どうしてあなただけ幸せなんですか?

ゆん2022

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それから②

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「一人暮らし?あんたが住むの?」
ぶっきらぼうに男性が聞く。自分の言葉にユリは驚いたが、なぜか止まらない。
「はい」
「予算は?」
以前一人暮らしをしていた時の家賃より、少しだけ低めの金額を伝える。今のマンションの家賃に比べたら、半分以下だ。
「希望条件は?」
淡々と質問されるが、メモを取ったり、物件の情報を調べる様子はない。少し不安になるが、男性の表情は真剣そのものだ。
「少し大きな家具を入れることになるので、古くても構わないので広めの物件がいいです。あと…すぐに入居できる部屋を探しています」
男性は軽く丸めた手を口元に当て、観察するようにユリを見つめた。
「おい、鍵」
男性が、事務机の方に向かって声をかけた。
「さっき風を入れに行ったから、開いてますよ」
女性が微笑みながら答える。何も説明していないのに、伝わっているようだ。
(ご夫婦…よね?)ユリは、少し緊張がほぐれるのを感じた。
男性が立ち上げり、ついてくるように促す。内覧だろうか?でも、どこの物件?うろたえるユリに、女性が話しかけてくれる。
「愛想がなくて、ごめんなさいね。ここの2階が、アパートになってるのよ。2件のうち、片方がちょうど空いてて、さっきのお嬢さんの条件にぴったりなの。よければ、見てきてくださいな」
慌てて男性の後を追うと、建物の横に外付けの階段があり、上り切ったところでユリを待っていてくれた。
ドアの前で、隣のドアを指さしながら男性が話し出す。
「隣は引きこもりのおばちゃんだ。たまにパートに出てる。愛想は無いが、迷惑をかけられることもない。挨拶なんかは気にしなくていい」
男性がドアを開ける。一瞬さわやかな風が通り抜けるのを感じた。

クロス張りの6畳の洋室と、8畳の和室。和室の壁は古めかしい砂壁で、畳は茶色く日に焼けていたが、掃除は行き届いていて、暗い感じはしない。せまいたたきの玄関のすぐ左手に、シンクとガス台置き場。青いプロペラの換気扇。古いタイプの瞬間湯沸かし器。右手には、ここだけリフォームしたのか、まだ新しい水洗トイレと小さなユニットバス。ガス式の給湯器。奥の和室の窓が開いていて、運動公園の野球場の歓声がかすかに聞こえる。
「言っておくが、そっちは西だ。今は午前中だから気にならないが、夏場の午後は蒸し風呂だ」
遮るものがないから、確かに西日はきついだろう。だが、対面に台所の窓があるので、風は通りそうだ。
「昔の木造だから、凸凹がない。壁に沿って並べれば、今どきの部屋より家具は収まる」
点検するように部屋の中を見回しながら、男性が言う。
「駐車場は無いが、あんたの車1台くらいなら、うちの会社の駐車場に停めて構わない。先に客の車が停まってたら、向かいの運動公園の駐車場だな。ま、うちは夕方5時で終わりだから」
夜間の駐車には困らないということだろう。
「敷・礼金は無しだが、退去の時は、こちらで指定した業者の清掃料金を負担してもらう。この広さなら、1万8千円かな」
「それじゃ、契約時に必要なお金は…」
「今月の日割り分と、来月の前家賃、仲介料が1ヶ月分。火災保険が7千円。後は印鑑と、保証人だな」
保証人…志保子の顔が浮かんだ。
「保証人は、郵送のやり取りでも大丈夫でしょうか」
「構わんが、あんたも真面目だね。電話で確認さえ取れれば、保証人のハンコは100均で買ってきたらいい」
いたずらっぽい顔で、初めて男性が笑った。気持ちのいい風が吹いて、ユリの心も軽くなった。



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