どうしてあなただけ幸せなんですか?

ゆん2022

文字の大きさ
26 / 31

分岐点③

しおりを挟む
志保子との電話を切って、ユリは一人考えていた。
別に秀夫は、嘘はついていない。『尊敬する先輩』(の『沢田さん』という女性)にマンションを紹介してもらった。
(『沢田さん』という女性の)『先輩』と一緒に、長期出張に行く。
嘘はついていない?ユリが思い込んでいただけ。
ごまかしていない?説明するほど重要なことじゃなかっただけ。
隠していない?聞かれなかっただけ。
いくらでも説明はつく。ユリがちょっと、もやもやするだけだ。
『沢田さん』は、甲斐さんのことを知っていただろう。
『沢田さん』は、以前住んでいた町に佐藤綾乃という友人がいるかもしれない。
『沢田さん』は、このマンションを紹介してくれた。住所ももちろん、知っているだろう。
『沢田さん』は、秀夫から日曜日ドライブに行くことを聞いていたかもしれない。
一度考えてしまうと、疑いは次から次へとわいてくる。ユリは強く頭をふった。何一つ、確証のあることではないのだ。
「ユリ、帰ってるの?」
慌てた声がして、リビングのドアが開いた。スーパーの袋を持った秀夫が、ホッとした顔で笑う。
「おかえり。早かったね。もっと遅くなるかと思ってたから、晩飯、買ってきたんだ」
ポテトサラダに鶏のから揚げ、なすの浅漬け。おかずというよりは、おつまみっぽい、秀夫らしいセレクトだ。
「ありがとう。私も少し、買い物してきたの」
冷蔵庫から、マリネとサラダを取り出し、秀夫の買ってきた総菜と一緒にパックごとテーブルに並べる。
「すごい。やっぱり、ユリが買ってきた物のほうが、うまそうだな」
秀夫がユリの機嫌を取るように言う。
「そう?ほんとはワインも買ってこようと思ったんだけど、忘れちゃった」
「俺、今すぐ買ってくるよ。久しぶりに、今夜は二人で飲もう。白でいいんだよね?」
玄関に向かう秀夫の背中に、
「あ、メルローの…」
言いかけて、すぐに口をとじた。
「何?メルロー?」
「ううん。サーモンがあるから、辛口の白がいいな」
「了解」
秀夫が出ていく。昨夜覚えた赤ワインの味を、なぜか秀夫に秘密にしたかった。

お好み焼きがおいしかったこと。真奈美の妊娠のこと。志保子のホットプレートの使い方に感心したこと。当たり障りのない話題を、ことさら楽しそうにユリは語った。友人と一晩過ごして、ストレスが解消されたと思ったのか、秀夫は安心した表情で、笑いながらユリの話に相槌を打つ。
「それでね、もともとマナちゃんが一人で住んでたアパートで雄介君と暮らしてるんだけど、さすがに赤ちゃんが生まれたら狭いでしょう?今は結婚式の準備より、部屋探しのほうが大変みたい」
「お腹大きくなっても、式は予定通り?」
「今のところはそのつもりみたい」
「入るドレスがあるのかな?」
「ひどいこと言って!」
笑いながら、ユリは続けた。
「志保ちゃんが、私たちのマンションが広くてよかったって、マナちゃんに教えたの。そしたらマナちゃんが、すぐに見つかった?って聞くから、秀夫さんの先輩が探してくれたのよって言ったら、羨ましがってた」
「俺たちも、かなり見て回ったもんな。なかなか決められないもんだよな」
「そうね。『寺井さん』に、感謝しなくちゃ」
「そうだな」
秀夫が笑った。
ユリは、自分のグラスや取り皿、空いたパックをシンクに下げた。
「秀夫さん、ごめんなさい。やっぱり疲れたみたい。少し、酔っちゃった。先に寝るわね」
「大丈夫?」
「うん、眠いだけ。おやすみなさい」
歯を磨いて、ベッドに入る。リビングから、秀夫の見ているテレビの音がする。
5年も一緒にいたのに知らなかった。秀夫さん、笑いながら嘘がつけるのね…。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...