優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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90話

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『暴力を振るうためにプロテインを飲んでいたのか? 筋トレをしていたのか? 二見ちゃんもさぞ悲しかったろうな』

 停学になったことを妖精さんに話した。俺はてっきり怒られるのかと思っていた。最側が原因だとわかると、『監督不行き届きじゃな』と、それ以上のことは言われなかった。

 俺は今まで意識して来なかったんだ。他の誰かの未来を変えてしまうことを。

 ◇◇◇

 とても当たり前のことだった。今まで意識をして来なかっただけで、世界は色んな変化を起こしていた。

 自分の過去を改変する。

 それは、他の誰かの未来を変えること。奪うこと。

 妖精さんは大きく変わることは無いと言った。因果の収束の前では無力だと。

 運命というものは確かに存在して、それに抗うのは並大抵なことじゃない。特に、人の生き死に。

 俺が秋月さんと付き合えなくて、命を絶つこと。
 それは一見してみれば、自ら命を絶っているように思えるけど、運命として決まっている。

 別の形で、俺は卒業式の日に死んでしまうんだ。

 このことはずっと昔からわかっていた。
 『まず初めに。ゴホン』と、妖精さんに教えられたから。

 それでも、仮に、もし、秋月さんと付き合えたのなら奇跡が起こるかもしれない。《想い》の力は絶大で、未来を望む気持ちは奇跡を起こす。

 本当の奇跡と言うのは運命を変えることらしい。

 小難しい話で当時の俺は理解を得なかった。
 とにかく秋月さんのことが好きで、秋月さんと付き合えればその先の未来も開く。そういう単純な解釈だった。

 実際、そうなのだからそれ以上もそれ以下もない。

 最側が学校を辞めようが辞めまいが、運命にはきっと影響しない。

 それでも俺は、嫌なんだ。

 四天王として学校に通っていた未来がある以上、絶対に嫌なんだ。

 ◇◇◇


『じゃあ、今朝に戻るぞ』

 そう言うと妖精さんは指パッチンのポーズを取る。
 俺はその手を静かに押さえた。

『な、なんじゃ? 停学したままでええのか?』
『停学した今だからこそ、できることをしたいんだ』

 停学中に出歩くことなど許されるはずがない。でも、これはチャンス。ちほの目を気にせず自由に動ける最後のチャンスなんだ。例え、それがちほを裏切ることだとしても、あいつを放っておく事なんて出来ない。

『最側ちゃんの所に行くのか?』

 俺が静かに頷くと、妖精さんはため息を漏らした。

『また、そうやって繰り返すのか。中途半端なことをするのか? その中途半端な優しさが人を傷付ける。あの日、七夕の日に嫌ってほど思い知ったじゃろ。もう、泣いて帰ってくるリクの姿は見たくない』

 俺はちほを選んだ。バイト仲間と彼女。選ぶ前から答えは決まっていた。

 それでもまた、選択しなければならない。ちほか秋月さんか。

 たぶん、きっと。最側の事を選んでいたのなら妖精さんはこんなにも心配はしなかったと思う。

 滑り台式。次の女。また次の女。またまた次の女。
 そうやって男としての箔をつける。ボロ雑巾計画そのものなのだから。

 秋月さん以外の女など、ミジンコも同然。本気で思っていた。でも、違ったんだ。

 俺は滑り台ができなかった。

 失ってから初めて気付く。俺は、最側の事が好きだった。
 気付いた時点でいくらでもやりようはあった。それなのに、俺は何もしなかった。出来なかった。ちほの事も好きだから。


『妖精さん。勝手言ってごめん。でも、やっぱり……この世界は間違ってると思う』

『戯けが! 付き合う事も別れる事もできないリクに何が出来るんじゃ。この世界はもう、そう簡単には変わらん。それこそ、二見ちゃんと付き合う前に戻らないといけないかもしれんのじゃぞ?』

『大丈夫。わかってるよ。今まで色んなことがあった。何度も独りよがりのわがままを経験した。だから、ちほも最側も幸せになれる。そんな未来を掴みたいんだ』

『はぁ。幸せかどうかは本人が決めること。リクが決めることじゃないんじゃぞ?』

 それもわかってる。だから……。

『二人が笑って過ごせる。そんな学園生活にしてあげたい。そこに、俺は居なくてもいい』

 もう、覚悟は出来てる。何をすればいいのか、何が必要なのか。俺はその答えを見つけている。

 妖精さんは驚いた表情を見せると俺の肩に乗り、ほっぺを一回、優しく突いた。

『……ほう。言うようになったのう。男として一皮向けたか。それとも器が大きくなったか。ええぞ。やりたいようにやれ。妖精さんはいつだってリクの味方じゃ!』

 何度目かわからないこの言葉。

〝妖精さんはいつだってリクの味方じゃ〟

 そして向けられる、確認の為の空手ポーズ。

 ありがとう妖精さん。大丈夫。それもわかってるから。

 ──互いに真っ直ぐな眼差しで拳を合わせた。
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