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第6章

6-10バカップル

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 全てのわだかまりが解消されたわけではないが、いずみはルイーナを全面的に信じてみようと気分を一新した。
 そうなると現金なもので、本来のはっちゃけぶりを発揮して、特訓メニューを次々とクリアし始めた。
 しかし、無からのイメージ創造が、いずみには根本的に難しいのではないかと、5人は気づき始めていた。
 「なんで現実にないものを想像できないのか? 俺はずっといずみを見てきたが、それはいずみが“特撮ヒーローヲタクであるからだ!”と確信した」
 大介は4人に訥々と語り始めた。
 「さっきも少し話したけど、いずみとって“特撮ヒーロー番組”はあくまでも“趣味”だ」
 「趣味? それは俺も同じだと思うけど…」
 大介の言うことが理解できずに、思わず擁護する湧。
 「如月君は、特撮ヒーロー戦隊の世界観が好きだろ?」
 「ええ、もちろんです」
 「その世界のヒーローになって悪と闘いたいとも思ってるよね」
 「まあ、しょうもない幼稚な願望ですが… …ん?」
 「そこなんだよ、決定的に違うのは。いずみにとって特撮ヒーロー戦隊が活躍する世界は、あくまでフィクションであって、単なる創作物でしかないんだ」
 大介はいずみを前にして、はっきりと宣言した。
 「俺もそう思ってますけど? だってリアルじゃないんだし…」
 「いや、大きな違いだ。如月君は特撮ヒーロー戦隊の世界に入れたら、自分もヒーローになりたいと思ってるだろ?」
 「現実的な話じゃないですけどね。空想ですが自分なりに必殺技を考えるのも好きですし…」
 照れながら答える湧は、無邪気な子供のような笑顔を見せた。
 「ところが、いずみにとっての特撮ヒーロー戦隊の世界は、番組上の設定でしかないんだ。勧善懲悪であっても敵の設定が新鮮で、ストーリーが良ければ“絶賛”するし、逆にヘタレた設定のヒーローだったら激怒する」
 「はあ…」
 「つまり、いずみの言う“特撮ヒーローのファン”とは、番組を制作する全てのスタッフに対してであり、ヒーローだけが対象じゃない」
 「それって…」
 「気づいたね。ヒーローそのものじゃなく、スーツアクターや大道具やシナリオ作家やSFXスタッフが好きなんだよ」
 「ええっー?? 俺、そんな風に考えた事なかった。叔父が特撮ヒーロー番組専門のスタントマンの養成所を経営してるっていうのに…、現実的な事は何も…」
 「神代直哉さんだよね、俺の大師匠なんだよ。水無月家の次期主席頭目になるはずだった方だ」
 「え? 宗主の弟子とは聞いてましたが…、主席頭目? って宗主の右腕って事ですか?」
 「まあ、如月君を引き取るために、表の職業に転向したというが、本当は直哉さんも特撮のアクターを本格的にやりたいと言ってたしね。ちょうど良かったのかもね」
 「ええ? でも俺のために…ですよね?」
 「とは言っても、“俺には荷が重い、辞退するつもりだ”って言ってたよ」
 「そうなんですか?」
 「とにかく、如月君といずみでは思い入れの方向が全く違うんだよ」
 そう言って、いずみの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。
 「何すんのぉ~~」
 文句を言いながらも久しぶりのスキンシップに、拒絶はしない。
 「なりきりの如月君と番組ヲタのいずみってことだよ」
 「あれ? ヲタ呼ばわりされてるけど… いずみ怒らないの?」
 湧が不思議そうな顔でいずみに聞いた。
 「ん? だって私が特撮ヒーロー番組で、さくらがアニメのヲタクだって大ちゃんはずっと前から知ってるもん」
 「え? じゃあなんで教室でヲタ隠ししてたんだよ?」
 「さすがに同級生には…ね。しかも特撮ヒーロー番組のファンって言っても、みんな単に“特撮ヒーローヲタク”っていうんだもん。違いを説明しても誰も分かってくれないし」
 最後の部分に関しては憤りを感じているらしい。
 「お、女の子って…そういうところに拘るのかっ!」
 「女の子って! 性別関係ないでしょっ!」
 「もういいだろ! 話を戻すぞ!」
 話が無限に脱線してゆくので、大介が強引に修正を試みた。
 「つまり、如月君は自分なりに新しい武器や技を創作する。でもいずみは番組構成上、映像化できる武器や技を構成させるんだ。そこには全くの無からの創作はほとんど無い」
 「あ、そうか。イメージが苦手ってそういう理由ですか?」
 湧は自分といずみは価値観が同じ仲間だとすら思っていた。
 確かに現実世界においては、嗜好が似ていた。
 だからお互いに信じあうことができたのだ。
 しかし…、空想の世界においては価値基準そのものが違っていたのだ。
 湧は暗澹たる気持ちで、この世の全ての絶望を抱えたような表情で呟いた。
 「いずみこそ…心の友だと信じていたのに…なんてことだ」
 「何を大げさな。前から私は“特撮ヒーロー”だって言ってたじゃない。それに…私も、湧は心の友だと思ってるよ…」
 真っ赤になって呟くいずみ。
 二人はお互いの視線を受け止められず、下を向いて黙り込んだ。

