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突然のピリオド③
ユリの様子を横目で確認しながら、志保子が口を開いた。
「西野と申します。『佐藤 綾乃』さんは、御在宅でしょうか」
「あの…私ですが…どういったご用件でしょう?」
いぶかしげな声が答える。ユリは息をのんだ。言葉がなにも出てこない。ふいに、インターフォンから、「ママ、だ~れ?」と呼ぶ甲高い声が聞こえた。『佐藤 綾乃』に子供がいる!衝撃に頭がくらくらした。
志保子が答える。
「内藤ユリの使いで参りました。少し、お話しさせていただきたいんですが」
インターフォン越しに、息を呑む気配が伝わってくる。『佐藤 綾乃』は、出てくるだろうか?それとも、このまま、ドア越しに話すつもりだろうか。志保子の後ろにユリが居ることに、もう気が付いているだろうか…
しかし、『佐藤 綾乃』の反応は、ユリが考えたどれでもなかった。彼女は慌てた声で叫んだ。
「あの、あの…すみません、あの手紙は間違いです!私、関係ないんです!何も知りません!すみません、困ります!帰って、帰ってください!」
ブツッと音を立てて、インターフォンは切られた。
再度チャイムを押そうとする志保子の手を止めながら、真奈美が言った。
「とりあえず、帰ろう」
天気のせいで、3人とも冷えていた。志保子の部屋で、しばらく無言で暖かいカフェオレをすすった。
最初に口を開いたのは志保子だった。
「ユリのとこで最初にあの手紙を見た時、なにかが引っかかった気がしたんだ。でも、よくわかんなくて…それで、帰ってすぐに真奈美に見せたの…そしたら、この子、封筒を見た瞬間に言ったんだよね…」
ユリが首を傾げる。封筒に引っかかった?何に?
「この人、どうして今のユリの住所を知ってるの?って…」
一瞬、頭の中が真っ白になった。心臓が耳にあるみたいにドクドクとうるさい。
そうだ。あの1通目が届いたとき、ユリはまだ職場にさえ、新しい住所を届けていなかった。結婚式の出欠はがきのあて先は、秀夫の実家だった。知人への結婚と転居のお知らせは、暑中見舞いとして来月出す予定で、まだ準備もしていない。
内容のおかしさばかりに目がいって、そんな当たり前のことに全然気が付かなかった。あの手紙は、前の住所から転送されたのではない。今のマンションの、部屋番号まではっきりと書かれて配達されたのだ。
「私と真奈美は、あの手紙についてすごく話し合った。それで、まぁ…私たちなりに、結論みたいなものにはたどり着いたんだけど…私は、いまいち納得できなかったんだよね」
「でも、それ以外考えられないと思うんだけどなぁ」
真奈美が話し出す。
「あのへんな手紙を読んで、思いついたことなんだけどぉ。まず『甲斐さん』。多分その人、全然関係ないんだと思うんだよねぇ」
「え?関係ない…?」
ユリの口から、ようやく声が出た。驚くことが多すぎて、動悸も少し収まったように思う。
「うん。志保子の話だと、その人、女癖の悪さで結構有名だったんでしょ?だから、だしに使われたっていうか…枕詞?」
真奈美がおかしな例えを口にした。枕詞の使い方は多分違うが、言わんとしていることはなんとなく分かった。
「あと、さっきの『佐藤 綾乃』の反応で確信したんだけどぉ、手紙を出したストーカーは多分、『佐藤 綾乃』じゃ無いと思うんだぁ」
「どういうこと…?」
「う~んと、だからねぇ。手紙を書いた本物の『佐藤 綾乃』が、さっきの『佐藤 綾乃』の名前を借りて…あれ、さっきのが本物か…ややこしいねぇ」
真奈美が場違いにふんわりと笑う。志保子が話を引き取った。
「つまりね、あの変な手紙を書いたり、ユリに付きまとったりした人は別にいる。その人は、多分さっきの『佐藤 綾乃』とつながってる。友達なのか、何なのか分からないけど…ようするに、グルなんだと思う。名前と住所を借りて、ユリに嫌がらせの手紙を出した。多分、ユリの返事も、一度はさっきの『佐藤 綾乃』のところに届いて、その後、手紙を書いた人のところに届けられたんだよ、きっと!」
