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3.ヨルトside
15.間違えない
しおりを挟む「まぁ、それにしても奥様が歩み寄って来てくれてよかったな」
「…ああ」
私が彼女と向き合うことを恐れ、逃げて手をこまねいて何もできないでいた時、彼女の方から私に歩み寄って来てくれた。まだ多少のぎこちなさはあるものの結婚当初の独りよがりな時間より今の彼女と過ごしている時間はとても尊く、心満たされる時間だった。
だがまさか…
「……まさかあれが照れていただけだったとは…」
…初めてローレン達から話を聞いた時は到底信じられなかった。そこまで彼女に好かれている自信など全くなかったからな。そして、私が彼女から逃げていたことで彼女は自分に飽きたのだと勘違いして悲しんでいたとはつゆほども思わず、ただの彼らの慰めの言葉だと思っていた。
私は彼女と向き合うことから逃げていたのに、顔を真っ赤に染めながらでも必死に私に言葉をかけて来てくれる姿にはとても心打たれた。そして、よく顔を下に向けそうになっているがその顔を赤く染め、目に涙を溜めながらでも必死に私の目を見て言葉を伝えようとする姿にどれだけ自分が愚かだったのかがわかった。
自分の気持ちを押し付けない。彼女に愛される努力をしようと決めたのに私はまだ彼女自身を見ようとしていなかったことに気がついた。
確かに彼女は初め恥ずかしいからやめて欲しいとよく口にしていたではないか。それを口に出さなくなったことで受け入れられたのだと勝手に勘違いをして彼女を困らせていた。それによく見ようとしていれば彼女の顔が赤くなっている事にも気づけたかもしれない。手を繋ごうとして彼女が声を上げた時もその後、彼女は何かをしようと私に手を伸ばしてくれていたではないか。自分の思い込みに囚われ何も彼女のことを見ようとしていなかった。
「それであの件はどうされますか?」
「使用人の方は解雇でよろしいですよね?」
「ああ、それでいい。あいつにはもう1度念を押して忠告しておけ。2度とこの屋敷には近づくなとな。それでも来るようならどんな手を使ってもいいから追い出せ」
「よろしいのですか?」
「ああ。幼馴染のよしみとして今まで大目に見てきたがユユへの態度は許容できない。他にもあいつの息がかかった者がいないかを調べておいてくれ。私の知らぬ間にユユに変なちょっかいを出されないためにもな」
ユユに話を聞くとラン達がいない隙にロゼリアが彼女へと接触していたことが何度かあったそうだ。そして私とロゼリアとの仲について有る事無い事吹聴していた。そのせいでユユに私とロゼリアが深い仲だという不名誉な誤解をされてしまった。その分、今の可愛いユユを見ることができてはいるが、本当に面倒なことしかしない奴だ。
「ロゼリア様もいい加減ヨルトのこと諦めればいいのにな~。何でまだ諦めてねぇんだろ?」
「それだけ自分に自信があるのでは?」
「昔から何事も自分が1番だと考えているお方なので」
「…何度も伝えているのだがな」
「たぶん照れていらっしゃるんだと思っているんですよ」
「旦那様が結婚の準備をしてきた時も何故か自分がその相手だと思い込んでいたようですし。普通に考えれば違うと分かるのですがね」
「全くだ」
私がユユと結婚すると決まった時のロゼリアの抗議はすごかったからな…。
「とりあえず今は、今まで以上にロゼリアがユユに近づかないように徹底して、他の奴らにも馬鹿なことをしないように目を光らせておけ」
「「「了解しました」」」
もしこれでも言うことを聞かず、またいらぬちょっかいを出してくるようであれば絶対に許さない。
「あと奥様のことは…」
「それは…今はそっとしておいてやれ」
「いいのかよ?ヨルト」
「ああ。何か言い辛い理由があるようだしな」
「「ですが…」」
ユユの涙の原因。何か理由がありそうだが今はそっとしておくのが1番だろう。彼女自身も何か混乱しているようだったしな。
「別に放置しておくつもりはない。彼女の様子を見る限り何かあったことは間違いないだろうが、今は見守っておく事にしよう。今日の様子を見る限りまだ大丈夫そうだったしな。だが、もしユユが私達に何か助けを求めてきた時は全力で力になるぞ」
「そうだな」「「そうですね」」
彼女にどんな隠し事があるのかわからない。それが私達に言えない事なら彼女に危険がない限りは見守っておこう。
今度こそはもう間違えない。
せっかく彼女が歩み寄って来てくれたんだ。このチャンスを逃しはしない。彼女としっかりと向き合う。彼女の笑顔を守る為にも早々に邪魔となる者は排除しなければな。
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