不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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141.不幸っすけど幸せっすよ   

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「ツキさん」


「は、はいっす!」


 女神様が場に漂う微妙な空気を断ち切るよう、真剣な眼差しで俺の名を呼んだ。俺も涙を拭って慌てて立ち上がった。


「あなたの過去は全て知っています。……わたくし達の力は過ぎれば人にとって厄となります。そのため、先程私は人へと祝福として力を渡すことがあると言いましたが、それを施した時点で渡した力は私達とは切り離され、その方のものになります。神の力と言えば同じなのですが、少し違う、その方の身にあった力へと変化するのです。ですが、ツキさんの力は宿った経緯が経緯なだけにそうはならず、フレイが持つ力をそのまま持ってしまっていた状態となります。そのために、あなただけではなく、周りにまで被害が及ぶことになってしまいました。……竜に関しても普段人が寄りもつかない僻地に存在するようなものが急にあなた方の前に現れたのは、ツキさんの中にあるフレイの力に惹かれやって来たのでしょう。……私達の不手際のせいで、本来ならせずに済んだ辛い思いを多くさせてしまい、申し訳ありませんでした」


「……ツキさんごめんなさい」


「……!?」


 ……お、俺、今神様に謝られるってすごい体験してるっすよね……。


 フレイ君はすごく沈痛な面持ちをしている。俺はボスやレト兄達を見た。そして、フレイ君へと顔を戻す。……俺はずっと自分の体質が嫌いで怖かった。だけど――


「……大丈夫っすよ。謝罪は受け取ったっす! 女神様もフレイ君も恨んだりなんかしないっすし逆にフレイ君には……そうっすね、ちょっと感謝してるくらいっすから」


「「え?」」


 驚いて目を丸くする姿は流石姉弟、よく似ている。


「……んな簡単に許して良いのかツキ。フレイの奴は何発か殴っても良いんじゃねぇか? いいよな?」


 俺の側に来たボスがそんなことを言い、女神様へと確認するよう問いかけた。


 多分それはボスがフレイ君を殴りたいだけだと思うっす。


 だが、そうして尋ねたボスに女神様は頷いてしまった。


「本来ならば神に手を出すなどもってのほかですが、フレイはお好きにどうぞ」


「ひっ!? 姉さっ――……」


 女神様に何か言おうとするフレイ君。だがすぐに諦めたように項垂れてしまった。


 女神様、めちゃくちゃフレイ君に怒ってるっすね……。


 その様子に苦笑しつつ、俺は首を横に振った。


「殴らないっすよ。確かに両親には捨てられちゃったっすし、奴隷狩りに捕まって一人ぼっちで飼われちゃって痛いことも辛いことも苦しいこともすっごくいっぱいあったっすけど……俺思い出したんっすよ!」


「思い出した?」


「はいっす!」


 満面の笑みでボスへと頷く。


『ツキごめんなさい。ごめんなさいっ。私達のこといくらでも恨んでもいいわ』


『だからどうか生きてっ……幸せになってくれ』


「って両親が言ってたの思い出したんっすよね~」


「……それは……」


「「「ツキ……」」」


 ボスもフレイ君もレト兄もモー達もみんな難しい顔をする。わかっている。たぶんボス達はそれは両親が自分達の罪悪感を軽くするためだろうとか結局は捨てたとかそんなことを思っているのだろう。でも――


「泣いてたっすからね……」


 自分の両手を見下ろした。


 手を繋ぎながら前を歩く二人はずっと泣いていた。あれが俺を捨てる罪悪感やその罪から逃れるためだとしても、あの涙の中にはきっと俺と離れるために流した涙もあった。両親と過ごした記憶はもうほとんど薄れさってしまっている。だが、それでも確信できるほどに俺は――


「……俺はちゃんと両親に愛されてたっす」


 住んでいた村では両親が周りから俺のことで色々と言われ、意地悪をされていたのを知っている。何度も何度も謝って庇ってくれていた姿を覚えている。お腹にできた命を前に両親が何度も話して泣いて悩んでいた姿を知っている。そして……何度も抱きしめられたのだって覚えているのだ。昔のことで、子どもの頃の記憶でどれだけ記憶が薄れ、忘れ去れていってしまうものであっても、決して忘れられない記憶気持ちも確かに存在するのだ。
 

「……女神様、フレイ君。俺、今すっごく幸せっすよ?」


 緩む頬に、両手を当てる。


「俺、両親にたくさん愛してもらってたっす。今もボスに、仲間達にたくさん愛されてるっす。不幸なのに、俺ずっと幸せに囲まれてるんっすよ?」


 俺は自分の体質が嫌いで怖い。だが憎んではいない。新たに知ったモー達の真実に心が痛むも、同時にみんなの優しさに触れ、嬉しさが溢れ出す。……こんな俺なのにずっと俺のためにを考え、俺と一緒にいてくれる覚悟を決めてたくさんの愛情を注いでくれた、優しく、頼もしい俺の大切な家族達。そして、そんな家族達以上に俺のことを考え、側にい、愛し続けてくれているボス。そんなボスとも俺は恋人同士になれた。お嫁さんという夢が叶うまで後一歩だ! ……俺はずっと幸せなのだ。こんな現実に文句などあるはずがない。それどころか――


「俺はフレイ君にはありがとうしかないっすよ!」


 こんな最高なボスに、家族達に出会わせてくれたんっすから!


「ツキさん……」


「……ツキ……そうか。なら俺がどうこう口出すのは違うな。いや、俺もフレイには礼を言った方がいいのか? ツキと出会えたことは俺にとっても幸運だったからな」


「ふふん♪」


 ニッと笑ったあと、ボスが俺を抱き寄せちゅっちゅっと頭にキスを落としてくる。そんなボスの胸に頭を預けクスクスと甘えた。


「「「止めてぇ……」」」


 流石のモージーズーも弱々しくそう言うだけで止めようとはしてこない。


「……そうですか。こちらこそありがとうございます」


「~っありがとう」


 ボスとクスクス笑っていると、女神様はホッと肩を落として微笑み、フレイ君は泣きながらお礼を言った。


 みんなありがとうばっかっすね!  ……あ!


「ボスちょっとストップっす!」


「ぐっっ……なんだよ」


 そうだと思い出し、ボスの顎を手のひらで押しやる。そうすればすかさずモー達の「「「……よし!」」」との声。


「てめぇら……」


「あ、あの女神様。一つ質問いいっすか?」


「ええ。大丈夫ですよ」


「え、えと、あの、ちょっと思い出したんっすけど……初めにフレイ君に俺の力を回収するっていう話してたっすよね?」


「していましたね」


「! じゃ、じゃあ俺の不幸体質って……」


 今の俺はまたフレイ君に体質を抑えてもらっている状態なのだ。完全な封印ではなく抑えてる状態。やはりそう簡単には受け入れ、ボスといちゃいちゃはできないため、徐々に解放していき慣れていこうという話になったのだ。力の封印の加減もフレイ君は操作できると言うし、もう無闇矢鱈に解放しないと約束してくれたためこういった方針になったのだ。……だが、今までの話を聞くにもしかしてのもしかして? と、期待を込めつつチラッと女神様を見た。自分の体質を憎んではいない。だが、ないのならないの方がいい。


 女神様はクスリと笑う。


「ええ治りますよ」


「! ほ、本当っすか!?」


「「「「おお!」」」」



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