86 / 106
86話
しおりを挟む「ほらっ、りっくん見てーー! あまのがわぁー! デネブにアルタイル、ベガ! 夏の大三角だよぉ♡」
ちほと二人、肩を寄せ合い星を眺めている。ここは二見家。
タワマンから眺める星空は、きっと綺麗なのだろう。
夏の大三角。星になんか全く興味はないが、最側が見たがってたやつだと、すぐにわかった。
「七夕の日にね、こんな綺麗に見えるのは五年振りなんだって! ひめちゃんが教えてくれたのっ。もし、また五年見れなかったら、十年に一度の日なんだって!」
白石。やはりおまえが原因か。
──今日じゃなければ、きっと、もっと……別の結果になっていたかもしれない。
でも、目の前で楽しくはしゃぐちほを見ていると、全てがどうでもよくなってくる。結局はこうなるんだ。
ちほの事が……好きだ。
◇
──今夜は二見家で七夕パーティー。
ちほとの待ち合わせ場所まで真っ直ぐ行くと、見覚えのあるピンクゴールドの車があった。
そこに白石の姿は無かった。
たぶん、ちほは一人でお店に来るのが嫌だったんだと思う。
俺を嫌う白石が一緒にお店に来たこと。
こんな夜遅くにパパさんが迎えに来たこと。今日、いきなり思い立って建てられる予定じゃない。
◇
バイトのある日は疲れてるから返信が遅くなることにした。
そうしないと、飲み行った日の辻褄が合わないから。
バイトの話になれば、話題を逸らした。
深く突っ込まれたらボロが出てしまうから。
言わなければOK。聞かれなければOK。
今思えば、嘘をつかないようにする為に色々無茶なことをしてた。
嘘をつく悪い男にはなりたくなかったから。
でも、嘘をつくより前に裏切っていたんだ。
嘘よりも酷いことをしていた。
それは、バレなければ良いって考えと遜色ないのだから。
ちほの為にと言い聞かせて、自分が嘘をつきたくなかっただけだ。
結局は自分の都合で、自分のことを一番に考えていた。
──そうして、今日という日は訪れた。七夕の日に。
◇
久々に会うパパさん、ママさん、ちずるちゃん。二見家はとても温かかった。
「よいしょ、よいしょ」と、ちずるちゃんが椅子を持ってきた。
ダイニングテーブルに並べられる五つ目の椅子。
四人家族の家に五つ目の椅子。
「これ、お兄ちゃんの椅子だよっ!」
「パジャマもあるからね。今日はゆっくりしていってもいいのよ」
あの日、冗談で言ってるのかと思っていた物が用意されている。
「ありがとう……ございます」
椅子を前に、言葉に詰まってしまった。
ママさんとちずるちゃんにお礼を言うので精一杯。それ以上の言葉が出てこない。
嬉しい気持ちと同じくらい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。嬉しい気持ちの分だけ申し訳なくなる。
俺はそんなに良くしてもらえるほど、良い彼氏ではない。悪い彼氏だ。
みんなに嘘をついているかのような、みんなを裏切ってきたかのような。なんとも言えない感情が襲ってくる。
それでも時間は流れる。夕飯は鉄板焼きだった。
時刻は22時を回り、夕飯と言うには遅過ぎるスタートだ。
俺の為に、待っていてくれた。
仲良く食卓を囲む。とても温かい家族の食卓を。
「リク君。君はまたか! またなのか! どうして泣くんだ」
「ご、ごめんなさい。すごい美味しくて。このお肉美味しいですね」
なら、もっと食べろ! と、パパさんはお皿にお肉を盛ってくれた。
「お兄ちゃんって涙腺脆すぎーー!」
「こーら! ちずる!」
あの日。五月にこの家に来た時と何も変わらない。何も変わらないからこそ、この一カ月半の出来事の分だけ、涙は重くなる。
ちほは何も言わず、俺の手をギュッと握り続けてくれた。
◇ ◇
その日、ちほの部屋に初めて入った。
「笹があるから一緒に短冊しよぉ♡」と、夕飯を食べ終わると強引に連れていかれた。
初めて入る女の子の部屋。などと、浮かれる気持ちは一瞬で消え去る。
可愛らしい鉢に植えられた笹には短冊が一枚、既に掛けられていて『りっくんがわたしのことを一番に好きになってくれますように』と、書いてあった。
──それは、俺に見せる為に飾られているかのような、そんな気がした。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる