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第7章
7-04思違い
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いずみの穏やかな寝顔を見つめ、湧は“フゥ~”っと長い息を吐いた。
思い返せば、小菅に殺されてからいずみの生活は一変し、めまぐるしい毎日で息つく暇も無かった。
さらにリーダーとして戦闘するものの、救えなかった命に対して自らの無力を苛んできた。
今回はその重責に押しつぶされたのだ。
湧自身も同じように精神的に苦しい戦いだったが、それでも“リーダー”としての責務がない分、いずみよりは遥かにマシだったと思う。
水無月のお務めは、基本的に人外なので人の生き死にに直結する事案はほとんどない。つまり目の前で命が消えゆく場面はあまりないのだ。
しかし、フラッパーズの任務は無差別に近い殺戮が行われる、その渦中に立っているのだ。まともな精神力ではとても乗り切れるものではない。
しかも瞬間的に消滅させられるため、自身の死を感じることもできない。
そこに突然“虚無が現れた”のだ。
虚無はすぐに周りからの圧力に押され、塩の粉を残して消える。
その際、同調した精神が引っ張られたのだと湧は感じていた。
「いずみはよく頑張ったよ。でもこのままじゃ先が続かない。だから…」
沈痛な面持ちで、湧は部屋を出た。
いずみをリーダーから外すと言っても、具体的に今後の対応策が立てられないことは変わりがなかった。
ただ、今までのようにクリーチャーが出現してからでは対応が遅れる。
ルイーナは予測を交えて、的確な対応ができるよう情報の収集を続けていた。
そして、クリーチャーにも幾つかの特徴があり、それぞれの対抗策を模索することにした。
「ルイーナ、大介さん。ミーティング始めましょう」
湧が司令室の二人に声をかけた。
隣のブリーフィングルームには、いずみ以外のメンバー、いわゆる坂戸と初美が待機していた。
「如月君、次期宗主をリーダーから外すって本気かい?」
湧の姿を見とめるなり、坂戸が聞いてきた。
「本気です。そもそも水無月家の宗主になるだけでも大変なのに、フラッパーズの業務までリーダーをこなすのは厳しすぎます」
「確かになぁ。水無月のお務めだけでも相当だもんなぁ」
「それにフラッパーズの任務は人の生死が直結します。今までとは比べ物にならないほどの精神的重圧がのしかかるでしょう。その作戦指揮をいずみに押し付けるのは酷というものです」
「まあまあ、入り口で口論しないで座ったらどうだ」
大介が二人を押し込みながら笑った。
「如月君の心配ももっともなことだと思う。今まではじっくり考える暇もなかったから、水無月のお務めの延長と考えて対処してきたんだ」
大介が続けた。
「しかし、今後は宮内庁主導ではなく米当局からの指令を受ける以上、こちらも相応の体制が必要となる」
「そうですね。ただ、現在はルイーナさんが窓口になってるので、俺は大介さんがリーダーを務めるべきだと思うんです」
湧は今までなかなか言えなかった考えをついに口にした。
「俺が? だけど俺は参謀格であり、いずみの支援を務めるべきだと思うんだが…」
「そんなことはありません。今までも作戦遂行や対応策に関しては大介さんが行ってきたわけですから、それをそのまま命令として伝えればいいんですよ」
「俺もそう考えてました」
湧の進言を後押しするように坂戸も推奨した。
「大介さん。いずみのためにもYOUの言う通り、リーダーを引き受けてもらえないですか?」
ルイーナも続けた。
「う~む。でも本当に俺でいいのか? 如月君という選択肢もあるんだぞ?」
未だに抵抗を続ける大介。
「俺は今まで一人で闘ってきたので、チーム戦というのは不慣れです。それにみんなの戦力を理解仕切れていないので、作戦指示は無理ですよ」
「そうか…、しかし…な。誰が眠り姫に使えるんだ?」
心底恐れているような表情だ。大介はいずみの機嫌をとるのが大の苦手であり、ついつい命令口調もしくは、からかうような態度を取ってしまう。
「俺が言います。言い出しっぺだし、レッドを押し付けた負い目もありますしね」
