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第7章

7-06メトロノーム

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 「ブルー遅れてるっ! イエローももっとリズミカルに!」
 いずみの檄が飛ぶ。
 「グリーン もっと大きく動いてっ!」
 いずみの檄が飛ぶ。
 「ブラックっ! 走りすぎっ! みんながついていけないでしょっ!」
 いずみの檄ばかり飛ぶ。
 「ホワイトっ! 出番が少ないからって手を抜かないっ!」
 「ひえっ、私も?」
 ルイーナ…もとい、ホワイトだけが言い返した。
 「口を開くなっ! 身体を動かせっ!」
 再びいずみの檄が飛んだ。

 民間人に戦う姿を見せると決めたものの、基本的にクリーチャーが出現してからの出動となるため、間に合わないこともあるだろう。
 犠牲者は可能な限り少ないに越したことがない。
 TVや映画と違って、こちらの都合に合わせてソーシャルダンスを展開する間、待っててくれるはずもない。
 現実的な手順は、現着(現場到着)時はまず手近なクリーチャーを排除。
 その後、次のターゲットを定める時に個別の登場時ソーシャルを展開する。
 そして速やかに移動し、撃退する。
 それを繰り返して、全滅させた後は全員が一般人が即座に近づけないポイント(地下鉄出入り口の屋根など)に移動して、勝どきのソーシャルを披露。
 すぐさま全員が別々の方向に跳躍し、不可視化して撤収する。
 以上が一連の出動パターンとなった。
 TVと違うのは、キメとなるポーズが撃退もしくは消滅させた直後であり、クリーチャーを攻撃したスキルとの連続性が必須となる。
 いずみは新しいソーシャルパターンを生み出すために、湧とルイーナの3人でそれぞれの特徴を活かした振り付けを考案した。

 しかし…、実際に行ってみるとみんな悲しいくらいにテンポが悪い。
 ソーシャルの最初と途中、最後のキメのテンポがバラバラでスッキリと決まらなかった。
 原因は音だ。
 湧やいずみはキアイジャー等の戦隊モノに熟知しているから、そのBGMのイメージでソーシャルをリズミカルに展開できる。
 が、大介を始め、坂戸や初美は修験道や片手の“型”での修行が長かったため、リズムより気の込め方が先に立って、なかなかスムーズに踊れない。
 「ある意味、職業病だわね」
 いずみは脱力気味ぼやいた。
 「ごめんね、いずみ。私そんなに音痴じゃないと思ってたのに…振り付けとリズムがなかなか合わせられなくて…」
 初美はショックを隠せずに座り込んでしまった。
 「あ、違うのよ。私のやり方が悪いんだと思う。もう少し違った方法考えるから、ちょっと休んでて」
 冷や汗をかきながらいずみは初美をねぎらった。
 学校ではクラス委員長の初美に、今までいずみは苦手意識が強かったが、水無月一家だったとわかり、避けるわけにもいかないので距離を縮めるべく努力しているのだ。
 「う~ん、ルイーナぁ~、練習の時だけでもキアイジャーのサントラ流してみようか?」
 「そうですね。実際にはBGMは流せないけど、リズムをつかむためには最適かもしれません」
 「だよね。じゃあ早速」
 そう言って、いずみはCDプレーヤーの電源を入れた。
 「え? なんでCD?」
 湧が疑問を唱える。
 「だから、キアイジャーのサントラを…」
 当たり前のようにいずみが答えた。
 「スマホに入れてないの? ブルートゥース使えば楽なのに…」
 「あれ? 湧知らなかった? ブラックのソーシャルのイメージBGMはネット販売されてないのよ?」
 いずみはさも当然のように答えた。
 「ん? なんで?」
 「なんかね、データ化しようとした時に不具合が見つかって、ネット販売から除外されたの。しかも他の曲も録り直ししようとして、楽譜を準備してる時にブラックの楽譜だけが紛失してて、再録できなかったんだって」
 「へ? そうなの?」
 納得できないものの、販売されていないんじゃ文句は言えない。
 「レッドに関しては誰よりも事情を知ってる自信があったけど、ブラックは気づかなかった…」
 湧が落胆気味に呟いた。
 「まあ、CDだけは無事だったからよかったじゃん。でもこのアルバムも絶版なんだよね」
 インレイカードを見せながら湧に説明するいずみ。
 “ぽくっ!”
 その頭に大介のチョップが落ちてきた。
 「いったぁ~いっ! なにすんのよ大ちゃん!」
 「おしゃべりは二人の時にやってくれ、今は練習が先だ」
 大介は厳しい顔で仁王立ちしていずみを見下ろした。
 「ぎゃっ! ご、ごめんなさぁ~い」
 「失礼しました」
 いずみと湧は直立して謝罪した。

