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二章
五十話
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ガクガクブルブル。
やばいやばい。どどど、どーしよ。
「ごめんなさい……」
誠心誠意謝る。そしてササッ。お山から離れる。
背を向け隅で体育座り。万策尽きた。
……いや、そもそもノープラン。女の子同士だからと調子に乗りまくった末路。
〝変態さんなのね〟この言葉が脳裏を駆け巡る。
変態さん。変態さん。変態さん。
変態さん……変態さん……。へんた……い。
ドクンドクンドクンドクン。
哀れなチワワ。理由を付けてはクンクンした。
無自覚なボディタッチに託けて、クンクンツンツンスリスリムニムニを正当化してた。
単なる欲望。抑えきれない衝動。
その正体は〝変態さん〟だったんだ。
情けない。生存ルート確保だの、チロルちゃんを救いたいだの言っておきながら、やってる事は変態さんに他ならない。
──消えちゃいたい。もう、消えちゃいたいよ。
「あのね、気にしてないから大丈夫よ? そんな些細な事……はぁ。気にしてどうするのよ? 神話等級の魔法に選ばれ、この世界に存在しているのだから、もっと胸を張りなさい!」
些細な事……? 男なんだよ? おっさんなんだよ?
騙されるな。哀れんで同情してくれているだけだ。
同情してしてしまうほど、哀れって事だ。
「おいで! アヤノちゃん!」
両手を広げOPENの体勢。
──わかってる。これは同情。
しかし身体は正直だ。
吸い込まれる。まるでブラックホール。
気付いたら勝手に……
「ワオーーンッッ!」
バサッ。むぎゅむぎゅむにー。
──飛び込んでいた。
「良い子。意固地になって無理しちゃダメよ? 好きにしていいんだからね。今は……ね」
お姉さん……お姉さん……同情だとわかってる。
けど、もうダメだ。抑えられない。
「クンクンクン。ぺろっぺろっ!」
首筋から垂れる汗。
「あははっ、ほんと変態さんね!」
不思議だ。変態さんと言われると胸がきゅんっとなる。心の壁にヒビが入るのを感じる。
全てを包み込むお姉さんの極地。
大人の余裕。フェロモンと母性が織り成す年上女子の包容力。ハーモニー。
あぁ、なんて心地が良いんだ。
心に刻まれた罪も何もかも全てを包み込んでくれる。
悪い事なんてしていない。後ろめたい事もない。
そう、この温もりには全てを肯定してくれる優しさが詰まっている。浄化されていく。
むぎゅむにペロッ!
むぎゅむにペロッ!
──これが年上の包容力ッ!
◇◆
「アヤノちゃん。お楽しみのところ悪いけど……よく聞いて。もうじき、今のわたしは居なくなる。そうなったら……くっつくのは暫くおあずけ。いいわね?」
そう。この時間は限定的。
最初から時間が無いとお姉さんは言っていた。
「大丈夫っ。たくさんむぎゅむにした。元気満タンだよっ!! でも……もう少しだけ。時間の許す限り……最後の時まで……良い……?」
「もうっ。あたりまえじゃない! 好きにしていいのよ?」
夢中にむぎゅぺろした。がむしゃらに……時間が許される限り。
──ポタッ。
汗だと思いペロッていたそれが、涙だと気付くのに時間は掛からなかった。
「ごめんなさい。なにかしらこれは……そうね……。うん、不思議ね……今のこの気持ち。時間が無かった事になるのって、……死んじゃうみたいで……」
結局は……ひとりよがりだった。
時間にして十分前の自分に戻る。
それはつまり、今、この瞬間を生きている彼女は死ぬのと大差ない。
「人の領域で神話級魔法に干渉した。当然の罪。死ぬ訳じゃないのよ。そういう意味では優しい魔法。神話級魔法は世界の理を覆すとも言われている。その一片に人として干渉出来た。魔法使いとして誇るべき事。自慢出来るわねっ! って覚えてないのよね……あははっ」
お姉さん……無理しないで。
魔法名を俺は知っている。でもそれだけ。当人のチロルちゃんですら何も知らない。けど、
「その神話級魔法は※※※※※※※※※※……あ……れ?」
言葉にならない。
「※※※※※※※※※※」
世界が一瞬歪むような感覚。なにこれ……?
「アヤノちゃんは魔法名がわかるのね。でもね、干渉出来ないのよ。今のわたしは世界の理からズレちゃってるから、ノイズとして認識出来る。それだけでも奇跡よ。本来、干渉出来ないから」
「ごめん……ごめん……どうする事も出来ない……」
「気を遣わせてしまったわね。一番辛いのはアヤノちゃんのはずなのに……」
辛い事なんて何もない。毎日パラダイスだった。
俺は死のうが生きようが……クンクンむにむにしていただけだ。
「もう二度と、神秘の泉は使わせないから……お姉さん……ごめん」
「アヤノちゃん。泣かないで。記憶は無くなる。でもね、想いは残せるかもしれない。さっきも言ったけど、この魔法は優しいのよ」
◇
ひんやりと左背後が涼しくなるを感じた。
《氷結ッ! サムジェルドアート》
──魔法……?
