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第7章
7-08予測
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原子炉と違い、核分裂によるエネルギー放射は即時多次元に飛ばされているらしい。
現場でも周辺でも放射能等の検出がされていないからだ。
しかし、その代わりなのか、例によって塩の粉が散乱していた。
いずみが地下道に突入した直後は、その塩に極少量の思念らしきものが残っていたらしい。
その残量思念も100分の1秒に満たない時間に消滅したようだが、その短い時間でいずみの意識は吹き飛ばされたようだ。
「と、思われます」
と、ルイーナは結論づけた。
「え~私ってそんなに弱いの?」
いずみは不満そうに呟いた。
「何言ってるんですかぁ! いずみだからそれで済んだんですよっ!」
「へ?」
「普通の人ならその時点で跡形もなく消滅してますっ!」
ルイーナは目尻に涙を浮かべて抗議した。
いずみは状況が理解できず、ポカンとした顔でルイーナを見返した。
「さっきルイーナが言ったように、一瞬にして原子炉1日分のエネルギーが放射されたんだ。即時多次元に転送されたとはいえ、そのほんの一部でも浴びたら普通の人間なら即死だ」
「私…人間じゃないの?」
「そういうことを言ってるんじゃないし、そもそも俺たち水無月家には“普通”の人間は一人もいないだろ。いずみだけが“普通の人間じゃない”わけじゃない」
湧が必死でフォローするが、そういう湧もほぼ同時に残留思念を浴びていたから、説得力があった。
「二人が受けた衝撃を私なりに分析してみたんですが…」
いずみたちが落ち着いたのを見て、ルイーナが話を進めるべく割って入る。
「クリーチャーは物質化していない、いわゆる濃度の高い思念体ではないかと思われます」
「え? でも非物質なのに物質である一般人の身体を攻撃できるの?」
今まで、いずみのお務めは人外(非物質)を特殊能力(いわゆる思念)で対抗することだった。
消滅させることもあったが、大抵の場合は無力化するだけだ。
クリーチャーが非物質であるなら、直接人間に危害を与えられるとは考えられない。
かといって、物質化できていたとしたら飛行してる理屈がわからない。
「私たちは根本的に、クリーチャーという存在を誤解していたようです」
「どういうこと? ルイーナの言い方っていちいち分かりにくいんだもん」
「あ、ごめんなさい。つまりクリーチャーは濃縮されたエネルギー体ではないかと思えるんです」
「モノではないっていうこと?」
「そうです。人を襲う時に物質としての人体ではなく、思念体…要するに霊体や幽体に作用して、その延長線上に肉体もエネルギーに変えて吸収してるんじゃないかと…」
ルイーナは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
もはや分かりやすく説明する余裕がない。
「霊体を襲ってるってこと? そのついでに肉体も?」
「そう考える方が納得しやすいんです」
ルイーナが3次元では理解されないであろう、その理由を話し始めた。
それによると、襲われた人の肉体だけがエネルギーに変換されたのなら、衣服や持ち物まで消滅する理由が分からないという。
逆に空間ごとエネルギー変換すると、地面や壁などに少なくない被害が生じるはずだ。
かといって、買い物帰りの通行人が落とした物はそのまま残っていたこともある。
物質主体のエネルギー変換とは違い、消滅した人たちの意識すら感知できない以上、思念を狙って襲撃しているとしか思えないと言うのだった。
「あ、そういうことか!」
いずみが急に手と叩いて、納得した。
「いずみ何か思い当たることでも?」
「あ~、私もはっきりとは言い切れないんだけど、あのクリーチャーってどこから現れるのかな?」
「はい? 今はそんなことを…」
ルイーナは抗議するような口調で返答しようとした。
が、
「そういうことかっ!」
大介がいずみの後を継いた。
「俺たちは亜空間ゲートを用いて移動しているが、奴らが非物質ならばゲートを使う必要がない」
「それは! いつでもどこにでも出現できるってことじゃ?」
「あ、あのね。そういうことじゃなくて、出現を予測できるんじゃない? って言いたいんだけど…」
いずみの方が慌てて、遮った。
「え? 予測…できるの?」
ルイーナもいずみの言うことを理解していないらしい。
「だって、奴らの思念が物質に影響を与えるほど、濃縮されるまでは多少の時間がかかるじゃない。私たちはルイーナのマイクロセコンドサーチで、絶えずエネルギーの変化を追っていれば、個体で出現しないからかなりのエネルギーが一箇所に凝集するんじゃない?」
「なるほど。物質じゃないなら逆にそこを利用しようってことか」
「24時間、いつもいつも1000分の1秒単位で警戒するのは大変だろうけど、少しでも襲撃に対応できるならやってみる価値もあるんじゃないかな? って思ったの」
いずみはあまり自信なさげに説明をする。
「いや、いずみの着眼点は素晴らしいよ。みんなはクリーチャーの正体にばかり気を取られていて、対処方法など考える余裕すらなかった」
「どのくらいの精度で対応できるかはこれからの問題だけど、とにかく出現予測の可能性を示して頂いただけでも大収穫です」
ルイーナも方向性が見えて、俄然やる気が出てきたようだ。
「まずは時間がない。センサーの設置を当局を通じて早急に行ってもらおう」
大介も即座にルイーナに指示を出す。
「宮内庁へは俺が説明に行く。ただ、もう一つルイーナから提案があって、いずみと如月君に協力してもらいたい。詳しくはルイーナから聞いてくれ」
「はぁ…、わかりました」
「?」
湧も聞いていないことが、いずみに違和感を覚えさせた。
「どういうこと?」
「さあ…、ルイーナが当局との連絡が終わってからでないと、俺にもわかんないよ」
