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87話
しおりを挟む昼休みにトイレの個室で用を足している時だった。
「そう言えば四天王最後の一人、決まったらしいぜ」
「あー、それな。一年の子だっけか」
噂話をトイレの個室で聞く趣味などはない。しかも四天王とか、まったくもって興味のない話。
だが、最後の一人。という言葉にピクッと耳が反応してしまった。
この声は、北村か。もう一人は茶裸崎かな。
相変わらず頭の中は女でいっぱいかよ。
でも、そうか。最側も元気そうにやってて良かったよ。四天王になったんだな。
あの日、七夕の日を境に飲みに行くことはなくなり、俺と最側は疎遠になった。
バイトは七月いっぱいで辞めた。
ちほとの楽しい夏休みを経て、順風満帆な甘々シュガーデイズを送っている。元の鞘に戻ったんだ。
来月の冬休みには温泉旅行も計画している。
お金はあまりないけど、一緒に居れるだけでいい。
俺は大切なことを誤解していた。
さて、用は足し終えたが北村と鉢合わせるのは避けたいところ。個室から出たともなれば、チャラっとおちょくられるのはわかりきっている。
トイレは溜まり場じゃないぞ。早く教室に戻れ北村!
「そうそう。七海ちゃん。実はまだ連絡先交換してないんだよ~、四天王ともなるとお高くなるのは時間の問題。今から聞きに行こうぜっ! 今日がラストチャンスかもしれないんだぜ!」
「いかねーよ。聞いたところでノーチャンスだろ。四天王だぜ? 無理無理。身の程を弁えようぜ」
七海って、誰だ? 最側の下の名前ってななみだっけ? いや、違う。
「まっ、それもそーだな。飯行くべ! 飯!」
バタンッ。
「「っっ?!」」
殆ど無意識だった。俺は勢いよく個室から飛び出し、北村の手を掴んでいた。
「ちょっ、やのちゃんじゃぁーん!! って、あっれ~? あっれれ~?」
「お、おう。四天王ってさ、最側じゃないのか?」
「さいかわ……?」
北村は首を傾げ、険しい表情をしだした。
個室から出てきた俺をおちょくる事も忘れ、何かを思い出すような。そんな雰囲気。
いつだって女の事しか考えてなさそうな北村が、最側の事を知らないなんてありえるのか。こいつの美少女レーダーは学内No1のはずだ。
「最側彩乃だよ。一年に居るだろ?」
「ごめん、やのちゃん。そんな子居たっけ?」
嘘……だろ? 女のために生きてるような北村の目に止まらなかったのか? あの最側が? 北村の高性能美少女レーダーに反応しなかっただと?
「お前が好きそうな美少女だぞ? 本当に知らないのか?」
三度の飯より女好きのチャラ崎が北村の肩をポンっと叩いた。若干のドヤ顔風。
「俺は知ってるぜ! レアキャラだったからなぁー。確かに矢野くんの言う通り学校にさえ来てれば最側が四天王だったと思うわ。さすがは二見さんの彼氏。素晴らしい美少女レーダーをお持ちだ!」
チャラ崎おまえ、今なんて言った?
学校に来てれば?
「まぁ、とりあえずやのちゃん。手を洗おうぜ。お互い用を足してそのままだ」
「どういう事だよ、チャラ崎?!」
俺はチャラ崎の肩をゆっさゆっさ揺らし問い詰めた。
だってそれはまるで、最側が学校に来ていない。そんな言い方だったからだ。
「わ、わかったから。矢野くん、とりあえず手を洗おうぜ。話はそれからだ」
なに呑気なこと言ってんだよチャラ崎。
「やのちゃん、その手で触っちゃダメだって! 手を洗おう、水道はすぐそこだ」
北村、今はそれどころじゃないだろ。
──手を洗う時間すら惜しい。俺はゆっさゆっさ揺らし問い続けた。
最側、おまえ……おまえ……は、いったい?
最側と過ごした時間が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、他のことを考えられなくなってしまったんだ。
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