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第7章

7-07エネルギー転送

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 華麗なるデビューに向けて、いずみたちがソーシャルダンスの特訓に明け暮れている間、クリーチャーの出現はなかった。
 TVの悪役怪人のように待っていてくれた訳ではないだろうが、いずみたちには好都合だった。
 クリーチャーの出現情報は当局のサーバからダウンロードしている。
 アクセスできるのは当然ルイーナのみだが、ソーシャルダンスをマスターできていないルイーナは、なかなか集中してチェックする時間を得られない。
 だから…、
 「なんで一匹も出現しないんですかっ! もう3週間も経ってるのにっ! 信じられませんっ! なにサボってるんですかぁ、あいつらはっ!」
 もはや八つ当たり気味にキーボードを叩きながら悪態を吐く。
 「ウェンディゴやリッチなんかは、2~3日に一回は世界のどこかに出現してたのにっ!」
 キレかたが大分おかしいが、ルイーナが焦るのにも意味があった。
 「まあ確かにウェンディゴは単体だったし、リッチも多くて2~3匹だったから…、頻繁に…、 …アレ?」
 「! そうか! クリーチャーって…」
 いずみが眉間に皺を寄せて、中空の一点を見つめるとほぼ同時に、湧も何かに気付いた。
 「なんですか?」
 ルイーナが不審に思って、湧を振り返る。
 「ルイーナ、クリーチャーの出現記録で、単体で出現した記録はないか調べてくれないか?」
 「そんなことなら… はい、どうぞ」
 答えながらも幾つかのキーを叩いて、すぐにリビングのモニターに結果を表示した。
 「あれ?」
 そしてルイーナも気付いた。
 「YOUこれって…」
 「やっぱり…」
 いずみが気付いた通り、クリーチャーは単体では出現していなかった。
 「でもYOUが相模原の自宅で襲われた時は? 一匹じゃなかったんですか?」
 「ああ、後で聞いたところ、俺は二匹目を退治したところで絶命したらしい」
 「絶命したらしいって、他人事みたいに…。ただ、柳瀬川の監視者からは、襲われた頃に家の周囲にもクリーチャーを二匹確認していたらしい」
 大介が割って入ってきた。
 「じゃあ少なくとも四匹いたってことですか?」
 「だろうな」
 「それで、それがどういうことなんですか?」
 いずみがモニターにリスト表示された中に、先日の銀座事件を見つけて指差しながらルイーナに尋ねた。
 「これの動画って見られる?」
 「? できますよ?」
 と、疑問形で返しながらもすぐに再生させた。
 「… …あ、やっぱり…」
 「「やっぱり?」」
 湧と大介がハモった。
 「この三匹って、何かに操られてるような動き方してない?」
 いずみが動画の再生をリピートしてもらいながら感想を口にする。
 「どれ? …ああ、これか…」
 大介が確認してみると、確かに三匹のクリーチャーが、連携して同じような動きをしていた。
 「え~と、なんって言ったっけ? カルガモ走行?だっけ? この前TVで自動運転のニュースやってて、先頭車の後を同じように数台の車が続いて走ってたの。なんかそれに似てるなぁ~って思ってさ」
 「確かにそうだ。走行と言うより、飛行だけどね」
 湧は感心しつつ、ツッコムところはきちんとツッコンでおいた。
 「と、いうことは…、もしかすると何かに操られているって言いたいんですか?」
 ルイーナが否定気味に言う。
 今までのアルフ絡みのモンスターではありえないことだったからだ。
 「あ、うん。そうなんだけど…そうじゃないっていうか…」
 言い出しておいて、煮え切らないいずみ。
 「ルイーナ、いずみが言いたいのはそれ以前の問題なんだよ」
 湧が助け舟を出す。
 「リッチやウェンディゴって凶悪なモンスターだけど、それでも生物っぽいだろ?」
 モンスターを生物扱いする湧も酷いが、ルイーナは敢えて触れずに続きを待った。
 「しかし、クリーチャーは… 言うなればロボットっぽいんだよ」
 「へ? ロボットぉ?」
 あまりの言い方に目が点になって固まるルイーナ。
 「そうそう! それそれっ! 湧すっごぉ~い!」
 逆にいずみは我が意を得たりとばかりに狂喜乱舞した。
 「俺も先の銀座の時、それまでのMOBとは何か違う感触があったんだ。いずみの一言でその違和感がはっきりわかったけどね」
 「ロボットみたいだと?」
 ルイーナに変わって大介が答えた。
 「う~ん。YOUがそういう風に感じた理由を聞いても?…」
 「勘っ!」
 いずみは即答する。が、
 「違うっ! 奴ら地下道に突入する時、すぐ近くにいた通行人には目もくれず、仲間の所に集まりだしただろ?」
 動画を指差しながら湧が言う。
 モニターには通行人の横を通り過ぎるクリーチャーが映っていた。
 「あ、ほんとだ。この距離ならそれまでは確実に襲われていたのに…」
 ルイーナが驚きながら呟いた。
 「そして、次々ロール(前後を軸に横回転すること)しながら先頭のクリーチャーに続いて地下道に入っていった」
 「それでロボットみたいに感じたんですか?」
 「その時は気付かなかったけどね。ただ、リッチのように個別に攻撃してこなかったのが不思議だった」
 「それにね。私たちが地下道に入った時には、通行人は全て消滅していたんだけど、クリーチャーも一匹も残ってなかったのが不思議だった」
 「どこかに抜けて逃げていった形跡がなかったしね。通行人と一緒に消えたとしか考えられなかった」
 「つまり、自らもエネルギーになって転送された? と言いたいのか?」
 大介が考え込むように言い、続けてルイーナに指示した。
 「銀座の時のエネルギー分布、そうだな電力や磁力など全てのエネルギーの移動を調べられるか?」
 「やってみます」
 簡潔に答えて、ルイーナはサーバにアクセスした。