 あらかじめ無音状態で一通りの型取りをしていたこともあり、比較的早く自分のパートのメロディのツボを押さえることができた。
 いずみはダンスのパターンを組み上げる時、キアイジャーのサントラからイメージしていたために、無理な動きがなかったことが幸いしたようだ。
 その証拠に大介のソーシャルが見違えるように力強くリズミカルになった。
 湧も本来のテンポに戻り、みんなと歩調が合ってきた。
 もちろん坂戸や初美も問題ない。
 いずみはそろそろ最終段階として、全員での勝どきソーシャルまで通しで練習しようと考えた。
 が、ルイーナ以外は修験道や空手の型の修行経験からすんなり対応できたのだが…。
 「あ~ん、皆さんに合わせられませ~ん」
 と泣き言を言いだした。
 体力的には問題ないものの、TVで見よう見まねのソーシャルを踊っていたため、妙な癖がついていた。
 具体的には、一つ一つのカットが飛び飛びの動きになってしまい、連続性がないのだ。
 「ルゥイィ~~~~ナァ! 6次元で私に散々イメージイメージって言ってたのに! どうして大好きなソーシャルでイメージできないのよぉ!」
 6次元でのことを蒸し返す気は全くないが、ルイーナのあまりの体たらくに愕然とした。
 イメージ力に関しては誰よりも優れていると思い込んでいただけに、ショックが大きかったのだ。
 「あ、でもさ。司令室に誰か残っていないと何かとまずくない?」
 「そうだな、いざっていう時に宮内庁や当局との連絡係やクリーチャーの出現情報など、リアルタイムに監視する必要がある」
 放心状態のいずみをかばうように湧が告げると、大介が補完するように続けた。
 「あ、そ、そうだねぇ~、だとするとルイーナしか適任者はいないじゃん」
 思いっきり棒読み状態で、いずみが視線を外しながら宣った。
 「み、皆さん優しいです」
 まあ…ルイーナには丸わかりだったが…。
 「ということで、フラッパーズは基本的に5人で出撃。総力戦ではルイーナも加わるということでいいかな?」
 さっさとこの話題を終わらせたい大介が、かなり強引に結論づけた。