二人は奥の通信ルームで、当局と交信中のルイーナの後ろ姿を見つめた。
<続く>
現場でも周辺でも放射能等の検出がされていないからだ。
しかし、その代わりなのか、例によって塩の粉が散乱していた。
いずみが地下道に突入した直後は、その塩に極少量の思念らしきものが残っていたらしい。
その残量思念も100分の1秒に満たない時間に消滅したようだが、その短い時間でいずみの意識は吹き飛ばされたようだ。
「と、思われます」
と、ルイーナは結論づけた。
「え~私ってそんなに弱いの?」
いずみは不満そうに呟いた。
「何言ってるんですかぁ! いずみだからそれで済んだんですよっ!」
「へ?」
「普通の人ならその時点で跡形もなく消滅してますっ!」
ルイーナは目尻に涙を浮かべて抗議した。
いずみは状況が理解できず、ポカンとした顔でルイーナを見返した。
「さっきルイーナが言ったように、一瞬にして原子炉1日分のエネルギーが放射されたんだ。即時多次元に転送されたとはいえ、そのほんの一部でも浴びたら普通の人間なら即死だ」
「私…人間じゃないの?」
「そういうことを言ってるんじゃないし、そもそも俺たち水無月家には“普通”の人間は一人もいないだろ。いずみだけが“普通の人間じゃない”わけじゃない」
湧が必死でフォローするが、そういう湧もほぼ同時に残留思念を浴びていたから、説得力があった。
「二人が受けた衝撃を私なりに分析してみたんですが…」
いずみたちが落ち着いたのを見て、ルイーナが話を進めるべく割って入る。
「クリーチャーは物質化していない、いわゆる濃度の高い思念体ではないかと思われます」
「え? でも非物質なのに物質である一般人の身体を攻撃できるの?」
今まで、いずみのお務めは人外(非物質)を特殊能力(いわゆる思念)で対抗することだった。
消滅させることもあったが、大抵の場合は無力化するだけだ。
クリーチャーが非物質であるなら、直接人間に危害を与えられるとは考えられない。
かといって、物質化できていたとしたら飛行してる理屈がわからない。
「私たちは根本的に、クリーチャーという存在を誤解していたようです」
「どういうこと? ルイーナの言い方っていちいち分かりにくいんだもん」
「あ、ごめんなさい。つまりクリーチャーは濃縮されたエネルギー体ではないかと思えるんです」
「モノではないっていうこと?」
「そうです。人を襲う時に物質としての人体ではなく、思念体…要するに霊体や幽体に作用して、その延長線上に肉体もエネルギーに変えて吸収してるんじゃないかと…」
ルイーナは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
もはや分かりやすく説明する余裕がない。
「霊体を襲ってるってこと? そのついでに肉体も?」
「そう考える方が納得しやすいんです」
ルイーナが3次元では理解されないであろう、その理由を話し始めた。
それによると、襲われた人の肉体だけがエネルギーに変換されたのなら、衣服や持ち物まで消滅する理由が分からないという。
逆に空間ごとエネルギー変換すると、地面や壁などに少なくない被害が生じるはずだ。
かといって、買い物帰りの通行人が落とした物はそのまま残っていたこともある。
物質主体のエネルギー変換とは違い、消滅した人たちの意識すら感知できない以上、思念を狙って襲撃しているとしか思えないと言うのだった。
「あ、そういうことか!」
いずみが急に手と叩いて、納得した。
「いずみ何か思い当たることでも?」
「あ~、私もはっきりとは言い切れないんだけど、あのクリーチャーってどこから現れるのかな?」
「はい? 今はそんなことを…」
ルイーナは抗議するような口調で返答しようとした。
が、
「そういうことかっ!」
大介がいずみの後を継いた。
「俺たちは亜空間ゲートを用いて移動しているが、奴らが非物質ならばゲートを使う必要がない」
「それは! いつでもどこにでも出現できるってことじゃ?」
「あ、あのね。そういうことじゃなくて、出現を予測できるんじゃない? って言いたいんだけど…」
いずみの方が慌てて、遮った。
「え? 予測…できるの?」
ルイーナもいずみの言うことを理解していないらしい。
「だって、奴らの思念が物質に影響を与えるほど、濃縮されるまでは多少の時間がかかるじゃない。私たちはルイーナのマイクロセコンドサーチで、絶えずエネルギーの変化を追っていれば、個体で出現しないからかなりのエネルギーが一箇所に凝集するんじゃない?」
「なるほど。物質じゃないなら逆にそこを利用しようってことか」
「24時間、いつもいつも1000分の1秒単位で警戒するのは大変だろうけど、少しでも襲撃に対応できるならやってみる価値もあるんじゃないかな? って思ったの」
いずみはあまり自信なさげに説明をする。
「いや、いずみの着眼点は素晴らしいよ。みんなはクリーチャーの正体にばかり気を取られていて、対処方法など考える余裕すらなかった」
「どのくらいの精度で対応できるかはこれからの問題だけど、とにかく出現予測の可能性を示して頂いただけでも大収穫です」
ルイーナも方向性が見えて、俄然やる気が出てきたようだ。
「まずは時間がない。センサーの設置を当局を通じて早急に行ってもらおう」
大介も即座にルイーナに指示を出す。
「宮内庁へは俺が説明に行く。ただ、もう一つルイーナから提案があって、いずみと如月君に協力してもらいたい。詳しくはルイーナから聞いてくれ」
「はぁ…、わかりました」
「?」
湧も聞いていないことが、いずみに違和感を覚えさせた。
「どういうこと?」
「さあ…、ルイーナが当局との連絡が終わってからでないと、俺にもわかんないよ」
二人は奥の通信ルームで、当局と交信中のルイーナの後ろ姿を見つめた。
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