遊びなら、アトラクションショーなら、自分がレッドを任命されても二つ返事で答えたが、実戦ではそう簡単にレッドを張れないことは湧自身がよく理解しているのだ。
「如月君。言わなくても君なら重々承知してると思うが、穏便に…ね」
大介は本当にすまなそうに続けた。
が、翌朝のリビングで一同は呆気にとられた。
「へ? なにそれ?」
リビングに現れたいずみに湧が告げると、キョトンとした顔でいずみは答えた。
「あ、いや、だから。いずみに負担がかかりすぎてるから、フラッパーズの任務に関しては大介さんがリーダーとなって…」
「うん。だから今までと変わらないじゃん」
いずみは当たり前のように言う。
「え? だってリーダーはいずみ… …あ、あれ?」
湧も気づいた。
「確かに…ルイーナとペアになって大介さんが作戦指揮を取ってたような…」
「でしょ? 私は大ちゃんの指揮に従って、闘ってきたんだよ、今までも。だから今までと変わらないじゃない?」
「じゃあ、レッドっていうのは? リーダーを引き受けたんじゃ?」
「え? レッドってリーダーなの? 私は尖兵、一番槍のことだと思ってた(笑)」
「ハァ? だって特撮ヒーロー番組じゃあレッドはリーダーだろ?」
「でも作戦司令は他にいるよね? まあ番組によるけど…。私たちの場合はルイーナが司令官で、大ちゃんがチームリーダー、私は一番槍だと思ってたけど?」
いずみは全く気負いなく、快活に宣った。
「な、なんてこった。いずみをリーダーだと思ってたのは、俺たちだけで…本人は全くそのつもりはなかった…と?」
大介は今度こそ床にへたり込んだ。
「だって、私が指揮したら滅茶苦茶になることは目に見えてるじゃない。だから大ちゃんがしっかり指揮してくれたんでしょ?」
「いやいや、フラッパーズはともかく水無月のお務めはそれじゃまずいだろぉ!」
「水無月だって、おじい…宗主がいるんだし、私が指揮すべきじゃないじゃない」
要するに、いずみは今からトップに立って作戦行動を行う意思が全くない様だ。
「じゃあまあ、グダグダになりましたが、これから も 大介さんがリーダーってことでいいですね?」
湧はみんなに向かって結論を告げた。
もちろん反論はなかった。
<続く>
思い返せば、小菅に殺されてからいずみの生活は一変し、めまぐるしい毎日で息つく暇も無かった。
さらにリーダーとして戦闘するものの、救えなかった命に対して自らの無力を苛んできた。
今回はその重責に押しつぶされたのだ。
湧自身も同じように精神的に苦しい戦いだったが、それでも“リーダー”としての責務がない分、いずみよりは遥かにマシだったと思う。
水無月のお務めは、基本的に人外なので人の生き死にに直結する事案はほとんどない。つまり目の前で命が消えゆく場面はあまりないのだ。
しかし、フラッパーズの任務は無差別に近い殺戮が行われる、その渦中に立っているのだ。まともな精神力ではとても乗り切れるものではない。
しかも瞬間的に消滅させられるため、自身の死を感じることもできない。
そこに突然“虚無が現れた”のだ。
虚無はすぐに周りからの圧力に押され、塩の粉を残して消える。
その際、同調した精神が引っ張られたのだと湧は感じていた。
「いずみはよく頑張ったよ。でもこのままじゃ先が続かない。だから…」
沈痛な面持ちで、湧は部屋を出た。
いずみをリーダーから外すと言っても、具体的に今後の対応策が立てられないことは変わりがなかった。
ただ、今までのようにクリーチャーが出現してからでは対応が遅れる。
ルイーナは予測を交えて、的確な対応ができるよう情報の収集を続けていた。
そして、クリーチャーにも幾つかの特徴があり、それぞれの対抗策を模索することにした。
「ルイーナ、大介さん。ミーティング始めましょう」
湧が司令室の二人に声をかけた。
隣のブリーフィングルームには、いずみ以外のメンバー、いわゆる坂戸と初美が待機していた。
「如月君、次期宗主をリーダーから外すって本気かい?」
湧の姿を見とめるなり、坂戸が聞いてきた。
「本気です。そもそも水無月家の宗主になるだけでも大変なのに、フラッパーズの業務までリーダーをこなすのは厳しすぎます」
「確かになぁ。水無月のお務めだけでも相当だもんなぁ」
