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第1章

14有紀

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 何か肝心な事を見落としてる気がしてならなかった。
 確かに湧は『フレンズ』という秘密を打ち明けてくれた。
 それは今までいずみが積み重ねてきた常識を、根底から覆す程の話しだったが…。
 本人というか『フレンズ』そのものに触れたのだから、存在そのものを否定できない。
 しかし…。
 「何か重要なことを忘れてる気がするのよねぇ…」
 いずみは布団の中で呟いてみた。
 そうしていなければ、すぐにあの記憶が蘇ってきていずみを混乱させるからだ。
 「なんかしっくりしない… …あ”~~、考えがまとまらないっ!」
 鼓動が激しくなるのを必死に抑え込む。
 こんなことは初めてだった。普段はとっても寝付きがいいのに、今夜はなかなか寝られなかった。

 なので…翌朝は酷い顔だった。
 ぼんやりする頭を無理矢理動かしてなんとか登校したものの、自席に座った途端に机に突っ伏す。
 「おかしいなぁ…なんだろ…こののどに魚の小骨が刺さってる様な不快な気分は…」
 いずみの独り言を聞きつけて、さくらが背後からこっそり接近した。
 《もにっ!》
 「ぎゃぁぁぁぁ~っ!」
 「あれ? 気のせいか…少し大きくなってる…」
 いずみの絶叫には動じず、胸の感想を口走るさくら。
 それを聞いたクラスメートの男子が、一斉にいずみの胸に視線を集中させた。
 「な、なにすんのよっ!」
 胸を庇いながらも振り向き様にゲンコツを振るう。
 が、そんなことはお見通しとばかりにさくらはサッと後ろに避け…、
 お約束の如く、通りがかった湧を巻き込んで転倒した。
 《ごちぃ~ん!》
 「悪い事ばかりするから罰が当たったのよ…って、さ、さくら! あんた何して…」
 《むにゅ!》
 「いたた。って? あれ?」
 湧はつい最近感じたものとは違う柔らかさを手のひらに感じた。
 《きゃああああっ!》
 今度はさくらが絶叫。
 それを目の当たりにして、いずみも絶叫した。
 「ぎゃあ! き、如月君! あんた何してんのよっ!」
 思わずさくらをひっぺがし、湧を窓へ投げ捨てた。
 「あん! …じゃなくて、如月君! いずみっ! 毎日毎日なんで窓から落とすのよっ!」
 「元はと言えばさくらがふざけた事したからじゃない! …あれ? なんで?」
 いずみは何故さくらに咎められているのか理解できなかった。
 「……?」
 何かがおかしい。
 昨日から頭の調子が良くないみたいだ。と、いずみは真剣に悩み出した。
 「? いずみ? どうかした?」
 さすがに分が悪いと感じたさくらは、いずみのリアクションがいつもと違っていたために余計不安になった。
 「…なんでもない。そうね。私、頭が痛いから早退するわ」
 いずみは“スクッ!”と立ち上がるや教室を出て行こうとした。
 「わ、わわ、いずみ~ごめん。私が悪かったってば、だから帰るのやめよ? ね?」
 「……」
 いずみは真っ白い目付きでさくらを見て、
 「さくら…何か私に隠し事してるでしょ? それも重要なことを…」
 「へ? 何の話し? 私といずみの間で隠し事なんてあるわけないでしょ~」
 とはいうものの、冷や汗を流して視線をあらぬ方向に彷徨わせていた。
 タイミング良く始業のチャイムが鳴る。
 「…ま、あとで聞くわ」
 と言って前を向くが、授業の内容が頭に入るはずもなかった。
 「(フレンズ…かぁ… ? あれ? フレンズって何をするためにいるの?)」
 ハタッと気付いた。
 「(そうか! 存在理由だっ!)」
 声に出すことは抑えられたが、勢い良く立ち上がったために注目を集めてしまった。
 「ん? 水無月さん。どうしました?」
 日本史担当の赤羽教諭が訝しげに聞いた。
 「あ、何でもありません。ごめんなさい」
 いずみは日本史が好きで、赤羽教諭のウケも良かったから、騒ぎを起こしたくなかった。
 しかし、慌てて座ろうとした時に何気なく湧を見てしまい、思わず昨日の事故が蘇った。
 ちなみに窓から落ちた(落とされた)湧は、何事も無かった様にすぐに戻ってきて授業を受けている。
 「(はふ…!)」
 「水無月さん。具合が悪いなら保健室行ってきなさい」
 「は?」
 「顔が真っ赤で、熱がありそうだから保険医に見てもらいなさい」
 本当に心配そうな顔で赤羽はいずみを促す。
 渡りに舟とばかりに、火照った顔のままいずみは教室を出ることにした。

