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第7章

7-03リーダーシップ

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 「ブラック、そっちに2匹逃げたわっ!」
 「了解! こっちで対処するから新手の対応を頼む」
 「あいっ!」
 思念通話で返すと、レッドは反転して濃度を増してゆく紫色の靄に向かった。
 その中に一際濃い塊が生まれ、中心部分が光り出す。
 霊感の強い人間には、赤い靄のように見えるカムフラージュを思念の力で行使している。
 逆に霊感の弱い人間には全く感知されないために、彼らが撃退している異形のモンスターのクリーチャーが、突然地面に叩きつけられたり、真っ二つに切断してしまったようにしか見えない。
 「げっ! すごい数、湧いてきたっ!」
 レッド…すなわちいずみなのだが、突進のスピードがやや鈍るほどの数のクリーチャーが、前方の紫いろの靄から出現した。
 「今行く、無理するなっ!」
 別の思念がレッドに指示した。
 同時にレッドの前方に黄色い靄が現れ、その下にいたクリーチャー数匹が、巨大な見えないハンマーで地面な叩きつけられた。
 「さっすが大…イエロー…」
 思念なので、他者に傍受されることはほとんどないものの、作戦遂行中はコードネームで呼び合う約束だ。
 だからいずみも言い(念じ)直したのだ。
 
 彼らが撃退したクリーチャーは、短刀を多数並べたような刃のボディに、上部には触手のように左右に二本の刀が伸びている。
 そのボディからカニのハサミのように曲刀が左右から出ていた。
 クリーチャーは完全に物質化しているため、一般人にも見えるがどういう仕組みで空中を浮遊しているのかは不明だ。
 そんな訳のわからないものが、腕のような曲刀を振り回しながら接近してくれば、ほとんどの人間は本能的に逃げるだろう。
 しかし、危機感のない輩は何処にでもいるものだ。
 「げっ! あのバカッ!」
 レッドが思念で悪態をついた。
 「どうかしたか? レッド?」
 「クリーチャーが飛び交ってるのに、呑気にスマホで動画撮ってるのよっ!」
 「なんだって? 危機感がないのかぁ?」
 ブラックが舌打ちするように呻いた。
 「二人ともそういう輩は放置しとけっ! 俺たちはクリーチャーを倒すことだけに専念しろっ!」
 イエローは怒りに似た口調で思念を送った。
 『「り、了解…」』
 やむなく二人も諦めた。
 自分の危機がわからない奴は、助けようとしても反発されてしまい、最悪全滅してしまうのだ。
 イエローは過去に何度も経験してきた。
 しかも今の水無月家の任務は、人外から個々の人々を守るのではなく、全ての元凶を排除することだ。
 「レッド、ブラック。辛いとは思うが耐えてくれ、我々はレスキューじゃないんだ」
 「…そ、そうよね。判ったわ」
 レッドは顔を上げて、残ったクリーチャーを睨む。
 要はこのモンスターを早く退治すればいいのだと思い直した。
 レッドが向かった先には、クリーチャーが隊列を組んで1mほどの高さを低空飛行している。
 「あれ? 何しようとしてるんだろ?」
 「珍しいな。いつもはバラバラなのに…こんなに統制が取れた動き方は初めて見た」
 ブラックもレッドの横で様子を見る。
 「注意した方がいいな。何かやらかす気だ」
 とブラックが言い終わらないうちに、クリーチャーは一列のまま地下鉄の出入り口に飛び込んで行った。
 「げっ! やばい。地下道に降りたっ!」
 狭い階段で腕らしき刀を広げられたら、避けようがない。
 二人が追いついた時には、既に辺り一面塩の粉だらけになっていた。
 クリーチャーに襲われた通行人は、断末魔を上げる間も無く、自分の死すら認識できないうちに消滅させられる。
 恐怖を感じることすら許されないのだ。
 クリーチャーは銀座の地下道をドリルのように横回転しながら突き進む。
 人間をエネルギー化するたびに淡く光り、隊列の最後尾に新しいクリーチャーが生まれる。
 地下道は塩の山で足元を取られ、レッドもブラックも追跡速度が極端に遅くなった。
 「ひどい! 何人が犠牲になってるの?」
 レッドの悲痛な叫びが、無人の地下道に反響した。
 「レッド! それ以上考えるな。奴らの思うツボだ」
 「奴…ら?…、それ…誰のこと? 誰がこんなひどいことをしてるの?」
 いずみの心はポッカリと開いた暗闇の中に落ちてゆく。
 このままではカムフラージュを維持できなくなってしまう。
 その場合、いずみは強化服(プロテクションスーツ)姿を晒すことになり、今回の騒動の首謀者にされてしまう危険性が高い。
 さらに捕縛されてしまった場合は、水無月家の存在が世間に公表され、宮内庁や米当局にまで波及してしまうだろう。
 二人の異変に気付いたイエローが、亜空間ゲートを駆使して二人に追いつき、ゲート内に引っ張り込んだ。
 その直後、いずみのプロテクションスーツが消滅し、ボディスーツ姿(いわゆる下着姿)に戻った。
 「まずいな。いずみの感受性の強さや他者を思いやる優しさが、死のトラウマと重なって、悪影響を及ぼしている」
 「大介さん。それって…」
 湧は悲痛な面持ちで腕の中のいずみを抱きかかえながら、大介に問う。
 が、その答えは湧も既に気付いている。