「お姉さん、これは……?」
「はぁはぁ。解けない氷のアートよ。消えて欲しくないな……多分、きっと……収束される過程で消えちゃうと思うけど……これがわたしの想い。負けないでねアヤノちゃん……」
手渡されたそれは……フィギュアだった。
お姉さんと俺が幸せそうに抱き合っている。
想いって……。
「お姉さん……お姉さん……お姉さん?!」
もう、声が届く様子はない。
魔法を使った途端に息が荒くなり、静かに眠るように……。
──そして、ジャスミン姉さんだけが大きく歪み、あの時に戻ったようだった。
神秘の泉から目覚めるその時に。
やばいやばい。どどど、どーしよ。
「ごめんなさい……」
誠心誠意謝る。そしてササッ。お山から離れる。
背を向け隅で体育座り。万策尽きた。
……いや、そもそもノープラン。女の子同士だからと調子に乗りまくった末路。
〝変態さんなのね〟この言葉が脳裏を駆け巡る。
変態さん。変態さん。変態さん。
変態さん……変態さん……。へんた……い。
ドクンドクンドクンドクン。
哀れなチワワ。理由を付けてはクンクンした。
無自覚なボディタッチに託けて、クンクンツンツンスリスリムニムニを正当化してた。
単なる欲望。抑えきれない衝動。
その正体は〝変態さん〟だったんだ。
情けない。生存ルート確保だの、チロルちゃんを救いたいだの言っておきながら、やってる事は変態さんに他ならない。
──消えちゃいたい。もう、消えちゃいたいよ。
「あのね、気にしてないから大丈夫よ? そんな些細な事……はぁ。気にしてどうするのよ? 神話等級の魔法に選ばれ、この世界に存在しているのだから、もっと胸を張りなさい!」
些細な事……? 男なんだよ? おっさんなんだよ?
騙されるな。哀れんで同情してくれているだけだ。
同情してしてしまうほど、哀れって事だ。
「おいで! アヤノちゃん!」
両手を広げOPENの体勢。
──わかってる。これは同情。
しかし身体は正直だ。
吸い込まれる。まるでブラックホール。
気付いたら勝手に……
「ワオーーンッッ!」
バサッ。むぎゅむぎゅむにー。
──飛び込んでいた。
「良い子。意固地になって無理しちゃダメよ? 好きにしていいんだからね。今は……ね」
お姉さん……お姉さん……同情だとわかってる。
けど、もうダメだ。抑えられない。
「クンクンクン。ぺろっぺろっ!」
首筋から垂れる汗。
「あははっ、ほんと変態さんね!」
不思議だ。変態さんと言われると胸がきゅんっとなる。心の壁にヒビが入るのを感じる。
全てを包み込むお姉さんの極地。
大人の余裕。フェロモンと母性が織り成す年上女子の包容力。ハーモニー。
あぁ、なんて心地が良いんだ。
心に刻まれた罪も何もかも全てを包み込んでくれる。
悪い事なんてしていない。後ろめたい事もない。
そう、この温もりには全てを肯定してくれる優しさが詰まっている。浄化されていく。
むぎゅむにペロッ!
むぎゅむにペロッ!
──これが年上の包容力ッ!
◇◆
「アヤノちゃん。お楽しみのところ悪いけど……よく聞いて。もうじき、今のわたしは居なくなる。そうなったら……くっつくのは暫くおあずけ。いいわね?」
そう。この時間は限定的。
最初から時間が無いとお姉さんは言っていた。
「大丈夫っ。たくさんむぎゅむにした。元気満タンだよっ!! でも……もう少しだけ。時間の許す限り……最後の時まで……良い……?」
「もうっ。あたりまえじゃない! 好きにしていいのよ?」
夢中にむぎゅぺろした。がむしゃらに……時間が許される限り。
──ポタッ。
汗だと思いペロッていたそれが、涙だと気付くのに時間は掛からなかった。
「ごめんなさい。なにかしらこれは……そうね……。うん、不思議ね……今のこの気持ち。時間が無かった事になるのって、……死んじゃうみたいで……」
結局は……ひとりよがりだった。
時間にして十分前の自分に戻る。
それはつまり、今、この瞬間を生きている彼女は死ぬのと大差ない。
「人の領域で神話級魔法に干渉した。当然の罪。死ぬ訳じゃないのよ。そういう意味では優しい魔法。神話級魔法は世界の理を覆すとも言われている。その一片に人として干渉出来た。魔法使いとして誇るべき事。自慢出来るわねっ! って覚えてないのよね……あははっ」
お姉さん……無理しないで。
魔法名を俺は知っている。でもそれだけ。当人のチロルちゃんですら何も知らない。けど、
「その神話級魔法は※※※※※※※※※※……あ……れ?」
言葉にならない。
「※※※※※※※※※※」
世界が一瞬歪むような感覚。なにこれ……?
「アヤノちゃんは魔法名がわかるのね。でもね、干渉出来ないのよ。今のわたしは世界の理からズレちゃってるから、ノイズとして認識出来る。それだけでも奇跡よ。本来、干渉出来ないから」
「ごめん……ごめん……どうする事も出来ない……」
「気を遣わせてしまったわね。一番辛いのはアヤノちゃんのはずなのに……」
辛い事なんて何もない。毎日パラダイスだった。
俺は死のうが生きようが……クンクンむにむにしていただけだ。
「もう二度と、神秘の泉は使わせないから……お姉さん……ごめん」
「アヤノちゃん。泣かないで。記憶は無くなる。でもね、想いは残せるかもしれない。さっきも言ったけど、この魔法は優しいのよ」
◇
ひんやりと左背後が涼しくなるを感じた。
《氷結ッ! サムジェルドアート》
──魔法……?
「お姉さん、これは……?」
「はぁはぁ。解けない氷のアートよ。消えて欲しくないな……多分、きっと……収束される過程で消えちゃうと思うけど……これがわたしの想い。負けないでねアヤノちゃん……」
手渡されたそれは……フィギュアだった。
お姉さんと俺が幸せそうに抱き合っている。
想いって……。
「お姉さん……お姉さん……お姉さん?!」
もう、声が届く様子はない。
魔法を使った途端に息が荒くなり、静かに眠るように……。
──そして、ジャスミン姉さんだけが大きく歪み、あの時に戻ったようだった。
神秘の泉から目覚めるその時に。
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