どうしてあなただけ幸せなんですか?

ゆん2022

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突然のピリオド①

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一瞬、『佐藤 綾乃』への恐怖心より、秀夫への不信感のほうが勝った。
今はこの人と同じ空間にいたくない。秀夫の声を、言葉を聞きたくない。
「わかった。警察には行かない。ちょっといろいろ相談したいから、志保ちゃんのところに行ってくるね。今夜は泊ってくるから」
ユリはトートバッグに、とりあえずの着替えと化粧品を放り込んだ。
「待てよ!なんだよ相談って…ユリ、ちゃんと話そう?」
秀夫がユリの肩に手をかけるが、振り払って玄関に向かう。
「心配しないで。明後日は仕事だもの、明日の夕方には帰ってくるわ。私にも、相談できる先輩はいるのよ、秀夫さん」
最後の一言は、余計な嫌味だったと思う。でももう、どう思われたって構わない。先ほどの恐怖に代わって、沸々とした怒りが腹の底から沸き上がってくる。この怒りが、『佐藤 綾乃』に対するものなのか、それとも秀夫に対するものなのか、ユリにはもう分からなかった。

去年、結婚準備のために散々通った道だ。途中のコンビニでペットボトルのお茶を買い、公衆電話で志保子に連絡を入れた。これから遊びに行くこと、もう向かっているので昼過ぎには着くこと、今夜泊めてほしいことを伝える。幸い在宅していた志保子は、突然の頼みを笑って了承してくれた。
手土産の一つも無いことに気づき、ランチを御馳走すると提案したが、部屋でお好み焼きの準備をして待っていると言う。せめてもの気持ちで、志保子の好きな銘柄のビールを買って、3月まで住んでいた町に向かって車を走らせた。
アパートのチャイムを鳴らすと、台所に立つ志保子に代わって、出迎えてくれたのは真奈美だった。志保子が連絡してくれたらしい。久しぶりの再会を喜び合う。この間、志保子が言っていた通り、真奈美は少し太ったように見える。
「うふふ。あのね、ユリちゃんに報告があるの」
相変わらずの甘めの声、少し舌足らずな話し方で、真奈美が言った。
「私ね、赤ちゃんができたんだぁ」
「え、本当?びっくり!マナちゃん、おめでとう!」
「ねぇ、びっくりだよねぇ。絶対、ビール太りだと思ってたのに」
ホットプレートの温度を確認しながら、志保子がからかう。
「自分でもそう思ってた。そういえば、最後の生理、いつだっけ?あれって思って、検査したらビンゴ!」
真奈美がカラカラと笑う。
「マナちゃん、もう飲んでないよね?」
「もちろん。雄介君も、私に付き合って禁酒中なんだぁ。だから、志保子も飲まないよね?」
「なんで私まで巻き込むのよ」
3人で、声をあげて笑う。
買ってきたビールは冷蔵庫にしまい、ウーロン茶とコーラを飲みながら賑やかに囲んだお好み焼きがおいしすぎて、張り詰めた気が緩んだユリの目から、ずっと我慢していた涙がこぼれた。





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