不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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119.怖いよ…      sideフレイ

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 (sideフレイ)


 ――また少し時が遡り……


「あ、危なかったぁ……!」


 ツキさんが囚われている洞窟の山頂付近。その木の枝の上で、焦って落ちそうになっていた体を元に戻してホッと僕は息を吐いた。


 な、なんとか間に合った……。


 『視』てみれば、瓦礫が崩れてきた衝撃で気絶はしているようだけど、ツキさんが守っていた人質達とあと一応襲ってた男も全員傷一つなく生きている。もしあれで人死なんて出してみて、姉様に怒られるだけじゃ済まなくなる。


 誰だ! 洞窟内で爆弾いじってた奴!! 物落として「あ」じゃないよ! しかも魔法使って地面に落とさず「セーフ!」とか全くない!! そこで魔法使う方がアウトだよ!! バーカルはもうちょっと部下の教育をちゃんとしなよ! いや、今はそんなことより……!!


「っ……あの人間やることなすことエグすぎ」


 親指を口元に持っていき当てた。あの男、バーカルはわかっていてツキさんの心を揺さぶるようなことばかりしている。ツキさんの中にある力は、普段は予測不可能的に力を発動するけど、ツキさんの心の揺れが激しければ激しいほど高確率で発生し、その分力も大きく作動する。今のでバーカルは確実にその確信を得たはずだ。


「…………どうしよう。やっぱりもう止めた方がいいのかな?」


 もうツキさんボロボロのフラフラだ。不幸な出来事も僕と街に行った時以上に起こってる。それだけツキさんの心が参ってきてる証拠だ。


 でも、街に行った罰に謹慎部屋に閉じ込められてる時もだいぶ参ってる感はあったけど、特に何もなくそこまで力は作動しなかったように思う。それはもしかして……


「……近くにラックがいたからかな?」


 今はバーカルのせいでラックの生死が不明ってことでツキさん心配してるし、それがより心の揺らぎの原因になって、余計に力があふれちゃってる感じなのかもしれない。


「…………」


 ……悩む。これ以上力が作動して姉様にバレることもそうだけど、何度も言うけど僕は別にツキさんが傷つくところを見たいわけじゃないんだ。ちょっと檻から逃げたり、山滑り落ちてその先にバーカルが待ち受けていた展開からの戦闘開始には少しだけ心が躍ったよ? でも、流石にこれだけ傷だらけで苦しそうなツキさんを見ていれば僕も心苦しくなってきてしまう。


 だけどさ、出ていくタイミングが難しいんだよ! だって檻の時は「さぁ、行こう!」ってした所でツキさん一人で切り抜けてたし、今回も切り抜けるかと思ってどうしようって悩んでる間にツキさんの力が軽く暴走して、「うわっ!」って思ったりして、ここぞという出て行っていいタイミングがわかんないんだよ! なんか今は真面目っぽい話始めてるし!! っていやこれ真面目じゃないね!? ツキさん顔真っ青だし、またあの変態、ツキさんに揺さぶりかけてるよね!?


「~~もう! これ以上傷つけるのやめてよ!!  ラックの奴は何してるの!」


 とりあえずラックに責を擦りつけることにした。


 だってあいつほんっと来ないもん!


 もうすぐ夜が明ける。なのにラックの奴は全然来ない。僕が行かないのはラックがそろそろ来るかなって思ってるせいでもあるんだ。


 ここでラックが来てツキさんを助ける。ピンチにかっこよく登場だ! これもう王道なのに、なんで来ないのかなぁあの男は! もうツキさんが捕まってるって知ってるよね? なのに全然来ないなあの役立――んん?


「……あれ? ラック来るよね?」


 ふと思い出した。


 そういえばラック達がいた場所って僕達狼絆のアジトから言えば数日だよ? でもそこから一直線にここまでこようとしたら普通なら一週間はかかる距離なんだよね……。どっちかって言えば僕達のアジトからここにくる方が早いし街からだともっと近い。数日掛かる距離を約半日とかで行ってたし、まぁこっちも同じだと考えても流石に一日はかかると思う。だとしたらだよ?


 ……これラック達今日来ないな。


「……………………よし、行こう!」


 切り替えて立ち上がった。


 失敗した。途中まで運んであげればよかった。でもラック達が怖すぎたし、怒ってたし仕方がないよね。過ぎちゃったことだしどうでもいいや!! もうここは僕が行くしかないわけだし!!


「……ツキさん」


 胸元に手を当て決意を固める。


 ……ここで動けるのは僕しかいない。これ以上ツキさんを傷つけさせるわけにはいかないんだ。これ以上バーカルに好き放題されると本当にツキさんの力が暴走して大変なことになってしまう。僕達の力は無闇矢鱈に、特に人の生死に関わることに関して使っちゃいけないんだ。普段はそんなことないんだけどツキさんの場合は力が宿った経緯が経緯だからね。なのにもしツキさんの力が暴走して今より酷いことが起きてみて。姉様に力の回収をサボって遊んでいたことがバレてしまう。


「……。……いや、違う」


 怒られるのは嫌だけどツキさんの方が大事。うん、怒られるのはやだけど!!


「待っててくださいねツキさん!」


 もうラック、あいつはダメだ。期待するのは完全にやめた。肝心なところで全く役に立たない男なんだから。


「そんなんだからツキさんに振られるんだよ――」


「――やっと見つけたぞこのクソガキ!!」


 ドガッ!


「ぎゃひん!? へぶ!? ~~いったぁ……!!」


 蹴られた! 背中ガンって!! この僕を!! 落ちたよ!? 変な声出たよ!? 酷い!! 痛い!! 誰!? って今の声っっ


 ドスッ‼︎

「ヒッ!?」


 木から落とされ、うつ伏せに倒れれば後ろから覆い被さってきた黒い人影が僕の顔面スレスレに剣を地面へと突き刺さしてきた。ギラリと光る刃に恐る恐る後ろを振り返ると……


「てめぇ……っよくも、俺ら置いて逃げてくれたなァ? またんなところ登って高みの見物気取りかッあ゛あ゛ん!!??」


 そこには僕を跨ぐようにして想像通りラックがいた。
 
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