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持つべきものは①
お互いに、手紙の話には触れないまま数日が過ぎた。
なぜか秀夫は定時で帰宅するようになり、ユリはいつも監視されているような、妙な息苦しさを覚えた。
(この間まで、寂しいと思っていたのに。勝手なものよね…)自嘲気味にユリは思う。家に帰るのが、ひどく憂鬱に感じられた。
金曜日の午後に、ユリの住む町に社内の専門職が集まる会議があった。
会議といっても、年度初めの決起集会のようなもので、毎年恒例のイベントだ。市内に会場を借りて上層部の訓示、今期の目標の発表、簡単な連絡事項伝達等の後は、終業時刻より早めの解散となった。
「ユリ!」
「志保ちゃん!」
手を取り合って再会を喜ぶ。西野志保子は以前の職場の専門職の同僚で、入社時に仕事を教えてくれた先輩だ。
3歳年上の志保子と、志保子の高校時代の同級生で歯科助手の川田真奈美。ユリにとって、親友と呼べる二人。今日は会社の集まりなので真奈美はいないが、志保子との再会は久しぶりの嬉しい出来事だった。
「志保ちゃん、今日、ホテル取ってるよね?飲みに行くでしょう?」
「もっちろん!朝まで飲むよ~」
志保子は豪快に笑う。背が高くて正統派な美人の志保子と、丸顔でおっとりとした雰囲気の真奈美は、どちらもとてもお酒が強い。ユリも決して嫌いではないのだが、二人と同じペースで飲み続けることは無理だ。でも、今日はぜひ、朝まで付き合いたい気分だった。
「その前に、新婚さんのお宅訪問!お邪魔してもいいでしょ?」
志保子がおどけた調子で言う。ユリは志保子をマンションに案内した。
「新しくて、きれい!なんていうか…シンプル?ユリっぽい部屋だね」
志保子の感想は、的確だと思う。この部屋には、秀夫が選んだものは、まだほとんどない。
しばらく、以前の職場の近況報告などを聞いて盛り上がった。離れてわずか1ヶ月ほどなのに、とても懐かしく感じられる。
「ユリ、少し疲れてる?もしかして、新しい職場に、まだなじめない?」
ふいに志保子が聞いた。そんなに顔に出ていただろうか。
「ううん、そんなことない。元気だよ」
笑いながら答えたが、志保子は胡麻化されてくれる気はないようだ。
「ユリ、どした?内藤さんと、なんかあった?」
心配そうな志保子の声が心地良い。彼女に相談すればすべてうまくいく、そんな気さえしてくる。姉御肌という言葉が、志保子には本当によく似合う。
少し迷ったが、ユリは志保子の前に一通目の手紙を差し出した。戸惑いながら、志保子が手紙に目を通す。
「ユリ…これって」
「結婚式の直後に届いたの。次の週にも2通。もうね、意味がわからない…」
「そんなに?内藤さんは、なんて?」
「いたずらだから、ほっとけって。でも、どうしても気になって」
「あたりまえだよ!こんないたずら、ありえないでしょう!」
やっぱり、ユリの気持ちを分かってくれた。志保子の言葉に、ほっとして泣きそうになる。
「住所がうちの町ってことは、この『甲斐さん』は、たぶんあの甲斐さんだよね」
封筒をひっくり返しながら志保子が言った。
「私もちょっとそう思ったけど…でも、ありえないでしょう?」
答えるのと同時に、玄関のドアが開いた。秀夫が帰ってきたのだ。ユリはとっさに手紙をバッグに突っ込んだ。
「あれ、びっくりした、西野さん?来てたんだ、いらっしゃい」
秀夫と志保子も、かつての同僚だ。
「お邪魔してます。ついでに今夜は、ユリをお借りしま~す」
「はは、お手柔らかに。ユリ、飲みに出るんだろ?送ってくよ」
秀夫が愛想よく言った。
「いいの?ありがとう。秀夫さん、着替えは?」
「いや、このまま行くよ。俺もどこかで、晩飯食べなきゃだし。着替えちゃうと面倒くさい」
