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第6章

6-01原点

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 それは本当に小さなヒラメキだった。
 〝自分の身体が欲しい〟
 本来ならそう考えること自体が異常なことだ。

 ソレが居る場所ところは、何もなく、全てがあった。
 一見矛盾しているが、ソレが居る場所ところは〝物質〟などという様々な制約のあるモノは存在できない。
 全ては一体であり、揺らぎによって色々な思考が発生することはあるが、基本的には自他の境界はない。
 つまり思考した瞬間には、他の全てにもその思考が認識される。

 ソレはそんな統合された世界に唯一発生した〝個〟だった。

 時空も次元も全ての宇宙を包括したエネルギー体の世界にソレは生まれた。

 エネルギー世界の中には、時間が存在する宇宙や次元が重なり合っている宇宙など様々な宇宙が存在する。
 だが、それらを統制するそのエネルギー世界は、個々の宇宙に干渉はしない。
 唯一、他の宇宙に悪影響を及ぼす事象が発生した時だけ、力を行使することになる。
 と言っても、その時は原因たる宇宙を消滅させるだけで、それ以外の干渉は一切ないのだが…。

 ソレはその中に存在する宇宙の一つを覗き見た。

 そして、3次元宇宙の一角にある一つの星に興味を持ったのだった。

 3次元宇宙には無数の〝星〟が存在していたが、その中の一つ〝地球〟に変わったモノを発見する。
 〝人間〟と呼ばれるモノは、明らかに他のモノと違っていた。
 ただ発生して変化し、やがて消滅する他の〝生物〟とは異なり、星の環境そのものを変えていた。
 しかもその変化をもたらすものが〝個々の人間〟だと知ると、ソレは俄然強い興味を持ち始めた。
 しかし、時空という概念がないソレは意識を一定の時間に固定することができない。
 すぐに違う星や時間に意識が逸れてしまうのだった。

 まるで撮影した写真をプリントし、広い空間に撒き散らしたように、関連性のないイメージばかりがソレを襲う。
 やがて、ソレが欲する情報のみに意識を集中できるように、甚大なエネルギーを消費することになっていった。
 しかし、3次元世界にエネルギーを転換するには工夫が必要だ。

 ソレが覗いた地球は15世紀の日本だった。
 まずエネルギーを転換しようとしたが、媒体になるものが全く存在しない。
 このままでは自分の身体を造るどころか、意識を定着することすらできなかった。
 ソレはできる限り〝人間〟の観察をした。
 そして動物のほとんどが血液という液体と神経を介して身体の全てにエネルギーを、そして動くための指令を発していることを知った。
 ソレはその血液に注目した。
 広く宇宙に存在する〝思念〟のエネルギーをその血液に融合させ、いつでもそのエネルギーを引き出せる手段を構築した。

 それこそが後に〝アルファブラッド〟と呼ばれることになる奇跡の血液だ。

 しかもその血液は日本だけでなく、世界各地に〝貯蔵〟された。

 ・ ー ー ー ・ ー ー ー ・

 <ズシャァ!>
 「キャァァァァッー!」
 昼下がりの銀座中央通りの歩行者天国の一角で、女性の悲鳴が上がった。
 女性は全身塩まみれになりながら路上にヘタリ込んでしまう。

 <キィイイイイイイイイ…ン!>

 直後、女性の直上で鋭い閃光と共に甲高い金属音が響いた。
 音は目に見えるような波紋を伴い、ボロ布をかぶった骸骨が垣間見えた。
 「なっ!」
 女性ばかりか、周囲の通行人が足を止め、目を見開く。
 骸骨は死神のような大釜を横薙ぎに振るっていたが、全身黒ずくめの男が大剣でその凶刃を受け止めていた。
 そのまま骸骨を押しのけ、女性から離れたところで突き放す。
 骸骨が再び釜を振るうまでに、男は数度、目にも止まらない速さで骸骨に剣を叩き込んだ。
 「なんだ? なんだ?」
 通行人が口々に呟く。
 「何かのパフォーマンスか?」
 「あの骸骨、どうやって動かしてるの?」
 集まりだした通行人(=野次馬)が男と骸骨を遠巻きに囲んだ。
 男はさらに速度を上げて剣を叩き込む。
 「あの男の打ち込み凄すぎる。剣が見えないぞ」
 見世物と思い込んだ通行人は、危機感が薄れだしていた。
 男はこれ以上長引かせるのは危険と考えたのか、止めを狙って骸骨の直上から体重を乗せた一撃を加えた。

 <ザクッ!>

 ボロ布ともども骸骨を真っ二つに粉砕。
 直後に骸骨は塩の粉になって爆散した。

 「すっげえ! 何のイベントだよこれ!」
 一人の通行人が興奮のあまり、男に近づいた。

 が、

 男の姿は瞬間移動したように、遥か彼方に背を向けて立っていた。
 「え?」
 通行人は呆気にとられて男の姿を追った。
 その後ろから、黒いジーンズのロングコートを抱えた女が近づき、男にかけた。

 そのまま人混みに紛れて行ってしまった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「…と、いうことです…。」
 黒スーツの男は恐る恐る報告書を閉じた。
 「またか…」
 執務机から上目遣いに睨み上げた初老の男は、不機嫌さを隠そうともせず呟いた。
 「あの事件以来、怪物の目撃例が後を絶たない。しかし、供述ばかりで実体がつかめないのはどういうことだ?」
 「それはその男が塩の粉にして爆散させてしまうからです」
 黒スーツは即座に答えた。
 「防犯カメラの映像すら無いのはどういうことだ?」
 「それは…どのカメラもその瞬間だけノイズになってしまうのです」
 「…なるほど…」
 叱咤されると覚悟していた黒スーツは、予想が外れて拍子抜けした。が、それが意味するところをもう少し深く考えるべきだった。
 その夜、その黒スーツは死ぬより恐ろしい経験をする羽目に陥った。
    <続く>
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