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私の決めた結婚①
疲れたな。
単純に。物理的に。体力的に。
「疲れた…」
真新しい二人掛けのダイニングテーブルで、紅茶の入ったマグを両手で包むようにしながら、ユリはぽつりとつぶやいた。
今日は、4月5日 土曜日。
2日前の4月3日は、結婚式だった。ユリ自身の。
新婚の夫は、朝食の後、趣味のフットサルに出かけた。
昼過ぎまで体を動かした後、チームの仲間と入浴施設に出かけ、汗を流して居酒屋からカラオケが定番コースだ。
特に今日は、夫の結婚祝いも兼ねている。ユリが起きているうちに帰ってくることはないだろう。昼食、夕食の心配はいらない。
部屋の隅には、この週末に片づけるつもりの引っ越しの段ボールが積まれている。
夫は近所にある実家から、数枚の着替えと仕事用のパソコン、少しの身の回りの物をボストンバッグに詰めて新居に移った。
だから、あの段ボールはすべてユリのものだ。当然、片付けるのもユリの仕事。
そもそも、転勤・引っ越しとあわただしすぎるこの時期に、結婚式まで強行したのは、「挙式前に同居なんて絶対だめだ!」と、頑固なことを突然言い出したユリの父親の我が儘のせい。ユリの側の都合だ。
式が平日だったのも、4月の最初の大安が3日だったから。暦にこだわったのも、ユリの父だ。
さすがに新婚旅行は、色々なことが落ち着いてから、考えることにしている。
だから、わかっている。
「手伝おうか?」の一言が欲しかったと思ってしまうのも。
夫婦になって最初の週末くらい、一緒に過ごしたかったと寂しく感じてしまうのも。
わかってる。ユリの我が儘だ。
でも。それでも。
「そういうとこだぞっ、と」
ついため息が口からこぼれてしまう。
空になったマグを手にのろのろと立ち上がった時、玄関ドアのポストに何かが落ちる音がした。
ポストにあったのは、2通の封書。
どちらもそこそこの重量があったため、ちょっと大きな音がしたようだ。
1通は、夫宛てに保険会社から。結婚を機に生命保険の見直しをすると言っていたから、新しい証書かなにかだろう。
もう一通は、春らしい花柄の封筒。
かわいらしい丸文字で、『内藤 ユリ様』と書かれている。
友人の誰かが、さっそく手紙をくれたらしい。
ふんわり、心が浮き立つのを感じた。自然と顔がほころぶ。
すぐに封筒をひっくり返し、差出人を確認する。
リターンアドレスは、ついこの間までユリが住んでいた町。
差出人は、『佐藤 綾乃』。
「えっ」
思わず変な声が出た。
首をかしげ、眉間に皺がよる。
「えっ…誰?」
まったく心当たりがない名前だった。
単純に。物理的に。体力的に。
「疲れた…」
真新しい二人掛けのダイニングテーブルで、紅茶の入ったマグを両手で包むようにしながら、ユリはぽつりとつぶやいた。
今日は、4月5日 土曜日。
2日前の4月3日は、結婚式だった。ユリ自身の。
新婚の夫は、朝食の後、趣味のフットサルに出かけた。
昼過ぎまで体を動かした後、チームの仲間と入浴施設に出かけ、汗を流して居酒屋からカラオケが定番コースだ。
特に今日は、夫の結婚祝いも兼ねている。ユリが起きているうちに帰ってくることはないだろう。昼食、夕食の心配はいらない。
部屋の隅には、この週末に片づけるつもりの引っ越しの段ボールが積まれている。
夫は近所にある実家から、数枚の着替えと仕事用のパソコン、少しの身の回りの物をボストンバッグに詰めて新居に移った。
だから、あの段ボールはすべてユリのものだ。当然、片付けるのもユリの仕事。
そもそも、転勤・引っ越しとあわただしすぎるこの時期に、結婚式まで強行したのは、「挙式前に同居なんて絶対だめだ!」と、頑固なことを突然言い出したユリの父親の我が儘のせい。ユリの側の都合だ。
式が平日だったのも、4月の最初の大安が3日だったから。暦にこだわったのも、ユリの父だ。
さすがに新婚旅行は、色々なことが落ち着いてから、考えることにしている。
だから、わかっている。
「手伝おうか?」の一言が欲しかったと思ってしまうのも。
夫婦になって最初の週末くらい、一緒に過ごしたかったと寂しく感じてしまうのも。
わかってる。ユリの我が儘だ。
でも。それでも。
「そういうとこだぞっ、と」
ついため息が口からこぼれてしまう。
空になったマグを手にのろのろと立ち上がった時、玄関ドアのポストに何かが落ちる音がした。
ポストにあったのは、2通の封書。
どちらもそこそこの重量があったため、ちょっと大きな音がしたようだ。
1通は、夫宛てに保険会社から。結婚を機に生命保険の見直しをすると言っていたから、新しい証書かなにかだろう。
もう一通は、春らしい花柄の封筒。
かわいらしい丸文字で、『内藤 ユリ様』と書かれている。
友人の誰かが、さっそく手紙をくれたらしい。
ふんわり、心が浮き立つのを感じた。自然と顔がほころぶ。
すぐに封筒をひっくり返し、差出人を確認する。
リターンアドレスは、ついこの間までユリが住んでいた町。
差出人は、『佐藤 綾乃』。
「えっ」
思わず変な声が出た。
首をかしげ、眉間に皺がよる。
「えっ…誰?」
まったく心当たりがない名前だった。
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