優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

文字の大きさ
72 / 106

72話

しおりを挟む

 ピッ、ガシャン。
 ピッ、ガシャン。

 俺は〝慰謝料〟として、最側御用達の自販機で缶ジュースメロンソーダを二本買った。

 あれだけの事をして、これで済むのだから感慨深い。


「ほらよ! これでチャラだからな!」
「どーもです先輩♪」

 さてと、俺はオレンジジュースでも買うかな。
 再度、小銭を自販機に。

 ピー、チャリンッ。

 あれ? 最側が返却レバーを下げていた。


「先輩にわぁ、今日もわたしが奢ってあげますっ!」

 先ほど慰謝料として渡した缶ジュースメロンソーダの内の一本を笑顔で差し出してきた。


 ドクン。静かに、僅かに、一瞬だが胸が高鳴るのを感じた。

 〝二本〟と言った時からこうする予定だったのか。


 最側の優しさが嬉しい反面、素直に喜べない自分がいる。バイト仲間だから。何度目かわからないこの言葉で全ての感情を打ち消す。魔法の言葉。


「こういうのさ、どこで覚えてくるの?」
「はい? ……って、それ! わたしのセリフ!!」
「ははは、まぁサンキューな!」

 真似するなぁ! と普段通りいつもの最側だったが、

 自販機の光で僅かに照らされるその姿は、先ほどまでより光って、より鮮明に見えた。

 何故だかはわからないが、景色も変わって見えた。

 ◆◇

 昨日と同じ場所。噴水と木のベンチ。

 ここは〝憩いの場〟


「じゃじゃーん! 今日はハンカチを持っているのですッ!」
 最側は可愛らしいハンカチを何故か自信有り気に取り出した。

「あ、そう」
 俺は短く返事をし直にベンチに腰を掛け、最側が腰掛けるであろう場所に自分のだっさいハンカチを敷いた。
 
「えー、なんでどーしてー? 先輩ひーどーい! なんでなんでどーしてー?!」

 軽く地団駄を踏みながら耳障りな声で「なんでなんで」と続けた。

「いや、そんな可愛らしいハンカチ汚せねーよ。それにさ、そういうのは好きな男にしろよ」
「…………。あの、先輩それ……矛盾している事にお気付きですか?」

 地団駄を辞め、何故か丁寧な言葉使いでポカーンとした表情で問いかけられる。


 ……? あ……。いやいや、ちげーよ!!


「ばっか! おまえ?! はぁ?!」
「先輩……ごめんなさい……。無理です」
「いい加減にしろよ?」
「あはっ♪」

 こ、こいつ……。
 わかっててやったな!! この野郎が!!

 手をパーにして口を押さえ、驚いた表情を見せつつもその本質はからかっているように見えた。

 最側のくせに生意気な!

 でも不思議と今日は、最側の顔や表情が良く見える。


「昨日のハンカチは洗って干して今頃は乾いていると思うので、次はこのだっさいハンカチを二枚並べて敷きましょー!」

 次って、また次もあるのか?

「別に俺は良いんだよ。乾いたのなら普通に返せ」
「嫌ですよー! だってこれじゃ……わたしがお姫様で先輩が下僕みたいじゃないですかぁー!」

 何故、そうなる? たかだかハンカチを敷くだけで何故そうなる?!

「あのな、ベンチに自分のハンカチを敷いて座るような趣味はねーの!」
「あっ!! それならぁ、今度ハンカチを買いに行きましょうっ! 先輩が座っても大丈夫なぁ、わたしのハンカチを選んで下さいッ!!」


 自信有り気に「良いこと思いついた!」と、手で餅をつくかのような仕草を見せ、とんでもない事を提案してきた。無理に決まってんだろ。だってそれは……。


「いやいや、さすがにそれは、おまえどういう意味かわかって言ってる?」
「えっ? バイト仲間じゃないですかー! それに飲み仲間でもありますしー!」

 何か問題でも? と、疑問を投げかけられた。

 確かに〝バイト仲間〟だ。やましい事なんてない。
 逆に気にする方がおかしい……のか?


「確かにそうだな。バイト仲間だもんな!」
「ですですー!!」

 最側は嬉しげに笑顔を見せると、満足そうに俺のハンカチが敷かれるベンチに腰を掛けた。

 そして今夜も缶ジュースメロンソーダで乾杯をした。


   〝〝カンッ〟〟


 ──俺は最側とハンカチを買いに行く事になった。

 〝バイト仲間〟に〝飲み仲間〟が加わり、まともな判断を欠いてしまっているのかもしれない。
 

 結局、ちほへの連絡はこの日も遅れてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...