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3話
しおりを挟む妖精さんの姿は俺にしか見えない。会話は基本、テレパシー『』だ。
◆
『やるぞリク!!』
『はぁ……』
俺はこれから大好きな秋月さんに声を掛けられる。
なんて事のない朝の挨拶だ。
その挨拶を振り払い素っ気なくするのだからため息も出る。
時を繰り返す事、およそ10年。いや20年。それ以上だろうか。もう、覚えていない。気付けば俺と妖精さんは家族のようになっていた。
鍵っ子の上に父子家庭。加えて一人っ子。
もし姉や母が居たらこんな感じなのだろうか。
──俺たちは繰り返す時の中、最適解を幾度となく追求、選択した。
そして気付いた。男としての決定的な一打が足らない事に。
優しさだけでは秋月さんを口説けなかったんだ。
あの時ああしていれば。こうしていれば。チャンスさえあれば! と本気で思っていた。
つまるところ……友達止まり。
──そしていま、新たな試みに挑戦している。
プラン名
〝押してダメなら引いてみろ!〟
昨晩、自分で連絡をしておきながら、既読無視をした。
時には血反吐を吐き、時にはスマホを壊し、数え切れないほどタイムリープをした。
たかが既読無視。されど既読無視。
行き詰まった恋愛へのスパイスとしては常套手段と妖精さんは言った。
〝既読無視〟を遂行し、俺は今この場に居る!!
『今のペースで歩いてあと60秒後じゃぞ。ええな? 覚悟を決めろ』
『わかってる。やるよ』
予め建てたプランの実行に入る。
タタッタタタタッ
来る。秋月さんが来る……来た!!
通学路にしてはお洒落な並木道。
この道に名前を付けるとしたら〝秋月ロード〟が相応しいだろう。
何千回と繰り返したかわからない。人の動きやそれも当たり前の風景となり全てがモノクロに映る。
それでも秋月さん……君だけはいつだって輝いている。繰り返した分だけ想いは募った。
「やのっちおっはよー!」
軽快なステップと共にパーンッと背中を叩かれた。ノリノリだぁ!
あぁ、おはようございます秋月さん!!
心の中で精一杯の挨拶。
「うっす」
「じーー。あっれー? 不機嫌さんなのかなぁ?」
秋月さんが左肩から顔を覗き込んでくる。ち、近い……幸せ過ぎる。
「めっずらしい……よぉーっし」
そう言うと拳を突き出し深呼吸した。
ま、まさかこのポーズは?
「えいえい! えいえい!」
で、でた! でてしまった!!
謎の空手ポーズ! 秋月さん十八番の正拳突きだ!
しかもこの構えは……伝承四節、第五項!
〝笑顔の正拳突き!!〟
くそッ……可愛過ぎるッ!!
「ほらぁ! やのっち! えいえい! えいえい!」
…………。も、もうダメだ。我慢できない。
「えいえい! えいえい!」
頭ではわかっていても、心が体が……誰が俺の正拳突きを止められると言うのだ!
「「えいえい! えいえい!」」
「やったぁ! 元気になったぁ!」
時間にして三十秒ほどだろうか。二人並んで仲良く正拳突きをした。最高に幸せな時間でした。
俺が元気を取り戻したと思ったのかニコッと笑いタタタタッと前進した。
あぁ、もうさよならか。一緒に登校する仲ではないもんな。そんな事を思っていたら、
振り向きざまにグーポーズが飛んできた!!
「えへへ~!」
なんだこれ。め、女神様!!
この笑顔とこの演出は初めてだ。これが既読無視の効果なのか!!
『すごいっ! すごいよ妖精さん! 既読無視パない!!』
『あほじゃ。やり直しじゃ』
妖精さんは呆れた様子で過去に戻る為〝指パッチン〟をした。
〝パチンッ。〟
この後、俺は何度もやり直した。しかし謎の空手ポーズの前に惨敗。
『妖精さん! 次こそ、次こそ!』
『もうええ、何回目だと思っとるんじゃ。空手ポーズを見たいだけじゃろ』
〝だけ〟と言われると言い返したくもなるが、妖精さんの呆れ顔を見るともはや言葉は出ない。
『やはりプランを変えるしか』
プランの破綻は明白だ。
血反吐を吐きながら遂行した、昨晩の既読無視もパァ。
本来落ち込むべき場面だが、今の俺は空手ポーズで満たされていた。秋月さん……君は俺の太陽だ!!
〝パチンッ〟
──俺たちは過去に戻った。
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