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第1話 俺を虐げるS級ギャル三人衆。……怖いよ。もうやだ。
しおりを挟む「ねぇ~、悪いんだけどさ、掃除当番代わってくれない? どうしても外せない用事があってさ~」
帰りのホームルームが終わるとすぐ、隣の席の軽井沢さんが声を掛けてきた。
校則から逸脱した短いスカートの丈に、解放されたワイシャツの第二ボタン。髪の毛はゆるく巻かれており、女子力の高さを際立たせる──。
彼女は言わずもがな、ギャルってやつだ。
俺が人類の中で最も苦手とするタイプで、できることなら関わりたくないと思っている。理由は単純に怖いから。
「……うん。いいよ」
だから当然、断ることなんてできない。
「悪いねー! 今度ジュース奢ったげるねー! じゃあ~よろしく頼んだ!」
可愛らしく敬礼をされると、会話は終了。
ありふれた、なんてことないギャルとの会話。対価にジュースを買い与えられ、掃除当番を請け負う。傍から見ればそうとしか思えない光景。
──でもそれは、嘘っぱちだ。
ジュースなんてただの一度も奢ってもらったことはない。
平穏だった俺の高校生活は、二学年に上がり隣の席がギャルになったことで大きく変わってしまった。
軽井沢さんが掃除当番の日は決まって必ず同じ会話をしているんだ。
つまり、俺はずっと、軽井沢さんの当番の日まで対価もなしに掃除をしている。
ボランティア精神旺盛と言えば聞こえはいいが、ここにあるのは「やれ」「はい」の悲しい関係。
しかしそれは、軽井沢さんに限った話ではない──。
「おいーっす! お掃除大好き人間くん発見~! ご苦労ご苦労ぉ~!」
愛嬌のある明るい笑顔で、俺の机の上に腰を掛けてしまったのは音霧 梓さん。(通称あず)
小柄な体型に前下がりのボブヘアが絶妙にマッチしていて、それでいて出るところは大っきく出ている。
そんな彼女が俺の机の上を椅子にして座ってしまったのであれば、広がる景色はハレンチを極める──。
健全な男子高校生ならば、喜ぶべきシチュエーション。
しかし彼女もまた──。夏が見え隠れする六月下旬の気候に耐えられなかったためか、ワイシャツの第二ボタンは解放されており、さらには校則から逸脱した短いスカートの丈を着こなす者。──即ち、ギャルだ。
隣の席が軽井沢さんということもあり、音霧さんは俺の机を椅子にして当たり前のように座ってしまう。
しかも直パン──。
そのため、俺の机には音霧さんのハレンチな匂いが染み付いているような気がしてならない。おかげで授業に身が入らず、成績は落としがちだ。
そんな彼女もまた、軽井沢さん同様に掃除当番を押し付けてくる。
当然、断れない──。
「だから用もないのに気安く話し掛けるのはやめなさいって何度も言ってるでしょ? 勘違いされて告白でもされたらどうするの? そうなったらもう、あずだけ掃除当番を引き受けてくれなくなるかもしれないのよ?」
さらにもう一人。音霧さんに注意を施した彼女は瀬須川さん。(通称サセスー)
透き通るような黒髪ストレートヘアは清楚感に包まれており、二人とはタイプが違うようにも見えるが騙されてはいけない。
彼女もまた──校則から逸脱した短いスカートの丈に、ワイシャツの第二ボタンを解放させし者。それでいてこれがまた、大きい……。
即ち、ギャルの中で最も恐れるべき存在。清楚系巨乳ギャルだ。
「それは困る! 絶対にヤダ! ってことで、勘違いしないでね! えーと、名前は……あっ、そうだそうだ掃除当番くん!」
「……うん。大丈夫だよ」
いったい俺は、なにを言わされているのか。
告白もしていないのに遠回しに振られているみたいじゃないか……。
はぁ……。さっさと掃除して帰るかな。と思い、立ち上がろうとすると──。
「よーしっ! じゃあカラオケいこーっ!」
音霧さんが軽井沢さんに向かって元気な声を出した。
それは今、最も聞きたくない言葉だった。
建前だとしても“どうしても外せない用事がある”と言われ、掃除当番を請け負った。それは俺の自尊心を保つ上での大切な要素であり、蔑ろにされたら困るものだ。
せめて俺の前では自重してくれよ……。
しかしその願いが届くことはない。
「カラオケは昨日行ったっしょ? それより今日はさ、医大生との合コンなんてどう?」
「あら。こないだ言ってた例の彼? キモいから無理とか言ってなかったかしら?」
瀬須川さんが興味ありげに食いつくと、軽井沢さんが意気揚々に答えた。
「それなぁ~。連絡しつこいからブロックしようかなって思ったんだけどさ、親が超金持ちみたいで車も結構良いの乗ってるみたいなんだよねー! しかもプライベートビーチも持ってるんだって! やばくね?」
「いいわね。その男、確実に落としましょう。夏休みはプライベートビーチでバカンスを送るわよ!」
「あはっ! サセスーが乗り気だ~! ってことで、あずも行くっしょ?」
「えー、カラオケ行こうよぉ! 今日はすごい歌いたい気分なのぉ!」
