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翌朝は、志保子がホットプレートで目玉焼きとウィンナーを焼いてくれた。
志保子のホットプレートは、基本テーブルに出しっぱなしだ。昨夜の焼き鳥も、これで温めた。「ずぼらなのよ」と志保子は笑うが、部屋はいつもきちんと片付いているし、どんなに飲んでも乱れた姿を見たことがない。やっぱり、志保子に彼氏がいないのは、彼女が完璧すぎるからだと思う。
朝食の後、9時過ぎには帰ることにした。昼前には、マンションに着くだろう。秀夫は、部屋にいるだろうか。
ぼんやり考えていたユリに例の手紙を返しながら、真剣な表情で志保子が言う。
「ユリ、昨日の話は、あくまで私たちの想像だよ。なんの証拠もない。ただね、この手紙の『甲斐さん』を、『内藤さん』に入れ替えるとね…この手紙が、ユリに送られてきた意味が分かる気がするの」
「うん。色々ありがとう、志保ちゃん。ちょっと…ゆっくり考えてみるね。思いつめたりはしてないから、心配しないで。マナちゃんにも、大丈夫だって伝えてね」
本心だった。色々ありすぎた昨日の衝撃が通り過ぎると、不思議なほどにユリの中に怒りや悲しみの感情は無かった。家に帰って、秀夫に問いただすつもりも、証拠を集めるつもりも、今はない。自分は一体これからどうしたいのか、という静かな疑問があるだけだった。
昨日通った道を、今日は反対方向に走る。家に帰る道のはずなのに、なぜか段々心細くなってくる。昨日と同じコンビニで、同じお茶を買いながら、ユリは公衆電話を見つめた。秀夫に、連絡を入れるべきだろうか…少し迷ったが、結局電話はしなかった。彼が家にいないなら、その方が気が楽だと思った。今はただ、一人で考える時間が欲しかった。
予定通り、昼前には町に着いたが、どうしてもまっすぐマンションに帰る気になれなかった。今日は料理をする気にもなれないし、今夜はお弁当かお惣菜で済ませてしまおう。近所のスーパーではなく、たまにはデパ地下もいいかもしれない。ユリは、駅前のデパートの駐車場に車を停めた。
日曜日の昼時のデパ地下は混んでいた。普段は食卓に並ぶことのない、色鮮やかなサラダに心惹かれる。ピンクペッパーの散ったサーモンのマリネサラダと、揚げたレンコンがおいしそうな鶏と根菜のゴマドレッシング和えを選んだ。パン屋でおいしいバケットを買って、昨夜志保子が教えてくれたメルローの赤ワインを探してみようかな。(デパートの店員さんなら、好みを伝えればきっと教えてくれるよね…)デパ地下大正解。ユリは、気分が浮上してくるのを感じた。
「あれ、ユリさん?」
ふいに、後ろから声をかけられた。振り返ると、ゴルフウェアのようなポロシャツに眼鏡をかけた、細身の男性が立っていた。
「ほら、内藤の…」
斜め後ろで、やはりお惣菜を物色していた小柄な女性の肩を叩き、ユリのことを説明する。女性がこちらを見て軽く会釈した。ユリも、頭を下げて挨拶をする。
「一人?内藤は?」
「秀夫さんは、今日はちょっと忙しくて…。寺井さんは、奥様とお買い物ですか?」
適当な返事をしてごまかす。寺井和明は、秀夫の話によく出てくる『先輩』だ。ユリは、秀夫に連れられて2度ほど3人で飲んだことがある。結婚式にももちろん出席してくれたし、その後の飲み会にも最後まで居たはずだ。
「荷物持ちだよ。こき使われてるの」
そんなことを言うが、寺井は手ぶらだった。
「そっか、出発も近いし、あいつも色々忙しいよな」
「寺井さんは、もう準備は終わったんですか?」
もしかして、今日は夫婦でそのための買い物にきたのだろうか。ユリは今更ながら、自分が何も手伝っていないことが後ろめたくなった。
「俺?準備ってなんの?」
「え…ですからタイ行きの…」
「ん?俺は、今回のプロジェクトのメンバーには入ってないよ。内藤から聞いてない?」
