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73話
しおりを挟む「お客様の笑顔が私たちの幸せですッ‼︎」
『もっと腰に力を入れろ! こうじゃ‼︎』
『こ、こう?』
『ちがーーう! こうじゃ‼︎』
背筋を伸ばし捻る妖精さん。
声出し、笑顔は姿勢からとの事だ。
背筋に力を入れ再度叫ぶ!
「お、お客様の笑顔が私たちの幸せですッ‼︎」
『はい噛んだ。ダメ。全然ダメ。やり直しじゃ』
──俺は今、自称バイトマスターにして自称バイトリーダーの妖精さんにS級クルーのなんたるかをご指導受けている。
〝S級クルー〟に成るべく、地獄の特訓中なのだ!!
あくまで〝自称〟なので詳細は定かではない。
妖精さんにバイト経験などあるはずないのだから……。
しかし、さすがは妖精さん。それっぽい的確な指導!
俺は一歩づつ、確実に、S級クルーに近付いている気がする!!
◆
──時刻は深夜2時を過ぎていた。
『そろそろ眠くなってきたのう。戻るか』
『はい、師匠‼︎』
『フッフッフッ。任せるのじゃ!』
妖精さんはノリノリだ。
〝パチンッ〟
俺たちは3時間前に戻った。
◆◇
「いらっしゃいませー」
『ばっかもーーん! いらっしゃいませぇぇぇええええ! じゃ!! 語尾に力を入れろ!!』
「いらっしゃいませぇぇぇええええ!」
『ふむ。いいだろう』
──地獄の特訓は続く。
「ありがとぉぉございッッましたぁぁぁああ‼︎」
『さすがリクじゃ! 妖精さんは嬉しいぞ』
妖精さんの目からは薄っすらと涙が浮かび上がっているように見える。俺の目からも涙が。
『ありがとう……ありがとう!!』
──地獄の特訓はまだまだ続く。
◆◇◆◇◆◇
どれだけの時間を繰り返したのだろう。100回? 200回? わからない。深夜の3時間を幾度となく繰り返した。
そして俺は確かな成長と自信を手に入れた!!
「はぁーい、かしこまりましたぁぁああ! ニコッ」
「オーダープリーズ! ハチャメチャポテトのストロベリースイーツオーケー?」
『完璧じゃ!! これなら研修はパス出来るだろう。新人にしてC級クルー程度には活躍出来るはずじゃ』
『ッッ⁈』これでまだC級なのかよ……舐めてたわ。
『妖精さん、S級になりたいのよ。あの店で俺はッ‼︎』
熱い眼差しで続行の意を示すと、妖精さんは静かに首を横に振った。
『無理じゃ。現実を見よう。人並みで良いじゃないか。どうしてこれ程までにS級になりたいんじゃ?』
言葉に詰まってしまった。
何故だかわからないからだ。店長にからかわれたから? 最側がすごい仕事出来るから? ……それだけ?
たったそれだけの為に、何百時間も頑張れたのか? 妖精さんに言われなければ千時間だって超えていた。
行動原理がわからない。何故?
でも、こういう訳のわからない事をしてしまう時は必ず何かある。
しかも、今回に限って言えば〝嫌な予感〟しかしない。
らしくないからだ。たかだかバイト。研修中だって時給は発生するというのに。
ほんと、嫌な予感しかしない。
──こうして地獄の特訓は幕を閉じた。
◆◇◆◇◆◇
──研修2日目
「お客様の笑顔が私たちの幸せですッ‼︎」
「いらっしゃいませぇぇぇええええ!」
「ありがとぉぉございッッましたぁぁぁああ‼︎」
開始1分で笑顔の研修だけでなく、挨拶、スマートな立ち振る舞いまでをもクリアした。
「これは驚いた。いちごちゃん。昨日はわざとできないフリをしたね?」
「いえ、あの後、家で練習しました!」
「練習って……たった一日でこうも変わるかね」
店長は疑いの目を向けるも「頑張ってきたんだな」と、笑顔で評価してくれた。
この後、レジ打ちから調理、ホール等々の研修に入ったが、タイムリープはしなかった。
人並みに、与えられた時間内で努力をした。
──もしかしたら、俺は……格好良い先輩になりたかったのかもしれない。
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