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55話
しおりを挟む『この超絶美人の清楚系お姉さんは……うむ。胸は普通だな』
『ちょっ、そういうのはやめてくれ』
『いや、パッドを入れてこれなら普通以下じゃな。ぺっ』
妖精さんのチェックが入る。どれどれと店長の周りを舐め回すように飛び回り、結果は〝ぺっ〟と吐き捨て終わった。これでは胸で判定してるようにしか見えないのだが……。
『まぁ、草原の美女ってところじゃな。ぺっ』
どうやら妖精さんの好みでは無さそうです。
「どうした、続きを書きなさい」
履歴書作成の催促を受けてしまった。「ほらここ」と、住所を人差し指でトントンしている。ここを書いてしまったら、もう逃げられない気がする。
──待て。名前を書いただけだ。順番がおかしいぞ。
生年月日や性別、先に書くべきところはある。
こ、この女。侮れない!!
「書き方がわからないのかな? しょうがない。楓さんが教えてやろう」
立ち上がり俺の左横に座ってしまった。ソファーが沈み、距離がつまる。さらに左脚を組んだ。
俺は少しだけ右に体重を移動させ凌ぐ。
『あ、今、チラ見したじゃろ?』
『す、するわけないだろ!』
『やはり。少しづつ女を見るようになってきてるのか。二見ちゃんの影響じゃな』
何を言ってるんだ? そんな事あるわけないだろ。秋月さんとちほ以外はミジンコだ!!
但し、ちずるちゃんとママさんは除く!!
「いい目だなぁ。いちごちゃんは本当にいい目をしている」
少し悲しげに俺の目を見つめてくる。近い。──もう意味がわからない。
「時給は通常クルーの二倍出そう。どうかな?」
隣に座る店長さんの手は俺の太ももに置かれていた。
これは、なんて言う必殺技ですか?
聞き間違えだろうか。二倍と言ったのか? ありえないだろ。信じる阿保が何処に居るんだよ。
『よーし、決まりだ! リクここで働こう! 働くんだ!!』
──はい。ここに居ました。
いや、待て。待てよ。
妖精さんを宥め、店長にいくつか質問する事にした。
◆
「どうして俺なんですか?」
「……。止ん事なき事情でな。男クルーが不足している」
俺の太ももに置く手にほんの少し力が入る。
「事情を聞かない事には答えられませんよ」
「時給二倍だぞ? 一般クルーは950円だから、1900円って事なのだが。ダメか?」
「やります!!」
短くキリッと返事をした。1900円とハッキリ言い切った。にわかに信じられないが、言質は取った。これは本当のやつだ!
「そうかそうかありがとう!」と太ももをゆっくりとスリスリされた。
何処となく甘い感じも漂う。
「君は、こんなに近くで、こんなにも綺麗なお姉さんに太ももを触られてなんとも思わないのか?」
店長ぉぉ!! 何を自分で言い出してるんですか。
この人、やっぱりちょっとおかしいのでは?
疑問たっぷりの顔つきで、おまけに手まで握られてしまった。ソファーはさらに沈み、必然的に寄り添う体勢に……。
「もしかして、ノンケか?」
「いえ、彼女がいるので」
「いやいや、それとこれとは別だろう?」
なんなのこの人?! 太ももスリスリするのもそろそろやめてください。
『カカカ! リクには1ミリも気などないから安心せい。からかわれてるだけじゃ』
『ならいいんだけど』
良かった。妖精さんが居て。俺一人だったら逃げ出していた。
例え冗談でも、ちほがこの状況を見たらどう思うのだろう。…………絶対やばい。
でも1900円。
これだけあればちほと色んな所に行ける。
時給二倍、思い出二倍。
妖精さんだって食べ放題だ!!
◆
店長にからかわれる事、およそ10分。ようやく攻撃は終了した。
「見込み通り! いちごちゃん、君は合格だ!」
えっこれ面接だったの? ここに来る前に採用って言ってなかった?! 履歴書もまだ途中ですけど?
済し崩し的にNOと言わせない猛追。
なんだか騙されてるような気がするのは、気のせいだろうか……。
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