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103.悔しいっ sideフレイ
しおりを挟むラックだ。ラックに見つかった。
「……っ!」
ダラダラと冷や汗が流れ落ちる。
ラックは器用に僕がいる横穴に片足をかけ、頭上近くの壁、岩と岩の隙間に短剣を突き刺し僕を冷たく見下ろしてくる。
どうして? 気配も姿も完全に消してたはずなのにどうして見つかっちゃったの!? 森での時もそうだったけどこいつどういう感覚してるんだよ! いや、それよりなんでここにいるの!!
「――おおー本当にいたぞ」
「フレイちゃんだ」
「なんもいなかったのにすげーな。なんでんな所にいるんだ?」
「っ!?」
ざわざわとする気配と声に下をバッと見れば、ラックだけじゃなくモー達を含むこの洞窟に入ってきていた狼絆のメンバー全員がこの場所に集合していた。いつの間に合流したのかレトもいる。
「な、なんで……」
「何が?」
「ビクッ!」
身体が跳ねる。
「……っな、何がって……」
悔しいほど声が震えた。それだけラックが怒ってるのがわかるから。ただ僕はここにいただけなのにどうしてラックはこうも僕を冷たく見るんだろ。……なんで全部見透かされてるような気がするんだろう。
「い、いや……だってなんでここにいるの? ラックも、み、みんなもさっきまでバラバラで行動してたでしょ? なのになんで全員ここに……」
焦りすぎて猫を被り忘れた。純粋に疑問に思ったことを聞いてしまった。だってこいつらついさっきまで班行動していたはずなんだ。洞窟に入った時のあのふざけた態度と罠の量からいってまだここには辿り着けないはず。なのに全員ここにいるんだもん。……なんで? 『視』なくなってからそんなに時間も経っていないはずなのにどうしてここにっ。
「お前が俺らを見張ってるからだろ?」
「は?」
淡々とラックが答える。
「森ん中からずっと妙な視線がしてたからな。このまま見られながら進むには癪に障って気持ち悪りぃし、バラけさせた方が相手方さんも意識が散るかと思って指示だして散らしてみたが……、お前の反応見る限り正解だったみてぇだな」
視線? バラけさせた? は?
「…………?」
「ジロジロジロジロ見てきやがって。まさかとは思ってたけどやっぱりお前か」
「…………」
……いや、は? 何言ってるんだろこいつ。
確かに僕は『視』ていた。でもそれ普通わかるのかな? 森ではまぁ、直接見てたからいいとして、ここでは直接じゃないよ? ましてや僕は魔力を使い、魔法を使って見ていたわけじゃないんだ。本来の僕の力で『視』てたんだ。なのにジロジロって、え? そんなもの感じられるわけないでしょう! え? 感じられるの!?
ちょっと自分の常識がわからなくなって混乱した。ここまで来る中でラックの近くで力を使おうとすればすぐにラックからの視線が飛んできていたけど、あれはやっぱり偶然じゃなかったんだ。
というか指示っていうのもなんだろ? そんなのしてなかったと思うんだけど???
「……指示って、そんなのどうやって」
「仲間内で決めてる指示方法があるんだよ。ツキもうちにいるちびっ子連中に至るまで仲間なら全員知ってる方法がな」
「………………へー」
あれ? なんだろう。ちょっと胸が痛んだ。そこでツキさん、特にちびっ子達の情報っているのかな? これ遠回しに僕は仲間じゃないから知らなくて当然だって言われてるのかな? いや、わかってるよ? 散々警戒されてたし、別に僕も仲間にしてほしいとか思ってないから別にいいけどさ。でも、三ヶ月ちょっとは一緒にいるんだからさ、もっとこうさぁ……。別に傷付いてはないけどなんかさ……。
「…………」
どうしてだろう。心なしか自分の肩が下がったような気がした。
「……でもどこしてここに? 意識がどうのって、たった数十分の話でしょう? 罠もいっぱいあったのにこの短時間でどうやってここまで来たの?」
「罠なら洞窟に入る前に魔法使ってだいたいのもんはわかってたし、そこからゴールの場所も粗方把握できてたからな」
「!?」
入る前から!? もしかしてあのゴソゴソなんかしてた時にか!?
「じゃ、じゃあ罠は全部勘で避けていたわけじゃないの!?」
「は? 勘だけど?」
「どっちだよ!!」
叫ぶ僕にラックは呆れた顔をする。
「馬鹿かお前。魔法使ってもこの量の罠の位置を一発で覚えきれるわけねぇだろうが。外に山賊連中もいたしここが罠だってことくらいわかってる。けど調べねぇわけにはいかないし、魔法使いながら進むような面倒臭い真似も無駄な体力も使いたくねぇ。なら初めに洞窟内の罠探知して、幸いやべぇ類の罠はなさそうだからあとは全部勘で避ければいいかってなったんだよ。俺ならできるし。あいつらもそうそう馬鹿はやらかさねぇしな」
「はぁ?」
何言ってるんだろこいつ。
ラックのその自信ってどこから来るんだろう。やらかさないって馬鹿なことしかしてなかったと思うんだけど? 面倒くさいとか無駄な体力とかいうわりに全部自分達で罠かかりにいってたし、消耗具合でいえばどっちもどっちじゃない?
あと、やばい類の罠はなかったとか言ってたけどラックが判断するやばい類のものってなんだろう? さっきの山賊百人よりももっと強い魔物(どうやって用意したんだろ?)も所々にいたし、罠の類も僕から言わせればなかなかに思うものがいくつかあった。ラック達の基準がわかんないんだけど???
「まぁ、もしものために各班に戦闘、探索、罠解除が得意な奴を配置させてバラけさせてたけどな」
「…………」
「この中にいた山賊共に関しては、他の連中が馬鹿やってる間に数人、お前に気づかれねぇよう送り込んで縄かけさせてたし」
「え!?」
「面倒な魔物の類もレトと、モージーズーにそれぞれ指示出して分かれて最優先で始末するように言ってた。あとの連中はそれっぽくその辺探索してろともな。――お前、それ全部気付かなかっただろ?」
「…………」
向けられるラックの視線に、僕は呆然として何も言えなかった。
……だからレトのこと、みんな気にしてなかったんだ。もともと作戦にあった内容だったから。モー達も、だから三人分かれて動いてたんだ。
「あとはツキに渡した共鳴の魔道具とは別の、団体用の魔道具をこいつらにも持たせてたし、俺が合図を送ればすぐにここに来られるよう手配してたんだよ。んで? お前からの視線がなくなってすぐに最短でここに集まるように合図をだした。……フレイよォ、あんま俺の馬鹿な仲間共をみくびるんじゃねぇぞ? ただ馬鹿やって遊んでるだけの連中じゃねぇんだよ」
「……」
……ただ遊んでる風だったくせに。
「残念だったな」とニヒルな笑みを浮かべるラックに僕は黙るしかなかった。
……完全に遊んでると思ってた。場違いなふざけようを見せられて、普段のこいつらの様子から勝手に「ああいつも通りだな」って思ってた。こんな考えて行動してるだなんて全く想像にもしてなかった。人がいないことにも、ラックが隠れて出してた指示にも気づけなかったし、モー達いつもの三馬鹿が分かれた時ですら珍しいなって、そんなに遊びに夢中になってるんだって思って終わってた。……ずっと見てたのになんにもわからなかった。
「……っ」
悔しいっ。
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