 「困りました。水無月家のルーツがアルフに関わっていたことは、やはり内緒にしておいた方が良かったみたいですね。ごめんなさい」
 いずみをお社の自室に寝かせた後、ルイーナは泣きながら、苦悩の表情で気を失っているいずみの頬に優しく手を添えた。
 「ルイーナが悪いわけじゃない。むしろいずみが強引に聞き出したんだ。悔やむ必要はないよ」
 ルイーナの肩にそっと手を当て、大介は慰めた。
 「今まで絶対の誇りを持って信じてきた水無月の闇を知って、深く傷つきはしたが、いずみがここまで心を喪失させるとは考えられない。きっと他の理由があるはずだ」
 大介の言葉に、湧は何か妙に引っかかる“何か”を感じた。
 しかし、それが何かはまるで雲を掴むようにモヤモヤしたままで、形にならなかった。
 リビングに戻った5人は、今後の方針を再検討することになった。
 「いずみの弱点が顕著になってきた。リーダーとしては優しすぎるんだ」
 「大介さん。そのことで前から疑問に思ってたんですが…」
 湧が遠慮がちに進言する。
 「水無月家の次期当主となるのは聞いていますが、フラッパーズのリーダーまでいずみが担う必要があるんでしょうか?」
 「え? それはどういうこと?」
 ルイーナが不思議そうな表情で湧に尋ねた。
 「水無月家に関しては、幼い頃からそうなることを教育されてきたのでしょうが、それだけでもかなりの負担になってると思います」
 「た、確かに…でも、いずみはリーダーになるべき…」
 「そこです。大介さん。みんなで担ぎ上げていずみには逃げ道がないんです」
 いずみの苦悩の表情を思い出して、湧は続けた。
 「だからフラッパーズの任務ぐらいは、誰か他の人が行う方がいいのではないでしょうか?」
 「ぐらいって…」
 ルイーナが不満そうに口を尖らせる。
 「ルイーナにとっては、アルフ関連の事件は何よりも優先すべき事象だろう。しかし、その上水無月のお務めまで指揮を任されたら、どう思うだろう」
 「水無月のお務めについては、私は何もできません」
 「それって置き換えれば、いずみがフラッパーズのリーダーには向いてないとも言えないかな?」
 湧は真顔でルイーナに相対した。
 「そうです…ね。確かにいずみに全てを押し付けていたような気がします。特にアルフに関してはほとんど知らないにも関わらず…」
 「だから今だけでも、フラッパーズのリーダーは大介さんが担った方が良いかと思うんですが、いかがでしょうか?」
 大介に向かって、湧は頭を下げた。
 湧にとっては、何よりもいずみの“心”が大切なのだと、4人は確信した。
    <続く>
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