「あずさぁ、昨日も同じこと言ってたじゃん。こっちの予定に付き合ってくれないなら、もうカラオケ行かないよ?」
「えー。うー。しょうがないにゃあ……。ひとカラは寂しいからねぇ……」
「じゃあ決まり~! 行くってメッセージ送っちゃうからね~!」
お願いだから自重してくれよ……。
どうしても外せない用事が医大生との合コンって、しかも夏休みのバカンスってなんだよそれ。そんなことのために、俺は掃除当番を押し付けられたのかよ……。
とは思うも、聞いていないフリをして平然を装う。
相手はクラス内カーストトップに君臨する、一軍女子様のS級ギャル三人衆だ。
余計なことを言って逆鱗に触れれば、俺みたいな日陰者は学校には来れなくなる。
──それがぼっちで日陰者である、俺っていう人間の定め。
とはいえ掃除当番を押し付けれらるだけの関係と思えば、むしろ喜ぶべきことだ。
お金を揺すられたり、パシリに使われたり。犯罪行為に及ばれているわけではないのだから、悲観するようなことではない。
でも考えてしまう。一年後も二年後も。それこそ大人になっても──。
こうやってずっと、誰かに面倒事を押し付けられるのだろうか。
答えはきっと、YES──。
子ネズミとライオンが対峙したとして、果敢に牙を向けられる子ネズミなどいるわけがない。
ギャルとは即ちライオンで、日陰者の俺は子ネズミだ。ここに抗う術がないのは弱肉強食の食物連鎖が物語っている。
子ネズミは子ネズミらしく、分相応に日陰で縮こまり、その中で小さな幸せを見つける努力に徹するべきなんだ。
だから──。
俺の人生はこれから先もずっと──。ライオン様に虐げられる。
「なんかもう近くまで来てるっぽいんだけど? しかも“着替えないで来てね”だって。出たよ制服好き。やばいっしょ。校門の前には絶対来るなって言っておかないと」
「ふふっ。狩りの時間が近いのね」
「やっぱりひとカラ行こうかなぁー」
そしてライオンたちは狩りとうい名の楽しい合コンへと出かけ、俺は掃除をするために教室に残る。
……はぁ。
異変が起きたのはクラスメイトが誰も居なくなり、教室にひとりになってからだった。
「あれ、なんだよこれ」
放課後の教室でひとり──。
掃除をしていると、目から汗が出ていた。
ぽろぽろと頬を伝って床にこぼれ落ちていく。
「あれ、あれ……」
拭っても拭っても止まらない。
それが──涙だと気づくのに時間は掛からなかった。
気づいたら教室の床にうずくまっていた。
「なんでだよ。どうしてだよ……」
一学年の頃は幸せだった。
誰からも構われることなく、平和な高校生活を送っていた。
出席確認の際に「はい」と返事をする二文字だけが、一日に発する言葉の大半を占めるくらいに、平穏で幸せな毎日だったんだ。
それがどうして……。どうしてこんなことに……。
掃除なんてしたくない。もう、帰りたいよ……。
「うっ。……うぅっ」
一度流れ出した涙は止めどなく溢れ、捻った蛇口のように流れ続ける。
それでも止まない雨はない。
やがて涙が枯れる頃には、すっかりと日は落ちていた。
「綺麗だな……」
月明かりに照らされる教室は、ライオンたちに虐げられる大嫌いな場所とは違って見えた。
だからなのか、沸き立つものがあった。
普段は教室に入るだけで物怖じしてしまう。でも今は違う。
それが俺に勇気と覚悟をもたらした。
今まで頑なに目を逸らしてきた現実と向き合えるだけの、──勇気と覚悟。
ゆっくりと立ち上がり、軽井沢さんの席の前に立つ。そして──。
「……ふっざけんな!」
机を蹴飛ばしてやった。
「ふっざけんな! ふっざけんな! ふっざけんな!」
立て続けに三度、蹴飛ばしてやった。
しかし──。机は1ミリも動いていない。
これが今の俺の精一杯。蹴飛ばしたとは言っても、つま先で突く程度。
でも、大きな一歩。
生まれて初めて、ギャルが座る玉座に逆らった。あまつさえ蹴飛ばしてやった!
やれるんだ。俺だってできるんだよ!
子ネズミだって、ライオンの玉座を蹴飛ばせるんだ!
確かな自信が芽生えるのと同時に、理不尽なこの人生に抗う覚悟も生まれる──。
だから決意をする。このままじゃだめだと、胸に刻み込む。
それは己に課す制約であり、誓い──。
『ライオンを前にしても物怖じせず、NOと言える子ネズミになる!』
イエスマンからの卒業。
それがどれだけ大変なことか、考えるだけで悍ましくなる。
それでも、奮い立つこの感情だけは、もう止まらない!
そうして、教室を出る際。
誰もいない月明かりだけが照らされる静かな教室に向かって──。
「あばよ」
虐げられるだけの物怖じする自分に、サヨナラを告げた。
それは──。
今日までの自分との決別。
☆ ☆
ここから始まるのは、ライオンに果敢に立ち向かう一匹の子ネズミ──俺、輝下 友也が日陰者からNOと言える戦士になるまでの物語だ!
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