 とはいうものの、5人での勝どきソーシャルもなかなか揃わなかった。
 「湧、どうしようか?」
 個別のアドバイスはできるが、全体のタイミングを合わせるのは至難の技だ。
 さすがにこれ以上のアイディアがなく、いずみは湧に助言を求めた。
 ソーシャルパターンは全員マスターしているのものの、それぞれのテンポがバラバラなのでどうにも締まりがない。
 「う~ん。弓道教室に入門したばかりの頃だけど、道主…あ、さくらのお父さんだけど…」
 「! う、うん。知ってる」
 いきなり湧の口から“さくら”という名が出て焦るいずみ。
 どうにか平静を装うが、声が上ずってしまった。
 「その時に矢ぶる動作をリズミカルに行うには、自分のペースをつかむことだと言われたんだ」
 「ヘェ~、それで? どうやって自分のペースをつかんだの?」
 その当時、さくらから特に湧のことを聞いてはいなかったが、さくらが湧に対してどういう態度だったかは想像に難くない。
 (あの娘、素直じゃないからなぁ…)
 「ロボットアニメの必殺技を叫んで矢ぶった」
 「へ?」
 「当時俺が夢中になって見ていたアニメがあって、ああ再放送だったけどね。そのロボットの必殺技が弓で矢ぶるんだ。“ゴッドゴー◯ガンっ!”ってね」
 「ああ、勇者◯イディーンかぁ…」
 「あ、知ってた?」
 「さくらに散々話を聞かされたわ。ロボットアニメで初めて和弓がモデルになってるってね」
 「そうなんだよ! で、アニメのように必殺技を叫びながら矢ぶったら、見事に的中して…あの時は興奮したなぁ。しかも道主はタイミングが掴めたら心の中で唱えるようにして、射場では必ず礼儀を尊重するようにと言ってくれたんだよ」
 「でも、さくらは激怒してたでしょ。その頃、あの娘相当ストレス溜まってたわよ?」
 「え? そうだったんだ。悪いことした…かな?」
 「いいんじゃない。私も礼儀は大事だけど、決まりごとを守ることが優先されて、精進できないんじゃ本末転倒だと思ってるから」
 宗主が聞いたら卒倒しそうなことを言い出すいずみ。
 「で、湧は何かいいアイディアが閃いたんじゃないの?」
 「ああ、そうそう。あのさ、ピアノの練習の時、よく上に置いて“カチカチカチ”って音出してるやつあるでしょ。あれ使って、みんな一緒にそのリズムでソーシャルの練習したら合わないかな?」
 「? あ、メトロノームの事?」
 「っていうのかな。あの振り子が逆さまに揺れるやつだよ」
 「うんうん。そうね、やってみようか? 確かハウスの防音室にあったと思うから取ってくるね」
 「あ、いずみ。待ってください」
 そう言って、早速お社を出て行こうとするいずみをルイーナが止めた。
 「何? 他にも持ってくるものある?」
 いずみはついでのお使いを頼まれたのだと思った。
 「いえ、そうではなくて、さっき話した監視してる人たちのことです」
 「監視? 道場から出入りすれば何も問題ないんじゃない?」
 「いえ、どうも高性能のサーモグラフィを使用している可能性があります」
 「サーモグラフィを? 何で?」
 「道場や本殿内は外から見えないので、人の移動や人数を調べるのに使っているのでしょう。道場などに出入りする人数が一致しなければ、隠し部屋などが疑われます。ここは実質的に地下7階ほどなので、どんなに高性能のサーモグラフィーでも簡単にサーチできないでしょうけど…」
 「出入りする人数が一致してなければ、より高度な方法で探索される…か…」
 大介がルイーナの後を引き継ぐ。
 「そういうことです。お社自体はコンクリートと鉛のシールドや電磁気などで完全防備ですが、踏み込まれたら隠しようがありません」
 「そうだな。出入りには細心の注意が必要か…」
 「あ~めんどいぃ~~」
 いずみがしかめっ面で文句を垂れた。
 「ですが、私たちは亜空間ゲートを利用できます」
 「あ、そか。って言ってもどこに出口を設定すればいいのよ」
 「ハウスの各々の自室が最適だと思います。ハウスには常時大勢の人がいて、動き回っていますから、人数のチェックは難しいでしょう。それに自室なら外から見られることはほとんどないと思います」
 かなりザルな提案だが、みんなが同一ポイントから出てくるよりはリスクは低いだろう。
 「わかったわ。それでいいわね? みんな」
 一同は一斉に頭を縦に振った。
 「じゃあ、とりあえずメトロノーム取ってくるね~」
 そう言っていずみは、最近ではすっかり慣れた手順で亜空間ゲートを開き飛び込んで行った。
 “ドンガラガッシャ~~~ン”
 そして自室に出たところで盛大にひっくり返った。
 「イタタタ、? あ”~~~デン◯マンのDVD BOXがぁ~~!」
 先のソーシャルダンスの創作のために、いずみの部屋は特撮ヒーロー戦隊のDVDやBDで足の踏み場もないほど散らかっていた。
 そこにいきなり飛び出せば、結果は日を見るより明らかだ。
 もろに踏みつけたキアイジャーのDVD数枚は完全におシャカになったが、他はケースが割れた程度で済んだのが、幸いだったと…
 いずみは号泣しながらも強く感謝した。
 …どこかの神様に…
    <続く>
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