ねえねえ、あのねあのね、聞いて‼︎ わたしの右手にはね、邪神龍が眠ってるの! ガォー!

おひるね

文字の大きさ
6 / 18

6

しおりを挟む

「その格好で行くつもりなのか? カンカン帽はどうした?」

 これから二人で遊園地に出掛けるのだが……。カリンは部屋着のまま出掛けようとしたのだ。さすがの俺も、これには驚きを隠せなかった。

「いいよ。ジャージにキャップで。動きやすいし」
 
 確かに……そう言われると、そうだけど……。

 思えばここ最近、カリンが私服に着替えてる姿は殆ど見てない。いや、一切見てない。ジャージだった。図書館に行くのもジャージだった。

 いつだって、ジャージ……だった。

 服装にはこだわりを持っているお洒落な子だったのに……。

 学校に行かないと決めたから、無頓着になってしまったのかな……。

 でも。カリンがそれを望むなら……お兄ちゃんは……いいよ。な、なにも言うまい。遊園地に一緒に行けるだけで……いい。

「あー、もう。わかった。着替えるよ。カンカン帽も被るよ。だからそんな顔しないでよ。ほんとお兄ちゃんってわたしのこと大好きだよね」

「残暑で日差しが強いから……な」

「はいはい。そういうことにしといてあげる。じゃあちょっと待ってて。可愛くおめかししてくるから」

「……お、おう」

 なんだろ。一瞬、ドキッとしてしまった。シチュエーションってやつだろうか。

 九歳にしては妙に精神年齢高くなったよなあ。
 僅か一カ月でこれだ。神話系の書物ってすごいんだな。

 ◇
「はい。これでいい? こういうのが好きなんでしょ? まったく。お兄ちゃんは仕方ないんだから」

 白の膝丈ワンピースにカンカン帽。

 なんだか心が擽ったくなるな。

 でも、久々に見るカリンの私服姿は、昔に戻ったようで懐かしい気持ちになった。

 ◇◇◇
 外見は昔に戻っても、中身は変わらず厨二病なカリン全開だった。

「し、身長制限だと? おのれ、わたしを愚弄するか!」

「わぁーわぁー、はいはいカリン! 別の乗り物乗ろうねぇ!」

 すみませんすみませんごめんなさいと。受付、順番待ちの人たちに謝り、その場を速やかに立ち去った。

「つまんない。全然乗り物乗れないし」

 さっきから絶叫系ばかり乗りたがる。

 しかし尽く身長制限。
 どうせ乗れないのをわかっててやってるんだろうな。じゃないと十八歳設定のつじつまが合わないから。

 まったく。この子は。とは思いつつも、精一杯に厨二病を演じている等身大のカリンのことが、可愛くて仕方なかったりもする。

「まあまあ、そう言わずにさ。コーヒーカップ乗ろうぜ! カリンこれ大好きだったろ? 昔の記憶を思い出してみなよ!」

 ちゃんとカリンの落とし所も忘れずにっと。
 中二病設定との付き合い方、熟知しつつある今日この頃。

「……コーヒーカップ。……あれか。うん。乗ってみる」

 順番が来ると、お目当のコーヒーカップを決めていたようで、パンダをモチーフに作られたコーヒーカップまで一直線に走り出した。

「お兄ちゃんこっちこっち!」
「お、おう!」

 こういうところはやっぱり九歳だよなぁ。まったくもう!

「ふむ。パンダさん。悪くはないな。このくるくる回る感じ。夢見心地のいい気分だ」

 楽しそうで何より。
 遊園地、来て正解だったな!

 ◇
「ほう。ペガサスか」

「おっ、次はメリーゴーランドに乗りたいのか?」

「別に。ヴァルハラでペガサスを見掛けた時を懐かしんでただけだし」

 そう言えば以前も言ってたな。
 ヴァルハラ……。そんなところにペガサスが居るのか。……ちょっとそれは、違うような……。ま。いいか。

「その時は乗れたのか?」

 カリンはため息混じりに首を横に振った。

「天界とは敵対関係にあったから。そもそもわたしはイザベラを憎んでやまない。とは言え、あの日あの時あの瞬間。わたしを召喚して祝福した時点で、やつの命運も尽きていたと思うと、哀れで滑稽だけどな」

 うん。とりあえず、メリーゴーランドの白馬に乗りたいってことだよね!

「じゃあ乗ろうぜ! ほら、カリンこっちこっち」

「な、なぜそうなる? ま、まあ……お兄ちゃんがそこまで言うなら仕方ない」

 ちょっとツンデレ入っちゃってるよなぁ。
 そんなカリンも、お兄ちゃんは受け入れるけどな!

「おお! ペガサス号! 悪くない乗り心地だぁ! ほら、異世界を救った英雄だぞ。もっと楽しませろ!」

 お姫様も入っちゃってるなぁ。
 カリンのわがままならなんでも聞いちゃうけど!

 ◇
「ほーらカリン。ソフトクリームだぞ!」

「お兄ちゃんはすぐそうやって子供扱いするんだから」

「食べないならお兄ちゃんが食べちゃうぞ~」

「……っっ。食べないなんて。そ、そんな事は一言もいってない!」

 パクッ。

「美味しい。今日は、雨降らないよね」
「あぁ、降らないぞ! 一日中晴天。残暑の厳しい日になるでしょうって天気予報で言ってた」

「そっか。なら良かった。……次、あれ乗りたい」

 そう言うと、カリンは俺の手を引いた。

 久しぶりにカリンと手を繋いだ気がする。
 一歩、また一歩。ゆっくりだけど、あの頃に戻れているような、そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...