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54話
しおりを挟むテーブルを挟むようにソファーが置かれ、デスクが一つ。ロッカーも一つだけ。隅には観葉植物。何もない部屋。けれども、お洒落な雰囲気が漂っている。
そして、何故かテーブルの上にはお皿に盛られたイチゴ。
俺と店長は対面するようにソファーに腰をかけている。当然、イチゴの皿は俺の目の前だ。
「いちごちゃん。遠慮はいらんぞ~!」
脚を組み、頬をつき、ニコニコしながら俺を真っ直ぐみてくる。組んでいる脚をぶらぶらさせながら。
さぁ、召し上がれ。ペットに餌でも与えている様に感じるのは気のせいだろうか?
事務所に案内されるや否やこれだ。謎はますます深まる。このイチゴはなに?! 別に食べたくないんだけど!
固まる俺を見かねてか「あっ、そっか!」と、店長は何やら思い立ったように部屋から出て行った。
『もう今日は食べられんよ。テイクアウトじゃ!』
皿に盛られたこのイチゴはテイクアウト出来ません。
妖精さんの食い意地は今もなお継続中~。
ガチャンッ。
「気が利かなくて悪かったね。これが欲しかったんだよな!」
差し出されたのは〝練乳〟だった。
俺、そんなの欲しくないよ? 練乳ってなんだよ?! 甘党か!!!!
「いや、あの……」
「なんだ? 遠慮するな!」
「はい……ありがとうございます」
とりあえず食べなきゃ先へは進めなさそうだ。
もぐもぐもぐもぐ。
『おい、リク。喧嘩売っとるんか? お?』
『ちょっ、仕方ないだろ! 今度お詫びに好きなもの買ってあげるから』
『ほう。なら、駅前のケーキ屋さんのモンブラン。限定100個のやつ!』
『わかったから。とりあえず落ち着いてくれ』
『よしっ、この拳は下げよう。殴られずに済んで良かったのう!』
スッと拳をしまうその顔は満面の笑み。
この食い意地には、ほとほと呆れる。
特に食べたかった訳ではないが、出されたイチゴを完食した。
食べてる間、店長さんはニコニコしながらこちらを眺めていた。
飼い犬に餌を与える〝それ〟ではない事だけを祈ろう。
「じゃあ、履歴書を作ろうか!」
「はい?!」
いつの間に用意したのだろうか、スッと履歴書とペンが差し出された。
不思議がる俺に対して首を傾げる店長。とても意思疎通が図れてるとは思えない。根本から正さなくては。
「申し訳ないんですが、俺はここでは働く気はありません」
「ん? だから? ほら早く書いて!!」
だ、だめだ~。この人はアレだ。アレだよーー。
話通じない人だぁ。
『いや、リク。名前書けばええんじゃないか?』
『あ、そっか! いちごちゃんだと誤解されてる訳だし。妖精さんナイス!』
『カカカ! 帰りにスーパーでイチゴ! じゅるり!』
はい。わかってます。
しかし、名前を書いても眉ひとつ変える様子はなかった。それどころか「それで〝やのせ〟と読むのかぁ!」などと、興味津々。
──あの、いちごちゃんとはなんですか?
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