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120.忘れてた… sideフレイ
しおりを挟む「ヒィぃ怖っ!?」
やばっ! 声にでちゃった! いや、でも怖すぎるし!!!
「ラ、ラック……。な、なんでここに……」
くっ! 僕としたことがまた声震えてるじゃん! こんな人間一人にビビるなんて情けな……
「あ゛あ!?!?」
……くない! 怖いものは怖いよぉ!!
「……っ」
ラックはただただ怒りに染まった憤怒の表情で僕を見下ろしてくる。それに涙目になりながら必死にどうして僕の居場所がバレたのかを考えた。
鍾乳洞にいた時よりももっと慎重に完全に気配は消したはずなのに。隠れ場所も広いのになんでまたバレるの!?
「馬鹿は高いとこが好きってよく言うだろうが」
「それ答えじゃない!!」
確かにそうだけど!! 僕馬鹿じゃないし高いところなんて他にもいっぱいあるし生えてるし!!
「勘で行きついたんだよ!」
「だから勘でバレてたまるか!!」
もう! 酷すぎるよこの人間!! 蹴ってくるし、刺してくるし、僕のこと馬鹿呼ばわりしてくるし!! あと、人間のくせに僕の心読まないでよ!! ……グスン僕は遠く役立たずなラックのためにもツキさんのところに駆けつけてあげようとしてたのに。なのにこんな扱い……って、ん?
「おいフレ――」
「ていうかどうしてラックここにいるの!? 距離あるでしょう? どうやってここまで来られたの!?」
「それは――」
「あとなんでこっちにくるのさ!! ツキさんは!? なんで僕を見つけにきてツキさんは放置!? 普通ツキさんの方を助けに行くよね!? ツキさんのこと好きなんでしょ!? ならさっさとあっちを助けに行きなよ!!」
「…………」
今、ツキさん頑張ってるんだ。ボロボロのフラフラになりながらも必死に頑張って守ってボス、ボスって健気にラックが来るのをずっと待ってんだ。なのにやっと見つけた? 僕を? なんでそこで僕? ラックのツキさんへの愛はそんなものだったのか!!
「ラック! ラックのことは心底見損なったよ! 大切な人を助けに行くんじゃなくて置いて行った腹いせをするためだけに僕のところに来るなんて! もういいよ! ツキさんのことは僕に任せてラックはツキさんに失望でもされ――」
「黙れ」
「っむぎゅ!?」
僕の上から退いたラックにほっぺたを鷲掴みにされる。ギリギリと掴む手に力を入れられて痛い。今の僕の顔は頬っぺたが窪んで僕にあるまじき大変なお顔になっていると思う。
「ギャーギャーうっせぇんだよ」
「ひぇぇ?」
無理矢理目を合わせられる。憤怒の表情から一変して親しみも笑みも、いつも僕を見て浮かべる胡乱さや呆れの色も全くない冷たい表情で、その金の瞳で僕を刺すかのようにラックが僕を見てくる。それは鍾乳洞にいた時に向けられた目とはまた違う冷酷な目。ラックはそれだけ静かに、恐ろしいほど僕に怒っている。
……怖いよぉ……。姉様ぁ。ツキさん。
涙を耐えながら、目を逸らすこともできずぷるぷる震える僕に向かって、ラックは冷たく一言「解け」と言った。
「っひぇ? ひょ、ひょく?」(え? と、解く?)
……何を?
ラックの言葉に僕の頭には「?」が浮かぶ。
「しらばっくれんな。この結界、お前が張ってるもんだろ」
「ひぇっひゃい? …………あ」(結界? …………あ)
……そういえばこの山全体に結界を張ってたんだった……。
ツキさんの状態が不安定になるにつれて、人がいればもしもの時危ないかもと思って洞窟内にいる連中以外、山にいる人間、入ってくる人間はみんな山の外に出すよう結界を張って細工していたことを忘れてた。
「レーラのやろう、一応ツキに護衛はつけてたみてぇだが途中で見失っちまったんだとよ。素人がツキを囮にしようとするからこうなるんだ。……けど、急いで探して絞り込んだ範囲を中心に山に入ってツキの痕跡とアジトを探してる途中、気づけば山から出てんだとよ。何回試しても山に入れねぇって言ってたが……――これ、お前の仕業だろうフレイ」
「ギクッ、にゃ、にゃんのこひょひゃが……」(な、なんのことだか……)
そうだけどここで認めるには目の前の鬼が怖すぎた。やったのは確かに僕だけどまだバーカル達がやったっていう可能性だってあるじゃないか。
そう思う僕に、ラックの纏う冷たさが増したような気がした。
「とぼけんな。こっちは山に入れなくなってアジトにすら帰れなくなって立ち往生して困ってたあの馬鹿の手下共も何人か捕まえてんだよ。全員揃ってしらねぇっつってるし、自分がかけた罠で帰れないってどんな馬鹿だよ」
「……」
……確かに……。それどんな間抜けなのかな? でもツキさんならやりそうじゃない? それに一つ聞いて欲しいんだ。僕はこれは別に意地悪でやったわけじゃないんだよ? さっきも言ったようにもしもの時の危険から遠ざけ、守るために保険で結界を張ったんだ。それでまさか誰も入ってこれなくなるなんて思ってもなかったんだ。どうりでレーラの部下も誰も来ないなーって思ってたんだよね。それはそうだよね。僕が入ってこれないようにしてたんだから。……はい。ごめんなさい。そこまで意識していなかったです。僕いい仕事したとか思ってました。だから指圧強めないで!
「……ひょめんにゃしゃい。びょくがひゃりました」(ごめんなさい。僕がやりました)
「やっぱりか」
「ひゃい……」(はい)
認めたのに指圧がまた強くなった。痛い。が、流石の僕も悪気がなかった分しょんぼりしてしまう。
……そうだよね、これじゃいくら待ってもラック達が駆けつけてこないわけだよね。ごめんね役立たずな男とか、そんなんだから振られるんだよざまぁとか、失望されてしまえって思って。
……やっぱりここは僕が動かなくちゃいけない。今ラック達も誰もこの山に入って来られない状況だし、結界を解いたとしてもツキさんを探してそこに行くまでにも時間がかかる。なら、ここでグダグダ考えているより僕が動いて颯爽とツキさんを助けてラックに引き渡そう。そうすればこの鬼も元通りのツキさん馬鹿に戻るはずだし。
……よし! それで行こう!! そうとなればこの鬼に手を離してもらわないと。いつまで人の顔面掴んでるつもりなのかな!?
「こにょ手をはにゃひて! ツキひゃんを助けにいかひゃいと!」(この手を離して! ツキさんを助けに行かないと!)
「あ゛あ!? だから結界解けつってんだろ! てめぇの気配がデカすぎてツキの居場所がわかんねぇんだよ!! 気ぃ抜きゃ俺まで戻されそうだし、それができねぇんならツキんとこまで俺を連れて行け!! 今すぐに!! お前なら飛べんだろ!!!」
ラックが語気を荒らげ切羽詰まるように叫ぶ。
……ん? あ、そっか。僕がこのまま直接この鬼をツキさんの所まで連れて行くのもアリなのか。……ん? 鬼?
「ありぇ!? りゃっくひゃんでひゃまんにゃかひゃいってこれひぇるの!?」(あれ!? ラックなんで山ん中入って来れてるの!?)
「…………」
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