 「あ~びっくりした。赤羽先生ごめんなさい」
 といって、廊下の先から手を合わせた。
 「さて、どうしよ…」
 教室を出たものの、本当に保健室へ行くつもりはなかった。
 「如月君に聞くのははずかしいなぁ、直接フレンズに聞けないかなぁ…」
 いずみがそう思った途端に目の前にあの女性が現れた。
 「(うわっ!)」
 思わず叫びそうになったが、何とか堪えた。
 (し、心臓に悪い…)
 <ご、ごめんなさい。脅かすつもりはなかったの…>
 「あ、私の心を読めるの?」
 いずみはついフレンズに語りかけた。
 <声に出さなくても心で思って頂ければ、会話出来ます>
 「あ、そうなんだ…」
 試しにやってみる。
 〔え~と、こんな感じで話しかける様に思えばいいのかな?〕
 <ええ、あなたの語りかけ方はすごく判り易いです。ほとんどの人は雑音ばかりで、何を言いたいのか判らないことが多いのです>
 〔そうなんだ…どうして?〕
 <本音と建前がごちゃごちゃになってて、素直に考えてくれないからです>
 〔それって、私が単純ってこと?〕
 と、思いながら下唇を突き出す。
 <とんでもない。逆です。あなたの方が本音が見えない分、私は会話から何を言ってるのか、思ってるのか推察しなくてはならないんです>
 いずみは目をパチクリしながら考え直してみた。
 褒められた? からかわれた? それが良く判らなかった。
 <ところで、私に何か御用ですか? 呼ばれたので意識をタゲってみましたが…>
 〔…た、タゲった? それゲーム用語じゃないの? あなたもゲームするの?〕
 <あ、まあそのことは追々ご説明いたします。おほほ>
 なんとまあ、随分俗っぽいなぁと思いつつ、いずみも人の事言えないから特に突っ込まなかった。
 〔あ、実はあなたたちフレンズって、どういう存在なの?〕
 女性は目を丸くして、耄けた様な顔をした。
 〔つまり、如月君と一緒にいるのは何か理由があるからなんでしょ?〕
 <それについては湧からお話しした方が良いと思います。私が語れることはほとんどないんです。ごめんなさい>
 と、言われて好奇心からプライベートなことを聞き出そうとしていた自分に気付いた。
 〔ああ、私の方こそごめんなさい。土足で踏み込む様なことをして…〕
 <あ、そういう意味じゃないんです。湧はあなたは信頼できると言ってました。ただ、巻き込んでしまうのが…! ごめんなさい。やっぱり私が言ってはいけない。湧に伝えておきますので、後で湧から聞いてください>
 あたふたした様子から、ただ事ではないことは判る。
 いずみは性急に過ぎたと後悔した。
 〔あ、そうだ。あなたのことはなんて呼んだらいいの? “フレンズ”じゃおかしいよね?〕
 和ませるつもりで問いかけたのだが、今更名前を聞くなんて間が抜けてるなあと思った。
 <あなたは優しい、本当に優しい人ですね>
 〔あい? そんなこと言われたのは初めてよ? いつも身勝手な事ばかりしてて怒られてばっかりです。 あはは…〕
 いずみは後頭部をかきながらヘラヘラだらしなく笑った。
 フレンズも微笑み返した。
 <私は“神代有紀”といいます。もし良かったらこれからもたまにお話しさせてください>
 〔よろこんで! って、“神代”? “如月”じゃないの?〕
 湧の話しだと、有紀は湧の双子の姉になるはずだった。
 ならば名字は如月のはずだ。
 <私は人間の世界では生まれていないことになるので、母親の姓を名乗ってます>
 〔それが“神代”なのね? 了解! これからは有紀さんと呼ばせてもらっていいですか?〕
 <ええ、うれしいです。湧以外の人とお話しができるなんて思ってもみませんでした。これからよろしくお願いします。いずみさん>
 〔いずみ でいいわよ〕
 その時1時限目終了のチャイムが鳴った。
 <あ、ごめんなさい。長話になってしまって>
 〔こちらこそ。有紀さんとお話し出来て楽しかったです〕
 いずみが手を振ると、有紀は柔らかく微笑みすぐに消えた。