 「あ”~~~もう! ごちそうさまっ!
  バカップルはほっといて、食事にしましょう!」
 ルイーナがあきれ返った様子で盛大に叫んだ。

 簡単な調理設備しかないと言っていたが、メニューはフルコースのような豪勢なものだった。
 風味が素晴らしく、しかもボリュームがある。相模原の作戦後これほどの食事は初めてだった。
 「よくこんな料理用意できたわね。すごいわ…」
 料理に関しては全く自信がないので、素直に感心するいずみ。
 大介は体術もこなすファイター系のため、大量のごちそうに目を輝かせている。
 湧は…
 普段、何食べてるの? といずみですら心配になる程、料理に疎いらしく箸で突つけるものや摘めるようなおかずだけを食べていた。
 「これからは食事に関しては苦労しなくていいからね。シェアハウスなら料理が得意なスタッフが多いから…」
 といずみ。
 「せめて、そこはこれからは私が料理を作ってあげるから…っていうところだろ?」
 ため息混じりに大介が突っ込んだ。
 「え~、私が作ったら、湧お腹壊しちゃうヨォ~」
 あっさり放棄するいずみ。
 「…こりゃぁ如月君は結婚してもシェアハウスから出られそうもないなあ」
 大介は同情混じりに呟いた。
 “結婚”という単語に敏感に反応する二人。
 再び真っ赤になって俯いてしまった。

 食後は、体感時間で約12時間ほどの休息をとる。
 その間は、各自与えられた個室で過ごすことになった。
 ルイーナと大介は今後の予定を確認すべく、先ほどの作戦室に詰めて3次元に戻る準備を始めていた。
 「いずみのイメージ力をもう少し強化する必要があるな。君の計画だと特殊戦隊を結成するにしても、身元が割れる危険性を限りなく低くしておく必要がある」
 「そうですね。そのための対応策としてイメージブースターを製作しておきましたが、物的証拠として抑えられる可能性があるのが心配です。できれば使いたくないので…」
 「少なくとも、意識を失っても素顔が晒されないところまでは鍛えたい」
 「意識を失う事態は何としても避けなければなりませんが、万が一ということもありますからね」
 「ところでその特殊戦隊のイメージは完成したのか?」
 「あと少しです。色の振り分けはどうしましょうか? 皆、希望する色があればいいんですが…」
 「色? やっぱり特撮ヒーロー戦隊のようなイメージなのか?」
 大介が呆れ半分に聞き返してきた。
 「俺はてっきりアメリカ合衆国警察の特殊部隊のように、全員が黒を主体にした隠密行動に適したコスチュームなんだと思ってたけど…」
 「だって、せっかく特撮ヒーロー戦隊のように、人外相手に白昼も闘うんですよ? ならば逆に目立った方が効果があると思います」
 「誰に対しての効果なのかは聞かないことにするよ」
 SWATの様に犯罪者たる対人目的なら、抑止効果も期待できるが、自分たちの相手は人間ではない。
 特殊戦隊が犯罪集団ではないことをアピールできれば、警察や自衛隊からの無意味な攻撃を受ける可能性を下げることができるかもしれない。
 もっとも宮内庁の情報では、治安の為の武力抗争で主導権を握りたい警察機構と防衛省の諍いは絶えることがないという。
 通常兵器の通用しない人外…特にクリーチャーなどに立ち向かえる特殊戦隊は、両者からすれば目の上のタンコブの様な邪魔な存在にしかならないだろう。
 「う~ん。どのみち人間からの攻撃は避けられないんだろうなぁ」
 「それは私も散々経験してきました。特にアメリカ中央部での活動時は、よそ者と言うだけで犯罪者扱いされてました」
 ルイーナも人外との闘いに苦労してきたのだ。そのことからも特殊戦隊の位置付けについては重々承知している。
 人々を守ることが目的でも、その人々が理解してくれることはほとんど期待できない。
 犯罪者呼ばわりされても、初志貫徹しなくてはならないのだ。
 「まだ俺たちは、宮内庁がバックアップしてくれてるだけ幸せなんだろうな」
 「でも今後はなるべく、宮内庁の足枷にならないように注意する必要があります」
 「そうだな。俺たちだけで解決していかなくてはならない」
 3次元に戻ったら、活動に関しては絶対に足がつかないように細心の注意が必要になる。
 「『その中で、いずみの言動や行動が心配なん(ですよね)だよな』」
 大介とルイーナは深くため息をつき、苦笑いを交わした。
    <続く>
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