秀夫の言葉にせかされるように、二人はすぐに立ち上がった。
なぜか秀夫は定時で帰宅するようになり、ユリはいつも監視されているような、妙な息苦しさを覚えた。
(この間まで、寂しいと思っていたのに。勝手なものよね…)自嘲気味にユリは思う。家に帰るのが、ひどく憂鬱に感じられた。
金曜日の午後に、ユリの住む町に社内の専門職が集まる会議があった。
会議といっても、年度初めの決起集会のようなもので、毎年恒例のイベントだ。市内に会場を借りて上層部の訓示、今期の目標の発表、簡単な連絡事項伝達等の後は、終業時刻より早めの解散となった。
「ユリ!」
「志保ちゃん!」
手を取り合って再会を喜ぶ。西野志保子は以前の職場の専門職の同僚で、入社時に仕事を教えてくれた先輩だ。
3歳年上の志保子と、志保子の高校時代の同級生で歯科助手の川田真奈美。ユリにとって、親友と呼べる二人。今日は会社の集まりなので真奈美はいないが、志保子との再会は久しぶりの嬉しい出来事だった。
「志保ちゃん、今日、ホテル取ってるよね?飲みに行くでしょう?」
「もっちろん!朝まで飲むよ~」
志保子は豪快に笑う。背が高くて正統派な美人の志保子と、丸顔でおっとりとした雰囲気の真奈美は、どちらもとてもお酒が強い。ユリも決して嫌いではないのだが、二人と同じペースで飲み続けることは無理だ。でも、今日はぜひ、朝まで付き合いたい気分だった。
「その前に、新婚さんのお宅訪問!お邪魔してもいいでしょ?」
志保子がおどけた調子で言う。ユリは志保子をマンションに案内した。
「新しくて、きれい!なんていうか…シンプル?ユリっぽい部屋だね」
志保子の感想は、的確だと思う。この部屋には、秀夫が選んだものは、まだほとんどない。
しばらく、以前の職場の近況報告などを聞いて盛り上がった。離れてわずか1ヶ月ほどなのに、とても懐かしく感じられる。
「ユリ、少し疲れてる?もしかして、新しい職場に、まだなじめない?」
ふいに志保子が聞いた。そんなに顔に出ていただろうか。
「ううん、そんなことない。元気だよ」
笑いながら答えたが、志保子は胡麻化されてくれる気はないようだ。
「ユリ、どした?内藤さんと、なんかあった?」
心配そうな志保子の声が心地良い。彼女に相談すればすべてうまくいく、そんな気さえしてくる。姉御肌という言葉が、志保子には本当によく似合う。
少し迷ったが、ユリは志保子の前に一通目の手紙を差し出した。戸惑いながら、志保子が手紙に目を通す。
「ユリ…これって」
「結婚式の直後に届いたの。次の週にも2通。もうね、意味がわからない…」
「そんなに?内藤さんは、なんて?」
「いたずらだから、ほっとけって。でも、どうしても気になって」
「あたりまえだよ!こんないたずら、ありえないでしょう!」
やっぱり、ユリの気持ちを分かってくれた。志保子の言葉に、ほっとして泣きそうになる。
「住所がうちの町ってことは、この『甲斐さん』は、たぶんあの甲斐さんだよね」
封筒をひっくり返しながら志保子が言った。
「私もちょっとそう思ったけど…でも、ありえないでしょう?」
答えるのと同時に、玄関のドアが開いた。秀夫が帰ってきたのだ。ユリはとっさに手紙をバッグに突っ込んだ。
「あれ、びっくりした、西野さん?来てたんだ、いらっしゃい」
秀夫と志保子も、かつての同僚だ。
「お邪魔してます。ついでに今夜は、ユリをお借りしま~す」
「はは、お手柔らかに。ユリ、飲みに出るんだろ?送ってくよ」
秀夫が愛想よく言った。
「いいの?ありがとう。秀夫さん、着替えは?」
「いや、このまま行くよ。俺もどこかで、晩飯食べなきゃだし。着替えちゃうと面倒くさい」
秀夫の言葉にせかされるように、二人はすぐに立ち上がった。
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