


 ジーとズーが森を見つつ言う。


「いや~にしてもツキ隠れんのうめぇな」


「な! 体質がなけりゃここまで見つからねぇもんなんだな」


 !


「ま! そう鍛えたから当然といやぁ当然だけど俺達とツキの努力の賜物だぜ!」


「フレイ君も意外にやるな~」


 褒められてるっす♪

 
 そうだろうそうだろうと、ジーとズーの言葉ににこやかに頷いた。隣にいるフレイ君も得意気だ。


「得意になんな。さっさと見つけろ」


「さっさとって、んじゃあ坊ちゃんが見つけてくれよ」


「ツキ見つけんの大得意だろ? あっちとかでもいいからさ」


「んじゃああっち探して来い」


((!?))


 ボスの指が俺とフレイ君がいる茂みを指差した。


(ツ、ツキさんっ、ど、どします!?)


(ど、どうしよっす!?)


  これ今動いてもバレるっすよね!? モー達の意識こっちに向いてるっすもん! 顔も体もこっち向いてるっすもん! でも動かなくてもバレるっすよ!?


 モー達三人がこちらに近づいて来る。レト兄もボスの側に立ったままこちらをじーっと見ている。ボスは目の前の木をまだじーっと睨んでいる。


「…………。……ボス。なんでその木だけそんな睨んでるんだ?」


「「「それ俺らも思った」」」


 !


 モー達の意識と視線がボスに向いた。


(フレイ君今っす! 今のうちに移動す――あだ!?)


(ツキさん!?)


 移動しようとすれば思うように足が動かずガクッとなった。自分の左足を見ると足首に細い木の根が絡みついていた。


 もう! いつこんなくっついたんっすか!?


 巻き付くように絡まった根を取り払い、急いで別の場所へと移動する。


 ……ふぅ、危なかったっす。


 なんとかバレずに移動できた別の茂みの先で、フレイ君と共にボス達を窺い会話に耳をすませる。


 レト兄の言葉は俺も思っていたことだった。何故ボスはそんなに目の前の木を睨みつけ、喧嘩を売っているのだろうか。


「……この木。ここにあったか?」


「木? いや、流石に覚えては……」


(? なんっすかね?)


(さぁー? ……ん?)


(ん?)


  何か気付いたのか、フレイ君も目を凝すようじーっとボスが見ている木を見始めた。


「レト、この木燃やせ」


「は!? いいのか?」


「ああ。なんか怪しい」


「わかった。――『火』」


 ギョァァァアアアア!!!!


((ピッ!?))


 上がった悲鳴にフレイ君と抱きあう。


 ただの木だと思っていた木はただの木ではなく魔物だった。根の部分をバタバタ動かすそれは、 魔樹擬マジュギと呼ばれる普段は滅多に人が来ない、近寄らないような森の奥深くに生息する、木への擬態を大得意とする魔物だ。


 油断してたら木の中に取り込まれて養分にされちゃう魔物っす!! なんでこんなところにいるんっすか!?


 悲鳴に連動するかのように周辺の木々が蠢き出す。さっき俺達がいた隣にあった木も動き出した。


 うぇ!? マジっすか!?


 思わず今いる場所の木も見上げた。フレイ君も見上げていた。動く様子のない木にホッと息を漏らすも、お互い俺の左足に目を落とし、顔から血の気が引いた。


 ……もしかして俺、さっき危なかったっすか?


「おいおいなんだこれ。なんでんな浅瀬に魔樹擬がいんだ? 普通もっと奥だろ!」


「数も多いな。んな群れる魔物じゃねぇはずだろ」


「ツキが感じた視線はこいつらか?」


 さぁー? たぶんっす。


 十数体はいるであろう魔物達。焦った様子もなくモー達は戦闘体勢に入り、しなる枝の鞭の攻撃を難なく剣で捌く。


 俺も加勢するっすか?


 ボス達にとって問題ない数とはいえ、どうしようかなー? と考えた。だが、木相手に素手はちょっと厳しいような気がする。他武器になりそうなものは何も持って来ていない。剣は扱えるが俺が使うとすぐ壊れしまうから普段から持ち歩かないのだ。


 あ、でも体質なくなったんなら剣使えるっすか?


 なら短剣くらい持ってくればよかったと後悔した。


(ツキさん。これどうしましょう?)


(んーちょっと様子見すっかね?)

 
「……っ! ジー!! 斬るな!!」


「っうおっと!!」


((!))


 コソコソ、フレイ君と話していればボスが突然大きな声を上げた。目の前の戦闘に意識を戻せば魔樹擬を相手にトドメを刺そうとしていたジーが慌てて剣を振る手を止め、後ろに下がった。ボス自身は既に一体仕留めているようだが何故ジーを止めたのか。


 続けてボスは声を張り上げる。


「他の連中も今から言う奴は中まで斬るな!  斬っても上部かがわだけを斬れ!」


「「「「「? おう!」」」」」


((?))