 「え? なにこれ?」
 モニターには、中央通りを横向きに銀座5丁目から1丁目までが表示されている。
 全体的に黄色やオレンジで埋め尽くされているが、中央通りは全て真っ赤に染まっている。
 「ひどい。これ、通りの赤って…」
 いずみは驚愕の表情で呟いた。
 モニターには白い線で道路や建物が描かれ、人や車、エアコンの室外機などの熱源は赤系の色が付いている。
 しかし、クリーチャーが暴れまわった道路は一面真っ赤だ。
 「これ…クリーチャーに…」
 「そうらしい…」
 湧もそれ以上の言葉が出てこなかった。
 「ルイーナ、時間を送ってみてくれ」
 大介は気丈にもルイーナに指示を出す。
 「わかりました。10分の1秒で送ります」
 その言葉が終わらないうちに、モニターは真っ赤に染まって脈打つように明滅し始めた。
 「げっ!」
 いずみの口から妙な音が漏れる。
 モニターの赤い光は、全面が赤くなったり、道路の一部だけになったりと非常に大きく変化する。
 「あ、これってエネルギーがどこかに転送されてるの?」
 「そうらしい。それにしても10分の1秒でこの変化は…。かなり大きなエネルギーだぞ」
 ルイーナが無意識のうちに大介の腕を掴む。
 大介もその手に自分の手を重ねて、ルイーナの不安を和らげようとするが、ほとんど効果がないらしく、ルイーナの手は小刻みに震えていた。
 言葉を失ってモニターを見つめるいずみと湧も、いつしか手をつないでいた。
 「これだけのエネルギー圧力でエネルギー流量だと、一回の点滅で原子炉1基1日分に相当します。明滅のサイクルは約1秒だから…」
 ルイーナは静かに呟いた。
 「え?」
 「「えええええーっ!?」」
 大介に続いて、いずみと湧が悲鳴をあげる。
 「だ、だって街中よ? こんなところにそんな膨大なエネルギーって…」
 いずみがパニクるのも当然だ。
 原子炉は1基あたりの発電量が平均して100万kwだ。
 これは1日の発電量なので、一回の点滅で同等のエネルギーが発生し、転送されていることを考えれば、原子炉の約9万倍近いエネルギーが銀座のど真ん中に発生していることになる。
 「これだけのエネルギー変動があってなんともないの?」
 いずみのもっともな疑問に全員が言葉を失った。
 「本来なら大爆発…というより、地球そのものが吹っ飛びます」
 「!」
 「それをどこかに転送してる?」
 「そういうことです。それにしても、ここまでのエネルギーを受け取れるシステムは地球上に存在しません」
 「ということは、やはり多次元…か…」
 大介は天井を仰ぎ、見えない宇宙空間を睨みつけた。
    <続く>
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