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74話
しおりを挟む「ねぇ、りっくん。彩乃(あやの)って呼んでくれなきゃ、やーだ♡」
……ハッ!
『どうしたリク? そんなに青冷めて』
ベッドの上……俺の部屋。……夢か。はぁはぁ。
『大丈夫か? 死ぬのか?』
『大丈夫。なんでもないから』
『じーーーーーっ』
妖精さんの視線を感じる。さすがに隠してはおけないか。
今日は七月最初の日曜日。最側とハンカチを買いに行く日だ。
約束をしてから三週間ほどが経った。
ちほとのあれやこれやで俺の都合がつかず、結局七月に入ってしまった。
その間も最側とは何度か飲み行き「ハンカチを買いに行く日は~」などと盛り上がり、もうこれデートプランじゃないの? と思うくらい話は暴走、進んでしまった。
「え~、バイト仲間じゃないですかぁ!」
魔法の言葉を前に、俺はなぜか頷いてしまうんだ。
──そのタイミングでこの夢。最悪の目覚めだ。
『じーーーーーっ』
疑いの眼差しは止まる気配なし。
『今日、最側と……デートなんだよ』
小細工はなし。だってどう考えてもデートだ。
『は、はぁぁぁぁぁ?!』
当然の反応。包み隠さず全てを話した。メロンソーダで乾杯した事、抱きついてしまった事。魔法の言葉、バイト仲間。その他、色々と。
◆◇
『どうして断らなかった? IDは交換したのか? 毎週水曜日の事はわかっておるのか?』
当然の質問責め。でも質問の毛色が肯定的なのは何故だろう。てっきり怒られるかと思った。
『やるなら、上手くやれよ? 苦しむのはリクなんだから』
なんだよそれ。どうしてそんな事言うんだよ……。
『上手くってなんだよ』
『傍からみたら浮気じゃ。少なくと最側ちゃんにその気はない。せいぜい友達くらいにしか思ってないじゃろ。でもな、リクはどうなんじゃ?!』
『べ、別に好きじゃない』
『じゃあ、なぜ断らなかった? ただの一度でも断ったのか?』
『バイト仲間……だからかな』
本当にわからないんだよ。やめてくれよ妖精さん。もう何も言わないでくれよ……。
『戻ろうか。二見ちゃんとの今後を考えると、リクが苦しむのは目に見えてる。行かせられんよ。それともこの世界で〝ボロ雑巾計画〟を行うか?』
『今はまだ……できない』
『じゃあ、戻るぞ』
指パッチンのポーズに入った。
数秒後、最側と過ごした全ての時間がなくなる。いままでの日常に戻る。いいんだ。これで……いいんだ。
『な、なんじゃ⁈ どうした⁈』
無意識だった。
気付いたら妖精さんの指を押さえていた。体が勝手にタイムリープを拒んでしまったんだ。
『涙まで流して……。もうそこまでなのか』
涙? 嘘だろ……?
『こ、これは違うんだ。何かの間違いで……』
苦し過ぎる言い訳だ。でも本当にわからないんだ。どうして俺は……。
『はぁ。もうええ。ぶっちゃけるとのぉ、どうせ三年生になったら秋月ちゃんと同じクラスになる。この世界は休憩とは言ったが、その場面に直面するまでは保留のつもりだったんじゃ』
そうか。三年生になると……。でも妖精さんのこの様子、今までを振り返るとなんとなくわかる。俺が秋月さんを選ぶ事を確信しているんだ。
数十年に渡る想い。死をも厭わなかったあの日。
『目的は見失ってないから。大丈夫だから』
『遅かれ早かれ……じゃな。好きにするとええ。じゃがな、妖精さんはいつだってリクの味方じゃ。それだけは忘れるなよ‼︎』
──ありがとう妖精さん……。
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