「ツキ!! いるか!?」


「!? は、はいっす!!」


 思わず返事をし、立ち上がってしまう。そんな俺を見て、ボスは一瞬目にホッとしたような色を浮かべると指示を出す。


「お前はそのまま立ってフレイの手握ってじっとしてろ!」


「は、はいっす!」


 言われるがままフレイ君の手を握った。魔樹擬と相対し、ボスに名前を呼ばれた仲間達はボスの言う通り木の上部か外側だけを斬り魔樹擬を倒して行く。


 そうして一通り戦闘が終われば……


「……ボス?」


 事切れ、倒れ伏す魔樹擬に近づくボス。恐る恐る、俺はフレイ君の手を握ったまま近寄った。ボスは剣を鞘へとしまうと懐から短剣を取り出し魔樹擬にその刃を突き立てた。そして中を開くよう刃を通せば黄緑色の粘液と共に、粘液に溶かされボロボロになった服を着た人が出て来た。……人?


「「ひっ!?」」


 なんか生まれたっす!?


 フレイ君と二人飛び跳ねた。


「……やっぱ使役魔だったか」


「っこれは……」


 出て来た人にボスとレト兄の顔が顰まった。


「坊ちゃん。こっちも出て来たぜ」


「っ危ねぇことすんな」


「息は……なんとかあるみてぇだな」


 モー達の言葉にそちらを見れば、ボスが名前を呼んだ仲間達と対峙していた他の魔樹擬の中からも人が出て来ている。性別も種族もバラバラだが、全員一人目と同じような状態で……みんな隷属の首輪をしていた。


「ボ、ボスこれは……?」


「……おおかたどっかの商人が俺達に喧嘩売ってきたんだろうよ。こういう使役した魔物は召喚して、相手魔物側が意思を持って留まろうとしねぇ限りその場に出し続けるとなれば相応の魔力が必要になる。ツキの視線の元がこれだとすんなら、魔樹擬なんて意思の弱ぇもん、この数出し続けるとなればまぁまぁの魔力がいんだろ。その魔力の供給を奴隷に担わせてたってとこか? 魔樹擬は腹に入れたもんを一週間から十日くらいかけて消化するからな。二、三日くらいなら腹にいる奴も死なねぇし、いい道具として使ったみてぇだなァ。…わざわざ腹ん中に入れてるあたりに向こうの腹黒さが目に見える」


 腹の底から怒り込めた口調で、ボスは倒れている人達の首輪に触り、首輪を壊していく。


「……人間、えげつないこと考えるね」


「……そうっすね」


あれ首輪ってあんな簡単に壊れる物なの?」


「さぁ……」


 俺もよくわからないっす。


「昔、ツキにもついてたからな。もしものために壊せるようボス頑張ったんだよ」


「ああ……」


 レト兄の言葉に心底納得した声を漏らしたフレイ君。


 俺っすか?


「ツキ」


「! はいっ――いだ!?」


「いた!?」


 フレイ君と共にボスに頭に拳骨を落とされた。


「誰がついて来ていいつったよ」


「っ今っすか!? だってボスついて来ちゃダメって言わなかったっすもん!」


「俺から隠れてついて来てる時点でダメなことくらいわかってんだ……――ツキ、その足のどうした?」


「え?」


 ボスの視線の先、見れば左前のズボンの脛部分に、木の根がまだ絡み付いていた。全部取った気でいたが、ずっと膝を付いての姿勢でいたため見落としていたようだ。


「ああ、さっきあっちにいたんっすけどその横にあった木が魔樹擬だったみたいで足に根? 枝? が絡まっちゃってたんっすよ」


 あっちとはじめに俺達が隠れていた場所を指差した。


「……どう隠れてたんだ? その順番は?」


「え? えーと、木、フレイ君、俺だったっすけど……」


「絡まってたのはお前だけか?」


「そうっす」


 そこまで言えばボスの目が微かに見開いた。


「……ボス?」


「ツキ、フレイも、お前ら助けた奴等を救護所の方に連れて行け」


「「え?」」


「「「「坊ちゃん(ボス)」」」」


「ああ。ジーとズーは他三人くらい連れてツキの方に行け。レトはここの処理を頼む。数人処理得意な奴を残していい。俺とモーはそれ以外の連中を連れてもう少しこの辺を探る。後は……ディート。お前は一足先に戻ってアジトにいる連中にこのこと伝えて警戒するように言ってこい。そのあとはイーラを連れて救護所の方へ向かえ。そのままそっちに残ってていい」


「「「「「了解」」」」」


 すぐ、それぞれがそれぞれにあった役割に分かれ、行動を開始する。


「……すごいですね」


「……そうっすね」


 すごく取り残されている感じがする。ボスについていたいが有無を言わさずやることを決められた感じがする。言われたからにはやるがこの後ろ髪引かれる感じがなんとも言えない。


 嫌ではないのだ。俺にも指示を出してくれて嬉しい。だが、なんとなくボスの様子が気になった。


「ほら、ツキ行くぞ」


「フレイちゃんもほら」


 ジーとズーに促されるままに歩き出す。


「ツキ」


「! はいっす」


 ボスに声をかけられパッとボスを振り返った。


「絶対に外には出るなよ」


「え?」


 真剣な顔でそれだけ言うとボスは背を向け去って行ってしまう。


 ……ボス……?


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