「西野と申します。『佐藤 綾乃』さんは、御在宅でしょうか」
「あの…私ですが…どういったご用件でしょう?」
いぶかしげな声が答える。ユリは息をのんだ。言葉がなにも出てこない。ふいに、インターフォンから、「ママ、だ~れ?」と呼ぶ甲高い声が聞こえた。『佐藤 綾乃』に子供がいる!衝撃に頭がくらくらした。
志保子が答える。
「内藤ユリの使いで参りました。少し、お話しさせていただきたいんですが」
インターフォン越しに、息を呑む気配が伝わってくる。『佐藤 綾乃』は、出てくるだろうか?それとも、このまま、ドア越しに話すつもりだろうか。志保子の後ろにユリが居ることに、もう気が付いているだろうか…
しかし、『佐藤 綾乃』の反応は、ユリが考えたどれでもなかった。彼女は慌てた声で叫んだ。
「あの、あの…すみません、あの手紙は間違いです!私、関係ないんです!何も知りません!すみません、困ります!帰って、帰ってください!」
ブツッと音を立てて、インターフォンは切られた。
再度チャイムを押そうとする志保子の手を止めながら、真奈美が言った。
「とりあえず、帰ろう」
天気のせいで、3人とも冷えていた。志保子の部屋で、しばらく無言で暖かいカフェオレをすすった。
最初に口を開いたのは志保子だった。
「ユリのとこで最初にあの手紙を見た時、なにかが引っかかった気がしたんだ。でも、よくわかんなくて…それで、帰ってすぐに真奈美に見せたの…そしたら、この子、封筒を見た瞬間に言ったんだよね…」
ユリが首を傾げる。封筒に引っかかった?何に?
「この人、どうして今のユリの住所を知ってるの?って…」
一瞬、頭の中が真っ白になった。心臓が耳にあるみたいにドクドクとうるさい。
そうだ。あの1通目が届いたとき、ユリはまだ職場にさえ、新しい住所を届けていなかった。結婚式の出欠はがきのあて先は、秀夫の実家だった。知人への結婚と転居のお知らせは、暑中見舞いとして来月出す予定で、まだ準備もしていない。
内容のおかしさばかりに目がいって、そんな当たり前のことに全然気が付かなかった。あの手紙は、前の住所から転送されたのではない。今のマンションの、部屋番号まではっきりと書かれて配達されたのだ。
「私と真奈美は、あの手紙についてすごく話し合った。それで、まぁ…私たちなりに、結論みたいなものにはたどり着いたんだけど…私は、いまいち納得できなかったんだよね」
「でも、それ以外考えられないと思うんだけどなぁ」
真奈美が話し出す。
「あのへんな手紙を読んで、思いついたことなんだけどぉ。まず『甲斐さん』。多分その人、全然関係ないんだと思うんだよねぇ」
「え?関係ない…?」
ユリの口から、ようやく声が出た。驚くことが多すぎて、動悸も少し収まったように思う。
「うん。志保子の話だと、その人、女癖の悪さで結構有名だったんでしょ?だから、だしに使われたっていうか…枕詞?」
真奈美がおかしな例えを口にした。枕詞の使い方は多分違うが、言わんとしていることはなんとなく分かった。
「あと、さっきの『佐藤 綾乃』の反応で確信したんだけどぉ、手紙を出したストーカーは多分、『佐藤 綾乃』じゃ無いと思うんだぁ」
「どういうこと…?」
「う~んと、だからねぇ。手紙を書いた本物の『佐藤 綾乃』が、さっきの『佐藤 綾乃』の名前を借りて…あれ、さっきのが本物か…ややこしいねぇ」
真奈美が場違いにふんわりと笑う。志保子が話を引き取った。
「つまりね、あの変な手紙を書いたり、ユリに付きまとったりした人は別にいる。その人は、多分さっきの『佐藤 綾乃』とつながってる。友達なのか、何なのか分からないけど…ようするに、グルなんだと思う。名前と住所を借りて、ユリに嫌がらせの手紙を出した。多分、ユリの返事も、一度はさっきの『佐藤 綾乃』のところに届いて、その後、手紙を書いた人のところに届けられたんだよ、きっと!」
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