「それにフラッパーズの任務は人の生死が直結します。今までとは比べ物にならないほどの精神的重圧がのしかかるでしょう。その作戦指揮をいずみに押し付けるのは酷というものです」
「まあまあ、入り口で口論しないで座ったらどうだ」
大介が二人を押し込みながら笑った。
「如月君の心配ももっともなことだと思う。今まではじっくり考える暇もなかったから、水無月のお務めの延長と考えて対処してきたんだ」
大介が続けた。
「しかし、今後は宮内庁主導ではなく米当局からの指令を受ける以上、こちらも相応の体制が必要となる」
「そうですね。ただ、現在はルイーナさんが窓口になってるので、俺は大介さんがリーダーを務めるべきだと思うんです」
湧は今までなかなか言えなかった考えをついに口にした。
「俺が? だけど俺は参謀格であり、いずみの支援を務めるべきだと思うんだが…」
「そんなことはありません。今までも作戦遂行や対応策に関しては大介さんが行ってきたわけですから、それをそのまま命令として伝えればいいんですよ」
「俺もそう考えてました」
湧の進言を後押しするように坂戸も推奨した。
「大介さん。いずみのためにもYOUの言う通り、リーダーを引き受けてもらえないですか?」
ルイーナも続けた。
「う~む。でも本当に俺でいいのか? 如月君という選択肢もあるんだぞ?」
未だに抵抗を続ける大介。
「俺は今まで一人で闘ってきたので、チーム戦というのは不慣れです。それにみんなの戦力を理解仕切れていないので、作戦指示は無理ですよ」
「そうか…、しかし…な。誰が眠り姫に使えるんだ?」
心底恐れているような表情だ。大介はいずみの機嫌をとるのが大の苦手であり、ついつい命令口調もしくは、からかうような態度を取ってしまう。
「俺が言います。言い出しっぺだし、レッドを押し付けた負い目もありますしね」
遊びなら、アトラクションショーなら、自分がレッドを任命されても二つ返事で答えたが、実戦ではそう簡単にレッドを張れないことは湧自身がよく理解しているのだ。
「如月君。言わなくても君なら重々承知してると思うが、穏便に…ね」
大介は本当にすまなそうに続けた。
が、翌朝のリビングで一同は呆気にとられた。
「へ? なにそれ?」
リビングに現れたいずみに湧が告げると、キョトンとした顔でいずみは答えた。
「あ、いや、だから。いずみに負担がかかりすぎてるから、フラッパーズの任務に関しては大介さんがリーダーとなって…」
「うん。だから今までと変わらないじゃん」
いずみは当たり前のように言う。
「え? だってリーダーはいずみ… …あ、あれ?」
湧も気づいた。
「確かに…ルイーナとペアになって大介さんが作戦指揮を取ってたような…」
「でしょ? 私は大ちゃんの指揮に従って、闘ってきたんだよ、今までも。だから今までと変わらないじゃない?」
「じゃあ、レッドっていうのは? リーダーを引き受けたんじゃ?」
「え? レッドってリーダーなの? 私は尖兵、一番槍のことだと思ってた(笑)」
「ハァ? だって特撮ヒーロー番組じゃあレッドはリーダーだろ?」
「でも作戦司令は他にいるよね? まあ番組によるけど…。私たちの場合はルイーナが司令官で、大ちゃんがチームリーダー、私は一番槍だと思ってたけど?」
いずみは全く気負いなく、快活に宣った。
「な、なんてこった。いずみをリーダーだと思ってたのは、俺たちだけで…本人は全くそのつもりはなかった…と?」
大介は今度こそ床にへたり込んだ。
「だって、私が指揮したら滅茶苦茶になることは目に見えてるじゃない。だから大ちゃんがしっかり指揮してくれたんでしょ?」
「いやいや、フラッパーズはともかく水無月のお務めはそれじゃまずいだろぉ!」
「水無月だって、おじい…宗主がいるんだし、私が指揮すべきじゃないじゃない」
要するに、いずみは今からトップに立って作戦行動を行う意思が全くない様だ。
「じゃあまあ、グダグダになりましたが、これから も 大介さんがリーダーってことでいいですね?」
湧はみんなに向かって結論を告げた。
もちろん反論はなかった。
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