 放課後、いずみは初めて有紀を見た護岸公園へ急いだ。
 南高橋の水門横まで伸びた歩道は、ここで行き止まりになっている。
 何故か湧は必ず護岸公園を通って自宅に帰るのだ。
 有紀に言付けを頼んだら、ここで待つ様に指定された。
 「水無月さん。お待たせ」
 「ごめんね。学校では話しにくいから、有紀さんに頼んで呼び出させてもらったの」
 「そのことだけど…、俺はある問題を抱えてて、俺に関わると巻き込んでしまう可能性が高い。だから…!」
 湧の目が水門の方を睨んだと思ったら、いずみに飛びついた。
 「あぶない!」
 《ジャキッ!》
 寸前まで二人が立っていたコンクリートの護岸歩道がザックリと抉れた。
 「な、なによ。これっ?」
 いずみには全く感知できなかった。
 湧は隅田川の真ん中付近を睨んだまま、いずみを庇う様に立ち塞がった。
 「如月君? !きたっ!」
 今度はいずみにも“見えた”。
 ボロボロのマントを纏った骸骨で、大きな鎌を抱えていた。
 まるで死神のような姿だ。
 敵は高く飛び上がると、二人を目掛けて真上から大鎌を振り下ろしてきた。
 「水無月さん!」
 「私は大丈夫。気にしないで闘って!」
 二人は左右に飛び退け、両側から指弾を打ち込んだ。
 この時には既に湧がいずみと同じ能力者だと確信していた。
 いずみの指弾は水滴を凝縮したものだが、聖水(祝福された水)なので、アンデッド系モンスターには効果がある。
 一方、湧は高度に氷結した氷の指弾を発射する。
 躱されただけでなく、思わぬ反撃を受けてモンスターはあっさり霧散した。
 追撃がないと確信できるまで、二人はお互いに警戒した。

 そして…

 二人の視線が交錯し、お互いに相手の出方を伺った。
 「如月君。一つ確認させて。あなたは怪異と関係があるの?」
 先陣を切って、いずみが鋭く問いただす。が、
 「…そのことは後にしてくれ、とにかくこの場を離れよう」
 と、湧は辺りを指差した。
 いずみが“ハッ!”と気付いて、周囲を見回す。
 人が集まって来ていたのだ。
 急に公園の床が瓦解し、巻き込まれそうになった二人を通行人が眺めていた。
 「そ、そうね。私の家に行きましょ」
 急いで現場を離脱したものの、警察が聞き込みを始めたらすぐにいずみの名前が出るだろう。通行人には顔見知りが多かったのだ。
 救いはいずみたち以外に、あのモンスターの姿を見咎めた者はいなかったようだ。
    <続く>
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