寺井の声が、ユリの頭の中に響いた。
志保子のホットプレートは、基本テーブルに出しっぱなしだ。昨夜の焼き鳥も、これで温めた。「ずぼらなのよ」と志保子は笑うが、部屋はいつもきちんと片付いているし、どんなに飲んでも乱れた姿を見たことがない。やっぱり、志保子に彼氏がいないのは、彼女が完璧すぎるからだと思う。
朝食の後、9時過ぎには帰ることにした。昼前には、マンションに着くだろう。秀夫は、部屋にいるだろうか。
ぼんやり考えていたユリに例の手紙を返しながら、真剣な表情で志保子が言う。
「ユリ、昨日の話は、あくまで私たちの想像だよ。なんの証拠もない。ただね、この手紙の『甲斐さん』を、『内藤さん』に入れ替えるとね…この手紙が、ユリに送られてきた意味が分かる気がするの」
「うん。色々ありがとう、志保ちゃん。ちょっと…ゆっくり考えてみるね。思いつめたりはしてないから、心配しないで。マナちゃんにも、大丈夫だって伝えてね」
本心だった。色々ありすぎた昨日の衝撃が通り過ぎると、不思議なほどにユリの中に怒りや悲しみの感情は無かった。家に帰って、秀夫に問いただすつもりも、証拠を集めるつもりも、今はない。自分は一体これからどうしたいのか、という静かな疑問があるだけだった。
昨日通った道を、今日は反対方向に走る。家に帰る道のはずなのに、なぜか段々心細くなってくる。昨日と同じコンビニで、同じお茶を買いながら、ユリは公衆電話を見つめた。秀夫に、連絡を入れるべきだろうか…少し迷ったが、結局電話はしなかった。彼が家にいないなら、その方が気が楽だと思った。今はただ、一人で考える時間が欲しかった。
予定通り、昼前には町に着いたが、どうしてもまっすぐマンションに帰る気になれなかった。今日は料理をする気にもなれないし、今夜はお弁当かお惣菜で済ませてしまおう。近所のスーパーではなく、たまにはデパ地下もいいかもしれない。ユリは、駅前のデパートの駐車場に車を停めた。
日曜日の昼時のデパ地下は混んでいた。普段は食卓に並ぶことのない、色鮮やかなサラダに心惹かれる。ピンクペッパーの散ったサーモンのマリネサラダと、揚げたレンコンがおいしそうな鶏と根菜のゴマドレッシング和えを選んだ。パン屋でおいしいバケットを買って、昨夜志保子が教えてくれたメルローの赤ワインを探してみようかな。(デパートの店員さんなら、好みを伝えればきっと教えてくれるよね…)デパ地下大正解。ユリは、気分が浮上してくるのを感じた。
「あれ、ユリさん?」
ふいに、後ろから声をかけられた。振り返ると、ゴルフウェアのようなポロシャツに眼鏡をかけた、細身の男性が立っていた。
「ほら、内藤の…」
斜め後ろで、やはりお惣菜を物色していた小柄な女性の肩を叩き、ユリのことを説明する。女性がこちらを見て軽く会釈した。ユリも、頭を下げて挨拶をする。
「一人?内藤は?」
「秀夫さんは、今日はちょっと忙しくて…。寺井さんは、奥様とお買い物ですか?」
適当な返事をしてごまかす。寺井和明は、秀夫の話によく出てくる『先輩』だ。ユリは、秀夫に連れられて2度ほど3人で飲んだことがある。結婚式にももちろん出席してくれたし、その後の飲み会にも最後まで居たはずだ。
「荷物持ちだよ。こき使われてるの」
そんなことを言うが、寺井は手ぶらだった。
「そっか、出発も近いし、あいつも色々忙しいよな」
「寺井さんは、もう準備は終わったんですか?」
もしかして、今日は夫婦でそのための買い物にきたのだろうか。ユリは今更ながら、自分が何も手伝っていないことが後ろめたくなった。
「俺?準備ってなんの?」
「え…ですからタイ行きの…」
「ん?俺は、今回のプロジェクトのメンバーには入ってないよ。内藤から聞いてない?」
寺井の声が、ユリの頭の中に響いた。
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